【人】 転校生 矢川 誠壱[ 小さく挨拶をして気まずげに 足音を立てぬようそうっと 入った教室だったけれど、 すぐに近くにいた女子生徒に捕まった。 やっとクラスメイトの名前を 覚えてきたところなのだ。 彼女はそう、たしか…] 田中さん… 「おはよう、遅刻の矢川くん」 …すんません… [ そう小さく謝ると彼女は困ったように 片眉をあげて、肩を上げて、下げて、 ふう、と小さくため息をついた。] (46) 2020/06/14(Sun) 15:30:54 |
【人】 転校生 矢川 誠壱「とりあえず。職員室には行った?」 いや、まだ… 「なら先に行ってきなよ。 届出出してから帰ってきて。」 …ごめん… 「いーからはやくね!」 [ そういって頷く彼女に一礼して 一度教室をでる。でる、つもりだった。] (47) 2020/06/14(Sun) 15:31:10 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ まあ、弁解という弁解もないから 仕方のない話ではあるのだが。 ちら、と目線を落とした。] せっ きゃく まにゅ ある… [ 小さく唸りそうになるのを、 こぼれそうなため息を、堪えて。] (49) 2020/06/14(Sun) 15:32:11 |
【人】 転校生 矢川 誠壱* [ ひとまず職員室へ向かうことを 許されたのだから、その通りにしよう。 接客などやったことがないし無理だと 伝えるのはそのあとにしたほうがいい。 どうせ今断ってもすぐに却下される。 ───参加しないという選択肢がなかったわけではない。 準備にはじめから参加していたわけでもないし ものすごく中途半端な時期に、その上 3年に上がってからの編入生なんて。 編入後1ヶ月で文化祭なんて。 物好きだと思われたって仕方ない。 だけど、参加したかった。 人生で限られた数しかないから。 それが思い入れのあるものでも、 ないものでも、構わない。 その場所に自分がいた、それだけで。] (50) 2020/06/14(Sun) 15:33:55 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ ああ、接客じゃなくてせめて キッチンスタッフにしてくれないだろうか。 そんなことを考えながらぼんやり歩く。 廊下から覗き見えるさまざまな 教室には展示も準備されているらしい。 とても広い学園だし、きっと 全てを見ることは叶わないんだろうなと 思いながら、背中に負ったベースのケースの 肩紐をくい、と引いた。]* (52) 2020/06/14(Sun) 15:35:14 |
【人】 転校生 矢川 誠壱 ──職員室── うげ… [ 職員室に到着すれば、なにやらそこには 列ができていた。それも外まで。>>58 遅刻するたびにお世話になっている この場所であるから、馴染みはあるが、 こんなにひとが並んでいるのは正直 今まで見たことがないから、驚く。 だが、仕方ない。 この図体で目立たないなんていうのは むずかしい話ではあるが、ひとまず そっと最後尾につけた。 ポケットでスマートフォンが震える。 右手で取り出して、すう、とその 無骨で長い指を画面に滑らせる。 バンドのメンバーで構成されている グループにメッセージが届いたという通知。 数度タップしてみてみれば、どうやら トラブルがあって、リハーサルの時間が 予定より遅れそうだという連絡だった。] (85) 2020/06/14(Sun) 20:47:33 |
【人】 転校生 矢川 誠壱『りょーかい』 [ と一言送る。 バンドのメンバーはいい奴ばかりだった。 ベースは、ずっと前からやっている。 幼い頃から転勤族で、色んな場所を 転々としていた自分にとって、 人と距離を詰めるためのツールであり 拠り所のような存在。 今のメンバーに声をかけられたのは たまたまだった。 この街に引っ越してきてすぐ。 弦を買おうと楽器屋に行った。 その場所で「ベースが、受験を理由に 3年に上がってすぐやめてしまった」と 愚痴っているこの学園の生徒を見たのだ。] (86) 2020/06/14(Sun) 20:48:00 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ 仕方ないとはわかっていた。 だからこそ、引き留めることも できなくて、くやしい、悲しいと。 ああ、そうだよなあ、と ぼんやり上部だけで話を聞いていて。 まさか、そのあと学園で再開して。 その上向こうがこちらを覚えていて。 入ってくれと頼まれるなんて思っていなかった。 元ベース担当のやつにも会ったし、 話をしてきちんと引き継いだ。 で、即席ながら無事バンドメンバーと なったわけなのだけれど。 今日が、最後になるんだろうか。 腐っても受験生だ。 あまり長く続けられないことは 重々承知だけれど。 やはり、一人で弾くよりも断然 誰かと演奏する方が楽しいし、 誰かに聞いてもらえるのも嬉しい。 最後は、寂しいな、なんて。 自分が言えたことではないのだろうけれど。] (87) 2020/06/14(Sun) 20:48:31 |
【人】 転校生 矢川 誠壱あー……いや、 なんかこう、最後なんだなって ちょっと思っただけです、 俺が、感傷に浸るのも変すけど [ と続けて。くしゃ、と手の中で 音を立てた紙に目線をやる。 そして、思い出した。 ああ、うん、バンドの方に意識が 向いてはいたがそうだった。 もっと憂鬱なのはこちらだったな、と。] ……最後に、恥は残したくないっす…ね… [ そんな呟きを落とし。]* (89) 2020/06/14(Sun) 20:50:05 |
【人】 転校生 矢川 誠壱…あ、いや、こちらこそ… [ そうこちらからも一言謝って、 教室の中へと足を踏み入れる。 そこでちょうど田中さんに捕まったのだった。 彼がした提案をまだ知ることはない。 知っていたなら、こちらからも 提案したはずだ。自分も楽器ができるの だから、ぜひ演奏側に回らせてくれと。 そうすればきっと、今こんなふうに 接客マニュアルを見ては 不安を煽られることはなかっただろう。]* (93) 2020/06/14(Sun) 21:53:50 |