ブラキウムは、周囲を確認するとあなたに手招きをしました。
仕入れられた料理や備品が入った木箱たちの影にいます。

「……？　今なんか、声が……ブラキウム？」

今朝方あんなことがあったばかり。
時間を見つけて話そうとは思っていたので丁度いい。

「なに？　どうかした？」

あなたと共に木箱の陰へ。何となく小声になった。

「えっと……、ちょっと長くなるけど聞いてほしいのだ。」

ブラキウムは、あまり言葉が上手ではありません。
きっと説明なら、もっと適任がいるでしょう。
しかしブラキウムは、そうしませんでした。

「シータの犯人？　が、羽根を狙っているかもってブラキ思ったのだ。
……藤色の女の人は、もしかすると羽根に触ったから死んだのかもしれない。」

ブラキウムの言葉は、きっとあなたにとって突飛もない内容であったでしょう。
本来何の関係もない事柄なのですから。

「……羽根を狙って？
　いいよ、長くても。詳しく聞かせて」

少年はその話題に食い付いた。
突飛な話ではあるかもしれないが、
そう思うからにはワケがあるのかもしれない。

「何で、ブラキウムはそう思ったの。
　藤色の女の人の他に、なんかあった？」

「あの羽根は、だ。
みんなが仲良しになるのが嫌だと思う誰かが、狙ってるのかも。」

ブラキウムは、考えます。
きっと羽根さえあれば、こんなことにはならなかったはずなのです。
しかし今の状況を好む誰かは、きっとどこかにいるのでしょう。

「あの女の人の他に、何かがあったってわけじゃないのだ。
でも可能性があるとしたら、羽根を探そうとした人が次に狙われるんじゃないかと思う。
いつどこで見られているかわからないけれど、ライバルはいない方がいいと思っているはずなのだ。」

ブラキウムは、会議の参加者に犯人がいるとはちっとも考えていないのです。
ですので、あなたを心配しました。

「羽根を探そうとした人……ああ、だから俺？
　なるほどね。心配してくれてんだ」

最後まで聞き、ようやく理解する。


「大丈夫だよ。──って言いたいとこだけど。
　分かんないね、こればかりは。

　だって例えば、俺が事件の犯人だとしたら、
　ちょろちょろ嗅ぎ回ってるやつ、目障りだもん。
　ブラキウムの羽根のことがなくたって、
　俺は狙われかねないってこと。わかるか？」

「……」

ブラキウムは、人を疑いません。
ですのでこの言葉は、それ以上でも以下でもないのです。


「だったら尚更、気をつけてほしいのだ。
ブラキは色んな人に羽根のことを話したが、中でも特に多く話した人にこうして回っている。

全員を守りたいところだが、ブラキの手は２本しかない。
だから戦えそうな人には、無事を祈るしかないのだ。……ごめん。」

「そうだろうね。
　俺とメレフ、少し似てるかもしんないし」

考え方、事件へのスタンス、
そのどれの事を指すか、あなたには分からない。

「分かったよ。まあ、見てろって。
　俺、こう見えてまあまあ強いから」



「だから泣きべそばっかかいてないで、
　また元気に走り回ってなよ。アンタはさ」

「ブラキウム、ありがとうございます。
僕は大丈夫ですから」

ブラキウムの頭を撫でた。

「ただ、僕が死んでも悲しまないでくださいね。
ブラキウムは強い子ですから大丈夫だとは思いますが」

*コクリ*

「……うん。」

ブラキウムは、みんなを信じています。
ブラキウムは、みんなを好いています。

「……でも無理はしないでほしい。立ち向かわずに逃げてくれ。
だ。」

ですからあなたが嘘をついているなんて、これっぽっちも考えていないのです。

続く言葉はありません。
きっと話したいことはこれが全てなのでしょう。

「……悲しくなっちゃダメなのだ？」

ブラキウムは、暗い顔をしました。
ブラキウムにとっては、きっとみんなを守るよりも難しいことです。

*ハッ*

*ブンブン*

ブラキウムは、首を振りました。

「いやこんなことを言うのは良くない！
シトゥラは今日も明日も明後日も、ブラキの頭を撫でてくれるだろう？」

「ん。じゃ、そうさせてもらう」

少年は頷いた。


「話終わりなら、俺行くよ。
　調査もあるし。アンタと話せてよかったよ」

そうしてひらりと立ち去った。

「キュー……。」

ブラキウムは、あなたを探しています。
片手にはうさぎのぬいぐるみ。
もう片方の手には、空になった袋を持っていました。
ブラキウムは、あなたに謝ることがあるのです。

*テクテク*

「ブラキ……？」

「……！」

ブラキウムは、パッと顔を上げました。

「キュー、配達のことで謝りたいのだ。
ブラキのせいで、きっとキューに迷惑をかけてしまったはずだ……。」

*ペコリ*

ブラキウムは、頭を下げました。

【日記】

【1日目】
はねはけっきょくみつからなかったのだ。
メトセラにはねのことをきいたら、そんなものはしらないといわれてしまった。ギルドのみんなもしらないといっている。
ブラキはみんなからまかされたはずなのに、どうしてだろう？
みんながウソをついているようにはみえないのだ。
なんだかあのおんなのひととはなしてから、きおくがフワフワしている。

【2日目】
はねはもういい。そんなすぎたことをかんがえていたからあのおんなのひとはしんでしまったのだ。
……ほかにもしんでしまったひとがいるらしい。
しかしブラキのては２ほんしかない。
みんなをまもることはできない。
もっとブラキがつよければよかった。

はねとかかわったひとがしんでしまうのだろうか？
はねについてはなしたひとはたくさんいるけれど、なかでもたたかうのがにがてそうなひとをねらうのではないか？
ブラキはブラキにできることをするしかない。
かたむいたてんびんは、なおさないと。