一瞬見せた生気のない瞳に思わず身じろぐ。
　ふつうの少女と思っていた子の、
　『ふつう』の薄皮がめくられて、
　彼女という概念に変化を受けての動揺。

　表情が顔に出ない性質であったから、
　その動揺が読み取られる可能性は低い。

「イブ。いい名だ。
　意味は『祭りの前夜祭』だったか？」

　動揺を隠すようにコーヒーを飲む。



　「なんだ？」

「ああ」

　指輪に目を留める。

「俺とメレフは。
　昔……、今のブラキウムとだいたい同じ歳の頃に、
　メレフと同じものが欲しくて、ねだった」

　会議場で親しげに語り合うメレフとラサルハグの姿は、
　あなたも見かけたことがあるかもしれない。

　先の言葉に嘘はないが、真実が欠けている。
　
　
　善意、である。

「ブラキウムもほしいか？
　試作中のものならいくつかあるが……」

　肯定すればラサルハグとメレフの指輪とはまったく異なる、
　玩具の指輪を持ってくるだろう。

　星はあなたのもとへ帰っただろうか。>>699
　風船にはメッセージカードが貼りつけられている。

　『今夜中は難しい　すまない』

　

　厚い服ごしに体温は伝わらない。
　胸元の空虚へ触れてもらうには、
　外包を剥がしてもらわねばならない。

「誰かのものになることに興味はある。
　望むならばお好きに」

　離れる手を掴み、胸元へ引き寄せようとした。



　どうすればあなたとの繋がりを得られる？」

　二人分の重みが狭い範囲に重なり、ソファが沈む。
　ぎこちない手つきで、あなたの髪を撫で返した。

「できずともする。できることをする。
　そうしなければ何も叶わないだろう？」

「特別に優先するものもいる。
　それでも他の縁あるものを守りたいと願う。
　利益をではなく、関わりを大事にするだけだ。

　だが望まないことをさせる気はない。
　すまなかった」

　ぽんぽんと反対の手で背中を叩く。
　慰めを返そうとしていた。
　
「改めて尋ねる。
　あなたは『モス』もしくは同じ集団に属するものか。
　そうであるならとの面会の約束を
　取りつけたい」

「そうだな。
　隠してるわけではないが、おおっぴらにしているわけでもない。
　
　昔からメレフには世話になった。感謝している」

「ブラキウムの武器は鉤爪だったか。
　邪魔するものはよくないな」
　
　ならばどういったものが向くだろうかと考えるのは技術者の性だ。
　空になったカップに気づき、
　
　「どうする？　おかわりはいるか」