情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
【人】 夏越[そう、これは本当に在り来りな話。 一人の男が恋をして、 だけれど彼は心の内を声に出す勇気が無くて、 代わりに─────とんでもないことだけれど たった一人愛する人に拳を向けることにした。 わかってほしい。 どうか、この孤独を埋めて欲しい。 どうか、僕の傍を去らないで。 そんな気持ちを不機嫌なため息に、 壁に投げつけたマグカップに、 夢に向かってひたむきに歩き続ける、 最愛の妻の顔へと振り下ろす拳に載せる。] (1) 2021/10/27(Wed) 23:01:36 |
【人】 ろぼ先生 夏越 ー 夢の途中 ー [小さなちゃぶ台の上で男は身をかがめながら モニターとにらめっこをしている。 なにせモニターの画面いっぱいに、 桃農家のご夫婦と息子さん、 自治会長のおじいちゃんや小学生、 思い出溢れる顔が並んでいるのだ。 遠く離れた場所にいても 向こうで過ごした時間や結んだ絆は消えない。 桃農家さんとの月一のテレビ通話の時間に 変わらず顔を出してくれる、“僕”の大事な人達。] あ、健太くん怪我治ったんだ! ……ふふ、良かった。入院生活は? え、病院にお化け?あはは…… ……え?先生のビームで退治? 出ないってば!もー! [他愛のない話に花を咲かせて笑う このひとときが大好きだ。] (3) 2021/10/27(Wed) 23:17:39 |
【人】 ろぼ先生 夏越[彼らと過ごしたのは“僕”だ。 よく似た「彼」じゃない。 画面に向かってけらけら笑ったり、話を聞いたり。 しばらくそうして過ごしたなら、 男はモニターの電源を落として深く息をつく。 傍らにあるコーヒーの入ったマグカップに口付けて。] (4) 2021/10/27(Wed) 23:25:47 |
【人】 ろぼ先生 夏越[そういえば、もうそろそろ自分用のマグがほしい。 「お客さん用」じゃないやつ。 男はそう考える。 急いで山梨から出てきてしまったから 慌ただしい日々の中ですっかり忘れてしまってた。 清華にデートのおねだりをしてもいいのかな。 “僕”のマグカップがもう一度欲しいんだ、って。]* (5) 2021/10/27(Wed) 23:31:56 |
【人】 春野 清華これは、ありきたりな話。 きっと、ごく普通に、ありふれた話。 愛した人と、噛み合わなかっただけ。 うまく、いかなかっただけ。 誰も悪くない。わたしも、悪くない。 彼も、悪くない。 ただ、それだけの話。 (6) 2021/10/28(Thu) 1:06:24 |
【人】 春野 清華仕事を終えて帰ると、そこには小さな画面に向けて 手を振るW彼Wの姿があった。 相手は桃農園で出会った家族なのだろう。 綻んだ顔で、画面に向かって語りかけている。 その横顔をただ黙って、見つめていた。 別れの言葉を告げて、電源が切られる。 かたん、と音がして、そばにあった コーヒーのカップを持ち上げる。 それは『彼』のでもなくW彼Wのでもない 来客用の───他人のための、もの。 (7) 2021/10/28(Thu) 1:06:42 |
【人】 春野 清華彼をこの家に連れてきたとき、その荷物の少なさに 驚きを覚えたものだけれど。 わたしが、何も知らない、何もわからない 彼のことを置いていったから。 あの日から今まで、彼の中で変わったことを 何を知ったのか、何がわかったのか それすら知らないまま。 その荷物の少なさが、何かを物語っている気がして ただそのなにかがわからなくて、 わかる、とはおもえなくて。 いまだにその距離を計りかねている。 あの日別れを告げた彼にもう一度出会って。 どうしようもなくまた、焦がれてしまった。 ああやはり、私は《彼》から、離れられない。 そこから動くことができない。 触れたい。この人のことを、愛している。 (8) 2021/10/28(Thu) 1:06:59 |
【人】 春野 清華W彼Wが『彼』と同じでないことはわかっている。 脳では理解していても、感情は追いつかない。 奇妙な感覚だ。わたしはあのとき、あの場所で 再び出会ったW彼Wを愛していると、 確かに言えるはずなのに。 『彼』のことも、未だに愛している。 忘れられるわけがない。 それが膿んだ傷だとしても、一生。 その横顔から視線を落とした。一歩踏み出す。 「ただいま」 そう、声をかけた。 夢を見る。 おなじ、夢を見てくれる。 私と彼は今、どんな、関係なのだろう。* (9) 2021/10/28(Thu) 1:07:17 |
【人】 ろぼ先生 夏越 清正[くる、と振り向けば妻がいる。 幸せな結婚をした記憶を持って生まれて1週間で 一緒に市役所に緑の紙を出しに行ったはずの。 男は彼女を愛している。 空っぽの家に取り残された時や、 自分を受け入れてくれる土地を探して 心許ないままさまよった時ですら その想いは変わることはなく。 ──アンドロイドとしての刷り込みが消えた今も。] (10) 2021/10/28(Thu) 3:10:04 |
【人】 ろぼ先生 夏越 清正おかえり! [そう、ふにゃりと笑う。 もしかしたらさっきまでのテレビ通話を 見られていたかもしれない照れを滲ませながら。] 今ね、山梨のみんなとおしゃべりしてた。 前の教え子だった健太が 坂道を自転車で転げ落ちて骨折してたの、 ようやく退院出来たんだって。 [季節のパフェの主役を飾る桃の作り手や、 未だにロボットネタでからかってくる悪童共、 その他同僚やらご近所やら、 男の話には毎度登場する人々のことは 清華もある程度は知っているだろう。 それは確かに男が“ 僕 ”として生きて 絆を獲得した人達。] (11) 2021/10/28(Thu) 3:24:24 |
【秘】 ろぼ先生 夏越 清正 → 春野 清華[妻の中には、確かに“僕”がいる。 しかし、彼女の心の中には「僕」もいる。 辛い記憶が付けた傷ごと消えてしまえ、 “僕”こそが彼女を愛しているのだから、と。 何度打ち消しても、男の脳裏には 時折そんな言葉が浮かんだ。 でも、もう絶対に口にはしない。 彼女が男に心の自由をくれたのと同じように 男もまた彼女の心に自由をあげたい、と。 大事な人達を持ったことで、殊更強く そう思うようになったから。] (-2) 2021/10/28(Thu) 3:35:42 |
【人】 ろぼ先生 夏越 清正[でね、それでね、と外出から帰った母親に 矢継ぎ早に今日の出来事を報告する子どもみたいに 面白おかしくさっきまでの話を聞かせたら 清華はどんな反応をしてくれたろう。 なんとなく子どもじみた甘え方をしてしまうのは 再度の離別への恐怖ゆえか、 それとも未だに「僕」と“僕”と彼女の関係の しっくりくる置きどころが分からないせいか。] お店は、どうだった? 新しいメニューの反応とか。 [もう桃や葡萄の盛る時期は過ぎた。 カフェでも暖かなメニューが愛される時期だろうか。 そんなことを考えながら、尋ねよう。 自分の店を持って、たくさんの人を笑顔に。 そんな大事な夢が「叶った」と思えるまで。] (12) 2021/10/28(Thu) 4:07:28 |
【人】 ろぼ先生 夏越 清正それでね、あの…………。 [男は不意に言葉を区切って、 握ったままのマグカップに視線を落とす。 誰のものでもない「お客さん」のやつじゃなくて “僕”のマグカップが欲しい。 前に買ったのはひどい騒動のせいで 割れてしまったから。 そう言おうとするのだけれど、 誘うことで要らぬ傷を開きやしないか。 少し心配で、頭の中で言葉を探す。 なるほど、言葉に出すのって照れくさいし難しい。 ]あの、一緒に、お買い物行きたい。 清華が、嫌じゃなければ。 [何度かつかえながらも、言った。 ちゃんと目を見て。頑張った。 ……“僕”は、「僕」とは違うのだから。]* (13) 2021/10/28(Thu) 4:17:54 |
【人】 春野 清華振り返って笑う、そのふにゃりとした表情を。 わたしはかつて、暮らしていたその人の そんな表情を、うまく思い出せなかった。 思い出せないのならば、見ていないのと同じだろうか。 ……それとも、思い出せないのではなくて、 本当はそんな表情、見せてくれたことは なかったのかもしれない、とさえ。 (14) 2021/10/29(Fri) 1:04:13 |
【人】 春野 清華嬉しそうに、楽しそうに話してくれる彼に こちらも微笑みを浮かべて頷き返す。 その内容は確かにW彼Wの見つけて手にした、 大切な大切な日々のかけらだった。 W彼Wと「彼」が別のひとなのだと実感するたび 重ねてしまう罪悪感がつきんと痛む。 わかっているのに、うまく処理できない。 「うん、そっか、いいね、」 一生懸命話してくれる彼に微笑みを浮かべて、こくこくと頷きを返しながらエピソードを聞く。 その間も、つきん、つきん、刺すような痛みが。 「あ……うん、順調。 おいしかったって、好評だったよ」 そう微笑みかけてから、彼の話を促した。 (15) 2021/10/29(Fri) 1:04:32 |
【人】 春野 清華ふと、彼の言葉が不自然に途切れる。 「うん?」 首を傾げてそちらを見れば、落とされた視線に 釣られるようにして、そちらをみる。 そこには他人用のマグカップがひとつ。 言葉を待って、それから微笑み返した。 「……もちろん。…大丈夫、明後日お休みなの。 マグカップ、買いに行こう。」 * (16) 2021/10/29(Fri) 1:04:59 |
【独】 なごっち 夏越 清正だって、僕が強い男たるべきならば、 そうである、とせめても見せかけたかったならば、 一体どんなふうに、どんな時に笑えばよかったのか。 誰も教えてくれなかったんだ。 (-3) 2021/10/29(Fri) 13:07:24 |
【人】 ろぼ先生 夏越 清正[まるで、苦い粉薬を包みこんで飲み込ませる オブラートみたいに、薄い膜が間にあるよう。 時々、清華と話す時に男はそう感じることがあった。 近くにいることを許されては、いる。 だけれどあと一歩のところで近付けない。 だけれどそれに気付かないふりをして 男は自分の大事な人達の話をする。 いつか、お互いのベストな心の距離が見つかるまで いつまでもいつまでも待とう。 ……そう、心に決めて。] (17) 2021/10/29(Fri) 13:36:21 |
【人】 ろぼ先生 夏越 清正[そして、獲得したデートの確約には 素直にぴょい、と小躍りして。] わーい!ずっと欲しいのがあってね! 一緒に来てくれたら、嬉しいな。 [いつか、黒い海がうねる街で選んだものは、 男が使う間もなく割れてしまった。 今度行きたいのは車で十数分ほどのところにある 小さくて可愛いお店。 男一人で入るには、ちょっと気恥しいのもあるし 単に一緒に出かける理由が 欲しかっただけかもしれない。] (18) 2021/10/29(Fri) 13:47:15 |
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新