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【妖】 宵闇 ヴェレス 昼間少し寝たから。 [ 日中活動できない訳ではないが、直接陽の当たるのはどうしても不得手で、朝方の早い時刻、もしくは夕方からの活動になりがちだ。 旅行先なら一番活動しやすいだろう時間に、同行者の動きを制限してしまう事に申し訳なさがある。 だからこそ彼も最初の旅行は、陽の短い季節に雪国へ行こうと誘ってくれたのだろう。旅の最中に、何がきっかけだったか海の話になった。北方の鈍色の海。物語にあるような青い海を見たことがないと言えば、次はそれを見に行こうと彼は言った。] 明け方起きられたら、お城に行って、それから何処かの店で朝食にしよう。 それから、もし僕が眠るようなら、ダンテは何処か見て回って貰ってもいいし……。 [ 寝台に膝で乗り上げると深く沈み、ほんの微かにだけ撥条が軋む音がした。ダンテが掛け布を開いて自分を招く素振りだが、既に眠そうで聴こえているかわからない。 今日一日の様子では、外を出歩くに危険がある程の殺伐とした世情でないようではあるが、引き続いて明日もそうであるかはわからない。彼を一人にすること、語尾は言い淀む。 寝台の軋みは体重を乗せた最初のひとつきり、後は音もなくシーツを渡って寄り添い腕に収まると、猫みたいだね、と彼が言った。起きている。 月明かりが思いがけぬほど冴え冴えと、部屋の中の陰を明瞭にする。 規則正しい筈の心音が時折跳ねるように響き、浅い長い呼吸の音が、隣の人が、横たわって暫くの後もまだ眠らずにいることを伝える。] ($21) 2021/04/20(Tue) 7:38:54 |
【妖】 宵闇 ヴェレス[ あの日、と彼は言った。初めての旅行のことだろうか。お互いの居所に初めて手紙が届いた日のことだろうか。また来るよ、と言った彼が、約束通り次の休暇に顔を見せたときのことだろうか。それから、休暇の度に自分の国を訪れた彼と、街を散策し食事をする他愛もない一日のことだろうか。それとも初めて会った日のことだろうか。1年とほんの少しの間のこと。 ぽつりぽつりと、雨垂れのような彼の声が続く。 もしくは、互いが熱に浮かされまぼろしだったのではと恐れる、触れた肌の境目が溶けていくようにも感じたあの日のことか。] 言ったよ……。 [ 確かに彼に伝えた筈なのだから、それが届いていないのはかの日であると思い浮かべる事が自惚れか、もしくはそれ自体がうたかたのようなものであったのかもしれない。 だとすれば、今隣にいる彼は、確かにあるまぼろしではないこの熱は一体なんだというのだろう。]* ($22) 2021/04/20(Tue) 7:43:57 |
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