人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

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【人】 手のひらの上 イレネオ

 
イレネオ・デ・マリアの遺体は見つからない。

一巡査長の身柄は行方不明として結論される。
その捜索も、程なくして打ち切られるだろう。

それはマフィアから警察への手打ち表明であり、
それは警察からマフィアに対するけじめであり、
狂犬が病理を撒く以前に駆除されただけのこと。

誰かが言ったように、署長代理パパにもママにも見捨てられ。
誰かが言ったように、道理と因果に従って。
誰かが言ったように、地獄に堕ちる。


狭い路地裏では空すら見えない。
負け犬が月に吠えることはない。


#AbbaiareAllaLuna


悪人は、等しく裁かれるべきだ。誰かが言ったように。

(91) 2023/09/30(Sat) 5:20:23

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



折れて動かない左も、力比べによる消耗で落ちた右も。
まるで壊れた人形のようだと思考出来るだけまだマシだ。
そうして君
顔を
見せない
よう背け続けるが、
顎に伸ばされ無理やりに向かされるようであれば、
それも結局、見え透いた結果しか齎さない。

「…………は、」

愉快そうな君に、精一杯の笑顔を返す。
それでも苦痛に歪む顔も余裕のなさも隠しきれはしない。
無駄な抵抗と言われればそれまでだが、
笑顔それは己の心を守るための砦だからこそ崩せない。

せめてと、視線だけでもと逸らすことを試みるが
それもまた、結局は無駄な抵抗となってしまう。

揺れる海が君の月に映し出される。
隠しきれない弱さが、間近で、
自らにも見える形で映されている。

男の部屋にある鏡は洗面台に取り付けられたものだけ。
本当はずっと、弱さ虚像を映すその存在がとても、苦手だった。


(-276) 2023/09/30(Sat) 5:22:38

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



触れ合う額はきっと君に、男の異様な熱を伝えてしまう。
滲む汗だって触れ合うことになるだろう。
男にとってそれもまた、顔を歪めるひとつの要因。

気丈に振舞っていたのだと知られてしまうことが嫌だ。
己の弱さを暴かれていくことから、逃げ出したかった。


話し方を忘れてしまったかのように一度言葉を詰まらせ、
代わりに吐き出すのは熱い吐息だ。
それでも、急かす君に伝えなければならないのは、

「……ち、がう。許せない、のは……俺自身、だよ……っ」

それ以上に話すことはない。言っても分かるはずがない。
問われれば答える男ではあったが、
今この時だけは、その全てを晒け出すことはなかった。

男は、察しが悪い訳ではない。
だから、もしかするともう既に……と。
そう考えてしまう頭を、止めることが出来なかった。

それがより一層仮面を保つに障害となると知りながら、
どうしたって、自分よりも彼女を考えてしまうのだ。


笑顔がふ、と──ほんの一瞬、掻き消えた。
(-277) 2023/09/30(Sat) 5:23:41

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「っ…!?」

それは、一瞬のことだった。
読みを違えて受け身に走っていた身体は
容易に引っ張られて、その勢いのまま、机の角へ。

バキッ


鈍い音が、胴から響く。
1本は確実に折れ…周りの数本も罅くらいはいったか。
もしくはまとめて折れたかもしれない。
息が漏れ、衝撃から遅れてやってくる激痛に
まともな受け身も取れずに床に叩きつけられるだろう。

「あ゛、がはっ、ああああっ!」

胸を抑え、蹲る。
脂汗が滲み、止まらない。
一時だけ、その口は言葉を失うだろう。

そして、抵抗する余地も今少しは、ない。
(-289) 2023/09/30(Sat) 9:27:30

【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ

ばづん、と何かを貫く音がして、
ばちゅ、と粘り気のある水音が響いた。

「が、あ、は、は、ああああああああッ!!」

獣のような咆哮が響いて、ぼだぼだとした液体をまき散らしながら男がのけ反る。
涎をまき散らしながらごろごろと床を転がり、喘ぐように息が何度か、途切れる。
それでも、過剰なほどに分泌されたアドレナリンが
哄笑を引き起こし、留まることもなくは、は、はという甲高い音がこだまする。

「い、いっで、でええ、ははははは、いってぇ、なあ、あああぁ、ははははは!!」
「おい、警っ、官としての、仕事だぞ、早くしろよ、治療・・だよ」
「ああ、痛ぇ、なあ、ははは、ほんっと、仕事できねえなぁ、お前、助かる、──――」

がなるように声をまき散らしながら。
ぼたぼた、ぼたぼた。
涎か、あるいはぐちゅりと潰れた水晶体か、その判別もつかないものが床に落ちる。
そのままぐしゃり、と男の巨体がつんのめるように倒れ込むと――

──哄笑も、言葉も止まる。
口の端から泡を吹いて、アレッサンドロは気絶・・していた。
(-307) 2023/09/30(Sat) 13:48:46

【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡

張り詰めたものが一気に放たれる時のような衝撃。
貴方の抵抗ではなく、それは肉体の反射。弓なりに反る背中にバランスを崩し、転がる動作で男もまた振り落とされる。机の脚に鈍い音を立てて頭をぶつけると、茹だった頭はまたぐらぐらと揺れた。

ごろごろと転がる身体に手を伸ばす。捕まえられたかは知れない。振りほどかれるなら抱き竦めるようにしてしがみつこうとした。これは衝動的な執着だ。盛った犬のような荒い息を繰り返して男は貴方の身に覆い被さる。
許せない────見当違いの激情だけがそこにあって。

斃れた身体を仰向けに強いて追い打ちをかけた。


じゅぐ。
振り下ろす。

ぢゅぶ。
振り下ろす。

ずじゅ。
振り下ろす。


しまいには指を突っ込んで眼窩に残った部分を引きずり出そうとしたかもしれない。濡れて潰れた葡萄のようなそれは上手く掴めずに、もう何度目かの舌打ちが空気を裂いた。
ぐちぐちと微かになるいやな水音と男の息遣いだけが、しばらくの間狭い部屋に満ちている。


────それが終われば。
男は貴方の口元を手で拭い、それを貴方の衣服に擦り付けた。
落ちついたらしく深く息をして立ち上がり、扉を開けて人を呼ぶ。
訪れた数人はその状況に驚愕の表情を見せもしたが、
深く追求することはなかったのだろう。
(-322) 2023/09/30(Sat) 18:04:46

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

強く打ちつけたことでずれてしまった眼鏡の位置を直すとか、
連絡のために携帯をまた拾い上げようとするだとか、
今は手にしていない手錠を咄嗟に探す仕草だとか。
そこここに充分な隙があって、男の手慣れなさ・・・・・を示していた。

雑に突っ込まれたそれを奪い取るのは難しくないだろう。
先程とは違いこの道は狭く、男は後ろを向いている。
振り向くのにかかる時間は、貴方の逃走に寄与するはずだ。


────当然、男は追いかけるだろうが。
仕返しに砂でもかけてやれば、更に時間は稼げるだろう。
(-326) 2023/09/30(Sat) 18:52:37

【秘】 Commedia ダヴィード → 法の下に イレネオ

それはこの一連の事件から数週間が経ってからのこと。
男はいつもより少し重い昼食が入った紙袋を持って、狭い路地裏を歩いていた。

「買っちゃったなあ〜……
 誰かに会えればいいんだけど」

お気に入りの店が貼り出していた期間限定商品のチラシに、
『本日最終日!!』の文言が上から貼られていたものだから。
さてどこで食べようか、また公園にでも行こうか。
街を歩いている間に知り合いでも見つければ、
押し付けて一緒に食べてもらえばいい。
そんなことを考えながら、近道に入った路地裏でふと地面を見る。
拭われた形跡のある、古い血痕。
注視しても判別が難しいようなそれに何故目が吸い寄せられたのかは分からない。

誰かが喧嘩でもしたか、派手に暴れたか。
はたまた――これ以上は、今考えることではない。


そのあたりで頭を振り、血痕を踏み越えて歩き出した。

足早に路地を抜け、数週間前と同じように公園の外れのベンチを陣取る。
違うのは、今日は一人ということ。
(-343) 2023/09/30(Sat) 20:15:06

【秘】 Commedia ダヴィード → 法の下に イレネオ

期間限定のチョコバナナとマシュマロのパニーニは表面がごく軽く焼かれていて、齧ると予め火を通されたチョコとバナナが蕩け、表面が炙られているマシュマロがサクサクとアクセントになる。
そんな甘いパニーニを口いっぱいに頬張りながら、今は姿の見えない人のことを思う。
毎日顔を合わせるほどの仲ではなかったけれど、こんなに長い期間会わなかったのははじめてだ。
喋る相手もいないものだから、咀嚼しながら思考は巡る。

イレネオさん、この街から引っ越しでもしたんだろうか。
この街がきな臭くなってしまって、治安も混乱していた。
故に家族に急かされたか、急な転勤を命じられたとか何かで。
お互い連絡先も知らなかったから伝える手段がなかっただけで、きっと別の街で今日も元気にしているはずだ。

貴方はやさしい人だった。
たとえ何処に行っても幸せに、陽の当たる道を真っ当に歩き、今日も大切な人と笑い合っているだろう。
だからきっと、幸せな生を全うして、ああいう人こそが天国に行くだろう。


当然のように、そう思った。
(-344) 2023/09/30(Sat) 20:15:52

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

「っ、痛……」

頭を抑えながら。それでもこの機を逃すわけにはいかないと、あなたのポケットに入った携帯電話を抜き取って。
足元の砂利を砂ごと掬ってから、痛む身体を引きずって走り出す。
片腕に力が入らない。新たに連絡を入れる余裕はない。
だから、最初の場所へと戻るしかない。今ならまだ、迎えに来たはずの同僚がいるはずだ。

「はっ、……ッ!」

蹴り上げられた腹も鈍い痛みが走って、顔を顰める。
足が縺れそうになっても、ひたすらにこの路地を抜けだすために足を動かして。

あなたが迫ってきたところに、掬った砂を投げつけてやるのだろう。
狭い路地では、それを避けることも難しいはずだ。あなたのような体格ならなおさらのこと。
(-364) 2023/09/30(Sat) 23:06:01

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

物が落ちるような気遣いのない音が足元で立った。
それはあなたが倒れ込む音で、遅れて絶叫が喉を震わせる。
対する男はそれを見下ろして、ことりと首を僅か傾げた。

「……はあ。」

ただひとつ、吐かれた息。
その吐息は一方的な暴行ではなく双方間での攻防に詰めていたものが解放されたようにも、やっと大人しくなったと言いたげな溜息にも聞こえた。
きっとどちらでもあるし、どちらでもない。それを男は自覚していない。
丸くなるさまが身を守ろうとするようで、頼りなさに男はまた口元を緩める。これだって無意識のことだった。

「手間のかかる……」

まるで人ではないものを扱うような言葉を貴方に投げつける。
随分苦労させられた。まるで手負いの獣だ。今日はもうひとつ予定・・があるのに、と思考が過る。
────まあ、仕方ない。これも仕事だ。
口元に手をやって男は思考を始めた。貴方はもう抵抗できないだろう、そう信じ込んだ油断がある。試しに足で小突くくらいのことはしたかもしれない。死にかけの虫の、威勢のほどを確かめるような仕草だった。

仕事なのだから、遂行しなければならない。しかしこの状態ではもう、貴方からこれ以上話を引き出すのは難しいだろう。
痛みにあえぐ貴方は、話すどころか座ることすら困難そうだ。

ならば。
ならば、最善は。

(-365) 2023/09/30(Sat) 23:35:57

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

貴方が狂った狼であるなら、これはもっとたち・・の悪いものだ。

ひとつ思いついた男は、貴方を放置して何かを取りに棚に近寄る。
貴方は、最後の力を振り絞ってそれを止めたかもしれない。
それとも、もうそんな余裕すら残っていなかったかもしれない。

どうあれ男はそれを振り払ったろう。酷く単純な、顔面に向けて・・・・・・足を振る動き。
そうして手に取るのは
金槌
だ。ぱん、ぱんと手のひらに打ち付けて感触を確かめる。

男がしようとしていることは、とても悪趣味で無意味なこと。
それでいて残酷なへの布石。
再びの尋問・・が楽なものになるように、
貴方が二度と抵抗できないように、
その意志も行動も削ぐように
────四肢の内もうひとつを、砕いてしまおう。
(-366) 2023/09/30(Sat) 23:36:13

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「あぐっ…う、ぐ…うぅ…はぁっ……」

肋骨を折られては
先程のように動くことはままならない。
身じろぎする度に、激痛が身に走る。

小突かれても、呻くばかりで。
貴方が離れて、拙い、と思ったのも束の間のこと。
何とか首をもたげて、金づちを持つ貴方を見た。

「げほっ…やっぱり、尋問なんかじゃ、ねえだろ…
ただの、拷問、だ……」

避ける事は出来ないだろう。
だから、呻きながらも貴方に言葉を吐きかけて。
笑うのだ、愚かだな、と。
(-367) 2023/10/01(Sun) 0:14:04

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ

熱い身体だ。
一人、いたな。そういうのが。
彼は治療を受けただろうか、と脳裏を過った。
受けたのなら、近くまた会う・・こともあるかもしれない。


歪む表情。
無敵・・とは程遠いその様子。
けれどそれを崩し切らないあたりが、この男の趣味の悪いところを擽った。
湿って熱い吐息が好かった。形のいい唇が引き攣るのが好かった。

ああ。
いいな。


片手は貴方の顎に。もう片手は転がしておいた器具に伸びる。
合わせた額はまるで慈しむような優しさでいて、愛情の発露のように鼻先が擦り寄せられる。
金色が海の底を微かに映している。
そして、そのまま。
貴方の震えを食らうように男の唇が押し付けられた。
丁寧さも何もない。欲情の荒っぽさもない。秘密を引きずり出そうとする求めもない。ただそれは、この男が、昼飯を食う時にするような仕草。
食に拘りのない獣が、食べられるものを見つけたから口をつけた。それだけの仕草だった。

(-390) 2023/10/01(Sun) 14:54:09

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ

可哀想に・・・・。」

哀れむ声には愉快さが滲む。
もう一度軽く口づけて至近に寄せた。それからようやく身を離し、場違いな恭しさでその手を取った。
口を開く。閉じる。弧を描いた。もう一度、開く。

「ダニエラが」「心配ですか」
「それなら」
「貴方が頑張れば」
ましになる・・・・・かもしれませんね。」

嘘だ。
彼女の責めは、もう終わっている。
(-391) 2023/10/01(Sun) 14:54:24

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

貴方が悪いんですよ・・・・・・・・・。」

────なんて無責任な言葉!
厚顔無恥とはこのことだろう。男はあくまで正義を歌う。悪はそちらと貴方に押し付ける。

ぱん。ぱん、と小気味いい音が繰り返し立った。その間にも視線は貴方の下肢を這った。
品定めの視線。吊るされた肉を解体する肉屋の視線。作業ではなく、あくまで真剣に効率を求める目だった。

大腿骨は太い。肉も多いから難しい。
同様にふくらはぎも難しい。叩くなら脛か、足首か。ぱんひゅん。音が空気を裂く。
的は大きい方がいい。

穴から蛇を引きずり出すようにして、男は貴方の足を伸ばさせた。
抵抗するなら叩く。
叩く。
敬意も尊重もない。貴方は気遣いに値しない。
男にはもうひとつ予定・・があり、貴方と過ごす時間は着々と終わりに近づいている。

腿の上に腰を下ろして固定した。
貴方の言葉も制止も聞く気はなかった。
一番手慣れた無骨な武器を男は振り下ろした。

(-395) 2023/10/01(Sun) 15:44:59

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

 
がきん。ひとつ。
がきん。ふたつ。
がきん。
みっつ。
がきん。
よっつ。


がきん。 
(-396) 2023/10/01(Sun) 15:45:59

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

こんなもの、尋問どころか拷問ですらない。

繰り返される真っ直ぐな暴力。
男はそれを仕事だと思い込んでいる。
貴方が悲鳴をあげる度に口角を上げた。
貴方が床を叩いて逃れようとする度に喉を震わせた。
それでもこれは楽しみのためになされているものではない。
あくまで。
あくまで、真摯に。

これは次の仕事のための布石。
次貴方と話す・・時の為の準備。

そうして金属面への抵抗が変わった・・・・頃。
貴方の様子を気にすることもない。男は最寄りでバスを降りるような身軽さで、貴方の上から退いた。
(-397) 2023/10/01(Sun) 15:46:30

【秘】 きみのとなり リヴィオ → 法の下に イレネオ



合わせた額も、擦り寄せられる鼻先も。
己を映す金も……顔を歪める要因ではあれど、
動揺を誘うような何かはなかった。

ただ、そこから先が
良くなかった


「……………ん、ッ」

押し付けられた唇の感触に男は目を見開き、
瞳をより一層強く揺らす。

それはきっと、長い時間ではないのだろう。
だとして、この男にとってはそうではなくて、
落ちた右手をまた持ち上げ、
君の体にその手を当て
弱々しく
押し返そうとする。

「……ふ、……………」

動揺で思考がぐちゃぐちゃだ。
自分がどのような表情をしているかさえ分からない。

ただ、目の前の君だけを感じることしか出来なくて、
自らが零す声にどうしようもなく弱さを感じて、
そんな自分がとても、とても、
嫌で堪らなかった。


(-398) 2023/10/01(Sun) 15:55:39

【秘】 きみのとなり リヴィオ → 法の下に イレネオ



やがて一度目が終わる頃、何かを言おうと開いた口は
二度目によって音もなくまた、閉じられてしまう。

体が失った酸素を求めて、激しく上下する。
自分は知らぬうちに息を止めていたのか。
そんなことをぼんやりとした思考の中、考えて。
取られた手を、僅かに虚ろな瞳が追いかける。

あぁ、心配だよ。だって俺が連れてきたんだ。
友人に任されたこともあるけど、俺自身が彼女を心配で。
ここはいい場所とは言えないが、それでも。
彼女には少し、少しでも──休んで、ほしくて。


ぐず、と……胸の奥で何かが渦巻いた。

愉快そうな声も、弧を描くその唇も。何もかもが
信用に値せず、提案に乗っていいことがあるとも思えない。
それでも、欠片でもそれが"本当"であるなら、

「………………わかっ、た」

首を、縦に振る以外に出来ることはなかった。

せめて彼女の左手の小指大切なものにだけは触れないでくれと、
愚かな男は愉しげに笑う君に──願いを乞うた。

宝物のように大切に撫でるあの仕草が深く、印象に残っていて。
あんな風に何かを大切に思う気持ちは──彼女から、貰ったものだったから。
(-399) 2023/10/01(Sun) 15:57:58

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

路地裏を知り尽くしている程度では貴方に分があった。
それでも“このあたり”に限ればおそらく互角だった。

だから男は油断した。
だから男は隙を見せた。
自負があったから、思考が鈍った。
鼠程度捕まえられると思っていた。

窮鼠は猫を噛むのだ。
投げつけられた砂はさしてダメージにならなかった。
それでも物体が迫れば目を守ろうとするのは反射の動作だ。
立ち止まった隙に貴方は角を曲がったかもしれない。最後の力を振り絞って走ったかもしれない。それだけの時間はきっとあった。
入り組んだ路地は分かれ道が多く、そのひとつひとつを確認するだけで時間を取る。

貴方は逃げた。
男は追った。
貴方は逃げるためだけに走った。
男は、貴方が自分から逃げている・・・・・・・・・のだと思った。
街に出るという選択肢を失念している。



だから。
男は貴方を見失ったのだろう。
建物の向こうから車の出る音だけが聞こえて、
ようやく気付いたころには遅かったのだ。
(-400) 2023/10/01(Sun) 16:11:56

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ

半端な抵抗はこれを煽るだけだ。
弱りを強調するだけの手はむしろこちらの勝利・・を知らせた。
取った手の熱さが愉快だった。冷たいよりよっぽどよかった。
命を甚振ることを、この男は楽しんでいる。


からん。音がして器具を床から攫った。
高尚な道具なんてない。手にした器具は飾り気のないペンチ。
貴方が耐えなければ、彼女の整えられた爪が、こんなもので台無しにされることになる。
もう終わったことだ。

従順な様を褒めてやりたくて、けれど空いている手がない。
仕方なくもう一度額を合わせてから、ゆっくりまばたきをした。
本当なんてここにはない。
提供された聴取内容も。
貴方が吐かされる“真実”も。
傍から見れば慈愛か、情欲に見えそうな男の態度も。
本当なんてひとつもない。ここにあるのは偽物ばかり
────痛みを除いて。


(-401) 2023/10/01(Sun) 17:33:43

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ

はじめは右の小指・・から。
そこは彼女の宝物にもっとも遠い。

指先に単純なつくりの金属が宛がわれる。
塗り上げられた黒の表面がぐ、とひしゃげさせられる。

そして。





一気に、引き剥ぐ。
(-402) 2023/10/01(Sun) 17:34:49

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「ッは、どの口が言って、やが、る。」

呼吸をする度に、胸が痛む。
けれどその口も、貴方の行動によって
苦痛の悲鳴で彩られるのだ。

足首か、脛か。
兎も角、金属の面が骨を殴打する感覚が伝わる。
ボキ、ゴキン、バキ、グチャ。
嫌な音が響いて、激痛で頭が真っ白になって。

男が離れた時にはもう
足の感覚なんて残っていなかった。
残るのは、足だったものだけだ。

「あ、ぐ、ぅう…はぁ、っ…」

骨が砕けて、筋が潰れて。
皮膚が裂ければ、熱が零れていくのも感じる。

先程のように抵抗する気力も無ければ
激痛のショックと、抵抗する際に殴られた為に
意識すらも朦朧としているだろう。

尋問を続けることが出来るのかも、怪しいだろうか。
(-407) 2023/10/01(Sun) 18:59:06

【秘】 きみのとなり リヴィオ → 幕の中で イレネオ



煽るつもりなど、この男には微塵もなかった。
思考の乱れた頭では考えようもなかった。
ただ逃げたいと思う心が、そこにあっただけだ。

冷たい金属の音が響く。

何をされるかなんてもうとっくに、理解しているのだ。
こんなのはもう、取調という枠から外れていることだって。
最初から、そうではなかったことだって。
理解していて尚、逃れることは出来なかった。
君に、正しさを教えることなんて叶わなかった。


虚ろな瞳は天井に向いて、
合わさる額と金の瞳をぼんやりと眺めてから
離れていく君の影を見送った。

それでも、最後の抵抗だと言わんばかりに
君が居る方から視線を逸らし、その表情を隠そうとする。
引き結んだ口は不器用な笑みを懲りずに浮かべて、
宛てがわれた金属の感触を、指先に感じた。

痛みには、慣れている──けれど。


(-408) 2023/10/01(Sun) 19:13:27

【秘】 きみのとなり リヴィオ → 幕の中で イレネオ



、ッ……
あ゛
あ゛
あ゛
ッ゛
ッ゛〜〜〜!!」


絶叫。ここまで出来る限り笑顔に隠して、
それで、苦痛さえも閉じ込めていたけれど。
どうしたって、抗えないものはある。

体が跳ねる、左手の指先が床を掻く。
足は
ダンッ
と床を叩いて、
右手の指先が君の手に縋るようにきゅうっと力が入る。
目を見開いて、流れる汗は床へと落ちて。
そうして、めいっぱい開いた翠から一粒の雫も落ちていく。

「ぅ、あ゛あ゛…ヒュッ、は………っふ、……あっ、あ゛」


泣けるような男ではなかった。
泣き方なんてとっくに忘れてしまった。
それでも、それは生理的なもので、止めようがない。

落ち着けようと大きく吸った息は、
カヒュッと男の喉から詰まるような音を鳴らした。

既に異常とも言えるほどに、堪えてきた痛みもあった。
だから、それら全てが集約し、爆ぜて。

そこから先はもう止められない。
それでも、君へと頷いた以上嘘には出来ない。
男は、真面目だった。それでいて、愚かだった。
(-409) 2023/10/01(Sun) 19:15:21

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

最後にもう一度だけ貴方の方を向いたかもしれない。
横柄に腰を折り、手を伸ばして前髪を掴んだ。

汗の浮いたかんばせ。涙は流れなかったかもしれないが、きっと滲んでいる。
濁る千草を目に映す。金が混じればまるで春のよう。色ばかりは明るく華やいで、それが酷く不似合いだった。

それで、男は満足したらしい。
最後にふっと息を吐いて笑う。次にはぱっと手を離した。貴方の頭部が床に落ちるごとんという音がしたかもしれない。
そのままやっぱり自然な仕草で​────本当に、ただの仕事を終えて休憩に出る時のような自然さで​────取調室の扉を開けて。

「救急車を。」
「少し暴れたので、手当が必要かと。」

やっぱり事も無げに、淡々と報告する声が聞こえた。
(-417) 2023/10/01(Sun) 20:12:21

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「う、っ……」

前髪が引かれて、頭が持ち上げられる。
痛みに歪んで、脂汗と涙を滲ませた表情は
貴方にとって満足のいくものだったろう。

貴方の事を認識出来ていたのかすら怪しい意識のまま
手が離されて、頭は重力に従って地面へと。

重たい、硬いものが落ちるような音と共に
男の身体は床に転がって…脳に走る痛みを感じながら
今度こそ、意識は暗闇の中へ溶け落ちていくのだった。

淡々と報告する声を聞かぬまま
貴方の声に反応した係員が慌てて動くのだろうが
普通に救急車を呼べば、目につくことは違いない。
今のこの状態で暴行が明るみに出るのも如何なものか。

そも、貴方に命じたのは過激派の集団だ。

一先ずは命に係わる事はないだろうとの判断のもと
取り調べの終わらぬ罪人は、応急手当を受けてから
牢の方へと戻されていくのだった。

その事を貴方が知るかは、今は分からぬままだっただろう――
(-421) 2023/10/01(Sun) 20:27:45

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ



その声に。
男はぱっと口を抑えた。手の下の唇は笑みの形に歪んでいた。
自分の体温もかっと上がった気がした。それが男は不思議だった・・・・・・
だけれど、それをただ不思議がる大人しさは生憎持ち合わせていない。
男が持っているのは、ただその情動に身を任せる愚かな素直さだ。
剥がされた小指の爪を眺める。裏を表を返して見る。白、黒、赤の三色が人工の光を弾いて光った。くく、く、と喉から笑いが漏れる。

喘ぐように息をする貴方に目を映す。
時折は咳き込み、逃避にもならないように身を震わせる貴方を見る。
瞳はそのまま。
貴方の顔に向いたまま。
男は右薬指に手をかけた。

(-424) 2023/10/01(Sun) 20:31:38

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ

みち。


肉とその被膜が引き剥がされていく。

みち。みち。みち。


上下に裂かれる神経が悲鳴をあげる。


みち。みち。みち。みち。


壊れた玩具かなにかのように貴方が叫ぶ。
駄々をこねる赤子のように頭を振る。

「あはっ」


縋るように握り込まれる指。
瞳ごと溶けるように零れる涙。
男は笑っていた。


「はは……
ふ、
ふっ 、く」


笑っている。



ふ、
ふ、
あははっ、
あははは!」



壊されていく貴方の上で。
これはずっと、笑っていた。
笑っていた。
(-425) 2023/10/01(Sun) 20:33:42