え、でも、あの、今はそんなつもり、は…。
……大事な物は大事にされたいだろう？

[しょぼしょぼ]

>>19 ぬと男

……………………。

[しょぼくれた骨を見て、はあああああ、と深く大きく溜息を吐いた]

あんた、長く生きてるのに、全然なんにも判ってないのね。
迂闊に"大事なもの"を増やしちゃうと、いつか手から溢れて、零れちゃうわよ？

簡単に「大事にする」なんて言うもんじゃないわ。

>>21姫君
長生きすると逆に見えなくなる物も多いものですよ？

[ベニエを見つめ、リボンを見つめ]

>>21 べた男

────そうね。
あんたを見てるとそうなのかもって、思うわね。

でも、一度大事にするって言ったなら、大事になさいよね。
それが誠意ってものだわ？

密談するなら密談に適した場所に行くと良い。
だってその方が気分があがるからね。

そういう訳で私達はシャボン玉の上に居た。

ここは人呼んで(私の事だが)シャボンの丘、の上空。
定刻になると地から染み出してくる極大シャボン玉に乗って、空を飛べない存在でも一時の遊覧飛行を楽しむ事が出来る

あまり長時間乗り過ぎると割れるのが難だけれど。


「姫君、考えてみたのだけれど。
私が君を攫うのはどうかな？」


何故か顔色の悪い姫君に、首を傾げながら下を指さす。

「例えばほら、あの森はわかるかい？
迷い易く人が入らない。居心地が良いと思いますよ」

透明な膜越しにゆらゆらとワンダーランドが揺れる。
なかなか綺麗な物だ。そして、この視界におさまらない程世界は広い。

姫君も、知っておいて良い物だろう。
今目の前に見えている道だけが、道では無いのだと。

「…………」

遠く遠く、地平線に目を凝らして幸せそうに笑う。

綺麗だな。ここはこんなにも綺麗だ。

私の知識は誰より深い。
姫君一人隠し通すのも難しくない。
今のような生活は約束できないが、城から逃げ出したくなった時はそんな手もあるのだとは教えておきたいと思ったのだ。*

>>22姫君
それはもう、分かっていますよ。
それが誠意であり責務と言うものですからね。

「──────きゃっ!?」

足元から虹色に光る透明な膜がぷわりと膨れ、そのままあたしたちを持ち上げていく。

「ね、ねえ……これ、落ちないの？ちゃんと降りられるの？」

大きな大きなシャボン玉。
滑って落ちることは無さそうだけど。

常通りに余裕綽々としたこの男は、ごくごく普通な表情で、あたしに話しかけてくる。

あたしはと言えば、木々がすっかり足の下遠くになって、地平線まで見えてきたものだから、どこかに捕まりたくて仕様がなかった。

「………………」

癪だけど。とっても癪だけど。
目の前に、彼の丈の長い上着の裾が垂れていたから、それをきゅっと握り締めた。

「────あんたが、あたしを攫うの……？」

"攫いたい"じゃない。
この男は、もしもあたしが辛いのなら、城を出て暮らせる術を用意してやると言っている。

意図が汲めて、頬がかあと熱くなった。
と同時に、そんな風に優しい気持ちを向けられたということに、また鼻の奥がつんと痛くなった。

　　"攫いたい"とは、言ってくれないのね。

　　知ってたわ。

「────あたし、国が嫌いなわけじゃないの」

「城の皆も、嫌いじゃない。父様と母様も大好きよ」

ただ、この力が要らないだけ。
金貨もお菓子も生み出さない、ただのベニエで居たいだけ。

「だから、逃げないわ。たとえ勝負に勝てなくても。このままのあたしでも」

「────でも。ありがとう」

笑う彼の顔は、とても綺麗だと思う。

その視線の先に誰が居るかあたしは知ってしまったけれど、でも、とっても綺麗。

だからあたしも、負けない笑顔で微笑んだ。*

正直怒り顔のイメージが強い姫君の、笑顔。
それが、“誰か”の笑顔に重なった気がして。

「ああ、そうか……」

思わず、笑い出したくなる。

「うん、うん。
では、ここのもう一つの楽しみ方をご覧に入れようか！

────舌を噛まないようにお気をつけて！」

朗らかに叫び、私は姫君を抱えてシャボン玉から飛び降りた。

まるでトランポリンのように。
弾力のあるシャボンの間を、白兎のように、飛んで、跳ねて。

「はははっ！」

久々に爽快な気分で、笑い声が勝手に飛び出ていく。
付き合わされている姫君の心中は如何程の物か、分かったものでは無いけれど。
私はしばしの空中旅行を全力で楽しんだのだった。*

「ふ？……っへ？きゃ、きゃああああああああ!?!?」

楽しげな男の笑い声がシャボン玉に跳ね返って空に溶ける。

と同時に、ふわりと抱えられた身体が、ぽよんぽよんと空中を跳ね始めた。

「え？まって？ちょっと、まって？きゃああああああ!?」

あたし、こんな風に抱えられた事なんて一度も無い。
こんな風に空を跳ねた事だって、もちろん無い。

最初は両手をぎゅうと握り締めて身体をちぢこませていたけれど、視界の全部が空になってしまうくらいに飛び跳ねた時、我慢できずに彼の首にしがみついた。

　　────あれ？

　　怖くない。
　　怖くないわ？？

「……ふ、ふふっ…………あはは！」

　　だって、彼があんまりに楽しそうなんですもの。

　　空はあんまりにも青くって。

　　見下ろす世界はあんまりにも広くって。

２人して笑いながらひとしきり跳ねた後には、あたし、何を悩んでいたのか忘れそうになっていたのよ。*

「お嬢さん、歓迎するよ！」


お嬢さんの願いを聞いて、まず飛び出たのはこの言葉。
だって、これほど嬉しい事はないだろう？

理由はさておくとしても、彼女は此処に居たいと言うのだから！

それで勝負の手を抜くとか言うわけにはいかないものの。
嬉しいかどうかでいえば、間違いない。嬉しい。
“新たな住人”を諸手を上げて歓迎しようじゃないか。

「そんな窮屈な元いた場所など捨ててしまって、ずっとここに居ると良い。
どのみち帰る場所も無いのだろう？」

うきうきと私はおすすめの場所をリストアップし始める。

その窮屈な服もさっさと捨てて着替えてしまうと良い。
戻る気があるのであればとやかく言わないが、重たげな袖はこの国で生きるにはいささか淑やかすぎるだろう。

………ああでも私から、もしひとつだけ言うならば。

折角生きている君に、すべて覚えたままで生を謳歌してほしいものだが。
まあこれは“死んだ者”に対する私の共感でしかない、黙っておこう。*

【お姫様への返答と感情書き換え】

ほんとはね、親友でしょ？なんて厚かましいかなって思ったのよ。
そういう所は、カグラはちゃんと分かっていたけど、それにカグラは人をバンバン！ってしちゃった悪い子だけど、でもベニエとは仲良くなりたいって、1歩踏み込みたいって思ったの。

すっごく憧れるキラキラの綺麗な格好で、なんでも持っていて、とっても幸せなはずだと思うのに、なんだか寂しそうだったのだもの。
カグラは、小さい頃からお祖母様と一緒で、御学友はいたけれど、それはお祖母様に言われて仲良くしていたのであって、カグラが一緒にいたいと思った子は、洗濯係のシノおばちゃんのとこのせっちゃんとか、料理人の源さんの奥さんのユキさんだったのだもの。
お祖母様が怒るから、一緒にいられなくて、もどかしくて寂しい気持ちはちょっとだけわかるんだわ。

「カグラはね、ちょっと悪いことしたかなーって思ってるのだけど、でも、あんまり悪いと思ってないのよ。」

えへへ。お姫様と手を繋いで、繋いだ手は柔らかいのに、お姫様にはカグラの手は分からないのですって。

「だからカグラは、お姫様の、お願いを叶えたいなって、本当は思っているのよ！だって、そうしたら一緒に魚をつったり木登りしたり、そうして楽しく遊んだらその後は手を繋いで帰れるもの！」

「だから一緒に戦いましょ！カグラは強いのよ！魔法の力なんかなくたって、ひとつはなんとか出来ちゃったのだもの！」

えへん。胸をはる。

「カグラがバンバン！ってしたことはまぁ、横に置いておいて。(横に置いておいてのポーズ)」

「とりあえず戦ってから考えましょ！カグラは楽しく暮らせたらそれでいいの！楽しく暮らせたら他のことはなんでもいいから、一緒に楽しく暮らせる方法を考えて？ね？それがいいわ！絶対！」

カグラの願いは何となく、お姫様と楽しく暮らす方がバンバン！をなかったことにするよりいいかなって思えてきたの。
バンバン！だって、カグラが戦って勝ち取った勝利の証に思えてきたから、それがいいかなって思うのよ。

ちなみにだけど、カグラはお祖母様を恨んではいないのよ。
お家のためを思えば、カグラは身売りしなければならなかったの。
お祖母様が教えてくれたことが役に立つことも沢山あったわ。だから恨んだりしないの。

まぁ、お祖母様はカグラのことを恨んでいるかもしれないけれど！

くい、と手首が持ち上がり、指と指の間に何かが挟まる。

自分の指の動きでそう判るけど、何がどうしてそうなっているのかは眼で見なければ知ることはできない、手袋の中のあたしの手。

えへへ、という笑い声と、あたしの指に絡む白くて細い"親友"の指。

　　────ああ。
　　この人も、あたしの手を怖がらないんだわ。

そう思ったら、あたしの方も、ふふ、えへへ、と小さな笑いが勝手に零れた。

"あんまり悪いと思ってない"の言葉に、あたしは小さく頷く。

あたしも、だって、思ってない。

カグラが殺したのは、１人なのかしらもっとなのかしら。
金貨やお菓子に変えたことを"殺した"と言うのなら、あたしは未曾有の殺人鬼だわ。振り返ることは、しないけど。

「魚をつったり木登りしたり……？そんなこと、したことないわ」

この世界にも川はある。行ったことはないけど海もある。
木はそこら中に、それはもう、沢山。

でも、手を怪我したら大変だからと、そんな遊びは許されなかった。

　　楽しいかしら。
　　あたしにも、できるかしら。

　　きっと、きっと、それはとっても楽しいわ。

素手で水に触って、木の幹に触れるの。
お魚を手で捕まえる事だって、できるかもしれない。

そうして最後に汚れた手を綺麗に洗ったら、友達と手を繋いで家路に就くの。

でもそんな、夢みる未来は、カグラとデッドの願いが断たれることと、同じこと。

「うん。"とりあえず戦ってから"────ね」

そう。それでいい。
誰が勝っても、どうなっても、あたしたちは親友だもの。*