人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

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【独】 歌い続ける カンターミネ

>>-100

ごつ、ごつ、ごつ。巡回の重いブーツの音がする。
それを履いた茶髪の
ウィッグを被った
『ケーサツ』は、あなたの牢の前で止まった。

本当なら、もう少し気の利いた声でもかけるつもりだった。
或いはおふざけの気配を纏わせて元気づけるつもりだった。
そこにある光景は、それらを忘れさせるのに充分過ぎた。

今この場にあのイレネオが居たら。もし、牢の中に彼が立っていたなら、間違いなくカンターミネは彼がやったと決めつけて、全力を賭して殺しただろう。
それくらい、その尋問の跡は慣れ親しんだ者にとってはまだ、『甘かった』。だからといって状態に安心する光景ではまったくないが。


鍵束を出す音が聞こえる。内1本が扉に挿される音が聞こえる。
少し古い牢の扉が軋みながら開いて、ごつ、ごつ、ごつ。
近付くにつれて、喉が詰まる。声の代わりにポケットから紙を取り出し広げて見せた。それは犯罪者の移送依頼書だ。
当然、偽造された。


「……、」

用意した言葉が出てこない。覚悟はしていたはずだが、
それでも足りていなかったらしい。
少しの間の無言の後で、やっと声を出した。

「……
ん゛んッ
、ダニエラ・エーコ。
 お前の隠し持つ情報に関して、より上位の機関による精査・・を行うべきだとの進言があった。よって、三日月島刑務所までの移送を行う。……。移送車までの私語は厳禁だ。また、……」

少し気取ったような声。それも途切れ途切れに。そして、

「あー、やめた。迎えに来たぜ、お姫様。」

いつもの声でそう告げた。
(-102) 2023/09/28(Thu) 19:01:57

【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 新芽 テオドロ

>>-101

よくよく男の身体をあなたが見たならば、患者用の服の胸元から少し薄くなった噛み跡などが見えるだろう。
本人としてはタートルネックで隠したいのだが、入院してると流石にそれは許されなかったようだ。

「うん、まぁ……色々あって、心配かけてしまったのは確かだから」

とはいえ、何故そこまで叱責を受けなければならなかったのかはついぞわからず。
次に会うときは、今度はこの怪我のことを叱られるのだろうなと思うと苦笑いの表情を浮かべる。
ここに入院していることは警察の人間くらいしか知らないだろうから、会うのは退院してからになるかもしれないが。

……まぁおそらく、あなたの予想のその罪づくりな男で間違いないはずだ。

「あぁそうだね……二人がかりで叱られると流石の僕も立ち直れなくなりそうだ。
 というか。キミのその色気のある声で、寝ながらくどくど言われたら寝れる状態であっても寝れない気がするよ」

皮肉には皮肉で返して口端を上げる。
気のおけない同期とのこの関係は、きっとこれから先もずっと変わることはないのだろう。
(-103) 2023/09/28(Thu) 19:11:56

【独】 摘まれた花 ダニエラ

>>-102

頬つけた床を通して、足音が聞こえる。
その足音が牢の前で止まった時、女はその視線だけをそちらへ向けた。

乱視の眼鏡は歪んでしまっては掛けるだけ無駄で。
ぼやけた視界で茶色の髪を一瞥すれば、
その視界でその瞳の色まで判別なんてできるはずもなく
またぼんやりと視線を虚空に移していく。
…もしかして、またあそこに戻されるのだろうか。
ほんの一瞬そう過ったのは否めない。それだけ好き勝手いったしな、という納得だってそこにはあった。

だから、少しの間無音が続いたのには些か不審を抱いた。
もう一度、視線を向ける。こちらの方から声をかけてやろうかとすら思った頃だ。

視線だけでなく、顔ごとそちらへ向く。
言葉の中身自体は、本当に何一つ頭の中に入ってこなかった。
ただ聞き間違えるはずはないって。それだけ。


「……っ」

がばと起こそうとした身体は軋んであまりいうことを聞かなかった。
それでもその努力くらいはしようとして。

「…………ミネぇ…」

その言葉で決壊した。涙が流れたあとにじんと沁みる。

――迎えに来てくれた。本当に。
だけど、それがどういう意味を含んでいるか過ぎらない女でもなかった。
ただ、今この瞬間はそれより安堵の方がずっとずっと上回っただけで。
(-104) 2023/09/28(Thu) 20:02:17

【秘】 リヴィオ → 口に金貨を ルチアーノ



普段なら、男はただその夢を眺めているだけで。
繰り返し唱えられる呪詛を身に受け、縛られていく。
もう何年も、逃れることの出来ない悪夢だった。

今度はもう、戻れないのかもしれない。
このまま暗く深いどこかへ、
落ちていくんだと思った──その時。

静かに眠る、無防備な猫の姿が見えた。
別に、猫が好きな訳じゃない。…………けど。
何となく、ただ、何となく、己の指先を
恐る恐る
伸ばす。

触れたその熱は、暖かくてとても──安心したんだ。

(-105) 2023/09/28(Thu) 20:13:13

【秘】 リヴィオ → 口に金貨を ルチアーノ



重い瞼を何度か緩慢な動作で繰り返し瞬かせ、
霞む視界の中徐々にピントを合わせていけば、
眠たげな、大きな猫友人の姿が視界いっぱいに映される。
何を言おうか。男の口が幾度か動かされて。

「…………ル、チ……ルチ、アーノ…………………?
 …目を覚まして直ぐに、色男の顔が……見れる、なんて。
 俺は……、しあわせものってやつ……、かな」

名前を呼び、"いつものような"軽口を紡ぐ。
しかし、ただそれだけという訳ではなくて、
己に触れる熱を求めるように、
痛みを感じながらも
指先を動かし軽く、その手を掴んだ。

「……あー………すまない…、迷惑心配、かけたね。
 子守唄は、そうだな……もう一度眠って、いいのなら」

君の子守唄を聞けばよく眠れるかな?
浮かぶ台詞の代わり、小さな笑い声を零して、
幼子のようにへにゃりと笑った。

それは今まで生きてきて、誰にも見せなかった弱さだ。
見せたくなかった弱さだ。……けど。
異様に熱い体が、響くような頭の痛みが、
折れた左腕が、血のにじむ右手が──全てが限界で、

誰かに手を伸ばすことに臆病な男が、
弱さを見せるきっかけとなってしまった。
(-106) 2023/09/28(Thu) 20:14:41

【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡

そうだよ・・・・
「ジジイの代の話だ」「俺の爺さんはアルバのソルジャーだった」
アルバこそ必要悪だったアルバなら上手くやってた
ノッテお前たちがバランスを崩した!」


不自然なまでの怒りで声は震えていた。嘲りに、侮りに、謗りに返す言葉は既になく、ただ貴方を黙らせようとするだけ。どうにかして抑えつけようとして、それが出来ずに手段だった暴力が目的化していく。起き上がらないのをいいことに胸元を蹴りつける。反撃がなされないのをいいことに腹を踏み付ける。足りない。
足りない。


秘密というほど隠す意思があるわけではない。
正体というほど裏表があるわけではない。
それでも、男の中にそう呼べるものがあるなら、そこだった。

50年の昔、この国に存在したもうひとつのマフィア。
アルバファミリーの忠犬。
その末裔。


足りない、と踏み込んだ足とともに言葉は吐き出されたのかもしれない。それなら一層、その声は大きく届いたはずだ。
肩で息をした男はそれを聞いて一際大きく吸い込み、唸るような問いを呼気に乗せる。

「法案だと?」
「裏切ったのか? お前」「ノッテ身内を?」
マフィアを名乗っておいて・・・・・・・・・・・・?」

「風上にも置けない……」
(-107) 2023/09/28(Thu) 20:18:20

【人】 路地の花 フィオレ

>>51 ロメオ

「泣かない、泣くわけないわ」
「……ありがとう、ロメオ」

一人だったら、きっとどうにもできなかった。
感情のやり場も、それを発散することも。

大丈夫、これは前を向くための儀式だ。
共犯者と言ってもいい関係のあなたと、背負ったものを分け合うような気持ちで。
これからも、私は間違っていなかったんだと思えるように。

「あなたがいてくれて、よかった」

胸を借りて、優しい声でそうつぶやくのだ。

#BlackAndWhiteMovie
(55) 2023/09/28(Thu) 20:24:32

【秘】 favorire アリーチェ → 花浅葱 エルヴィーノ

>>-57
「あら、あらあら……」

ヒロインかはともかく、の先に、
何か紡がれる言葉があったのだろうと鈍い女でもその意味にはさすがに気付いたようで。
自らの頬に手を添えながら、「エルヴィーノの事を大切に思ってくれる人がいるのね」と微笑む。

「今度よかったら紹介してね」

何て、嬉しそうに笑みを深めて笑う。
のだが、貴方の大切な人はこちらの大切な人の拷問相手と言う有様である。
その事実を知った後に出会うと互いにどうなるか、今は不明なのが恐ろしい。


「あ、あの日は、自分のタイミングの悪さに普段よりも
 落ち込んでいたのもあったりしたからで……
 ……変わった、かなぁ。自分ではいまいちよく
 わからないのだけれど、支えたい人ができたから、かも」

少し照れ臭そうに前髪を指先で弄って、くるり。

「あんなに凄い事をやってのけたのに、朝ごはんの話に
 なると途端に自信なさげになるんだから。
 ん。病院の人の指示をよく聞いて無理なく鍛えてね」
(-108) 2023/09/28(Thu) 20:39:08

【人】 corposant ロメオ

>>55 フィオレ

「そ? ならいいや。
 美人が泣くのは絵になるが心が痛む……」

またぽろぽろ泣き始めてしまうのかと思いきや、
どうやらそうではないらしかった。
ちゃんとマフィアらしいトコあるな、と再認識をする。
内心ほっとしたと同時に、──
全てに報いあれ
と願った。
この因果の先がどうなっていくのか、きっと自分の目にはすべて映るわけじゃあ無いんだろうけれど。

「いくらでもいるさ。なんでもするって言ったろ」

そういう約束なのだし、そういう役目だ。
頭に軽いキスを落として、また背中を擦る。

「落ち着いたら帰るか? 今他の皆はどうなってんだろ」

#BlackAndWhiteMovie
(56) 2023/09/28(Thu) 20:44:47

【独】 歌い続ける カンターミネ

>>-104
「おぁぇ」

そんな間抜けな声が出たのは『努力』を見たからで。
変装の意味がなくなる、慌てて抱きとめるような格好に。
流れる涙にこれまた慌てて、偽造書類を取り落とし、
茶髪のウィッグを揺らしながら辺りを窺う。

「あ、え、エリー、ごめんて、遅れたのは謝るって。巡回ルートの把握と監視カメラの細工に手間取ったの。でもほら、来たから。ちゃんと来たろ?な?後もう車で外出るだけでこの場はクリアだから、な?安心してくれって。あ、あれか!?い、痛かったか!?」

慌てたおかげで勘違いも甚だしく、息つく間もなく
口を動かしながらわたわたと身振り手振り。
それでもなんとか痛くないだろう場所を探し触れ、寄って。

「……え、えっとな、後はもう、偽造書類とかあるし、
 このまま護送車で脱出するだけだから。
 運転手も用意してあるから、手当はそこで――」

ふと、目についた。約束の証がない指。
触れれば当然痛いだろうから、そこには触れないように。
そっと手を取って、ほんの僅か唇を落とす。

「――今はこれで我慢して。生えたらまた、塗らせてよ」

そうして、瞳を目前に。指先で慎重に涙を拭う。
これ以上余計に傷つけないように。
酷な事に、まだやる事は残っている。
まだ止まれない。まだ終わってない。まだ、まだだ。
でも、この一瞬だけでも、安堵を抱かせてやってほしい。
それが、多分俺が任された事だ。あの男から。
(-109) 2023/09/28(Thu) 20:45:29

【秘】 路地の花 フィオレ → 新芽 テオドロ

「何、準備って私のために?」
「これ以上整理なんてしたら、この部屋から物なくなっちゃうわよ」

軽口を叩きつつ。
よいしょ、とまた大荷物をテーブルの上に置いて。
今すぐ食べないであろうデザートは、いくつか冷蔵庫に入れさせてもらって。
空きを聞いてなかったから、入ってよかったと思う。

「まあ警察もあんなことがあった後じゃあね」
「今時間取れてるのが奇跡なくらいじゃない。まだ全然落ち着いてないんでしょ?」

怪我人に手伝わせるわけにはいかないと、最初から自分で準備するつもり満々だったようだ。
テーブルの上に酒と食べ物を並べていく。今日は出来立てのものが多く、料理はまだ温かい。
たまにちらりとあなたの様子を見ては、手、相当ひどいのかななんて気にしたりして。

「狼藉なんて働いたことないでしょ、失礼ね」
「それより、手袋。暑くないの?外せとは言わないけど」

まだ見せたくないんでしょ、と。
物を並べながら、何でもない風に。
それでも顔を見たのなら、ちょっとだけ拗ねてるようにも見えるだろう。
(-110) 2023/09/28(Thu) 20:47:55

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

貴方が距離を取ったのが見える。
頭突きのせいで此方まで脳が揺れたが、誤差だ。

「っつぅ…浅かったか。」

息を切らしながら身を起こして
袖で唇を拭う。

「薬で動けないからって好き勝手にしやがって……
これは立派な犯罪だぞ。分かってんのか?
躍起になって検挙しようとしているマフィアと変わらねえ。
いい加減に無意味だって気付けよ。」

如何に薬そのものがシンプルで副作用がないものだとしても
個人の体に掛かる負担は別問題だ。

少しは落ち着いたが、くらくらするのは変わりない。
しかしこれ以上手を出せば、
今度は抵抗するという意思を見せるだろう。
(-111) 2023/09/28(Thu) 20:49:50

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



別に、名を出したのは揺れることに期待した訳じゃあない。
ただ少し、思うことがあったからこそ告げただけ。
その意図が伝わらないなら結局、そこまでなんだ。

だから、
止まらないというのはまぁ──やはり予想通りの事だった。

刃の冷たさを内に感じた時、
僅かにも跳ねるように震えたのは嘘じゃない。

それもきっと、抵抗への油断を誘うもので。


(-112) 2023/09/28(Thu) 20:55:47

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



人間の歯というのはそれなりに武器になるらしい。
加減もなく噛み付けば、歯が骨にぶつかる音が脳に響く。

しかし、それもほんの一瞬のこと──にするはずだった。
何も噛み切ろうという訳ではないのだ、この男は。
ただ、今の行為を止められるならそれで、良かった。

次の思考をするよりも早く、脳がぐらりと揺らされる。
男のは小さな呻きとともに君の腕から離れ、
今度は抵抗もなく、抵抗する間もなく君ごと床に倒れ込む。

男は、脳が揺れた事は勿論、
倒れた衝撃で右手に走る痛みにまた僅かに呻きを零す。

それは明確な隙だ、
腕を固めることなど容易すぎる隙だった。

痛みには、慣れている。
我慢することなら、いくらだって出来る。

だとして、それが痛くはないという話にはならない。
苦痛に顔を歪める代わりに男が零したのは──。


「………………………ははッ」
 
(-113) 2023/09/28(Thu) 20:56:49
リヴィオは、笑っている。
(a14) 2023/09/28(Thu) 20:57:19

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 口に金貨を ルチアーノ

ゆる、と貴方の方を見た男は
笑みを浮かべて、無事な方の手を挙げて見せた。

「Ciao,ルチアーノ。
このくらい、なんて事ねえよ。
そっちも随分苦労したんじゃないか?」

なんて、軽口を叩く余裕はまだある。
ただ、気怠いし、動けないのは事実。

「ああ、貸してくれ。
どうやって此処から出るか、考えてたところだったんだ。
お前が来るとは、思ってなかったけどな。」

アリーチェやテオドロでなくて良かった、などと。
零しながらも貴方の問いに答えただろう。
(-114) 2023/09/28(Thu) 20:58:01

【独】 Il Ritorno di Ulisse ペネロペ


「マ〜〜〜ジで
ろくでもない事
しやがった、あのクソ親父」

アジトに『カチコミ』が掛けられた後。
仕事用の端末に矢継ぎ早に入る連絡を見て、
猫被りは盛大な溜息を吐いていた。

「はいはいはいはい箝口令箝口令、
 戻ったらまず立て直しからだとは思ってたが
 仕事増えたじゃねえか覚えてろよマジで……」

ぶつくさと言いながら各所へ根回しをしていく。
余計な混乱を広げるなと箝口令を敷く。
この『ろくでもない事』がこれだけで終わるはずもない。

何せ報復を与えられるべき下手人は、
今はすっかりと行方を眩ませてしまったのだから。
(-115) 2023/09/28(Thu) 21:07:50

【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → favorire アリーチェ

>>-108

「…………何も言ってないのに」

言ってはないが言いかけたことが完全に失言だった。
苦虫を噛み潰した幼な顔をして息をつく。
余計なことは言うまいと心に決めて話を聞いてると、支えたい人という単語に、「へぇ」と目を見張った。

「なるほど、前よりずっと綺麗に強くなったわけだ。
 僕らの助けはもう必要なくなるのかな? それはそれで寂しい気もするね」

恋する女は強いものだ。
多分、男よりもずっと強くて、勝算は万に一つもありえない。
これは好かれた男は大変だなと、目を細め。

「まだ重湯くらいしか食べてないけどそれでもキツくてね……」

などと言いながら困った顔をしながらも、心の中ではあなたの幸を祈っていた。
(-116) 2023/09/28(Thu) 21:28:40

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

首がギリギリと、強く強く締め上げられる。
息が出来ない。視界が歪んで、腕を剥がそうと掴む手から力が抜けそうになるのを何とか気力で堪える。
舌打ち一つ、耳に入ったかと思えば。
空気が入り込んでくる。気道が塞がれ続けていたせいで、異物が入ってくるような感覚に咳き込んで。

ガッ!!


それも長くは、許されない。
蹴り飛ばされた体は、砂利の散らばる石畳を勢いづけて転がっていく。
尖った石が肌を傷つけ、白い肌に小さな赤い花を咲かせる。

壁に背中をぶつけ、今度は身体を丸め大きく咳き込んだ。
痛みと、苦しみとで表情は歪んだまま。
あなたの方に、顔を向ける。

「っ、けほ……は、……」

苛立ちを見せるあなたに、女が笑みを浮かべてみせたようにみえたかもしれない。
(-117) 2023/09/28(Thu) 21:50:08

【秘】 リヴィオ → 月桂樹の花 ニコロ



何があっても入院はしたくない。
医者に怒鳴られながらもこの男ははっきりとそう告げた。
友人がもし付き添っていたならば、恐らく、
誰にとっても予想のしやすい表情を浮かべていたはずだ。

それから数日後、あるいは数十日後。
風の噂で君の入院を知った男は、その病室を訪れた。

ガッ。………ガラガラッ!


「……やぁ、
ニコロ
。随分と素敵な装いになっているね。
 君ってやつはあんな場所でも大暴れしていたのかな?」

片腕を吊り片手を包帯で巻かれている男は、
ついでに耳にもガーゼが当てられている。

自分のことは棚に上げ、若干おかしなボリュームで君を煽る。
そんな男の後ろでは、
勢いよく開けられた扉が緩やかに閉まっていくのだが…。

その扉が完全に閉まるよりも前に足を挟んで。

「……さて、満足した。帰ろうかな」

帰ろうとしている。

何をしに来たんだという話だが、
ただ大変そうな君を煽りに来ただけらしい。
これは嘘。…その様子を見に来た、というのが真実だ。
(-118) 2023/09/28(Thu) 21:51:33

【人】 口に金貨を ルチアーノ


日常と言うにはまだ遠いが、それでも多少の落ち着きを取り戻してきた頃。
その日はなんてないただの雨予報の日だった。
灰色の空は水気を含んだ空気を纏って重く沈んだ色をしている。

こつん、わざとらしく靴先で石を蹴った音。
忘れるわけもない。気付いてしまった自分に嫌気がさした。



「Bonsoir.愛しの猫ちゃんルーカス。今日も可愛らしいね」



その声の正体が確信へと変わった瞬間、彼の体はただただ固まって、その顔を見る事しかできなくなっていた。


「なんだ、ご機嫌斜めだね。
 色男になったのでも言われたかったかい?」



散歩でもするように歩いてきた者の名はファヴィオ・ビアンコ。
十年前にルチアーノの上司となり、五年前に行方不明になった男であった。

#ReFantasma
(57) 2023/09/28(Thu) 21:55:13

【人】 口に金貨を ルチアーノ

「見違えたね、随分大きくなって」

「……だんまりか、本当に拗ねているのかい。
 甘えたがりのルーカスは何処に行ってしまったのかな」

「うるさい」

聞きたくない、嫌でもあの日を思い出させるから。
目の前の男に触れられ、愛されて満たされていた日々が蘇ってくる。
失いたくなど無かった、ずっと居なくなって欲しくなかったものだ。


「どうして今更此処にいるんだ」
焦がれて、愛して、忘れられるはずなんてなかった存在が目の前にいる。


男から彼に施していたのは五年間の"教育"だ。
彼が決して逆らわないように、男の前では従順で素直で、常に周りを疑い警戒をし、それこそ男が居なくなれば何もできなくなるような人間になるように。
彼に自覚させることもなく、それが正しいことなのだと教え込ませ続けていた。
それは確かにうまくいっていて、今でさえその事実を彼は自覚することはない。

しかしそれは――未完成に終わっている。


#ReFantasma
(58) 2023/09/28(Thu) 21:58:17

【人】 口に金貨を ルチアーノ


「仕事だよ、言わなかったかな?
 『行ってきます』って。期間を言い忘れていたかもね」

「なんだ寂しかったのか、それなら君が怒るのも仕方ない。
 私が居なくなってから昇進もしたようだし、
 それはうんと働いて一生懸命に頑張ってきたんだろう」


五年前ファヴィオはオルランドに海外のマフィアへ諜報員として潜入する命を受けた。
極秘任務の為に完全に身分を隠さねばならず、同意の下行方不明扱いにされることになる。

そうして雨が降りしきるその日、何も言わずに男は彼の前から姿を消したのだ。



「それでも、漸くひと段落付いた。
 時間はかかったけどボスにも許可は貰っていてね。
 やっと君を連れて行けるようになったんだ」


ああ本当に自分勝手だな、年寄り共は。
俺のことを一体何だと思っているんだ。

初めからそうだった。
死体の前に血塗れで座る子供の俺を連れて行った今のボスも。
そんなガキを兄弟みたいに連れまわして面倒を見た黒眼鏡も。
十年前がらりと変わったファミリーで孤独を埋めてきた男も。

本当に、俺を何だと思って。

#ReFantasma
(59) 2023/09/28(Thu) 21:59:29

【人】 口に金貨を ルチアーノ

「おいで。また昔みたいにしてあげよう」


男は動きがない彼の目の前まで歩んでいけば、流れるような仕草で頭の上に手を置いて髪を梳く。
腰を抱き寄せつつ首元に見えた赤い痕におや、と呟けばくすくすと楽し気に笑って愛で続けた。

「何も考えなくてよくなるよ。沢山頑張って疲れただろう?」

「ファヴィオ、」

反射で男の名前を呼んでしまえばもう止まらない。

「俺は……」

揺れた声は艶を帯びていて、緩やかにそのシャツに手が伸びて。
縋るように服に皴を作れば、甘く誘うように口端が上げられる。

やっと、見つけた。


#ReFantasma
(60) 2023/09/28(Thu) 22:00:59

【魂】 口に金貨を ルチアーノ



「      」
パン。曇天の下、乾いた銃声と金属音が鳴り響いた。

ルチアーノはこの五年間、ずっとファヴィオを殺す為に探してきた。


#ReFantasma
(_3) 2023/09/28(Thu) 22:03:23

【独】 口に金貨を ルチアーノ

分厚いランダムに組まれた繊維が男を貫こうとする弾の威力を分散させた。
鈍い音がする。あばら骨の一本二本は折れただろうか。


「おお痛い痛い、飼い猫に手を引っ掻かれた気分だ。
 やれ、随分とやんちゃになって…昔とまた違う魅力を感じてしまうなぁ。
 ふふ、これ以上君のことを好きにさせて、一体どうしてくれるんだい?
 なんてね。私も命は惜しい、と言うより死んではいけない」

「舌噛んで死ぬぞお。もう一発受けるか」

「世界の宝を壊す権利を愛しの君に渡したいのは山々だが、
 愛より優先しなければならない使命が私にはあってね」

「いやぁ、すまないな、私が色男なばっかりに
 君を首ったけにさせてしまって」

「どっちが。あんたが俺を欲しがってるんだろう。
 甘えんな、俺に甘えていいのは犬と猫だけだ」

ルチアーノ・ガッティ・マンチーニは謔笑を送り。
ファヴィオ・ビアンコは巧みに咲い返した。


「私が必要なくなったら、いつでも捨ててしまいなさい。
 とは言えいつかに私が愛を最も優先してよくなった時、
 君がどこぞに落ちていたなら拾ってやるさ。
 安心して捨ててくれていい」


「そんなところかな。それではね、A bientôt〜!」


#ReFantasma
(-119) 2023/09/28(Thu) 22:04:06

【独】 口に金貨を ルチアーノ

立ち去る男の背を彼はもう追うことはしなかった。

「……」
「結局、置いていくんだよなあんたも」

俺のことを信じているくせに。
俺が信じているのを知っているくせに。

「……動けんー……」

しゃがみ込んで、新しい酸素を吸う。
誰かが銃声に気づいて来てしまうだろうか。
それでも暫くは足は動いてくれないから。



『すまんな、こんな時間に。
 今から言う住所のところに車乗ってきてくれえ。
 今日は部下連れてこれなかったんだ』


いつも通りの声で、何を返す間もなく。
最後に場所を告げれば、ぷつり、電話を切った。
#ReFantasma
(-120) 2023/09/28(Thu) 22:06:35

【独】 Commedia ダヴィード

隠れ家に着いてから少々乱暴に消毒を受け、熱を持った痣には湿布を当てられ。
男はカウチに体を投げ出してうとうとと眠っていた。
丸一日追われていた精神的疲労と、単純な肉体的疲労によるものだ。

「通知うるさッ ……切ろっかな」

本来は許されないであろう行為だが、今日は『お祭り』なのだ。
横になったまま端末を操作し、もう一度惰眠を貪る前にざっと目を通して。
――脳が動作を停止した。

アレッサンドロによるアジトの襲撃。負傷者。爆発。失踪。

ばん!
と大きな音を立てて、端末を壁に放り投げる。

俺は今、何か、とても怖いもの・・・・・・・を見なかったか?
無意識に抑えた口が、体が、震えていた。

喉から音が出てこない。寝ている間にぐしゃぐしゃになったブランケットを痛いほどに握りしめて、被って、目を瞑って――

男はもう一度、夢のない眠りへと落ちていった。
(-121) 2023/09/28(Thu) 22:13:34

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

「犯罪者がまともぶる・・なよ。」

たたん。靴底の音。

「躍起にならざるを得ないだろう。何度同じ説明をさせる。」

たたん。苛立ちの音。

「強引にでもしなければ後手に回る。」
「お前たちは嘘と隠し事だけは上手いからな。」

たたん。たん。
鳴らしながら貴方の様子を伺う。ふらついている。警戒している。
けれど難しい相手ではないな、と思った。それは半分事実であって、半分は状況も含めての侮りだ。
息を吐く。溜息のようだったろう。貴方への哀れみだ。

「自白剤がなかったのは不運でしたね。」
「続けます。座ってください。」

取った距離を一歩で詰めて、足首目掛けて蹴りが飛ぶ。
(-122) 2023/09/28(Thu) 22:13:47

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → リヴィオ

「んっ!?リヴィ、来てくれたのk…いやいやいや。
お前も大概えらい事になってねえか!?!?


来てくれた貴方に目を瞬かせて。
嬉しそうにしたのだけれど、一瞬で心配する表情に変わる。
自分もそれなりの怪我だが、貴方も相当酷く見えたから。

「ちょ、待てって!
折角来たんだから話していったって良いだr…
うおっ!?


貴方が足を挟んで、帰るか、なんていうものだから。
止めようと反射的に身を乗り出して
ベッドから落ちそうになっているだろう。

ガタン!とベッドが揺れてけたたましい音が鳴る。
(-123) 2023/09/28(Thu) 22:20:27

【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ

入院して1周間くらい経った頃だろうか。
流石に寝るのにも飽きた男は、こっそり点滴を抜いて外に出た。
片腕が全く動かない上、肩から胴までギブスでガチガチに固められた状態では、着替えるのがほぼほぼ不可能なため、入院着にカーディガンを羽織っただけだ。
担当のナースに見つかれば間違いなく、青い顔をされた上で怒られるに違いない。

夢の中で名前を呼ばれた気がずっとしていたし、
悪夢を見続けるのにも飽きてしまって、外の空気に触れたいと……そう、思ったから。
病院の庭を散歩するくらいは許されたい。

「いたた……でも流石に早かったかな……」

点滴には痛み止めも含まれてるのだから、抜けば痛みが戻ってくるのは当然の話しだろう。
(-124) 2023/09/28(Thu) 22:38:37