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【人】 鬼 紅鉄坊……気づかなかった 千太郎は賢いな。それに、何でもよく見ているようだ [ 細い指が一輪を摘み上げる。>>29 出会った時程ではないが、早まる瞬きが鬼の驚きを示した。 それは教えられた内容と、 やはり関心が無さそうだと思っていた千太郎が 不意に寄りつき起こした行動への。 誂いに対してそういうわけではないと返しはしたが>>28 この地で生きた年月を考えれば、 花弁の仕組みが一度も視界に入らなかったとは思えない。 目に入っても気づかなかったのか、知ろうともしていなかったのか それとも無数の花を通して別の数多を視ていたせいなのか。 ──自分のことながらよく分からなかった。 ] (48) 2021/06/20(Sun) 2:08:31 |
【人】 鬼 紅鉄坊だが、簡単に摘んではならないぞ 花もまた命であり、意味も無く奪ってはいけないのだ 特にこの花は、全てが実を結ぶわけではないのだから [ 相手へと伸ばされる手は、今度は重ねる為ではなく>>27 花を受け取ろうと指先へ向かうが、無論乱暴なことはしない。 渡す気がないのなら、諦めて戻るだけ。 咎めはすれど、花よりも目の前の若者が鬼には大切で 彼のこれからの為に語ったつもりだった。 ] ……ああ、そうだ 花を書物に挟んで重石を乗せておけば、平らに形と色を残せるらしい 聞いた話で経験は無いがな [ 教えてくれた誰かは、清潔で豊かな家に住む若い村娘で 自分にも千太郎にも似合ったものでは無いだろうが 少しは意味が、生まれるかもしれない。 潰される花は決して喜びはしないだろうが、 犠牲に生じる意味とはそういうものだ。 ] (49) 2021/06/20(Sun) 2:08:55 |
【人】 鬼 紅鉄坊色々言ってしまったが、お前の気持ちは嬉しかった やはり、さとの子だ [ 心よりの言葉に対して不服を態度に示すのも>>23 想い届かずつかれたため息も>>24 冷めきった笑いも>>26 きっと、置かれた環境で生まれた歪みの表れ。 しかしその奥にあるのではないだろうか 他者と何も変わらないような、温度のある部分が。 母親のような優しさが。 浮かべた表情は違えども──面影を宿す言葉に、 あの時息を呑んだことを彼が気づいたかは知らない。>>25 ] これからも、瞿曇な私に気づいたことを何でも教えてくれ [ 違う目線で同じものを見る誰かが側にいるというのは、 とても幸福なものなのかもしれないと、鬼は思った。 ]* (50) 2021/06/20(Sun) 2:09:42 |
【人】 鬼 紅鉄坊── 鬼と鬼の子の日々 ── [ それから鬼は毎日花嫁を外へと連れ出した。 最初は寺の敷地内を歩きながら、見えるものや山について話をし、 時間を掛けて出掛ける範囲を広げてゆく。 決して自分から離れないように、 迷った時は探すよりも寺に戻るように。 その頃には既に上手く隣を歩けるようになっていたが、 奥へと初めて連れて行く時何度もそう繰り返すように教えた。 魔を退けるとは鬼が側に平気で棲まう以上迷信なのだろうが あの花の香りは、山の妖怪の殆どが嫌っている。 一定の時期だけでもきっと、何かあれば守ってくれるだろう。 帰る時間はいつも鬼が決めた。 輿入れの日もそうだったが、 千太郎は聞けば答えど自分から疲労を訴えはせず平気な顔でいる。 限界が来なければ見ているだけでは分からない。 小さき者には覗き込むのも辛い程目線が離れている時も、>>22 鬼の目にはいつでも白色ばかりが映っていた。 ] (51) 2021/06/20(Sun) 2:10:16 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ 山の中になど花嫁を迎えるのなら、 生活に必要なものをその同族に求める必要が当然生まれる。 ……きちんと行うのは全員ではなく、長くも続かないが。 鬼も色々なものを求め、事前に廃寺に運び込んでいた。 慣れてきた頃山の中を流れる川を教え、魚釣りを試みた。 もしつまらなさそうにしていても、 本来饒舌ではない身でなんとか話を見つけて場に留め 釣り上げた時はどれだけ小さな小魚でも褒め称えた。 廃寺の中で汚い壁を眺めていては、座敷牢の日々と対して変わらない。 体力と生きる知恵を付け、世界を見る必要がある。 千太郎の身体に少しずつ少しずつ、生命力を戻しながら 自分は寺の中保管している干し肉ばかり食べるようになっていた。 ] (52) 2021/06/20(Sun) 2:11:08 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ 摘み取られた花がどうなったのかは、千太郎次第だが 嫌がることが無ければ鬼はあの日寺に戻った後 埃をかぶった古い書物を彼の部屋に持って来ただろう。 誰かが村に帰るのを嫌がった時、 此処で読み忘れて行った、遂に取りには来なかった歴史書だった。 ただ、いつまで閉じておけばよいのだろうか。 それは聞いていなかったと少し経ったある日に首を捻る。 まあ、忘れた頃にはらりと落ちてくる。 思い出とは案外そんなものかもしれない。 ]** (53) 2021/06/20(Sun) 2:11:49 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ 仏の名の元繰り返される輪廻転生。 繋がれてゆく人の血。 それらとは違う何かが齎した影の中の面影は 今や誰も気づくことが出来ないだけで、きっと最初から奥底に この山の中、あちこちに犇めいているモノたちにも。 ] (*1) 2021/06/20(Sun) 2:20:13 |
【人】 鬼 紅鉄坊── ある夜に ── 葬ってはやったのですね? [ 暑く寝苦しい夜のことだった。 今年輿入れした他の花嫁の行く末を、あの男が伝えにやって来た。 毎年起きることだ。何も言われる前に様子で察するものがある。 ] 今年は早かった。いや、今年もなのか [ あの子は眠っているだろうが、届かぬよう自分が外に出て 廃寺よりも奥、光の届き難く道の無い闇の中で話を始める。 結末を知りながら送り届ける、同胞に飢えを強いれない妖怪には 彼女らを悼む権利も本来は無い。 表に出さないまま、いつも鬼の胸の内に悲壮は留まった。 しかし、今年は其処にはある一人の居場所があった。 大切にせねばならないと、強く想った。 ] (93) 2021/06/21(Mon) 10:26:11 |
【人】 鬼 紅鉄坊あの子は生きています……そうですか、見ていましたか 随分元気になりました もう少し身体がしっかりすれば、里に下ろすつもりでいます 勿論、村に帰したりなどしませんよ 本当はもっと遠くに行かせてやりたいのですが、 山を出るまでは、私が共に [ 両者の合間を空気の流れが吹き抜け、葉が擦れ鳴る。 暑く湿った夜、その風だけは何故か冷たかった。 暗い場所でも目立つ相手の髪が乱れる。 彼はそれを直すことせずじっとこちらを見つめ、口を開いた。 ] (95) 2021/06/21(Mon) 10:26:47 |
【人】 鬼 紅鉄坊── 夏の日・山奥で ── しかし、薬は帰らねば塗ってやれないぞ 傷は小さくても恐ろしいものなのだ [ 問答は互いに殆ど同じ内容を繰り返しながら、終わらない。>>80 相手のように顔には出ずとも、引かんとする強情さはそこに表れる。 向かい合うように近くの木の下で座す鬼は、腕を組み頷かない。 千太郎はずっと外に出れなかったから、きっと分かっていない。 壁のようにただ板を打ち付けるとはいかなかった風呂釜の修理 直せるまでの間は拭うだけで我慢してもらったが その時見た身体には少なくとも今傷は残っていなかった。 無償で村人に物資を求め続けることが心苦しく、 人間は立ち入れない場所にしかない薬草を探しに来たのが今日。 未だ早かったのか、はたまたこうした経験も必要か。] (97) 2021/06/21(Mon) 10:27:22 |
【赤】 鬼 紅鉄坊なっ…… [ 気づけば吐息が掛かる距離。差し出された紅色と甘く響く囁き。 こんなにも二人の顔があるのは、初めてではないだろうか。 そんなことを冷静に思考する余裕が、鬼には無かった。 離れていては意識の外だった血の芳香が、すぐ傍に香るのだから。 千太郎に付きっきりで暫くありつけてない新鮮な血肉が、 そこには、いや、それこそが千太郎で── その千太郎が誘ってくる。求めてくる。] (*4) 2021/06/21(Mon) 10:28:13 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ 誘われるように手は伸びて、手首を掴み強くこちらに引く。 傷ついた指を口内に迎え入れれば、甘く噛みながら舌を這わせた。 理性を遠のかせる味を齎す一筋を、何度もなぞり先を押し付ける。 引き摺り出された本能。切り捨てられない本質。 咎める言葉の代わり、漏れ落ちるのは獣じみた息ばかり。 捕食者じみた贄の望むままに、今その目には「千太郎」は映っていない。 ] (*5) 2021/06/21(Mon) 10:31:10 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ 息が上がる。日差しではないもので身体が熱を持つ。 言葉も忘れる程に夢中になっていた。 未だ逞しいとは言えない手首を掴む力に、常の気遣いは無い。 四方から聴こえる虫の声は、真昼の狂宴の蚊帳の外。 ]** (99) 2021/06/21(Mon) 10:33:17 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ 日常に埋もれ蔑ろにされていた、断ち切れぬ本能が血肉を求める。 ほんの一筋の細やかな芳香に乗せられるまま誘われ、 舌を痺れさせる味に夢中になるのは、果たしてそれだけが原因か。 ひと思いに齧りつかずに蜜の壺を探るように舐め続けるのは何故か。 この状況で漏らすには異様な、顔に掛かる甘く熱い吐息のことすら 意識の外にある今、分かるわけがない。 ] (*9) 2021/06/22(Tue) 3:15:05 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ 薄い肉越しに当たる骨、喰い応えの無さそうな身体。 しかし、 苦しげな顔──としか、今は思うことはない──に唆られる。 追い詰めていく感覚は、たまらない。 他の獣を喰らう獣も、人を喰らう鬼も その瞬間にどうしようもなく昂ぶることに変わりなく。 ] (*10) 2021/06/22(Tue) 3:15:20 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ 己の手で肌を晒し、自ら胸に収まって大人しくなる身体。 生を諦めた小動物のようで、 ついに捕えたと、今こそ喰らえと本能が騒ぐ。 指を離し、顎が更に開けば鋭い犬歯が見えて そして──── ] (*11) 2021/06/22(Tue) 3:15:36 |
【人】 鬼 紅鉄坊ッ! すまない、痛かっただろう。大丈夫か? [ 思わず、突き飛ばすように狭い肩を押してしまう。 離れなくてはならないと思っただけ、敵意からではない。 故に力の全てを出してはいなかったのだが、 それでも小さな人間には、特にこの若者には痛かろう。 未だ整わない息もそのままに、傍に寄ろうと上げかけた腰 ──は再び草の上、手も伸ばさなかった。 何かを堪えるように唸り、癖のある短髪を掻き乱す。 ] (130) 2021/06/22(Tue) 3:16:46 |
【人】 鬼 紅鉄坊──……千太郎 お前にいくら望まれても、それだけは出来ない もうこんなことはしないでほしい 分かってくれ。さとの為にも [ そして、生きてくれ。 伝える声は強く切実に響けども、 語る鬼は今の千太郎の姿から目を逸していた。 ] (131) 2021/06/22(Tue) 3:17:33 |
【人】 鬼 紅鉄坊やはり今日は帰ろう。涼しい場所でお互い頭を冷やしたほうがいい 薬草は私が後で採ってくるから、気にするな [ そうして千太郎が立ち上がれるようになるまでは待つが、 帰路では少し先を行き、時折歩を緩めても振り返りもしない。 二人の間には沈黙が流れ、虫の声だけが喧しく聞こえていた。 帰っても傷薬は手渡すだけで、手当ては本人に任せて 自分はすぐに廃寺を出て行った。 ] (132) 2021/06/22(Tue) 3:17:49 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ 充分な貯蓄があるのに、多過ぎるほどに薪を割る。 千太郎の為に時間を使い、 離れることも惜しんで行っていなかった狩りにも足を運ぶ そうしなければ落ち着けそうになかったからだ。 寺から離れた場所で解体作業を行いながら、鬼は思う。 やはり、これではいけない。 これではいつか望むままのことをしてしまうと、 鬼の心中は穏やかでは無かった。 だから────予定を早めようとした。 ] (133) 2021/06/22(Tue) 3:18:09 |
【人】 鬼 紅鉄坊── そして ── 千太郎も随分体力がついてきたからな 今日はいつもより遠くに行こう 準備をしてくるから、此処で待っていてくれ [ そう言って、外に連れ出した後に鬼は一度戻った。 何事も無かったように接し続け数日後、 夏の終わり、最後の燃え盛りを思わせるような暑い日だ。 戸を開いた時には、いつかのように風呂敷包みを抱えている。 横抱きにした彼の上に置くように荷を乗せる。 随分重たいことに、きっと気づいてしまうだろう。 言葉と行動の矛盾に気づくだろう。 問われるのならば何度でも 大丈夫だ、気にするな、と空虚な返事ばかり繰り返して歩みは止めず 村を出入りする時に人間が通る山道を行く。 ]** (134) 2021/06/22(Tue) 3:18:51 |
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