【人】 東天[満開の桜の下、休息を終えて。 薄墨の老木の根元で、ふわりひらりと舞う。 舞い始めに拍子はなく、しかし次第に増えていく。 祭りが賑わう程に、通り掛かり足を止める者がその手で拍子を取った。 ちり、と鈴を鳴らすのは拍子の彩りに。 そうすれば、その音に振り向く者もいる。 これは神に捧ぐ舞ではなく、人の為の舞である。 興味を惹かねば舞う意味もない。] (52) 2022/04/10(Sun) 22:29:13 |
【人】 東天[何代か前は女であったと言う。 先代は左の義肢を手袋で覆っていたと言う。 代替わりの時期もまちまちで、予告も報告もなく、 ただ全ての認識は見た者に委ねられている。 変わらぬのは、その背丈、髪艶、衣の色。 演目も基礎は変わらず、ただ演目は舞手に聞かねばわからない。 各地を旅する故に、恐らくそれは榛名に元からあるものではなく、 だが、何十年と"彼"が舞うものだから、榛名の祭りのものとして馴染んでいた。 舞手により細部の違いや、得意とする演目に差異はありはする。 例えば──いつかの代は片足が粗悪な義肢だったお陰で、跳ねるのに苦労したと聞いている。 面から伸びる紐の房が結ばれた髪へ交じり、 体が翻ればまた離れていく。 出会っては別れを繰り返して、次第に舞いは終演へ。] (53) 2022/04/10(Sun) 22:30:17 |
【人】 東天[閉じられた扇と、しゃんと鳴る鈴が演目の終わりを知らせる。 一拍、疎らな拍子を置き、 さらに一拍置いたあとに、 その音は拍手となった。 舞手は息を乱すことなく、深く頭を垂れていた。 話し掛ける者が居れば話し、 あちらの屋台の団子が美味いだの、 甘酒の差し入れだの、有り難く受け取る。 礼儀として、面は外さないまま。 先代までと同じように、声音だけに感謝を乗せて。] (54) 2022/04/10(Sun) 22:30:36 |
【人】 東天 ──面は外せない、 そう言うことになっておりますから。 [問われればそう答える。 柔らかく、高いような低いような声音で。 食べ物や飲み物を差し入れても、外しはしない。 少なくとも客の前ではそんなれいを欠く行動はできないと。 そうやんわりと断っていく。 人の波が引けば今日の興行は終わり。 差し入れを抱えて男は老木を後にする。 そうして、また明日、 ……いや祭りが終わるまで。 男はここで、まっている。**] (55) 2022/04/10(Sun) 22:31:18 |
(a9) 2022/04/10(Sun) 22:33:16 |
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