【人】 二年生 小林 友[花も恥じらう陰の者である俺だけど 別に、会話自体嫌いなわけじゃない。 道聞かれれば答えるし 状況によっては雑談も可能。 何が嫌かというと、相手の顔色窺うのとか、 空気や行間を読んで 対応しなくちゃいけないのとか。 相手のにっこり笑顔の裏に潜むものを ふと頭の中に思い浮かべただけで 俺はもう、何も言えなくなる。 つい要らない気を使って、余計なこと言ったり それで結局相手を不快にさせてしまって 嫌われたり、距離置かれたり。 たった一言、言えば済む話なのに その一言のために頭を必死に働かせて…… 割に合わなすぎて、俺は話すのを辞めた。 話し合うのを、辞めた。] (34) 2020/09/30(Wed) 11:16:31 |
【人】 二年生 小林 友[だから、アキナとの便箋越しの会話は 久しぶりに楽しかった。 踏み込まれても、嘘でコーティングした心は 痛くもないし、怖くもない。 まるで俺が本当に根っから明るい人間にでも なったかのような、不思議な感覚。 誰もいない図書館で本を開く時だけ、 自分の部屋でそっと便箋にインクを置く時だけ、 俺は束の間、心から安らげるんだ。] (35) 2020/09/30(Wed) 11:16:49 |
【人】 二年生 小林 友[例えば、便箋の端に描かれた落書き>>28 老いた者が生き残り、若く前途ある者が死ぬ 無情な戦火の下に咲いた『野ばら』の暗さを まるで感じさせない、ばらとミツバチの絵。 ミツバチが運んだ野ばらの花粉は、 何処か戦火を逃れて、穏やかに咲くんじゃないか ……なんて、ちょっと希望が見えそうな。 目を眇めて針先を見つめるおばあさん。 ここから眼鏡をかけたことで 思いもよらない世界に巡り合うんだと思うと なんだか、ちょっと微笑ましい。 目玉は勿論借りられないけれど イラストを通して、アキナの瑞々しい感性が 俺の中流れ込んでくる気がして。] (36) 2020/09/30(Wed) 11:17:06 |
【人】 二年生 小林 友[香具師、の読み間違えのせいで 人魚が線香持った輩に連れていかれる図は 流石に理解するまで時間がかかったけど。 ……月の下、ラッコが太鼓を叩くのは さらに時間がかかったけれど! でもそんな彼女の眼を通した世界を 読み解く時間は、全然、嫌いじゃなくって。] (37) 2020/09/30(Wed) 11:17:21 |
【人】 二年生 小林 友[そう、書いてから、俺はくすりと笑みを漏らす。 ……ホントに、人と関わって笑うことすら 俺にとっては、本当に久しぶりのことで。 もしかして、会って話しても こんな風に話せるんじゃないか、なんて 淡い希望を持つのも、時間の問題だった。]* (38) 2020/09/30(Wed) 11:22:32 |
【人】 二年生 小林 友「準備体操、二人組を作るように」 [体育教師の号令と共に、クラスメイト達は わらわらと相方を求めて動き始めている。 いつもは棒立ちのこの時間、今日の俺は少し違った。] あ、青柳…… さん 。く、み……ない? [待っているだけじゃダメで、 誰かにどうにかしてもらうとかじゃなくって、 自分で声を上げてみたのだ。 みっともなく語尾は震えて 目は大波に浚われたように泳ぎ 手はみっともなく体操着の端を ぎゅっと握りしめていたけれど。 振り返る青柳の切れ長な目が、 すっと俺に注がれる。 そうして、青柳は屈託のない笑みを浮かべて] (39) 2020/09/30(Wed) 16:32:02 |
【人】 二年生 小林 友「あ、ごめ。 オレ今瀧と組んだとこ。」 [俺の一世一代の勇気を振り絞った誘いは そのままつんのめってドブに落ちた。] (40) 2020/09/30(Wed) 16:32:33 |
【人】 二年生 小林 友[差し出した手のやり場もなく ただただ消え入りたくなる俺を他所に 青柳は周りに声をかけて、半端なやつがいないかどうか ちゃんと俺の相方を見つけてくれた。 流石イケメン、アフターサービスも充実ゥ! 結局、俺は弓道部の佐々木(イケメン)と 組むことになった。 本当は、青柳と組んだら、聞こうと思ったんだけど。 この学校に通う二年生の「アキナ」のこと。 華やかな顔立ちの青柳と違って 佐々木は力強い眉をしたイケメン。 ハウル系と、アシタカ系。 ……俺?さあ。] 佐々木…クン、あのさ…… [恐々、あまり話したことのないイケメンに話しかけると 彫りの深い目が、こちらを向いた。] (41) 2020/09/30(Wed) 16:32:50 |
【人】 二年生 小林 友全然、授業とか、関係ないけど…… 「アキナ」って子、聞いたことあるかな……? 二年生で、あの…… [逢ったことない子だから、外見も知らない。 尻すぼみになった語尾を追って 佐々木はしばらく沈黙していたが、やがて] 「……オレ、あんまり女子詳しくないから」 [と、囁くような声で答えてくれた。 別に俺も女子に詳しくなりたくて聞いてるんじゃない。 ただ一人、会ってみたい子がいるだけで。] (42) 2020/09/30(Wed) 16:33:14 |
【人】 二年生 小林 友[青柳だったら「なんだコイバナ?!」なんて 茶化しながらでも話を聞いてくれたかもしれないけれど 高校二年生にしていぶし銀みたいなイケメン佐々木は それ以上口を開くこともなく、 淡々と、粛々と、柔軟体操をこなしていった。 「いっち、にー、さん、し……」と 掛け声響くグラウンドを吹き抜けた風が、 ふさり、 『祝 チアリーディング部 2019年度全国大会 優賞』 の横断幕を、誇らしげに揺らして見せたのだった。]* (43) 2020/09/30(Wed) 16:34:11 |
【人】 二年生 小林 友なんでも、しんとした、 澄みわたった夜が、星たちには、 いちばん好きなのです。 星たちは、騒がしいことは好みませんでした。 なぜというに、星の声は、 それはそれはかすかなもので あったからであります。 ─────『ある夜の星たちの話』 小川 未明 (47) 2020/10/01(Thu) 22:50:26 |
【人】 二年生 小林 友[結局「アキナ」の情報もないまま 家に帰ってきてしまった。 顔色を覗き込むような母親の顔から逃げるように 自室に籠って、俺はまた本を開くだろう。 読み慣れた本の世界に、ではなくて 目に見えない女の子との会話に夢中。 いっそ、ソシャゲの推しを引くために ウン万つぎ込んでる、とかの方が 親も心配しなかったかもしれない。 ……なんて、部屋の外から話しかけてくる か細い母さんの声を聞いて思うんだ。] (48) 2020/10/01(Thu) 22:50:44 |
【人】 二年生 小林 友「……ねえ、リビングでお茶しようよ」 …………。 「あなたが好きだった、裏のケーキ屋の バームクーヘン、あるわよ」 …………。 「ねえ、友。何かあったら話した方がいいわ」 ……何も無いよ。今、本読んでる。 「何も無いなら、それでいいから。 一緒に顔みてお茶飲もうよ」 ……本、読んでるから。 「…………そっか、ごめんね」 (49) 2020/10/01(Thu) 22:51:33 |
【人】 二年生 小林 友[─────昔、小学校の頃 俺はいじめにあっていた。 嫌なくじ引きに当たった……みたいな 特に深い理由もなくそれは始まった。 朝一番の「おはよう」に誰からも返事がなくて それを切っ掛けに、靴が無くなり 教科書やノートも消えた。 友達だと思ってた人達が、 ある日突然敵に変わる。 何故?と問うても誰も答えない。 それで……少しだけ、堪えてみようと思った。 何が原因かは分からないんだから 少し待てばまた前みたいに友達になれると思って。 待って、待って、待って、待って、 待って、待って、待って、待って…… でも全部元通りになるより先に 俺の心が折れる方が先だった。] (50) 2020/10/01(Thu) 22:52:00 |
【人】 二年生 小林 友かあさん、おれ、がっこういきたくない。 [そう、勇気を出してしぼりだした時 母さんは半狂乱になって、自分を責めてしまった。 何も気が付かずのんきに息子を学校に送り出して 暗い顔してても勇気を出せと言うばかりの 何も分かっていなかった自分を。 結局、母さんが学校に突撃して いじめは急速に収まったけど…… でも元通りにはならなくて。 というか、元通りに接しろ、なんて 俺自身が無理だった。 元通りに笑えないし、喋れない。 何話していいかも分からない。 相手の目を見た時、冷たく歪んでたらどうしよう ……そう考えたら、目すら合わせられなくなった。] (51) 2020/10/01(Thu) 22:52:31 |
【人】 二年生 小林 友[そうして小学校を卒業して 中学から、高校まで。 幸いまたいじめられることはなかったけど 一度ついたオドオドした態度は変えられない。 特にこの桐皇なんか、良い奴ばかり。 ……だけど、俺だけがずっとダメなまま。 何も心配いらないよ、母さん。 あんたの息子は今日も 良い奴にだけ囲まれて過ごしてた。] (52) 2020/10/01(Thu) 22:53:04 |
【人】 二年生 小林 友[他愛のない会話だって自分でも思う。 本当に面白いやつはもっと違う話をすると思う。 それでも必死こいてる自分を どっか冷静な自分が冷ややかに 笑ってることすらある。 それでも。] (53) 2020/10/01(Thu) 22:55:17 |
【人】 二年生 小林 友[俺がバスケ部でもないし陽キャでもない ただの卓球部のクソ幽霊部員で、 教室の隅っこで震えてるだけの人間だって アキナにだけは知られたくない。 知られたく、なかった。 なのに、どうしても会ってみたくて、 勇気出して陽キャに声なんかかけて。 矛盾してるのは分かってるけど、でも。 なのに、違和感は募るばかり。] (55) 2020/10/02(Fri) 0:41:59 |
【人】 二年生 小林 友[だって、おかしいだろ。 友達とカラオケも行けない世界って? 田舎のじいちゃんが「帰ってくるな」って? 街から人が消えて、 世界中で戦争みたいにひとが死んで…… おかしいだろ。ありえないだろ。 漫画かハリウッド映画の世界みたいじゃん。] (56) 2020/10/02(Fri) 0:51:57 |
(a13) 2020/10/02(Fri) 0:53:32 |
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