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【人】 鬼 紅鉄坊──秋── すまないな、千 [ 今年の秋は冷えが酷く、山にも目に見えて実りが少ない。 それは外の世界も同じことらしく、余所の妖怪が攻めてきた。 決して外に出ないように言い残し赴いた戦いは鬼の勝利に終わるが、 潜んでいた一体の死角を狙った奇襲により片腕に深傷を負い、 今こうして手当を受けている。 片目の鬼が棲まうことは、今や山を狙う余所者に有名らしい。 ] (6) 2021/06/26(Sat) 3:38:34 |
【人】 鬼 紅鉄坊情けないところを見せてしまった だが、お前に何事も無く終わらせることが出来て何よりだ [ 漸く落ち着ける場に戻り傍に千がいるというのに、 無事を喜ぶ言葉と裏腹に鬼の様子は暗いまま。 数多の憂いがその胸にはあった。 弱みを襲撃者に知られている現状は勿論のこと 内の一つは、ここ最近にあった出来事。] (7) 2021/06/26(Sat) 3:39:41 |
【人】 鬼 紅鉄坊……これからも、私が何度でも守ろう [ ある日、寺の門前まで尋ねてきた村人がこう言った。 ──「未だ、千は生きているのですか」 今や枯れ落ち始めた緑が深まる前から、毎日のように連れ出した。 山に入ることを許可されている村人は、見掛けてもおかしくない。 明らかに、思うことがある様子だった。]** (8) 2021/06/26(Sat) 3:40:33 |
【赤】 鬼 紅鉄坊── 或る日の丑三つに ── 「だから言ったのさ」 「誰かに拾われたくないものは、落としちゃいかん」 「お前さんもあの子も、離れるには絆され過ぎたな」 ……返す言葉もありません [ 責めるでも慰めるでもない、窘めるような言葉。 今となってはあの時の意味も分かる。 従順な答えを返す一方、心地悪さを隠せない。 ] (*1) 2021/06/26(Sat) 21:29:49 |
【赤】 鬼 紅鉄坊「万事上手く収まり喜ばしいと言ってやりたいところだが……」 「気づいているな、紅鉄や。この山は痩せ細る一方だ」 ──やはり、もう? [ 何処か子を見守るような暖かさを含んでいた声は、 一度押し黙った後に、固いものへと変わった。 狩りを行う身には、山の変化は肌に感じる程身近なもの。 他の同胞とてそうだろう。 鬼は人であれ獣であれ他の生き物の血肉を糧とする存在。 細る実りは決して無関係ではないのだ。 故に驚きを見せることはないが、 この男から直接語られるという深刻さには、息を呑む。 ] (*2) 2021/06/26(Sat) 21:30:05 |
【赤】 鬼 紅鉄坊「村一つと餓鬼共を抱えて、これでも保ったほうだとも」 「一先ずは春を迎えるまで、そこから苦しくなってこよう」 [ ふと男が目線を投げた先で茂みが鳴り、何かが遠のいていく。 何らかの小型の獣が逃げていったようだ。 この山に肉食の大型動物はいない、とうに鬼たちに食い尽くされた。 しかしこうして意識せず残る生き物と遭遇することも、 年々少なくなってきている。 ] (*3) 2021/06/26(Sat) 21:30:21 |
【赤】 鬼 紅鉄坊「お前が結ばせた約束も、あとどれ程続けられるのか」 「あれにはお前の我らと人間への想いが、よく表れている」 「だが────非常に歪だ」 [ 男は──鬼の山の主は、色素の薄い瞳で紅鉄坊を見据える。 静かでありながら、強く射抜くような力がそこには感じられた。 ] (*4) 2021/06/26(Sat) 21:30:42 |
【赤】 鬼 紅鉄坊「山もお前も、変わってしまった」 「選ばねばならなくなるぞ、覚悟をしておけ」 ……肝に命じておきます [ 心中の揺らぎを見せることはなく、膝を付き深く頭を垂れた。 ]* (*5) 2021/06/26(Sat) 21:31:01 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ その行いが既に約束の対価であるのだから、 労いを欲したことは今まで無かった。 しかし、千に向けられる言葉と表情には>>9 何処か救われるような感覚が、確かにある。 言葉少なく受けとめて、静かに頷いた。] ……ああ [ 腕の傷に懸命に布を巻いていく花嫁 その肩を通り背に流れる白はもう無い。 幽閉されていようと元は育ちの良かった人の子 自分でしたことはないのだろうと、 器用ではない腕で慣れない道具での断髪を請け負った。 しかし、首や耳を切ってしまったらと思うとなんとも恐ろしく すっきりと短髪にはしてやれなかったものの、 ここ最近は寒がっていたのでそれで良かったのか。 ] (18) 2021/06/26(Sat) 23:51:27 |
【人】 鬼 紅鉄坊ところで、千…… その格好、外に出ようとしていたのか [ 顔が離れた後か、ふと眉を顰め指摘する。 見慣れぬ洋装は鬼にはどこか奇妙にも映ったが、 千には不思議と似合っていて、素直に褒めた記憶。>>11 それが家の中で纏う為のものではないことも覚えている。 ] 人間の賊にすらお前では危うい。馬鹿なことは考えないでくれ 次に同じことがあっても堪えろ、いいな? 大丈夫だ 私が死んでしまったのなら、伝えに来る者が必ずいるから [ 他の同胞同様に人間の前には極力出たがらないあの男とは、 未だに会わせたことはないけれど。 かつては人間たちの事情に首を突っ込むことを咎めながら、 千とのことには色々と気に掛けてくれている。 ] (21) 2021/06/26(Sat) 23:52:40 |
【人】 鬼 紅鉄坊あくまで可能性の話だ そうならないように、私は必ず尽力する [ 付け加える言葉、相手にそれでも気にした様子があれば 傷の無い腕を伸ばし、いつかのように髪を撫でるだろう。 ]** (22) 2021/06/26(Sat) 23:52:58 |
【人】 鬼 紅鉄坊布程度で何かが変わるような攻撃では この身体に傷一つ付けられないな お前は沢山着込んでおくといい 山で迎える冬は、牢の中とはまた違う辛さがあるだろう [ 向かい合う両者の種の違い。その言葉に頷く。>>27 紡いだのは驕りではなく経験だ、 鬼はこの山で長らく人ならざる者たちと戦ってきたのだから。 ] 私が私として意識を持った時点から、 左目は開かず身体もこの状態だった だから、痛みはないが理由も分からない [ その時から廃寺に棲んでいると語る鬼に、 なぞる五つ指が変化を齎すことはない。 その動きを目で追いつつしたいようにさせ、話を続ける。 ] (29) 2021/06/28(Mon) 4:25:57 |
【赤】 鬼 紅鉄坊つまるところ、人間であった頃に何かがあったのだろうな 同胞は皆、多かれ少なかれ記憶があるのだが ……私は殆ど覚えていない それが皆と心の在り方が違う理由だと、かつてあの方は仰った [ 腕を組み過去を噛み締めるように頷いた後、 あの方とは自分を世話し、名前をくれた古株の鬼のことだと語る。 幾度かその存在については話をしたことはあった筈だ。 ] (*7) 2021/06/28(Mon) 4:26:20 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ 鬼はその時失念していた。 本当に教えるべきことは別の部分にあると、気づかなかった。 己が結んだ約束により、 百数十年間人間はとても近しい存在となっていた。 あまりにも自然に長く、当たり前のように共に生きていた為に 存在の成り立ちについて改めて思うことなど無かったのだ。 相手の人の子が知っているのか、 既知であるのならば何を思うかなど考えもしなかった。 果たしてこの花嫁は知っていただろうか? ──鬼とは、怨みを抱き死んだ人間の成れの果てであると。 ] (*8) 2021/06/28(Mon) 4:26:39 |
【人】 鬼 紅鉄坊負ったのが此の寺ではないことだけは、確かだろうな [ 鬼の記憶の古くにある廃寺は、 今よりは朽ちていなく、焼け跡などでも無かったのだから。 ] 気になるものか、伴侶の過去は [ 問う声は、少しばかり他人事じみていた。 靄よりも薄く掴めず、実感の湧かない過去。 それが必ずあったものだとしても、自分のものとは思えずに。 決して穏やかではなかった生活に追われ生きれば、 探ろうと思い至ることはなかった。 ]** (30) 2021/06/28(Mon) 4:27:08 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ 今も千の部屋にあるだろう歴史の書物は 村の出身者により書かれたものである。 この国の歴史に加え、近隣の地域や村についても書かれている。 ] (*11) 2021/06/28(Mon) 7:37:49 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ ある年の大凶作から始まった過激な打毀も、 喰われ続けた村が最初に捧げた生け贄のことも。 非常に村にとって都合の悪い内容のそれは、 幾つかの権力ある家を回り隠され、 いつか移り住んできた豪商の家にやがて辿り着く。 ] (*12) 2021/06/28(Mon) 7:38:11 |
【赤】 紅鉄坊── 陰の歴史 ── [ 始まりは、著しい天候不順による大凶作。 そこに幾つかの災害が重なり、耕地へ莫大な被害を呼んだ。 米価の高騰の抗議として、それは始まる。 その打毀では従来のような統制は崩れ、 暴力的な様相を呈した有様は既に略奪と呼ぶべきものとなり まるで小規模な戦火の如く広がっていく。 そして、ある町で豪商の店が火に呑まれた。 一人の手代が右半身に大火傷を負いながら生き延びるも 奉公先を失った男は、町から消えることとなる。 ] (*13) 2021/06/28(Mon) 7:38:44 |
【赤】 紅鉄坊[ 元より身寄りのない男だった。 主人はそんな男に随分と良くしてくれた、善良な人間だった。 未だ少年であった頃、 育ち故に他人に手酷く当たられた経験もある男に 心は誰かを恨む為ではなく感謝し慈しむ為にあるのだと、 優しく言い聞かせてくれた。 凶行が幕府の耳に届き、厳しい弾圧が行われても それはもう、男にとってどうでもよかった。 まるで無法者のような姿に成り果て、ある山で行き倒れるも その山にある寺の僧に助けられることとなる。 ] (*14) 2021/06/28(Mon) 7:39:40 |
【赤】 紅鉄坊[ 僧は哀れむでも蔑むでもなく ただただ善意のままに介抱し、その命を救う。 何があったのか聞いた後、共に暮らすことを提案した。 男にとっても余所者として差別されながら村で暮らすよりも、 僧と静かに過ごすほうがずっと良かった。 しかし約束など存在しない時代。 そう時間は経たず、此処が鬼の山であることを男は知る。 恩人に対して、山を下ることを当然に求めるが 僧は首を横に振り、役目があると答える。 哀れな者たちの為にここで経を唱えるのだと言う。 それは獣の如く追い立てられ喰われた人間たちでもあり、 異形になり果てる程怨嗟に塗れ死んだ鬼たちのことでもある。 数多の鬼が山に棲まうのは、 それ程業の深い村であるということであった。 ] (*15) 2021/06/28(Mon) 7:39:55 |
【赤】 紅鉄坊[ ならばこのような呪われた地そのものを捨てるべきだと食い下がり、 そして、あなたはただ一人恐ろしい山の近くに置かれ その行いを助けもしない村人を恨んでないのかと、男は問い掛ける。 結果として、男は説得に失敗した。 恨みではなく慈しみを持ち真の祈りを捧げる者がいなければ、 彼らは救われないのだと、僧は言ったからだ。 既に喪った者の面影が、そこにはあった。 二人を覆わんとする不穏があろうと、男はもう頷くしかなかった。 ] (*16) 2021/06/28(Mon) 7:40:42 |
【赤】 紅鉄坊[ 此処は境を越えた隣。 打毀を起こした要因はこの土地にも影響を及ぼしていた。 土地が細れば実りが細る、実りが細れば獣が消える。 ただでさえ食うにも困る状態で、 村の外との行き来もままならず、喰われていく村人。 困り果てた人間たちはやがて、 年老いた僧と余所者の男を差し出してしまった。 あの二人だけは喰らって構わないから、 どうかこれ以上村人を喰らわないで下さい。 存分に好きなだけ喰らっている鬼に対し、 無意味に思えることに賭けるしかない程、村は逼迫していた。 ] (*17) 2021/06/28(Mon) 7:41:54 |
【赤】 紅鉄坊[ 村人には悪意の代わり、相応の事情があった。 二人が憎かったのではなく、大切な者たちを皆選びたくなかっただけ。 だが、村人にとって男の過去など知らぬものなように、 男にとっても彼らの想いなど関係なかった。 ] (*18) 2021/06/28(Mon) 7:42:11 |
【赤】 紅鉄坊[ 男が最後に見た光景は、恩人の死に顔であった。 抵抗した際に左目を失い、 半分の視界で尽き果てるまで見続けた残酷なもの。 如何なる理由で差し出されようと、化生となるには充分であろう。 ] (*19) 2021/06/28(Mon) 7:42:29 |
【赤】 紅鉄坊[ 口惜しい、恨めしい。 されど主人も恩人も、恨むなと男に言う。 故に、──── 鬼は記憶を捨て去ることで、怨嗟を忘れ生まれたのだ。 ] (*20) 2021/06/28(Mon) 7:42:44 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ 空洞の中に唯一つ残った、 誰かを守りたい 守りたかった 村と同胞の間で約束を結ばせる為、立ち上がらせる。 ]* (*21) 2021/06/28(Mon) 7:43:41 |
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