【人】 元チアリーダー 早乙女 菜月[ 「ナツキ!」 と、肩を叩かれて、はっと我に返った。とっさに本を背中に隠す。 図書室の中に、さざ波のような雑音が戻っていた。最終下校を告げる放送は、図書室も例外なく流される。 「こんなところで何してんの。帰るよ……なになに? エロいのでも見てたの?」のぞき込まれそうになるのを、「やめーやプライバシーの侵害やぞ」 笑いながら頑なに背中に隠す。いつもの癖でつい声が大きくなりかけたところを、様子を見に来た司書が止めた。「図書室でじゃれないの。早乙女さん、貸出なら処理するから早く」「はーい」しっしっと友達を追い払いながらカウンターについて行く。 先生が赤いレーザーで読み取ったところで、「あれ?」と首を傾げた。エラーを起こしたらしい。「貸し出し中? もっかいやらせて……ああ、読み込めた。はい、返却日は二週間後です、破るなよ早乙女」「ゴリラ扱いやめてくれません?」確かに破りやすそうな厚みではあるけども。] (33) 2020/09/27(Sun) 14:53:11 |
【人】 元チアリーダー 早乙女 菜月[数人で連れだって校舎を出る。うちの高校は、校門を抜ける前に、体育館の横を通る構造になっている。体育館には明かりがついたまま。開け放した扉の奥で、オデコ丸出しの集団が私に気づかず練習を続けていた。「いくよー! ワン、ツー、スリー、ハイ!」という掛け声が聞こえてくる。チア部はいつも延長練習をしている。 「やってるねー。どうすんのナツキ、辞めたら暇じゃん。帰って何してんの」「え、筋トレとランニング」「え、なんで……」「え、やることないし……」「え、恋とか……」「え、恋……?」 帰ったころには忘れてそうなくだらない話をしながら、長く伸びた影を眺める。太陽はもう落ちかけていて、ずいぶん周りと同化してしまった。 「ていうかマジで彼氏作ればいいじゃん。別に恋愛アレルギーじゃないでしょ? 前彼氏いたし。なんで別れたんだっけ?」 彼氏ねえ…… [そういやいたな、そんなんも。告白されて、断る理由も無いから付き合ったのが。 霞んだ記憶の中から、去年の人を思い出した。] (34) 2020/09/27(Sun) 14:54:10 |
【人】 元チアリーダー 早乙女 菜月── 回想 元彼との蜜月 ── [私は最近彼氏ができた女子高生。正直私、幸せです♡ 彼を応援するためにも、恋もチアも頑張るぞ〜♡ さーて学校ついた柔軟すっか、と鞄を下ろしたところで、ぶぶっとスマホが震えた。 『なっちゃんおはよう 今何してるの〜?』 『練習だよ』と返してスマホを置く。 さーて柔軟終わった倒立すっか、と立ち上がったところで、再びぶぶっとスマホが鳴る。 『今何してる〜?』 『れんしゅう』 さーて倒立終わったタンブリングと思ったところでぶぶっ『今何してる〜』『練習!』ぶぶっ『練習!!』ぶぶっ] 練習ゥ────ッ!!!! [マットにボスっとスマホをぶん投げながら、思わず叫ぶ。] どんだけ聞いてくるんだよ! こちとら年中練習しとるんじゃい! あぁあれか!? 芸能人の公式LINEみたいに何が来ても自動返信で「練習」って返すシステム構築すりゃいいんか!? [なんだなんだどうしたどうした、と部員たちが寄ってくる。] (35) 2020/09/27(Sun) 14:56:49 |
【人】 元チアリーダー 早乙女 菜月[そして数日後の週末。 午前練終わった弁当食うか、と鞄を持ち上げたところで、てろれろれろん、とスマホが鳴った。通話だ。 「なになに彼氏?」「かれぴ?」「ぴっぴ?」と寄ってくる部員たちをはために「えーやだもうこんなときまで〜」とくねくねしながら通話に出ると、『あーもしもしなっちん? おつかれー』愛しいぴっぴの声が聞こえてくる。 甲高い(ただし発声練習で枯れてる)声で「もしもしおつかれー♡ どしたの?」応じると、『あのさーこれからご飯とかいかない?』「あーごめーん夜までチアだから今日はちょっと……もしもーし?」 しばらくの沈黙の後に、『……ハァ……』とため息が聞こえてくる。えなんで。] (36) 2020/09/27(Sun) 14:59:26 |
【人】 元チアリーダー 早乙女 菜月『なっちんってさ、いっつもチアばっかだよね。 俺とチアどっちが大事なの? 俺は、なっちんが一番大事だよ? 俺は、バイトとなっちんだったら、なっちんを優先するのにな……』 「は?」「は?」「は?」『はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜???』 [聞き耳立ててた部員たちと声がハモる。 え、なぜ私のチアとあなたのバイトへの熱量が同じ立ち位置に置かれているのでしょうか? そらもちろんバイトにものすごい熱量を注ぐ人はいる、それはそれで素晴らしいことだし、価値観は人それぞれだけど、少なくともあなたに限りましては? 遊ぶ金欲しさにバイトしてるそうですし? 『『『それと一緒にすんなァ───ッ!』』』 ]……別れよ! [〜蜜月編、完〜] (37) 2020/09/27(Sun) 15:00:16 |
【人】 元チアリーダー 早乙女 菜月[というわけで彼氏がいない。 その後もちょいちょいチア部の看板に惹かれて寄ってきたのと付き合ってみたものの、練習の邪魔してくるわ乳触ろうとしてくるわムキムキの肩に引くわで長続きしなかった。] んで、何乳触ろうとしてんだ、乳触る前に鍛え上げた肩を褒めろ。まずは肩からでしょうが! って言ったら振られた。 [「そら振られるわ」「女にはモテそうだけどね、この肩」力こぶを作って見せると、両サイドから一人ずつぶら下がってきたので、ぐるぐると回転してやる。「きゃー!」「きゃー!」「ワハハハハ───ッ!」ぐるぐるぐる。 ひとしきり目を回してやったところで解放すると、「そら振られるわ」「うん、振られるわ」追撃された。「吐くまで回すぞ」] (38) 2020/09/27(Sun) 15:03:11 |
【人】 元チアリーダー 早乙女 菜月[「ナツキはさー。勇ましすぎるんだって! もうちょっと女思い出しなよ。オデコ隠すとか……」「言葉遣いとか……」「あの運動部特有の、私、じゃなくて自分、って言うやつとかね」] うえぇ〜…… [だってなんか先輩やOG相手に「私」って言うのって生意気な感じするし。 まだ後輩意識抜けないんだもん。 四月から入ってきた一年生。私の後輩たち。 だけど、新型感染症の影響で、練習が再開されたのはつい最近。それまではリモート授業。新入生歓迎会の発表も、なくなっちゃったし。 自分たちはあれだけ先輩にお世話になったのに、私たちの代は、一年生にほとんど何も教える機会が無い。 だけど、そういえば。 さっきは「私」って使えてたから、ちょっとは女子っぽかったんじゃない? ま、聞こえてなかったっぽいけどさ。 ]* (39) 2020/09/27(Sun) 15:03:50 |
【人】 二年生 小林 友「柔軟体操はじめるぞ、二人組を作れ」 [体育教師の号令は、俺にとっての死刑宣告。 クラスの中に、気のおける友人なんか 一人もいやしないんだから。 ……友人じゃなくても、初対面じゃないから 声掛けても変じゃない、って?陰キャ舐めんな。 目の前で次々と組を作っていく クラスメイト達を後目に、俺はため息をついた。 腹が痛い、と言い張って帰りたい。 二日目なんです、とか言って。 あー、空の青さが、ひたすらに憎い。 俺が体操着の裾を握りしめて ただじっと立ち尽くしていると…… クラスメイトの青柳がそっと俺の肩を叩く。] (40) 2020/09/27(Sun) 15:09:21 |
【人】 二年生 小林 友「トモちんもひとり? したらオレと組んでくんね?」 [頼むよぅ、なんて声を出す青柳は 男の俺から見ても背は高いし、バスケ部だし 髪も染めてて……如何にも陽キャって感じ。 白く眩しい歯を覗かせて笑う青柳に 結局俺も断り文句が浮かばなくって 運動靴の先を睨みながら頷く他なくって。 いっその事、虐められてるとか、 ……靴隠されたり、教科書燃やされたり 今みたいに、ぼっち丸出しなことを 指を指して笑われたりとか、 ─────俺が被害者なら、 多分この心持ちはよりマシだった、と思う。 優しい人達の間で上手く立ち回れない自分が ただただ、惨めで。 けど死ぬとかそういうつもりもなくって。 屈託の無い青柳の笑みに消えたくなりながら 俺は体を二つに折って、地べたへ手を着いた。] (41) 2020/09/27(Sun) 15:10:06 |
【人】 二年生 小林 友[望んでこの世界に生まれたわけじゃない。 望んでこんな生き方を選んだわけじゃない。 だから、全部、仕方の無いこと。 結局その日、体育が終わった瞬間 俺は全速力で更衣室に駆け込んで 着替えを済ませるやいなや 教室へと駆け出した。 ─────青柳に感謝も謝罪も、 する勇気なんか、無かった。] (42) 2020/09/27(Sun) 15:10:38 |
元チアリーダー 早乙女 菜月は、メモを貼った。 (a7) 2020/09/27(Sun) 15:10:43 |
【人】 二年生 小林 友[それと、もうひとつ。 ネットの青空文庫でも読めるこの本を わざわざ学校で読む理由。 俺は、書架の陰になった机に荷物を置いて 本棚から慣れたように 『赤いろうそくと人魚』を取り出すと…… 間に挟まっているだろう便箋を探して ぱらぱらと頁を捲るのだ。] (44) 2020/09/27(Sun) 15:11:17 |
【人】 二年生 小林 友[窓の外ではバットがボールを打った カッコーン、と軽い音が響いている。 図書館の前の廊下を、軽音部らしき数人が 楽器ケースを背負って駆けていく。 そんな学校の風景から逃げるように 俺は古びた本の世界へ埋没していった。] (45) 2020/09/27(Sun) 15:12:12 |
【人】 二年生 小林 友 人間は、この世界の中で いちばんやさしいものだと聞いている。 そして、かわいそうなものや頼りないものは、 けっしていじめたり、 苦しめたりすることはないと聞いている。 いったん手づけたなら、けっして、 それを捨てないとも聞いている。 (中略) せめて、自分の子供だけは、 にぎやかな、明るい町で育てて 大きくしたいという情けから、 女の人魚は、子供を陸の上に 産み落とそうとしたのであります。 そうすれば、自分は、再び我が子の顔を 見ることはできぬかもしれないが、 子供は人間の仲間入りをして、 幸福に生活することができるであろうと 思ったのです。 ─────『赤いろうそくと人魚』 小川 未明* (46) 2020/09/27(Sun) 15:18:41 |
【独】 元チアリーダー 早乙女 菜月 (-29) 2020/09/27(Sun) 15:23:54 |
【独】 元チアリーダー 早乙女 菜月/* 張り切ってモブの名前と合わせて春夏秋冬って揃えたのに チア部やめた季節組出さないじゃんって気づいた、9月。 (-31) 2020/09/27(Sun) 15:49:02 |
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