【人】 豊里[飲み終わったラムネ瓶を店へと返し、 引き続き出店を見て回っていると、射的を見つけた。 景品へと目を向けると、掌に乗る大きさの小さな日本人形が。 桜色の着物を纏い、優美に佇んでいる。] これを自分へのお土産にしよう。 親父さん、一回やらせてくれないか。 [射的は得意なので、もうすっかり取れた気で云うと、 コルク玉を五つと、銃を出してくれた。 しっかり狙いを定めて、まずは一回目。 ……外してしまった。] まずいな。 命中してもあれは一発では落ちない。 [見た目から算出した大体の重さを考えると、 何度か当てなければ落ちないものだと思われた。 仕方ない。 本気を出すか……と、真希奈はゴーグルを外した。] (30) 2022/04/12(Tue) 20:11:57 |
【人】 豊里[真希奈の家は、代々銃を作る銃工の家系だった。 幼い頃から工房で育ち、 銃作りの技術や知識を叩きこまれて成長した。 弟がいるけれど、家を継ぐのは真希奈かもしれない。 名匠の器だなんて、持て囃されたこともあった。 ある時、工房に一人の青年がやってきた。 当時の真希奈よりも年若い、 何処か少年らしさを残した青年は、 真希奈の作った銃が暴発したせいで、 兄が大怪我を負ってしまったと訴えた。 後で調べた所によると、 族を追っていた自警団の青年が、 捕えようと揉み合ったことで 銃が暴発して起きた事件で、 銃を作った真希奈には一切過失はなかった。 きっと、大事な兄が負傷して、 いてもたってもいられなかったのだろう。 逆恨みであることを薄々気づいていたけれど、 その場にあった銃を真希奈の左目につきつけて、 「人非人」 と吐き捨てるように云ったのだ。] (31) 2022/04/12(Tue) 20:15:06 |
【人】 豊里[それ以来、すっかり心が折れてしまい。 銃を作る事が出来なくなった。 父も流石にこんな危険な目に遭った以上仕方ないと、 真希奈に仕事を強いることはしなかった。 幼い頃から、機械に囲まれて生きてきた。 其れ以外の色々を知らない真希奈は、 結局作る物を変えただけで、作ることは止められなかった。 憎しみを生まず、人に愛されるもの。 自動人形が其れだと思い、人形作りに没頭した。 真希奈のゴーグルには、防弾硝子が嵌められている。 あの時の恐怖は殆ど薄れて消えているけれど、 その間ずっとつけていたせいで、 外すと落ち着かなくなってしまった。] (33) 2022/04/12(Tue) 20:18:28 |
【人】 豊里[何年かぶりに外でゴーグルを外したので、やはり眩しい。 とは云え、ゴーグルをつけたままでは邪魔なので、 暫し目を瞬いて光に目を慣らす。銃を構えた。 集中して、連続で玉を当てた。 動かない的相手なら、何度も実弾だが試し撃ちしてきた。 最後の一発が見事頭に当たり、人形は棚から落ちる。] やった!旅の思い出が一つ形になった。 [ご機嫌で、人形を布に包んでトランクに入れた。 隣の店で敷物が売っていたので、それも購入した。 お昼に食べようと思い、塩焼きそばと苺大福も購入。 昨日、職人街でお薦めされた舞を見ようと、 聞いていた櫻の大木を目指した。**] (34) 2022/04/12(Tue) 20:20:42 |
【人】 豊里[話に聞いていた場所に向かってみると、 人垣の先に大きな櫻。 そして其の下で舞う狐面の男が見えた。>>13 もう始まってしまっていたが、始まったばかりの様だった。 人垣の頭と頭の間から、顔を覗かせて其の姿に見入った。 音を鳴らすのは鈴のみで、お囃子などはないけれど。 でもそれが却って神秘的に思えた。 狩衣の袖がふわりと揺れて、扇が空を切る。 桜の花びらは、舞い手に追従するように踊った。 リン…… 最後に鈴が一つ鳴ると、舞は終わった。 拍子をとっていた見物人の手が、拍手を送る。 真希奈は圧倒されつつも、手を叩いた。 どのような歴史がある舞か、 残念ながら真希奈は知らないけれど、 お薦めして貰って、見ることが出来て良かったと思う。 技術は新しいものに、どんどん上書きされてしまうけれど、 美しさは決して色褪せない。 ずっと大切にされていくものだから。**] (37) 2022/04/12(Tue) 21:32:49 |
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