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【独】 文字食う紙魚 蛇神 阿門これは最後まで、衆目の内には暴かれなかった秘密。 蛇神阿門は"触手人間"だ。 とはいえ人外のものであるわけではない。両親は人間で、本人も人間だ。 隔世遺伝で受け継いだもので、祖母も同じく触手人間だったと聞いている。 体の大きくなった時に、祖母からどんなふうに振る舞うべきかを諭すように教えられた。 胸の真ん中の辺りから臍の下にかけて、古傷のように見えるスリットがある。 大きな臍のように腸管を押し上げるように器官が押し込められていて、 数十本ほどの触手が体の中に入っている。そのぶん、食は細く、腹が減りやすい。 触手を体の外に出す時に血液や水分が大量に持っていかれるため、水分補給が寛容だ。 体の内側の薄い皮膚まで洗う必要があるため、風呂の時間をずらして入っていた。 子供の頃から自分の体は人とは違うのだと、強く教えられてきた。 実際、明かしていい思いをしたこともなかった。 なるべく他人に体を見せないよう、触れないよう、距離をとっていきてきた。 仮病であったり理由をつけて、旅行行事は避けてきた。 はじめて修学旅行に行けたのは高校の時、去年。個室のホテルで過ごすことができたからだ。 こうして大人数との旅行に足を運んだのは、はじめてのことだったそうだ。 (-2) 2022/02/04(Fri) 21:52:59 |
【置】 文字食う紙魚 蛇神 阿門個室にうつってから、皆の部屋に顔を出す回数も減ったそうだ。 この日の朝もひょっとすると、きっと。 (L0) 2022/02/04(Fri) 21:55:46 公開: 2022/02/04(Fri) 22:00:00 |
【秘】 文字食う紙魚 蛇神 阿門 → あるがまま 一葉 梢矢>>-7 扉が開く。どうやらシャワーを浴びて少したった頃のようで、 短い髪は初日のときのように湿気でぱさぱさとしていた。 機嫌のほうとみれば別段普段と変わりなく、いつもどおり。 平然と、遠巻きにしているような風合いで、何を気にしているようでもなかった。 「ああ、催しものの相談してたのか。そういうの、聞かなくなってたもんな。 もう花火は買ってあるのか、それともこれから?」 寝間着代わりの厚手のパーカーとジャージに着替えてしまっていたが、 それもさして気にしたりもせずにスリッパを裸足のまま突っかけた。 買い物するなら、と小銭入れもポケットにつっこんで。 (-8) 2022/02/04(Fri) 22:55:10 |
【秘】 文字食う紙魚 蛇神 阿門 → あるがまま 一葉 梢矢>>-11 「そうか」 短い返答。マフラーで首元を埋めて、外に出てもいいようにして。 コンビニで買い込んだ常温のペットボトルを、パーカーのポケットに突っ込んだ。 出かける準備だけはしながらに。 タイマンで会話できる今に、秘密の会話を詰め込んでるんだろう、という気遣いを感じて。 少しだけ、出掛けの準備をゆっくりすることにした。 「お前は誰かに裸を見られたこと、……は、あるか。 なんだろう、そうだな。お前が毛皮のまま風呂に入ってても、多分誰も言わないんだよな。 でも混浴の時の会話、覚えてるか。 水着を着てても、男女で一緒の風呂に入るのはどんなに言葉を重ねても抵抗がある感じだったろ。 俺の秘密っていうのはああいう感じなんだよな。 不気味の谷みたいに、人間に近しいけど異質な、それも体に関する違いがある」 視線はなんとなく下に向いた。意識したわけではなく、問題が頭をもたげるように。 畳敷きとリノリウムの境に腰を下ろして、いつもより低い声が言う。 「お前たちに比べると、俺は半端なんだよ。 コンプレックスをそういう不思議ですごい力で後回しにはできないし、 取り返しのつかないようなものではないし、手術した人もいるって聞いてるくらい。 俺は人間だし、でも、ずっと問題はついてまわる。 みんなの秘密を見るたびに、自分もああして評価されるんだと思うと、嫌だった。 だからこれからも、同じ様に秘密にしていく」 (-26) 2022/02/05(Sat) 7:04:24 |
【秘】 文字食う紙魚 蛇神 阿門 → あるがまま 一葉 梢矢「自分のことは自分で考えるよ。それでいいと思ってる。 他人の手を借りなきゃいけないときが来たら、俺はきっと困るんだとも、思ってる」 自分一人で解決できることではない、解決できることばかりではない。 多分蛇神の言う事は悪あがきだし、子供の癇癪でしかないのだろう。 それでも明かされなかった今は、明かされなかったことに安堵してやり過ごすだけ。 機会を逃したと、誰かはかわいそうがるのかもしれない。 「最初のうちはそういうことも忘れていられたから楽しかったけれど、 秘密を知って、みんな秘密の話をしてるのがさ。思ったよりちょっと、苦しかった。 いや、わかってる。そうした秘密を分かち合って負担を軽くするための催しなんだ。 だからそれにまごついてる方が天の邪鬼なんだってのは、そうなんだ」 立ち上がって、隣に並んで。 ぽんと背中を叩いたかもしれない。大丈夫、気にしてない。 誰に惜しまれても、今はこれでいい。 「花火いくか。お前、火とか怖かったりしないの。 けっこう派手なの買ってきてると思うぞ、音出るやつとかさ」 (-28) 2022/02/05(Sat) 8:30:56 |
【秘】 文字食う紙魚 蛇神 阿門 → あるがまま 一葉 梢矢「そうだな。今解決しなくてもいいこと、だって思いたい。 今はやるべきことがあって、俺にとってそれは、秘密より優先したいから。 ……自分に邪魔されるわけにはいかないんだ」 秘密があってもなくても、知っても知らずとも。 こうして同じ時間を過ごすことには、どうやら困らないらしいから。 「そう、じゃああんまり筒の花火には近づいたりするなよ。 単純に危ないし。突き回したりする遊び道具じゃないからな。 ああでも、手持ちのやつとかのがビビるかも。 ……これ俺のIDでさ……」 個室から部屋までの道のりで、気軽に連絡をとりあえるSNSのアカウントを出す。 そういう、離れてもやりとりのできるやつを持っていないのなら、導入の仕方から教えるかもしれない。 少なくともここで得た縁は、誰かに言われた通りの一度きりではなくなったかもしれない。 (-31) 2022/02/05(Sat) 9:37:53 |
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