【人】 隻影 ヴェレス母が故郷の神々を想って付けた名よりも、 父がくれた祖先の名を気に入っていた。 それが叡智の為、自ら実験に身を捧げて死んだ 狂信的な研究者の名前だと知らなければ。 膨大な図書の中に埋もれた目録からその項目を 見つける事がなければ、運命は違っていたのか。 (49) 2022/11/08(Tue) 3:49:30 |
【人】 隻影 ヴェレス幼い頃は憧れだった、顔を合わせる事の無い父。 疑念が一つ増えたところで直接尋ねればいいと。 その為に学星院に加わって登り詰めればいいと。 ただその一心で、どれだけの分野を学んだのだろう。 生傷の絶えないこんな身体 では通学など出来ないから、出入りを許された図書館の蔵書を幾つも漁ったものだ。 兄ばかりが学会で持て囃されるようになり、 「病弱な弟に捧げる発明」という新聞の見出しを見た時 疑念は二つに増えた。 (50) 2022/11/08(Tue) 3:49:50 |
【人】 隻影 ヴェレス何度傷付けられても、血を流しても、 いずれ痛覚すら遠のいて大切なものを失くしても、 それが父に必要なものだと信じ続けた。 信じていたのに、調べずにはいられなかった。 突き止めてしまった、秘匿された計画の一部。 あなた方が⬛︎を殺し、それに成り代わるための。 私にひた隠しにして来た計画の中に私は居ない。 なのに、何も知らない儘に保護され 狂う事さえ赦されないなど。 私達を傷付けて剥ぎ取り、生み出した資金の使い道が 余所者を招き入れてこの島を実験台に変える 摂理に逆らった試みだと知ってしまえば。 疑念は、……疑念は、もはや…………嗚呼。 (51) 2022/11/08(Tue) 3:50:09 |
【人】 隻影 ヴェレス諢帙@縺ヲ諢帙@縺ヲ諢帙@縺ヲ諢帙@縺ヲ 「ヴェレス様、ああ」 迥ッ繧キ繧ソ繧、迥ッ繧キ繧ソ繧、迥ッ繧キ繧ソ繧、迥ッ繧キ繧ソ繧、 「此方に居らしたのですか」 郢九′縺」縺ヲ郢九′縺」縺ヲ郢九′縺」縺ヲ郢九′縺」縺ヲ [階段を覚束なく降りて来る使用人の面々。 彼等もまた、あえて若く未熟な個体として選ばれ、 魔人の特性を研究する為に投入された憐れなる命。 渦を巻く、渦を巻く、呼び起こされた思惑。 誰もが理性で縛り付けて来た本音。 封じながら、良心を果てもなく傷付けられながら 命令を遵守し少年の肉体を損ない続けてきた。] (52) 2022/11/08(Tue) 3:50:32 |
【人】 隻影 ヴェレス其処に憐れみはない。怒りもない。 軽蔑も、嫌悪も、惜別も、憂鬱も、ありはしない。 ただ私は、父上と同じやり方で。 手段を問わずにあなた方の罪をなぞるだろう。 そして全てを███にするのだ。 ────あの人を舞台装置のとして死なせたように。 本当に死にそうなほど辛かったけどね。 (53) 2022/11/08(Tue) 3:51:13 |
【人】 隻影 ヴェレス虚弱で外を出歩けない次男坊とは 偽り である。名誉ある研究助手としての未来は 嘯き である。無気力で籠の鳥じみた少年の姿は 欺き である。おまえたちには日頃から感謝していたよ。 (何もかも無価値だったと気付かせてくれてありがとう) (54) 2022/11/08(Tue) 3:51:34 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス おいで。最後に一曲、踊ってあげよう──── [幕を上げろ。慟哭のワルツを鳴らし、擾乱で彩り、 人生の終末、一夜限りの狂気を永遠の一秒へ。] (55) 2022/11/08(Tue) 3:52:11 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス我先にと、折れたパンプスで階段を駆け下りる女。 よろこびと、焦燥と、手に汗握るほどの感動に 今にも息が上がって死んでしまいそうな。 その手を取って、くるくるとステップを踏む。 螺子が外れるまで、歯車が止まるまで、 あなたが人生の絶頂において死を迎えるまで。 「ああ、ゆめのよう」 𑁍 * .゚ 私は感涙さえする彼女の頬へ呪布越しの接吻を贈る。 首に回した腕を引けば、柔らかい首の皮が断ち切れて 忽ち、それが今際の言葉となる。 膂力を失った肉体が足元に転がり、物と化す。 宛ら花のひとつが散るように。 (56) 2022/11/08(Tue) 3:52:30 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス 歌姫として期待されていた魔人の女 劇場の没落により学星院に買われる その最期は甘い声で囀り地に臥した 若くして故郷を失った逞しい獣人の男 庭木の手入れが密かな趣味でもあった 囁いてやれば二重の意味で「果てた」 下流階級家庭の長子だった地人の女 魅了に弱く好意を隠せていなかった 慄いて舞踏と呼べるものでなかった お前たちは記録であり手段に過ぎない。 それも本当に些細な脇役としての。 私はお前たちの価値を否定する。 摂理に反した実験を禁忌の儘にする為に。 (57) 2022/11/08(Tue) 3:52:42 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[出自も種族も異なる七人のモルモット。 常日頃から魅了性にあてられていながらも 業務を徹底していた彼等でさえ、衝動を孕んでいる。 耐え難きに耐えし日々も全てが無に帰す。 学星院は彼等の生活を、名誉を、意義を焼いたが 今日この日、与えられた地位さえ無意味になった。] ( 滑稽だと思わないか ) ✟ ♱ ✛ ✚ ✞ ✥ ✢ ( 狂ってもなお、私の言葉に操られるなんて ) (58) 2022/11/08(Tue) 3:53:08 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[血に濡れたナイフを携えたまま、 少年は他に誰も居なくなった大広間を一瞥する。 喉を、頸を掻き切られ血の海に沈む幾つもの屍体。 結界は窓と共に破られ、何もかもが狂い果てた。 それでも仕事はまだ残っている。 最後の仕上げをしなくてはならなかった。] (59) 2022/11/08(Tue) 3:53:26 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[────同刻、ブランドンは思わず息を飲む。 ・・・・・・・ 名状し難い景色の中、子息が何かを叫んでいる。 魔導レンズの先で唇の動きが見て取れる。] 「 ……よもや、だ。予想していなかった。 それはお前が取る選択では無かった筈。 動機がなければ、効果も不明だ。 これまでになく、度し難い──── 」 (60) 2022/11/08(Tue) 3:53:53 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[ごう、ごう、と音を立てて炎が立ち昇る。 庭木の白樺から植込みへ、そこから屋敷の壁へ。 枠組に着火した建築物は最早、狂気に飲まれた街では 全焼するのをただ待つだけ。 少年は遠くの空を見る。 黒煙と呪香に霞む、堆き学星院の塔に向かって 返り血を浴びた手を振っている。 もう片方の手に、母親の肖像画を抱えて。 そして口元に巻かれた赤い布を自ら解くと────] (61) 2022/11/08(Tue) 3:54:06 |
【人】 碧き叡智 ヴェレスお前たちは叡智の代償に、教えを破り神を殺した。 罰などないと自らの行いで証明してしまったのだ。 だからこれは一身上の都合による制裁だ。 我々を資金繰りの為の道具として保護するのなら、 そんなものは願い下げだ。 私は私の手で、お前達の全てを台無しにする。 「 僕がやった! 」 嗚呼、だからね──── 本当は神に救いを求めちゃいなかったんだ。 救えるものなら救ってみせろよ。もっと早く。 僕は親殺しで、母は台本の為に殺された。 それ以上でもそれ以下でもないよ。 どんな宗教でも親殺しは重罪だったろう? だから、君らの神様方の裁きが「本当に」降りるなら 僕は地獄に堕ちるだろうね、って。 (62) 2022/11/08(Tue) 3:54:34 |
【人】 碧き叡智 ヴェレスこの歪んだ命でさえも蒐集品だと云うのなら この 苦悩 を証明する権利も手段も無いのなら最早あなた方に遣わせるものなど存在しない。 全て台無しにしてしまいたかった。 学星院に抱いてきた自らの疑念を人々に植え替え、 今日この日まで牙を隠して居続けるには 全ての人に同情される必要があった。 本当の哀しみでなくては意味がなかった。 (63) 2022/11/08(Tue) 3:54:49 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス学星院だけが被害を免れた暴動。 無惨にも襲撃され、使用人が死に絶えた別邸。 最後に見付かる、私の亡骸。 そして早すぎる母の死と、それらを 世間の人々が結び付けるのに時間はかからない。 このまま滅びるか、存続したとしても 立つ瀬を無くすかのどちらでしかないだろう。 私を嫡子だと広めた見栄と建前が仇になったな。 さあ、後は………… 「次はもっと重要なものを奪ってやる」 何もかも壊して己ごと終わらせてしまいたい衝動と 普段通りの明日と少しの平穏を望む想いが 矛盾せず両立するなんて皮肉だね。 父に裏切られた絶望からなる全てへの悪意も、 大切な友人と過ごして与えられる安らぎも 僕にとってはどちらも真実だった。 ……そのどちらも選び取る手段が、 どうして一つしか思い浮かばないんだろう。 (64) 2022/11/08(Tue) 3:55:11 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[再び呪布の結び目をきつく締め直し、 少年は燃え盛る生家を後にする。 肩から提げた普段使いの鞄に入っているのは 彼が副葬品として選んだ品の数々。 父の眼前で果てるまでの片道切符に等しい物資、 母の形見、愛用の写真機、心許ない武器、 ……そして“幸福”或いは“未来”を願った幾つかの写真。 望まない儘に生み出され、地位を着せられた。 そしてこの結末に辿り着くまでに抱いてきた感情は どれだけ歪んでいたとしても真実に変わりなく。*] (65) 2022/11/08(Tue) 3:55:26 |
碧き叡智 ヴェレスは、メモを貼った。 (a13) 2022/11/08(Tue) 4:16:06 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[燃える、燃え行く、二十余年の記録。 彼は知った、故に物証に意味はなく。 彼は去った、故に発明に意義はない。 炎の立てる音、建材の崩れる音。 灰と化す調度品の数々、過ごした時間、 何度没収されようと密かに組み上げて来た魔道具たち、 幾度となく読み返した書物、擦り切れたペン、 母が編んだ衣服、「兄」と交わした手紙。そして。 取り残された肖像画、その柔らかな瞳が 愛する我が子の罪を見据え、見届け、燃え尽きる迄。] (69) 2022/11/08(Tue) 7:52:50 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[それは奇しくも、若き日のブランドンが 密やかに暮らしていた宝石の魔人の集落を焼き、 最も美しく無知だった女を連れ去った日の光景と 何処までも告示していた。 ────老いた男は溜息を吐く。 それですら少年の仕草とよく似ている。] (70) 2022/11/08(Tue) 7:53:03 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[一片の情も無かったのなら、 初めから人権を与える事もしなかった。 我が子であろうと家畜の様に育てた事だろう。 何処からが過ちだったかなど、遡れど限がない。 唯一分かっている事は、人間のエゴが引き起こしたこと。 魔人達の信仰心を根こそぎ折り砕き、神を殺した。 研究に従わない者は心臓の石を奪い、滅ぼした。 その過程を記し、最後の生き残りを連れ去り、 合の子を産ませた挙句、生殖能力を奪う事で 無知だった女の、世界の全てを掌握した。 己の罪と向き合うのは恐ろしかったが、 それ以上に、我が子が成長する程に 知性、感性、その全てにおいて 想定外の変化を重ねるのが不穏でしかなかった。] (71) 2022/11/08(Tue) 7:53:20 |
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