【人】 行商人 美濃[うさぎ堂で和菓子を包んで貰った後は、いくらか会話もしたろうか。 接客が忙しそうであればあまり邪魔はしないようにとはしただろう。 うさぎ堂を離れれば、女は酒屋へと向かい、小ぶりの甕に入った透明で米麹の甘い香りのする酒を買った。 それから、月がよく見えるであろう神社へと下駄を鳴らしながらゆったりとした足取りで向かう。 賑やかな人の集まりを眺めながら歩き、ひと気のない境内の裏手へと入れば、草と土以外は何もない開けたところを探した。 少し離れた後方からは人々の笑い声がどこか遠く聞こえる。 地面へと風呂敷を広げれば、その上へと腰を下ろして中天の満月を見上げる。 彼の人と同じ名前の月の形。 盈月の名を持つ露店の元店主は、確かにあの月のような人であったと女は思う。 眩むような眩さではなくとも、優しい光で暗闇を照らしてくれるような。 知らず、空へと伸ばした手は空を切り、掴む形で新円に重なる。] 「 盈月さま 」[音にならない声でその名を呼んでら緩く結んだ手を胸元に下ろして。 幾許かの逡巡の後、女は箱を取り出すと、そっとその蓋を開いた。]** (7) 2022/10/03(Mon) 21:38:18 |
【人】 行商人 美濃─露店のお客・九郎と一二三─ [何かを探しているようで、買い物をすることはなかった男性>>10と歳の頃は同じくらいか、壮年の男性二人が露店にやってくる。>>17 杖をついた男性が、長髪の男性に簪や飾り紐を見遣り問いかけるのを聞いて>>18、彼に勧めたのかと思い、似合う色はどれかしらと斜め上の方向に考える。 よくよく会話を咀嚼すれば、“まだ早い“、“土産に“と言っていたのだから、簪はまだ早い年頃の少女のためだと思い至る。 聞けば姪御への土産だと知れたろうか。 尋ねなければ娘への贈り物と女は思い込んだだろうから。 あの、ただ露店を見つめるだけで佇んでいた彼も、女の空想とは違う生活や思いを抱いているのかもしれないとは、女にしては珍しい気づきだった。] 飾り紐ならこの、桃色と白なんて可愛らしいと思うけれど。 赤と白、赤と桃だと派手かしら。 花の形に結ばれた飾りや蜻蛉玉の飾りがついたものもあるけれど。 [等々、一緒に頭を悩ませながら手持ちの品を紹介した。 親族への土産を二人で見繕うものだから、彼等兄弟だろうかと女は思ったが、面立ちは似ていないので違いそうだとは結論づける。 ならば旧知の仲だろうとは会話から。 彼等に妻子があるかは不明だが、いくつになっても仲の良い友人がいるというのも幸せなことだと女は思う。] いっそ、姪御さんとお揃いの飾り紐をつけてみては? そちらのお兄さんも、御髪は短くとも、こう、頭に巻いた装飾の方に…。 [なんて、名案のように言ってみたけれど押し売りのつもりではない。 少女への土産を見繕う様子が二人して、とても楽しそうに見えたから。]** (23) 2022/10/04(Tue) 1:07:26 |
行商人 美濃は、メモを貼った。 (a4) 2022/10/04(Tue) 7:51:33 |
【人】 行商人 美濃―神社へと向かう前― [女がうさぎ堂に向かった時には、お団子を土産に買うと言っていた猫飼いの人は>>1、女の露店を離れてまっすぐそちらの方向へ歩いていたと記憶しているし、あの美味しい栗ぜんざいを愛猫と共に食しているところは見られなかっただろう。>>3 品を袋に詰める折、玩具を取り上げられたと思ったのか不機嫌そうに鳴いた姿を思い出して>>5、仮面の下で小さく笑う。 連れ立って歩く一人と小さな一匹の影を思い返せば、きっとすぐに機嫌はよくなったのであろう。 「花が咲いたところを自分も見られたらよかったな」との言葉に、「ええ、咲いていればよかったのだけど。まだ咲かないみたい」とまるですぐにでも咲くかのように答えた女をどう思われたかはわからないが、あの人当たりのよい笑みが怪訝に変わることはないのだろうことは短い会話と猫への接し方で知れたことだった。] (27) 2022/10/04(Tue) 18:50:28 |
【人】 行商人 美濃[そうして、うさぎ堂へとつけば、うさぎの面の給仕が忙しく動き回るのを見て微笑ましくなる。>>24 女の顔を見て、口角が上がるのも、取り置きしてくれていたことも嬉しくて。] 約束、覚えていてくれたのね。 ありがとう。 ええ、良い月が見られて嬉しいわ。 [うさぎは確かに目の前で、弾むばかりの働きっぷりであると思えば、クスクスと笑って返した。 失礼しますと去る姿を>>25一度、呼び止めて] これ、つまらないものだけどお礼よ。 [予約のお礼に、と小さな月のような黄色い石のついた簪を渡した。 少女と言っても遜色ないなんて感想を初めて見た時には思ったけれど。 随分としっかりした働き者で、もう簪をつけても良い年頃だとは、二人連れの男性客の会話を思い出したからで。 実際は、女も誰かに贈り物をしたくなった、というだけのこと。 それだけ渡せれば、酒屋へと足を向けたのだった。]** (28) 2022/10/04(Tue) 18:51:34 |
【人】 行商人 美濃─露店のお客・九郎と一二三─ [彼にとっては不本意な女の勘違いは彼等に伝わることはなく、恙なく行商人としての務めは果たせたか。>>34 悪ノリする友人に顔を顰める姿も見られたら楽しかったかもしれないけれど。 長髪の男性が姪御への贈り物に決めたのは、蜻蛉玉の飾りがついたもの。 まだほんの少女を勧めた品が飾るのを思い描いた。 想像する面立ちは中世的な彼の姪御なれば、きっと美人になりそうなもの違いない等。 それから硝子のお猪口をふたつ。 お酒呑みたい、とは心の隅で。 月見の頃には呑むのだからと振り払う。] ふふ、きっと似合うのに。 そちらのお兄さんはお揃いのものを? 良い色ね、姪御さんと並んだ姿を見てみたいわ。 [歳や性別に頓着しない女は飾り紐は不要との声に笑って返して。>>35 乗り気で飾り紐を選んだ彼との違いに、二人の関係性が垣間見えて微笑ましくなった。] はい、こちらの包みは別ね。 お買い上げありがとうございます。 お二方とも、良いお月見を。 [品を選んでいない彼の方がお財布を出すのが二人の仲が密であることを窺わせる。 雰囲気や性格は異なる二人だが、だからこそ上手く付き合えるものなのだろうかと考えながら包みを分けた商品を渡し、お辞儀をすると二人を見送った。]** (47) 2022/10/05(Wed) 2:11:18 |
【人】 行商人 美濃─神社裏手─ [開けた箱の中は、やはりいつもと変わらぬ土の詰まった碗があるだけだった。 碗を持ち上げると土の重みが指先に伝わった。 目の前まで持ち上げて、矯めつ眇めつしてみたけれど、芽の一つもでてはいない。 予想はしていたことだ。 何も嘆くことはない。 満月を見上げ、お団子を食べて、酒を飲む。 それだけできれば充分だと。 もしその時が来るならば、きっと───… 永遠に、そばにいられるのだと、 指先が震えて、碗が落ちる。 ガシャンと土の上に転がり、中の土が溢れた。 慌てて碗を取り上げるが、傷はついていないものの、中身は全て地面の上へと散らばっている。 平すように土の上を掻き分けても、何も指先には触れず、植物の種のようなものは見当たらなかった。] (48) 2022/10/05(Wed) 2:25:38 |
【人】 行商人 美濃………どうして、 [汚れた指で仮面を覆い、熱い雫が頬を伝う。 戯れだったのだと、思いたい。 否、おそらくの真意を女は察していた。 ひとり残していく先で、夢見がちな女が生きていけるよう、 ありもしない希望を与えたのだ。 少女の頃、あの露店で見た綺羅綺羅とした異国の品のように。 硝子玉でさえ本物の宝石だと信じて疑わないような頃のままだと思われていたのだろう。 ───…そんなはずはないのに。] (49) 2022/10/05(Wed) 2:27:11 |
【人】 行商人 美濃[顔を俯かせたまま、ぼろぼろと溢れる涙が面の内側を濡らす。 面の細い目の隙間を零れ落ち、指の間から雫が、ぽた、と膝に置いた碗の上に落ちた。] ………? [茶碗の底に落ちた水滴の中、模様のようなものが拡大されて見えた。 顔を近づけると、何か文字が彫り込まれているようだ。 仮面を外し、目元を擦るとそれを読む。 弾かれたように茶碗の中を手拭いで拭き取ると、傍らに置いていた酒を注いだ。] (50) 2022/10/05(Wed) 2:27:58 |
【人】 行商人 美濃[透明な液体を満たした茶碗を顔の前に掲げると、確かにそこには咲いていた。 震える指先に揺らぐ水面に、 愛した人と同じ名前の蜜色の盈月が。 『永遠に、君と共に』と彫られた底の文字と、あの頃の思い出と共、女は浮かぶ月を飲み干す。 一筋だけ、溢れた涙がきっと先の長い生涯のうちでも、最後の涙となるのだろうと、女は思った。]** (51) 2022/10/05(Wed) 2:30:22 |
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