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【人】 鬼の花嫁 千なあ旦那様。今日も朝から寒いなァ だからまだ……このままでいようぜ [痛い程の力は、しかし抱えた人の子を潰すものではない。 かつて人であり今は鬼である男の、不安や決意、自分への想いが込められた強さ。 だから千は咎める代わりに、もう少し紅鉄坊の時間を奪うことを選んだのだ。*] (37) 2021/06/30(Wed) 23:41:04 |
【人】 鬼の花嫁 千─ 必然の冬 ─ 寺の中を暖めながら待ってるさ 精々あんたに怯えた迷子の捕まえ方でも考えとけよ、ひひ [口角を歪めた笑みで可愛げのない事を言い、千は鬼を見送った。 自分など気にせず、子供を見つけることに集中出来るように。 その目立つ姿が白に消えるまで、中に戻ることなく見つめていた。 こんな寒い日に迷惑な子供だと思う。だが、雪が物珍しい気持ちは、分からなくもない。 村人が門前まで訪ねて来るまでは、千と鬼も外の景色を寄り添って眺めていた。] (53) 2021/07/01(Thu) 1:57:45 |
【人】 鬼の花嫁 千[朽ちた穴を板で塞いでいるような廃寺の中はとても寒い。 座敷牢は、陽が入らないがしっかりとした家の中だった。 それでも、千にとってはこの場所のほうが好ましい。 いつも共に食事を摂る、かつて像が置かれ経を唱える為に使われていた広い部屋の中。 長らくしまいこんでいたあの白い着物を纏った上に、更に外套を羽織り 燃えた石炭を、灰が入った火鉢の中へと火箸で移していく。 鉄瓶で湯を沸かすのは、鬼が帰ってきてからだ。 時折灰をならし新しく炭を運びながら、火鉢の前で手を擦りその時を待っていた。] (54) 2021/07/01(Thu) 1:57:59 |
【人】 鬼の花嫁 千[──待てども待てども、その時は来ない。 陽は既に暮れようとしていた。 まさか自分のように子供が襲われてしまったのだろうか。 見つかっていないなんてことは、まさか無いだろう。 いくら送って行くとしても、怯えられたとしても遅すぎる。 鬼にとっては庭に等しい筈の山、理由の分からない不安。 今更飛び出すことも出来ず、もどかしさが胸に渦巻くばかり。] (55) 2021/07/01(Thu) 1:58:12 |
【人】 鬼の花嫁 千[そんな時に戸口が開く音がすれば、何の思考もなく喜んでしまう。 立ち上がり、直ぐに迎えに行ってしまう。 最初から迷子などいなかったなど、鬼すら知る由もないことだ。] (56) 2021/07/01(Thu) 1:58:23 |
【人】 鬼の花嫁 千紅鉄様……!随分遅く…… [その時の千は、鬼子であった男は まるでらしくなく、ただの人間みたいに笑みを浮かべていたのだろう。] (57) 2021/07/01(Thu) 1:58:36 |
【赤】 鬼の子 千ッ…… [だが、立っていたのは待ちわびた鬼ではなく 大鉈を携えた中年の男、招かれざる客。 男が薬屋の店主であるともその娘達に起きた悲劇も、鬼に引き合わされず語られもしなかった千は知らないが 開いた瞳孔や発した言葉、生き物としての本能の警報が危険をありありと伝えてくる。 戸口は相手に塞がれている。後退るしか出来ない。 台所にある戸から外に出られる、逃げる隙を見つけなければ──] (*8) 2021/07/01(Thu) 1:59:19 |
【赤】 鬼の子 千「何故、お前だけが!」 あ゛…… あ゛あ゛、あ゛ぁぁっ!! [振るわれるのは想像したまま。 避けようと身を逸らせた時、起きたことは想定外。 嫌な音を立てて失われた視界の半分。 叫びに近い悲鳴を上げながら蹲り、たまらず熱と激痛を発する部位を手で抑える。 千はただの人間だった。良い家に生まれ、閉じ込められてもその中にいた。 こちらに殺意を持った相手との戦いの術など、持っていない。 伯父に振るわれる暴力は拳か足で、気絶すらしない程度のものだった。] (*9) 2021/07/01(Thu) 1:59:35 |
【赤】 鬼の子 千「鬼の子がのうのうと生き延びて、 何故うちの娘達が死ななければならなかった!」 [その腕を男が掴み剥がし、床へと引き倒す。 最早千に出来るのは、呻き叫びながら罠に掛かった獣より惨めに無意味に身を捩り続けることしかない。 そこからはされるがままに、激情を吐き出され引き裂かれてゆくばかりだった。] (*10) 2021/07/01(Thu) 1:59:52 |
【赤】 鬼の子 千[やがて声すら潰えてゆく。 陸に上げられた魚のように振り下ろされる大鉈の動きに重なり身体を跳ねるばかりの、獲物。 獲ってきた獣を見て喜んでくれた記憶が過ぎったのは、走馬灯なのだろうか。 紅鉄坊との日々は、やはり鬼の子なぞには過ぎた幸せだったのだろうか。 こんなことになるなら、やはり喰らわれたら良かったのだろうか。 男の憎悪の叫びも与えられる痛みも、今は遠い。] (*11) 2021/07/01(Thu) 2:00:05 |
【赤】 鬼の子 千[がらりと色彩を変えた空間、動く者は何処にもあらず 誰もいなくなった部屋で虚しく音を立てる火鉢の熱は、開かれたままの戸から吹き込む風で意味を成していない。 横たわり、その寒さに晒されている男の上下する胸の動きは眠りの最中よりずっと微かなもの。 老人のような白髪は身体や部屋と同じく斑に紅で汚れ、乾き始めている。 命がかき消えるまで、残る時間はもう僅かだろう。*] (*13) 2021/07/01(Thu) 2:01:36 |
【赤】 鬼の子 千[鬼の行ったことは、花嫁の死を前に冷静さを失ったとしか言えないもの だがその行為は確かに、直ぐ途絶える筈だった呼吸を繋いだ。 されるがまま流し込まれている内にその音は大きくなり、やがて噎せ、吐き出す動作を挟むようになる。 しかし厭がるような素振りは無く、苦しみながら自ら喉を鳴らして取り込んでいった。 狂気的な救命が続き、外がすっかりと宵闇に閉ざされた頃 残された片目がゆっくりと開き、目前の男とよく似た彩りを晒す。] (*23) 2021/07/02(Fri) 2:32:15 |
【赤】 ? 千[そして相手を退けるように起き上がり、素早く距離を取る。 汚れた床に両の腕をつき、膝をついたまま腰を軽く上げたような姿勢 荒い呼吸音を響かせながら睨みつける姿は、領域を侵された獣に似ている。 獣じみたその者は紅鉄坊に飛び掛かり、太い手首を掴んで引き倒そうとした。 もし体躯の差でそれが叶わなくとも、糧を求める本能は血を流す部位だけは離さないだろう。] (*24) 2021/07/02(Fri) 2:32:43 |
【赤】 吸血鬼 千[血に塗れた、死装束に似た白い着物姿に、乾いた紅がこびりついた幽鬼のような色の顔。 手首に食らい付く勢いで命を啜り上げる白髪の男。 一体どちらが鬼なのか分かったものではない光景。いや、もう既にどちらも鬼なのだ。 なり方が特殊だった故か肉は全く喰らおうとしないが、似た存在と化したことに変わりはないだろう。 理性に欠いた獣の如く果てた存在を、紅鉄坊がどう扱っても やがて肩の動きは安定し、瞳に知性の光が宿る。 いつの間にか新しい血は流れなくなり、着物の下で全ての傷が塞がっていた。] (*26) 2021/07/02(Fri) 2:33:40 |
【赤】 吸血鬼 千……紅鉄様、俺は [紅い左目が困惑を宿し、紅鉄坊を見上げる。 覚えているのは死に瀕し力なく目を閉じるまでの出来事。少なくとも、今は。 半分になった視界に未だ慣れないのか、目元に触れたりあちこちに目線を滑らせた。 惨い傷を目にし痛ましげに表情を歪めて、許されるなら腕を取り掌に頬を擦り寄せる。 労るように、許しを乞うように、──再会を喜ぶように。*] (*27) 2021/07/02(Fri) 2:34:01 |
【人】 千温暖化による異常気象で、六月から蒸し暑い日々が続いていた。 すっかり初夏といっていい有り様であるのに、 梅雨は忘れることなくやって来るのだから、うんざりする。 今日も夕方まで降り続いていた雨の名残か、 高い湿度が生暖かい嫌な空気を屋内に漂わせていた。 着込んだ制服が温度に釣り合っておらず、額に汗が滲むのが分かる。 暦上は夏本番は未だ遠い現状、とっくに閉館時間を迎えた夜 冷房の使用が許されるのは休憩室だけだ。 節電という掲げられた名目はあるものの、 実のところ、雇われの厳しさを感じるばかり。 少しばかり人付き合いが不得意な身には有り難い仕事であったが、 特にこの季節はあまり快いとは言えなかった。 (103) 2021/07/02(Fri) 23:05:58 |
【人】 千どこぞの酔狂な金持ちの寄付によって、 ここ数年の内に建て替えられたというこの建物は 規模と需要に反した、真新しく清潔な内装が目を引く まさしく金の無駄遣いであると、 望んで働いているわけではない一般庶民には思えてならないが 無駄に大きな窓から差し込む月の光に関しては、 巡回中いつも有り難く感じていた。 夜の資料館は不気味に思えてならない。 今の時代を生きる存在は自分一人きり、 犇めく過去が黙して暗がりからこちらを見ている。 そこには独特の居心地の悪さがあった。 中にはきな臭く鬱蒼としたものも収められていて、 そんなものを置いているからいつでも客足が少ないのではと 思えてならないが、当然口を出せる立場でもない。 (104) 2021/07/02(Fri) 23:06:11 |
【人】 千一人分の靴音だけが、反響し静かな空間に響く 丁度この先にあるコーナーが、きな臭い展示物のある場所だった。 不気味であっても、怖いと感じているわけじゃない。 自分は既に親に結婚を急かされる年齢の男で、 真夜中に展示物が動き出し警備員を巻き込み騒動を起こすのは 映画やゲームの話でしかないのだから。 何も起きやしない。いつもと変わらず時間が過ぎ、帰宅する。 その筈なのに──── あるわけがない風の流れを、温い空気の中確かに感じた。 (105) 2021/07/02(Fri) 23:06:25 |
【人】 千どうやら気絶していたらしい。 すっかり静けさを取り戻している空間。 不審者も恐ろしい異形も、何処にもいない。 ふらつきながら窓に近づき、外を見下ろしても その先、資料館の傍らで咲き誇る純白の梔子が見えて、 芳しい香りが風に乗り届くばかりだった。 湿度の高い夜、あれはよく香るから──── (117) 2021/07/02(Fri) 23:13:10 |
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