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【人】 空閑 千秋[それから、宿を後にして。 電話やメールでやりとりはしていたけれど それ以外ではなかなか会う時間が作れなかった。 申し訳ないけれどそれが現状で、 日々仕事に疲れて1日が終わってしまう。 土日に仕事が入る事もあったから 休みもなかなか合わせられなくて、 それでも彼の誕生日付近に休みを合わせられた。 でも、私はそれより前に。] (170) 2020/08/20(Thu) 7:08:56 |
【人】 空閑 千秋[彼が出張になったとある日。 私は思い立って家を出た。 彼が時間が取れる確証はない。 けど、あんまりにも会わないままだと なんだか嫌だな、そう思ってしまったから。 連絡のやり取りで彼のいる場所は大体わかる。 どこに泊まっているとか、今日はどんな仕事だとか。 彼の仕事が終わる頃。 彼の泊まっているホテルの近くの喫茶店から。] (171) 2020/08/20(Thu) 7:09:11 |
【人】 空閑 千秋『来ちゃいました。 忙しいなら、帰ります。』 [そんなメールを送ってコーヒーを飲む。 不安な気持ちが胸を焼く。 けれど、なかなか会えないのが寂しくて 普通のお付き合い、が、わからなくて。 喫茶店で一人不安な顔をして 慣れないスカートを履いて 不慣れなメイクをして。 約束もない待ち人がくるのを、 私は待っている。]** (172) 2020/08/20(Thu) 7:09:28 |
【独】 美雲居 月子 ───閑話休題・とあるアラフォーの話 [ 嘘をついた。 見栄を張った。 忘れたことなどなかった。 幸せになってほしいと思った。 だから、嘘をついた。 自分では、きっとできないから。] (-387) 2020/08/20(Thu) 8:43:22 |
【独】 美雲居 月子[ 祖父から電話がかかってきたのは、 出張から帰ってきた翌日の昼頃だった。] 「おう、雅文、お前あれや、 美雲居って覚えとるか?」 [ そんな切り出しだった。 きた、とうとうこの時が、そう身構えた。 だけど、それを心待ちにしていたように 思われたくなくて、小さな見栄を張った。] ん?美雲居…?誰やったっけ… [ 「ああそうや」と思い出したように 続けようと口を開いた瞬間、 それよりも早く、電話口の祖父は] (-388) 2020/08/20(Thu) 8:44:25 |
【独】 美雲居 月子「あれや、20年下の、嫁さん もらういう話や、陽子さんの孫。」 ああー…… [ 知ってる。覚えてる。 月子、という名前の女の子。 親子ほども離れた歳の、許婚。 彼女は会ったことがないと思っているだろう。 だが、それは勘違いだ。偽名を使って、 こっそり美雲居の旅館に泊まったことがある。 物凄い美人ではなかったけれど、物腰の柔らかい 綺麗なひとだとおもった。] 「でなぁ、あいつに孫が25になるまでは 待ってくれと言われとったんや。 そやけど、俺は忘れとってな。 さっき電話がかかってきて、 なにをいうてるんやお前がいうたんやろと 呆れられて怒られてなぁ、終いに もうはよう会わしてくれ、敵わんと 泣き言みたいなこというんや。 なんやどういうことやと話を よう聞いたら、なぁ…まあ…」 [ 黙って、頷いていた。] (-389) 2020/08/20(Thu) 8:45:47 |
【独】 美雲居 月子[ ───濁された内容に、察しはつく。 一度唇を結んで、目頭をおさえた。 ふう、と深く息を吐く。その理由は、 誰にも話す気はない。] ───あんなぁ、ほんまに そんな親子ほども歳の離れた子ぉと 結婚させる気やったん? 冗談やと思うてたわ。 孫は駒とちゃうねんで。 俺もう45やし、もうすぐ6や。 アラフォーいうねん、世間では。 付き合うてる人もいてるし、 結婚かてその人と考えてる。 いまさら20も下の子言われても困るわ。 美雲居のおっちゃんにもいうとき。 あほなこと言うてたら孫に嫌われるで。 [ そう、捲し立てて、唸る祖父に、 もうええな?仕事中やから、切るで、と 前置きをしてから電話を切った。] (-390) 2020/08/20(Thu) 8:46:21 |
【独】 美雲居 月子[ そのまま、スマホを持った手を だらん、と落として空を仰ぐ。 ───といっても見えるのはオフィスの 白い天井だけなのだけれど。] 「部長、今大丈夫っすか」 [ なにかに浸る間もなく、いつからいたのか 角の観葉植物の影から現れた部下は、 たしか彼女と同じくらいの歳だった。 もたれていた壁から体を起こし、 息を吐いてから片眉を上げてそちらを見る。 「なんだ?」と聞くと、なにやら 資料を片手に近づいてきた。] 「ここなんすけど、なんか、 クライアントの要望を妥協しつつ 全部通すなら、こっちにしたほうが いいんじゃないかなって思うんす」 [ とぺらぺら捲って見せられるもの。 ああ、なるほどなとうなずいて見る。] (-391) 2020/08/20(Thu) 8:46:51 |
【独】 美雲居 月子[ 大丈夫、きっと、こいつくらいの 年齢の子と結婚したところで、 うまくコミニュケーションもとれなくて なにかしら困ったことばかり 起きる結婚生活だったに違いない。 だから、間違ってない。 きっと、俺のためにも。] 「ところで部長付き合ってる人いたんすか」 え? [ 仕事の話を終えれば突然切り出されて きょとんとそちらを見てしまう。 だが、会話を聞いていたのだろうと 合点すれば困ったように笑って。] (-392) 2020/08/20(Thu) 8:47:09 |
【独】 美雲居 月子───いないよ [ と小さく答えた。 「そっすか」と深く聞かずに流してくれる こいつのこう言うところが気に入っている。 深入りしない。空気を読んで、相手の 懐に上手く入る天才だと思う。 きっと、自分にはできない芸当だ。] 「ちなみに、45だとアラフォーじゃなくて アラフィフじゃねーっすか? 四捨五入、だし」 [ ───こういう、ところも含めて。] (-393) 2020/08/20(Thu) 8:47:25 |
【独】 美雲居 月子うるさいな、そこら辺繊細なんだよ [ そう笑えば、部下もまた、笑った。 それから、数ヶ月経ったある日。 気まぐれで訪れた旅館で、 たまたま彼女のことを見かける。 はじめは驚いたものの、 彼女はもちろんこちらに気づくはずもなく。 ああきっと、自由を手に入れたのだと そう思うとこちらまで嬉しくなった。] 仲居さん [ 部屋の案内をしてくれた彼女が、 出ていこうとしたそのとき、つい呼び止める。 「はい?」と人好きのする笑みを向けてくれた その人に、一瞬迷って、それから ] (-394) 2020/08/20(Thu) 8:47:45 |
【独】 美雲居 月子今、幸せですか? [ と問いかけると、はじめは 驚いたように目を瞬かせていたものの、 すぐにふ、と緩んで。] 「はい、幸せです」 [ とまっすぐ返ってきた言葉に、 自分の選択の正しさをまた実感するのだ。 そうですか、と返して、彼女を見送る。 これが恋心だったのかと問われれば、 自分にはわからないと答えるだろう。 だが、好意は確かに持っていた。 ただ、彼女にしあわせになってほしいとも 心から願う、だけだ。]* (-395) 2020/08/20(Thu) 8:48:04 |
【人】 舞戸 黎哉── 数ヶ月後 ── [ソファに座って写真を眺めていた。 それは、つい先日決まった婚約者で地元有力者の娘さん。 どこかあの子に似ているけど、でも、よく見るとやっぱり似ていない。似ているのは長く綺麗な黒髪だけで、そこだけは好きになれそうだった。] ……十分だ。 [十分遊んだし、十分楽しんだ。これはその対価。] (173) 2020/08/20(Thu) 8:58:34 |
【人】 舞戸 黎哉[あの晩は楽しかった。 酸いも甘いも知った夜は、これからもきっと忘れられないだろう。 この先。 婚約者と結婚し、子供をもうけて舞戸の家を盤石にする。一族のさらなる繁栄のために生きていくのだ。 いつか子供たちに、孫たちに言い聞かせた時に誇れるような生き方を。 だけど。 あと一歩、前に踏み出せていたらこの生き方は何か変わっただろうか。 今の生き方に不満はない、苦もない。 だけど決められた生き方以外の苦楽のある生き方があっただろうか。 そんな想いをずっと抱えて生きていく。 それでいい。 ─── それがこの舞戸 黎哉の生き方だ。] (174) 2020/08/20(Thu) 8:59:11 |
【人】 舞戸 黎哉[彼女には背を押してくれる人がいた。 自分には居なかったし、居てもきっとこの背を触れさせることはなかっただろう。 これが彼女と自分の違い。 ……そうということを知ることもないが。]** (175) 2020/08/20(Thu) 9:00:09 |
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