失格 セナハラは、メモを貼った。 (a4) 2021/07/13(Tue) 0:00:24 |
【秘】 遊惰 ロク → 失格 セナハラ「…………」 カサリと音を立てて便箋を捲る。 捲り乍ら、医師の声が耳を通り抜けていく。 ――あァ、なんだ。と男は思った。 やっぱりお前サン、脅してなんかいねェンじゃねェか。 アハ、と思わず洩れた笑い声をあげて。 顔を上げ、頼まれた手伝いとやらを請け負う。 「死んだあとから弄られんじゃ、遺書も形ナシだなァ。 ――わかった、必要がありゃおれが書き換えとく」▼ (-27) 2021/07/13(Tue) 0:02:03 |
【秘】 遊惰 ロク → 失格 セナハラ まァ、と付け加えて言う事には。 「あんましその必要もねェとは思うが。 ――あのお嬢サンは“なにも知らねェ”ままなンだし。 おれも、もう後のことは考えねェでいいからなァ……」 先が無い事を仄めかし乍ら、続きに目を通している。 時折、読めない字に当たって首を捻りつつ。 尤も、後の事を考える必要が有れども無かれども、 この話に関してはさしたる違いは無いのだろうけれど。 男は、己の責を誰かに負わせるつもりは無かった。 (-28) 2021/07/13(Tue) 0:13:10 |
【秘】 失格 セナハラ → 遊惰 ロク男からすれば、貴方も充分に子供である。 生きるべきだと諭そうとして、 「……。まあ、自分の命ですから。 自由にすれば良いと思いますけど」 自分が教わった事を思い出し、やめた。 死ぬべきだとされる事と、生きるべきだとされる事。 その二つに差など無い。 せめて貴方達には自分の意思で決めて欲しい、 男はそう願っている。 「そこに新しい封筒と糊がありますから、 入れて封をしておいてください。 僕がこうして頼んだ事は伏せたまま、 メイジ君に渡して頂けますか? ……僕がここに居る、とは知られたくないもので」 小さく苦笑した。 彼に合わせる顔が無いのだった。 たとえ彼から見えないとしても。 (-29) 2021/07/13(Tue) 0:56:57 |
【秘】 遊惰 ロク → 失格 セナハラ「もうちっと―― あの子らブジに帰すまでは、気張ってみるがね。 ……終わりがわかってンのはいいモンだなァ」 本音を溢して、ヘラリと笑って。 仕切り直す様に、便箋を掲げて軽く振る。 「坊チャンには頃合いみて渡すとしようか。 知られたくねェってンなら、 ワザワザ言うこたしねェから安心してくれ。 ……アー、お前サンの体弄ったのはまずかったかなァ」 まァ、その辺りは適当に書き足すかどうにかするだろう。 医師なりの子どもの守り方がそれだというのなら、 キッチリやり遂げさせてやりたいと思ったものだから。 それから、便箋を元の通り折り畳み乍ら、 「ほかにやっとくことはあるか」と軽く問う。 (-37) 2021/07/13(Tue) 17:17:12 |
【秘】 失格 セナハラ → 遊惰 ロク「ま、完全無罪ってのも難しいでしょうから。 特赦さえ得られれば良いですよ。 世間が彼を被害者と扱うのであれば、それでいい」 加害者として生きる事の苦痛は、知っているつもりだ。 被害者として生きる事の苦痛は、知らないのだが。 「他に頼む事はありませんよ。……あ、いや」 会話を終わらせようとして、思い出したように貴方を見る。 “彼方” の共犯者 にはしておいて“此方”にはしない、というのは筋が通らないだろう。 「少しの間だけで良いので、目を閉じてもらえませんか」 (-41) 2021/07/13(Tue) 20:50:47 |
【秘】 遊惰 ロク → 失格 セナハラ そういうモンか、と畳んだ紙を眺める。 閉じた世界で 虐げられて 然程広くは無い。 「――目を、? ……、」 彼の前で目を閉じる事に、躊躇いを覚えはしたものの。 ――大人の前で無防備を晒す事に、虞を抱きはしたものの。 「はいよ。なんだろ。 ……見られたくねェモンでもあったかねェ」 アッサリと ――そのつもりで、実際のところ恐る恐る―― 言われた通りに瞼を下ろし、 暗くなった視界の中で話し掛け続ける。 沈黙を恐れたのだろう。 (-44) 2021/07/13(Tue) 22:03:54 |
【秘】 失格 セナハラ → 遊惰 ロクその頭部に手を伸ばす。 案の定触れる事はできず、ただ虚しくすり抜ける。 それでも。 撫でるように、掌で頭の形をなぞった。 「……はい、おしまい。 もう目を開けて良いですよ」 貴方が目を開ける頃には、もう手を下ろしている。 本当は見られても構わなかったが、貴方は拒むだろう。 貴方がこの手を求めていたのは今ではなく、 ずっと幼い頃だったであろうから。 全てが過ぎ去り、今となってはどうしようもない事だと理解しながら──、 そうしたかったという只の自己満足だ。 (-45) 2021/07/13(Tue) 22:27:08 |
【秘】 遊惰 ロク → 失格 セナハラ「――、終いかい」 クロスグリが露わになって、瞬く瞼に幾度か隠される。 僅かな時間振りの色彩が少しばかり目に痛かった。 「そンじゃ、まァ、これにて。 なにか用がありゃアまた呼んでくれ。 もうちっとはここにいンだろ、互いにさァ」 今、何を貰ったのか――与えられた事も知らぬ儘の男は、 そんな風に。アッサリとした別れを告げる。 至って平々凡々な挨拶は、だからこそ可笑しな話だった。 (-48) 2021/07/14(Wed) 1:23:15 |
【秘】 失格 セナハラ → 遊惰 ロク視界の隅に捉えたままの少年に、一瞬目をやった。 「そうですね。 まあ、僕はニエカワくん次第ですが」 貴方がどんな選択をしようと、 停滞する己から見れば進むことに変わりはない。 だからこそ、別れの言葉はこのひとつしかなかった。 「……いってらっしゃい」 (-69) 2021/07/14(Wed) 13:15:20 |
【秘】 失格 セナハラ → 首枷 ニエカワ「……お待たせしました」 短くそう言うと、貴方の傍らへやってくる。 たとえ目の届く場所にいても、やはり離れるのは不安だった。 「ニエカワくんはこれからどうしますか? 僕はその、きみの傍にいますから。きみが決めてください」 (-70) 2021/07/14(Wed) 13:22:50 |
【秘】 首枷 ニエカワ → 失格 セナハラ貴方が自ら戻ってくればほっとした様子で表情を和らげる。 「おかえり、セナハラさん」 貴方の手をぎゅっと握る。 「俺はずっとこのままでいいよ……セナハラさんさえいてくれれば……」 ミロクさんのセリフをふと思い出して 「──セナハラさんは。成仏したい……?」 じっと、何かを測るような目で貴方を見上げる。 (-72) 2021/07/14(Wed) 13:48:40 |
【秘】 失格 セナハラ → 首枷 ニエカワ手を握られれば、僅かに身体が強ばってしまう。 それを悟られないように、笑みで誤魔化した。 「成仏は……できないと思うので。 僕が行くのは浄土ではなく、地獄でしょうから」 男は己を加害者とみなしている。 対して貴方は間違いなく被害者であり、 生前の行いに非などひとつもない。 この地を離れれば二度と会うことはないだろうと、思っている。 ──そうなってしまえば、己の罪は一体誰が許してくれるというのだろう? 「僕も、ね。ニエカワくんがいてくれれば、良いんです」 貴方と同じ言葉を返す。 されどその言葉の裏には、天と地程の差があった。 (-73) 2021/07/14(Wed) 14:09:41 |
【秘】 首枷 ニエカワ → 失格 セナハラ「………」 手を握った時の反応や笑顔の違和感に目を逸らしながら指を絡めた。 「天国にセナハラさんがいないから、俺も成仏したくないな……」 言葉の裏にどんな思いがあろうとも、貴方の言葉だけが少年にとっての真実だ。 「じゃあ約束……今度はちゃんと守ってもらえそうだね……」 空いた手が貴方の首筋へと触れる。 「でも、もし違うところへ行きたくなったら行って……? その時は、俺もついていくから……」 地獄でも来世でも。 その執念は愛情という名の呪いだ。 (-76) 2021/07/14(Wed) 15:25:01 |
【秘】 失格 セナハラ → 首枷 ニエカワひゅ、と止まった筈の息が詰まる。 首筋に触れる手が、まるで首輪のように思えた。 己を罰する男の魂は、 愛情という名の呪いによってのみこの地に留まるだろう。 「……、はい。誓います」 永遠を誓う言葉を、小さく呟く。 その永遠に未来などひとつも無く。 ──……結ばれた縁の色は、もう見えない。 (-77) 2021/07/14(Wed) 15:52:32 |
【秘】 首枷 ニエカワ → 失格 セナハラ「ふふ……なんか、結婚式みたい」 細い指の腹が頸動脈当たりの肌を滑る。 そのまま首裏へ手を回すと自分の方へと引き寄せて、冷たい唇の端へ口づけを贈った。 「『汝を妻とし、今日より いかなる時も 共にあることを誓います』……」悪戯に子供のごっこ遊びのようなことをして幸福そうに目を細めて笑う。 そんな言葉も貴方にとってはさらなる首枷となるかもしれない。 (-78) 2021/07/14(Wed) 16:34:13 |
【秘】 失格 セナハラ → 首枷 ニエカワ何の抵抗もせず口付けを受け入れる。 覆水は盆に返らず、後戻りなどできやしない。 目を細め笑う少年を見て、思う。 自分はいつかきっと、逃げたくなる。 しかし貴方は、絶対に自分を離さない。 だからこそ、赦されたと安堵できるのだ。 ……一人では難しい約束も、二人でなら守れるから。 この枷は、罰を求め続けた男に相応しい。 (-79) 2021/07/14(Wed) 18:25:04 |
セナハラは、遠くから見守っている。 (a18) 2021/07/14(Wed) 20:56:40 |
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