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【人】 二年生 早乙女 菜月「エレベーターで、ベースはそんな足の持ち方しちゃだめ! 手でトップの体重のかかりかたを感じて、トップから目を離さない!」 「エレベーターに乗り込むとき、トップはもっと膝の屈伸を使って! スポットはただいるだけじゃないのよ、ちゃんとトップの腰を支えなさい!」 「ダブルテイクの時は、トップの足の高さを合わせて! そのためにはベースが高さを合わせないとダメ! トップ、内股!」 「そんなやり方でエクステンションを続けたら、ベースは肘を壊す!スポットはもっとトップの足首を握って全体を観察しなさい! 何のためのスポットなのよ!」 [大学で入ったチア部は、高校以上にスパルタだった。 私はチアをやめることなく、ずるずると続けている。アキナと同じ大学で。 大学の中で会っても、外で会ってもどこで会っても、アキナは何も言わない。ただ、割れた鏡のような目で私を見るだけだ。 いっそ何か言ってくれれば、と思うけれど、私だって自分からは話しかけることができない。 結局私たちは微妙な関係のままだ。] (14) 2020/10/09(Fri) 6:39:52 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[つまんないな、と心から思う。 チアをやっていても、どこか冷めた自分が邪魔をする。 苦しい思いをして、考えないで済む時間ができるのはありがたい。 だけど、チアそのものの魅力には、コロナ前の方が取りつかれていた。 「今」の菜月が好きだよ。>>3:-48 「今」の私はどうだろう。] (15) 2020/10/09(Fri) 6:41:19 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[鞄の中には一冊のお守り。 一枚も増えていない、正しい重さの童話集。 ラミネートコーティングされ、 「私立桐皇学院高等学校」と書かれている。 結局高校の図書室に残していくことはできず、 通常よりも高い値段で買い上げた。 ともすると、友君と過ごした日々が ただの妄想じゃないかと思ってしまう。 そんなのは悲しすぎるから。 今となっては、この本だけが あの不思議な現象の証拠になってしまった。 やりとりが何一つ残らなくなって、 確かに友君と過ごしたんだ。 私ひとりじゃ本なんか読まない。 私だけじゃ、こんなに四季には気づけない。 友君からもらった言葉で、私は世界を表していく。 だけど、だけどね、やっぱり、 さびしくて、しかたがない。] (16) 2020/10/09(Fri) 6:41:35 |
【人】 二年生 早乙女 菜月「お、早乙女。いい加減続き読んだか?」 [構内をふらふらしていると、小埜先生に話しかけられた。 小川未明を研究しているとかで、彼の授業を取って以来、なんとなく気にかけられている。他学部の私がわざわざ受けに来たのが珍しいらしい。 「続きは読まないですよ」「そのこだわり何なんだよ」「貞節です」 授業は意味が分からなかった。だけど、毎回単位を落としながらも、同じ授業を受けている。 「下手の横好き、ここに極まり、だな」 いいんだ、必修じゃないし。] 「そういや、今年もう一人入ったぞ。小川未明好きが。早乙女と違ってできるけど」 悪かったですね、と唇を尖らせるのも、小埜先生は聞いていない。ちょうど外から入ってきた男子学生に手を上げて、「あ、いたいた。おーい小林……消毒!」アルコールをせずに入ろうとした青年に叱責を飛ばす。] ……小林? [はいはいと聞き流そうとして、それができずに青年を見た。 よくある名前だし、ただの偶然、だとは思う。 「小林、こいつが前ちらっと話した面白いやつだ。文学部じゃないのに俺の授業撮って、歴史に残る酷いレポートを書きながら毎回授業取ってくる。今年も落ちる予定だ、なあ早乙女」 ぺらぺら話しかけてくる小埜先生を無視しながら、 それでも、ほんの少しだけ期待してしまった。]* (17) 2020/10/09(Fri) 6:44:06 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[小林君の視線が、私の手元に注がれる。>>22 いつのまにかボロボロになってしまった本。 驚いたような顔をする小林君に、私の感情が呼び起こされる。 いくつもの「もしかして」と「まさか」が、 水泡のように浮かんでは消える。] ゆう、くん……? [嘘だ、って、とっさに思う。 だけどそれ以上は声が出てこなくて、 会えてうれしい、とか、 ちょっとひねりを加えるなら、私はアキナだよ、とか うそっこ教えるのお揃いだね、とか、 色々。もっといい言葉があったはずなのに、] ……なんでぇ? なんで、ともくんがここにいるの……? [私が言えたのはそれだけで。 友君の目の縁に溜まる雫に>>23、 私の涙も導かれた。] (27) 2020/10/10(Sat) 7:14:50 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[そうして、友君の言葉を受けても>>-76>>26、 うん、うん、とうなずくことしかできなくて。 私たちを見てちょっと焦った先生が、 「……死ぬにはまだ早いぞ?」 自殺の誘いを目の当たりにしたと勘違いする。] (28) 2020/10/10(Sat) 7:15:17 |
【人】 二年生 早乙女 菜月「不意に、本が膨れ上がる。 本は幾千幾万もの真っ青な 蝶 へと姿を変えて、私たちの視界を奪う。 青い翼をはためかせて、銀の鱗粉が尾を引いて、 私たちの周りを舞いながら、 様々なものに姿を変えた。 例えば、野ばらから尻を突き出したミツバチ。 例えば、目を細めて針の穴をみつめるおばあさん。 線香持ったおじさんや、太鼓を叩くラッコまで。 それらは幾度も形を変えながら、 窓の外へ、浮かぶ雲島へと飛んで行き、 しまいには、魂は、みんな青い空へと 飛んでいってしまったのだ。] (30) 2020/10/10(Sat) 7:17:22 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[白昼夢だと思ったんだろう。 「……俺、寝る。今日休講な] 小埜先生はふらふらと去っていった。 その後ろ姿を見送って、私は泣きながら、 笑ってしまった。]** (33) 2020/10/10(Sat) 7:21:05 |
【人】 新婦 早乙女 菜月[図書室だけだったデートの範囲が、 広がっていく。 初めてのデートは本屋。 だけど私は熱心な読書家にはなれなくて、 友君の持つ本を横から覗き込んだり、 友君の睫毛を眺めたり。 喫茶店で頼むのは、 ピーチゼリーソーダと バナナのミルククレープ添え。 クレープは二つ、ストローもふたつ。 友くんがもにょもにょ言ったって、 ドリンクだけはひとつきり。 だって、美味しいドリンクを分け合うなんて、 影だけが相手じゃできないもん。 友くんと触れ合えるのが嬉しくて、 甘やかな声も、意外と豊かな表情も、 どんどん好きになっていく。 だけど──] (101) 2020/10/13(Tue) 6:49:40 |
【人】 新婦 早乙女 菜月「ナツキ全然彼氏のこと喋らないね?」 「前はぺらぺら話してたくせにー」 [と、チアの子にはからかわれる。 笑いを取るのは好き。 自分がピエロになることで みんなに笑ってもらえるなら、 積極的に話に行くけど。 だけど、友くんと何を話して、 私が何を感じたかは、 誰にも言わない。 自慢したいけど自慢したくない。 そんな気持ち、初めて知って。 だから、初デートのおしゃれのため 部員達に泣きついて初めて 友君の存在が知れ渡ったのだ。 「ナツキつまんなーい」「吐けー」 良いんだ。笑顔にならチアでするから。] (103) 2020/10/13(Tue) 6:51:16 |
【人】 新婦 早乙女 菜月「GO! FIGHT! WIN!」 [自分の中にある熱が、 汗となり、声となり 発散されていく。 会場内は熱い。気温だけではない。 ここに集まっている人たちの 若さや、情熱や、希望や、愛情で、 とにかくあついのだ。 声がどこまでも広がって、 やがて自分の耳に戻ってくる。反響。 たっぷり体に染み渡るような、残響。 モーション。体の中の筋肉、 インナーマッスルで体を止める。 体を動かす時間をできるだけ短く、 モーションを決めている時間を できるだけ長く。 腹筋に力を込めて、 明確に体をストップさせる。 反響して戻ってきた声で、 シンバルのように鼓膜が揺れる。] (106) 2020/10/13(Tue) 6:53:18 |
【人】 新婦 早乙女 菜月[これは、と気づく。 高々とアキナを投げる。 重力が消える最高地点でトゥ・タッチ。 これは、反響しているんじゃない。 私たちの声の残響じゃない。 客席からの掛け声だ。 掛け声が返ってきている。 二分三十秒の演技が、終わる。 席に並ぶ一つ一つの顔、 その中によく知った顔立ちを見つけた。 二分三十秒の演技が、終わる。 鳴り止まない歓声の中、 客席に並ぶ笑顔の中の、 一番良く知る顔に向かって、 繋いだ手を高々と真上に突きあげる。 チアリーディングはスポーツだ。 グラウンドの外の花じゃない。 技を競う真剣勝負。 勝利の証は、会場に溢れる笑顔。 私たちは誰かを応援するために、 競い、高め合う。 だけど、私自身が折れてしまった時に 応援してくれたのは、 友君、あなたの言葉でした。]** (107) 2020/10/13(Tue) 6:54:37 |
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