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【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[そうして、夜が明ける。夢が終わる。 エスカレーターを下りてフロントを後に、 ホテルを出たら駅まで歩いて 改札を通り抜けてから先に背を向けたのはどちらだったか。 通勤ラッシュを過ぎたホームは静か。 ベンチに腰掛けて手持ち無沙汰にスマホをいじった。 通知の溜まったLINEを開くことはなく 別に面白いわけでもない画像投稿を眺めた。 いつもとそう変わらない日常。 いつもと同じ、退屈な日常。 無意識にパーカーの長袖を掴んでいて ぎゅっと指が食い込んだら、少し痛い。] (7) 2021/07/14(Wed) 17:06:28 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[だから良いの、タイガさんの一番じゃなくても 愛してるし、ちゃんと忘れない。 あの日知ったあなたのことも、 ――あれから見つけたあなたのことも。 ブログに映ってた写真。 マンションの場所ならネットで見つけた。 最近、あんまり更新してないね? ふらっと立ち寄ってしまったのは あの夜からひと月くらい後だっけ。 ちょっと通り過ぎただけ、それだけのこと。 週に一度、数日に一度、――毎日、 ほんのすこし眺めてただけ。 ゴミを捨てに行くタイミング、 リカちゃんを連れて買い物に出かける姿。 夜の公園で明かりのついた部屋を眺めて 電気が消えるのを見たら、 そっと「おやすみ」を告げる。] (8) 2021/07/14(Wed) 17:08:41 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[彼はちゃんと「パパ」だった。 ぐずるリカちゃんを抱っこするのも、 ご機嫌なリカちゃんに笑いかけるのも。 あの夜よりもっと、ずっと大人に見えたんだ。 ちゆなんかじゃ届かないような気すらして 愛し合ったのが、なんだか幻みたい。 ――ねぇ、ちゆのこと覚えてる? 思わずそんなこと聞きたくなって、 何度か電話を掛けようとした。 でも、出来なかった。] (9) 2021/07/14(Wed) 17:09:31 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[タイガさんの奥さん、まだ見たことないけど 連れられて歩くリカちゃんが幸せそうで 羨ましくて――ちゆには壊せなかったんだ。*] (10) 2021/07/14(Wed) 17:09:47 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[差し込む光を浴びながら、彼の声に振り向いたとき その無防備な微笑みに自然と目は細まっていたけれど 昨日よりなんだか甘えん坊な姿、 お強請りされるまま腕の中に飛び込みながら おはようのキスをしながら 別のことを考えてしまったんだ。 奥さんの前だったらこんな感じなのかな、とかさ 彼の寂しさは知っていたつもりだけど――それでも 純粋にちゆだけだって思えないのは きっと写真に映ってたあの女の子のせい。 ……こんなの面倒くさいって思うよね、だから 彼はなんにも知らないままでいい。] (22) 2021/07/15(Thu) 4:05:05 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[シャワーを浴びた。 昨日の痕にボディソープが少し沁みた。 それが嬉しくて、鏡越しに見えないのはもどかしくて 身支度を整えたら、もういつでも外に出られる格好。 昨日はほとんど目につかなかった時計が 今日はやたらと視界に飛び込むの。 チェックアウトの時間が近づいて、名残惜しくて 駅までの道をやけにゆっくり歩いていたけれど それでもやがては辿り着いてしまう。 最後のキスを交わした、その後は どんな顔をしていいかわからなかった。 気づいたらじっと爪先を見つめてた。] (23) 2021/07/15(Thu) 4:05:33 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里……うん、ありがと。 ちゆも幸せだったよ。 [“またね”なんて存在しない。 手を振る彼が背を向けて、反対方向に歩き出して 見えなくなったらそれでおしまい。 あたしたちを繋ぐ関係性はどこにもないから。] (24) 2021/07/15(Thu) 4:05:47 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[そうして彼を見守ったところで、 苦しいのが消えるわけでもない。 たとえば何気ない偶然を装って目の前に現れてみたら あの夜の続きが始まるかもなんて、何度か考えた。 そしたら彼は驚くかな、それとも困った顔をするのかな。 だけど思い浮かべる傍らにはあの子がいて 小さなリカちゃんの物心なんて知らないけど ――あの子さえいなければ、なんて思いながら あの子がいたから足を踏み出せなくて。 壊しちゃえっていつかは簡単に考えたのに ちゆを見て、困った顔されるのが怖かった。] (25) 2021/07/15(Thu) 4:06:52 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[その夜も遠くから眺めただけ。 暗闇に紛れたらきっとあなたは気づかない、 それでも街灯に照らされたベンチはよく見えた。 あなたは俯いてた。疲れた顔してた。 嫌なことあったのかな、 毎日寄り道したってほんの些細な日常しか知らないけど 好きだよ、大好き。今もずっと愛してる。 たとえ一晩の恋人でも、あの夜は確かに特別で あたしたちは確かに愛を囁きあって ……ねぇ、少しくらいは、また寄り添ってもいいのかな。 そんなこと考えてたら、今までさんざん躊躇った足が 気づいたら前に進んでた。] (26) 2021/07/15(Thu) 4:07:18 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里……タイガさん? [声を掛けて彼が気づいてくれたなら、笑った。 まるでさっき通りすがったみたいな顔で 歩み寄って、それから小走りで近づいた。] ひさしぶりだねっ [平然と微笑むの、潤んだ目なんか知らない振りして。 だからどうか、ちゆの演技にも気付かないで。 *] (27) 2021/07/15(Thu) 4:07:54 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[気付いた彼が顔を上げる。 よそよそしくちゆの名前を呼んで。 それにぱちりと目を丸くして、 うっすらと壁みたいなものを感じては 嫌だな、と人知れず思う。 やっぱり忘れちゃってたの? 心に掛かったのは見えないもやもや。 不意に彼がちゆの身体を抱きしめたら 埋まる距離感といっしょに取り払われるけれど。 ――あの夜とは違う、彼がいた。 震える身体はどうしようもなく弱々しくて 手を添えた背中はいくらか小さく感じる。] (44) 2021/07/15(Thu) 21:08:46 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[どうして泣いていたのかなんて知らない。 喧嘩でもしたの?怒られちゃった? あれから変わりなく「リカちゃんパパ」をしてたんだから あたしたちの関係は、奥さんに知られてはいないんでしょう? それなのに何があったのか――ちゆは、知らなかった。] ……大丈夫、ちゆがいるよ。 [何が大丈夫かなんて知らない。 それでも、ちゆは側にいたんだよ。 今だってあなたの側にいるの、だから。 あやすように背を撫でる。 男の人の泣く姿を見るのは、初めてだった。 だけど知らないタイガさんの顔、また一つ知れたって ちょっぴり嬉しくなったことは内緒。] (45) 2021/07/15(Thu) 21:08:58 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[彼が落ち着くのを見ればベンチの隣に腰掛ける。 そうして語られた事実を知る。 ちゆの知らなかったこと、 いつもリカちゃんと二人だった理由。 奥さんの姿を一度も見たことがなかった理由。] 辛かった、ね [いつかの別れ際みたく視線は足の先に向けたまま 深刻な声で同情を口にした。 ――それもまた、半分くらいは演技だった。 なんだ、もうとっくに壊れてたんだ。 ] (46) 2021/07/15(Thu) 21:09:21 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[仲良くやってるんだと思ってた。 ちゆじゃない女の人のところへ戻って ちゆの知らない時間を過ごしてるんだと思ってた。 どうせ一番にはなれないんだ、って だから壊せなくて、諦めてたんだよ。 でも、奥さんがもういないんだったら あなたの最愛がこの世界にいないんだとしたら 今度こそちゆを選んでくれるのかなぁ、なんて 自分勝手な酷い考えは あなたが知ったら幻滅しちゃうのかな。] (47) 2021/07/15(Thu) 21:09:58 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里……なんにもできないけど、 話だったらちゆが聞くよ。 [頬に手をやるタイガさんを、 出会いがけのソファでそうしたみたいに覗き込む。 微笑んだのは優しさで、明るい声色は思いやり。 ――本当だよ?だってちゆ、「良い子」だもん。] えへへ、普通にしてたよ。 タイガさんのことずっと考えてたかな。 [はにかんで笑ってみせる。別に、嘘はついてない。 タイガさんのこと、ずっと見てただけ。] (48) 2021/07/15(Thu) 21:10:17 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[だけど三つ編みのやり方を聞かれたら つり上げた唇の端がふっと落ちてしまう。] できるけど、なんで? [覗き込む顔を正面に戻して尋ねた。 目的なんか聞かなくたってわかるけど。 そっか、結局「リカちゃんパパ」のままなんだ。 ……そうだよね、そりゃそうだ “普通”はお父さんかお母さんと一緒だもんね。] (49) 2021/07/15(Thu) 21:10:48 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[今度こそ彼を手に入れられると思った。 今度こそちゆのことだけ見てくれると思った。 今度こそ愛し続けてくれると思ったのに 今度はあの、小さな子どもがいるなんて。 なんでかな、もどかしいの。 愛しても愛しても愛しても愛しても いつまで経っても報われないの。 ちゆだって「良い子」にしてるのに、 欲しがっても掴んだ手からすり抜けてしまう。 それなのに、] (50) 2021/07/15(Thu) 21:11:21 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里……娘さん、いくつなの? タイガさんの子どもなら、 きっと可愛いんだろうなぁ。 [タイガさんの注いだ種で 知らない女の人のお腹から生まれたあの子が ひどく羨ましくて、恨めしくて。] ねぇ、ちゆも会ってみたいなぁ。 [――――狡いよ、リカちゃんは。*] (51) 2021/07/15(Thu) 21:11:41 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[一番じゃなくてもいいやって、一度は確かに思ったの。 だってちゆには届かないと思ったから 彼には奥さんがいて、リカちゃんがいて、 そこに入り込む隙間を見つけられなかったから。 ――――だけど今は違う。 目の前に彼がいて、彼の愛する奥さんはもういない。 タイガさんをちゆだけのものにして ちゆがタイガさんだけのものになって、 二人で「普通の」幸せな恋をするのに 邪魔なのは小さなあの子だけ。 期待しちゃうの、タイガさんのせいだよ。 そうやってちゆの目の前で泣いて 他の人に見せられないような弱いところを晒すから。 手が届くような気がして、欲しがってしまうんだ。] (63) 2021/07/16(Fri) 15:24:23 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里ふぅん、そうなんだ。 [タイガさんがリカちゃんの話を始めたら 鼻歌を歌うように暢気な声で相づちを打った。 今が夜で良かった。外が暗くて良かった。 目だけは笑えない、可愛くない笑みを浮かべてしまうのも 本当はそんな話をすこしも楽しいと思えない本心も 全部暗がりが隠してくれるから。] おしゃべり好きなんだ、可愛いね 一人でお世話するのは大変だろうけど…… [遠くの景色を見つめたままで返事した。 顔を見ない割に、絡めた指だけはぎゅっと握って。] (64) 2021/07/16(Fri) 15:24:35 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[ごめんね、ちゆはやっぱり子どもが好きじゃないみたい。 彼が笑うのを聞けばつられて笑って、 「タイガさんの子どもだもんね」なんて零して。 知ってるよ。 目のかたちも鼻筋も、 笑い方もよく似てるって。 それであなたに似てないところは 奥さんの面影を残しているんでしょう? 彼がちゆの方を向けば、笑ってみせる。 あの日より静かな笑みを浮かべてみせる。] 覚えてくれてたんだね、嬉しい。 連絡先も交換してなかったから、 もう忘れちゃって会えないと思ってた…… [ちゆはこっそり知ってたんだけどね。 さっさと掛けちゃえば良かったな、電話。] (65) 2021/07/16(Fri) 15:26:19 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[そうして彼が一つ、また一つ語り出す。 後悔だとか嘆きだとか、それと少しの愛だとか。 繋いだ手はちゆより冷たくて震えてた。 それでも熱は溶け合って、同じ温度に染まる。 あの夜みたいに寂しさを分け合って――だけど、 彼が知らない本心を伝えるつもりはなかった。 「愛」の形なんて知らない。 リカちゃんがどんなに大切かなんて知りたくない。 あの子がどんなに可愛くて 無邪気でかけがえのない存在だとしても ちゆにとってはタイガさんと誰かの子どもで いらない存在でしかないの。 ひどい?ひどいよね、分かってるよ。 でも、だって、だってさ、] (66) 2021/07/16(Fri) 15:26:39 |
【人】 ぶろーくんはーと 真白 千由里[「幸せ」と聞いて、噛みしめる。 そうしてタイガさんの聞かせてくれた本心も。] ……そっか。 [彼がくれると言ったのは「一番」。 だけどちゆが欲しいと願うのは、求めてしまうのは 彼の手、言葉、愛情、時間――… 彼の隣で笑うこと。彼の側にいること。 タイガさんの人生の、唯一の大切でいたいって どうしようもない自分勝手だ。 「パパ」の顔したタイガさんの隣で笑えるのかな。 辛いときだけなんて、ちゆは、足りないよ。] (99) 2021/07/17(Sat) 18:14:37 |
【人】 がーるふれんど 真白 千由里[――出会いは突然だった。 それが偶然か運命かは知らないけれど、 恋に落ちるには一瞬で、愛してしまえば消せはしなくて。 「お嫁さん」じゃない、「彼女」と呼んでいいのかどうか 一つだけ確かなのは「恋人」とかいう肩書きだったか、 そんな曖昧なものを背負って彼に会い続けた。 彼の家を訪れることは滅多になかった。 あの夜に宣言してしまった通り、 彼と血を分かつ小さな少女が受け入れ難かったから。 でも、それでもね 何度か遭遇する機会はあったかもしれない。 そんな折に彼はあたしをなんと呼んだか、 何でも良かった。幼い少女に物心が付く頃は 少しは大人になれていたと思うから。] (110) 2021/07/17(Sat) 22:53:38 |
【人】 がーるふれんど 真白 千由里[「ちゆりおばさん」なんて迷わず口にしたものだから 名前を覚えられた最初にはむっとしてしまったけれど 無垢で無邪気な子どもは躊躇いもなく笑う。 彼によく似た目元で、彼と同じ笑い方で。 あたしの胸の内なんて知らずに、笑ってみせるものだから。 お菓子を買った。女の子向けの玩具を買った。 タイガさんが悩んでいたのなら、 七五三や卒園式の衣装選びに付いていった。 「ママ」という呼び名だけは否定して 彼女が好きかと聞かれたら―― 「わからない」、と答えただろうけど いつかの感覚すら麻痺してしまったのか。 彼女の成長の様を見守るのはいつしか ]彼女が自立したその先への期待ばかりでもなくて。 (111) 2021/07/17(Sat) 22:55:57 |
【人】 がーるふれんど 真白 千由里[「普通の恋」がしたいと言った。 彼と過ごしたその時が普通だったかどうかは知らない。 ただ、ただあたしは彼を愛していて タイガさんの隣に居られることが幸せだった。 けれど一つだけ未練があるとすれば 空っぽの左手が目につく時がある。 形ばかりでもそこに証が欲しいと願うのは 困った欲張りさんになるかしら。 でも――――、] (112) 2021/07/17(Sat) 22:57:01 |
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