【人】 IX『隠者』 アリア[ 特別人が嫌いということはなかった。 酷い目に遭った記憶ならばもはや彼方、 私を構成する大半は森での静穏な日々であるから。 あの森は、彼は、そして彼を集い訪う者は、 この腕の痣を晒してなおやさしかった。 彼自身が身寄りのない人であったし、 思えばもしかすれば、そんな彼を頼っていた人らも 私が知らないだけで、社会的弱者だったのかも…と そう思い至ったのは、わりと最近のことである。 言葉を、学を、生きる術を教えてもらった。 とんだ失礼と承知しつつも、 あの子の方がより辛い境遇だろうと思うこともある。 そう感じる程度には、 私だってきっと、比較的には恵まれていた方なのだ。 とはいえ結局のところ、 ]幸だ不幸だなんて当人の主観でしかない。 不自由ないことが幸福とは限らない。逆もまた然り。 幸せそうに見えるだとか不幸そうに見えるだとかも、 あくまで外野が勝手に見たいものを見ているだけ。 (184) 2022/12/14(Wed) 20:55:40 |
【人】 IX『隠者』 アリア[ 彼は今、あの森の麓に眠っている。 身寄りはなくとも慕われていた人々の手で、 綺麗な墓所を用意されて。 彼が亡ければただの証持ちでしかない、 私にも、その所在を教えてもらえて。 三ヶ月か、半年か、一年に一度か、 そのくらいの頻度で外出許可を得て 主を失ったあの森の家に戻ることがある。 必要もなくなったのに掃除をして、森を歩いて、 二、三日を過ごして、最後に墓所へ向かうと 誰かが置いた花束がいつも先にある。 私も、傍らに花束ひとつを添えていく。 そうやって、互いの無事を確認しあっている。 そのくらいの距離できっとちょうどいい。 ] (185) 2022/12/14(Wed) 20:56:10 |
【人】 IX『隠者』 アリア―― 回想:洋館の『魔術師』 [ それは師を亡くして数日が過ぎた頃。 葬礼も終わり、そのために集まっていた人も去り、 本当に独りになって、本当に何もなくなった。 ただ生きているから徒に夜を明かした。 何度目かの朝。そんな、日のことだった。 別れを告げたばかりの相手を惜しむには早すぎて、 あるはずのない来客を訝しむ気持ちはあった。 わざわざここを訪れる者とは即ち、 そこにいるのが証持ちであることを知っている者だ。 扉を開いた先にあるのは悪意なのかもしれない。 けれどもう、どうでもよかった。 ……と思っていたから、何周も回って予想を裏切った その人の笑顔と明るい声色に私は呆然としたし、>>0:440 今でもそれが強く印象に残っている。 ] (187) 2022/12/14(Wed) 20:57:08 |
【人】 IX『隠者』 アリア―― 迎えに、ですか [ 確かに聞かされていた。そういう場所があるらしい。 本当ならきっと、そこが私のようなもののあるべき場所。 ここは私のいていい場所ではなかった? いつから、こうする算段をつけていた? 回る思考は動かない表情の向こうに溶かした。 ] (188) 2022/12/14(Wed) 20:57:36 |
【人】 IX『隠者』 アリア[ それからというもの、彼は私をよく構った。>>0:442 といっても、元々彼は洋館の古株として 皆のことを考えて何となしに尽力しているようだった。 その一環に過ぎないのだろうと捉えていたけれど、 けれど、けれどそれは、 あの森にあったのとはまた違う、ひとの温もりだった。 きょうだいどころか家族らしい家族がないわけだけれど もし兄というものがいたらこういう感じだったろうか。 証持ちの面々だけではない。 職員も多数過ごしているこの洋館は、 あの森とは違って賑やかで――居心地は悪くない。>>0:633 そう思っていた。思っている。 時が流れるうちに何かが失われても。 ] (189) 2022/12/14(Wed) 20:58:31 |
【人】 IX『隠者』 アリア[ 三年前。 『彼女』が現れて、私の近くにあるものはひとつ減った。 私はといえば、納得していた。 いわばあるべき場所へ戻っただけなのだ。 私の中にある何かは叫ばない。知らないから。 ただ後世に生きる、その後の『彼女』の記録を知る私が その方が当たり前なのだと腑に落ちる思いを覚えた。 だって、『魔術師』は『女教皇』の側にある存在だ。 私達とはそういうものでしょう。 そういうもの、だっていうのに。 ] (190) 2022/12/14(Wed) 20:59:17 |
【人】 IX『隠者』 アリア[ 他の誰へ向けるものならばともかく、 それがこちらへ向けられるものである限り、 私には見えてしまうもの。ではないだろうか。 歪んでほどけていったもの。>>0:448 置かれた距離の向こうにいるひと。 そこで苦しそうにしているのは誰? ―― どうぞ。 ただの気休めです。 少しはほっとするんじゃないですか。 [ いつだったかばったり顔を合わせた時、 避けようとされたとしても半ば強引に持たせようとした。 からからと鳴る小さなドロップ缶。 ただの薬草飴だ。それらしい味がするけれど、 味がするだけで、少しばかり喉に効く以上の効用はない。 数もそこまで多くはない。市販のドロップスと、同程度。 普通に消費してさえいればすぐに底をつくはずの内容量。 ] (191) 2022/12/14(Wed) 21:01:29 |
【人】 IX『隠者』 アリア効くとは思いますよ。 「私」が作ったものなので。 [ ……という真実は、質されなければ闇の中。 偽薬とはそういうものであるからして。 少しでも気が安らぐきっかけにさえなればいい。 身勝手な祈りに本物の効用などあるべきでない。 では、と一方的に踵を返そうとするのは、 この時も、今も、何も変わらない。 きっと遠い前世も。 (192) 2022/12/14(Wed) 21:04:35 |
【人】 IX『隠者』 アリア 変質したことそれこそが、 かつてそこにあったのは「私」であった証明だった。 それは冷たくてさみしいのに、 ほんのすこしだけ、あたたかく感じられる。 * (194) 2022/12/14(Wed) 21:08:04 |
【人】 XII『吊された男』 ユグ[アリスを祝う合唱隊が、女声合唱に限るものではなく可能な限り全員で歌を歌いたいという計画と知れば、ユグは一も二もなく頷いてその計画に賛同した。 歌の練習もしたけれど、何よりも人を集めるのに精力的に動き回る。 歌でなくとも、手拍子でも、カスタネットでも。 アリスへの祝意を中心として証持ちたちがひとつの計画に参加する。これほど素敵なことが他にあるだろうか。 一度 ユグの参加を懸念して 断られたとは知らず、ゼロにも声をかけようとした。声だけはかけるに至ったか、それすらも避けられていたか。当日になっても諦めなかったが、最終的な結果は旨の知るとおり>>169。 それでも、ひとり参加者が増えるたび、心から喜んだのは事実。] (195) 2022/12/14(Wed) 21:18:24 |
【人】 XII『吊された男』 ユグ[そうだ。 僕らが ちょっと 魂の反発も拒絶も、気持ちの問題だ。 神話の昔、 箱庭の子たちは諍いを表出させて、すべてを壊してしまった。 けれど僕らは彼らではなく、ひとは過ちから学べるもので。 今度こそ僕らがひとつになれば、 いつかの刻と約束をした幸せな世界が叶うのだ。] (196) 2022/12/14(Wed) 21:18:50 |
【人】 XII『吊された男』 ユグ[僕らが争わなければ、崩壊は起きず。 誰も僕らを傷つけることなく。 神は微笑み。 そこに幸福だけがあるはずだ。] (197) 2022/12/14(Wed) 21:21:53 |
【人】 XII『吊された男』 ユグ[にわかに騒がしい朝。 身支度を済ませ、カルクドラから借りた本を読んでいれば、職員のひとりがどこか不安げな表情を浮かべてホールに集まってほしいと伝えに来た>>3。 断る理由もなく従う。そうやって集められたのが、21人。 前に、知らない顔が立っている。 それが意味するところを、知っている。] (199) 2022/12/14(Wed) 21:22:39 |
【人】 XII『吊された男』 ユグ[『世界』はもう戻らない、どこかで死んだのではないかという口さがない噂。 それらを話半分に聞いていた。 もしも亡くなったのならば、生まれるのを待てばいい。 洋館に集まった21人は自分を含めてまだ若く、5つで引き取られてきたアリスの例からすれば、次代の『世界』が生まれこの洋館にやってくるまでの期間を待つことくらいは叶うだろう。 むしろ、その間を平穏無事に過ごし心安く暮らせる絆を作り待つことこそが自身の至上命題なのではないかとすら思っていた。 その『世界』が、目の前に立っている。 顔は知らなかったが、疑うべくもない。 22人の証持ち。様々な思いの入り混じった空気。] (200) 2022/12/14(Wed) 21:23:06 |
【人】 XII『吊された男』 ユグ (202) 2022/12/14(Wed) 21:24:03 |
【独】 IX『隠者』 アリア/* 灰ログを書く余裕さえロストしそうなのですが これだけは言わせてください このクレイジーサイコ神様コン(自称)のユグ氏が いったいどなたなのか わたしは気になって仕方がありません エピローグが楽しみです(まだ1週間先だが?) (-48) 2022/12/14(Wed) 21:24:59 |
XII『吊された男』 ユグは、メモを貼った。 (a28) 2022/12/14(Wed) 21:27:17 |
【教】 IX『隠者』 アリア[ それは深い闇だった。 とうに温度を失った抜け殻を抱きながら、 ずっとずっと考えていた。 考えて、考えて、考えて―― そうして思った。 死とは唯一の不変。永久の安寧。魂の救済なのだと。 あの子にとって救いはもうそこにしかなかったのだ。 そう結論付けてなお、受け入れることなどできなかった ] (/5) 2022/12/14(Wed) 21:28:26 |
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