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【秘】 飼い狗 ムルイジ → 凶つ"嫉妬"の悪狼 サダル部屋のあちこちに、これ見よがしにカメラがある。 ここも自分の部屋と同じように、プライバシーなどない。 環境としちゃ、どっちもどっちだなと口の端を持ち上げた。 「そうかよ。そりゃ重畳。 熱狂も怒号も侮蔑も嘲笑もありゃ、 勝負師冥利に尽きるってもんだな。 何をしに来たかと問われ、 やることは一つと言われると鼻で嗤い。 「……だよなァ。 狭い密室に、互いを知らないわけじゃねェ男女が二人、 ヤるこた、いつだって一つだな」 適当に椅子を取って、座る。 ようやく、目線が合う位置まで、辿り着けた。 「……約束を果たしに来た。ほら客が席に座ったぜ。 何でキメるよ……ディーラーさんよ」 オレの、こいつとの賭けは。 ――まだ終わっていない。 (-76) 2021/07/11(Sun) 14:24:45 |
【秘】 凶つ"嫉妬"の悪狼 サダル → 飼い狗 ムルイジ「……」 一歩分、さらに距離を詰める。手を伸ばせば触れる距離。 近づいてきた緑色が、かすかに揺れる。 「……せっかち。 女を急かす男は嫌われちゃうよ。君は気にしないかもしれないけど」 男に呪いを掛けられた。忘れる筈が無い。 自分と男の勝負は、まだ続いている。 ──でも、その前に聞きたいことがあった。 「何で勝負するかは決めてる。でも……でもさ。 君、"私を見て"勝負してくれるの?君が救いたかった女と重ねたままじゃないの?」 どろり、胸の中に重たいものが渦巻いて。 「私は今まで一度も、君をどんなギャンブラーとも重ねて見てなんか、いないのに。 私は君しか、見ていないのに」 (-77) 2021/07/11(Sun) 14:46:02 |
【秘】 飼い狗 ムルイジ → 凶つ"嫉妬"の悪狼 サダル言っとけ。じきに強請るようになると言いかけて、 微妙な、本当に些細な言葉尻の変化に眉根が寄った。 「………」 相当に。 自分の打ち込んだ楔が効いたとみた。 ……こんな女だったか……? いや……こんな女だったんだろうな。 だからオレは――。 「卓囲んで目の前の相手以外の別のモン見てる暇あるかよ。 少なくともテメェと向き合ったとき、 オレにそんな余裕は一匙もねェ。 ディーラーを前にしたギャンブラーはそういうもんだ。 ああ、ただ……そうじゃねェとき。 賭け台に向き合ってないときまで、 全ての時間の視線や思考を釘付けにしたきゃ……。 お前しか見えねェようにしたきゃ」 舞台の上で、お前がやったように――。 ▼ (-79) 2021/07/11(Sun) 15:46:07 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → 凶つ"嫉妬"の悪狼 サダル「――賭け、勝ち、奪うしかねェだろ。 オレ達は、そういう生き物なんだから。 ただ、正式に、言葉にしてほしいなら、 ちゃんと言ってやる」 軽薄な笑みが、スと消える。 それは恋人には絶対向けない表情で、 恋人に向けるよりも強く、濃い感情。 一人のギャンブラーであり続けた男が、 その人生全てをテーブルの上に乗せる、 熱病に似た灼熱の感情と妄執の"告白"。 「――サダル。 お前と勝負がしたい」 一人の賭け師と、賭け師として。 (-80) 2021/07/11(Sun) 15:47:43 |
【秘】 凶つ"嫉妬"の悪狼 サダル → "賭け師" ムルイジ「……ッ」 ぞくりと肌が粟立つ。 こちらを食い殺してしまいそうな、正真正銘掛け値なしの鋭い感情。 煌々と燃える炎を点けられたように体の奥が熱くなる。 ──嗚呼、これだ。私はこれがたまらなく好きなんだ。 「私に昔燃えるような勝負の心地よさを教えたのは君。 私に誰より一番重たく狂おしいほどの妬みを抱かせ続けたのも君。 私をとっておきの話で傷つけたのだって勿論君。 ……ずるい。ずるいよね。 私、ずっとずぅっと、君にめちゃくちゃにされてきたんだよ?」 気付いてしまった。 嫉妬の炎の底にある欲望を。 騙し傷つけ、自分と同じ場所に堕とすだけじゃ全然足りない。飢えて飢えて、決して満たされるなんて事がない。 欲しい。 欲しい。 君の全てが── たまらなく欲しい! ▼ (-83) 2021/07/11(Sun) 17:00:12 |
【秘】 "賭け師" サダル → "賭け師" ムルイジ「──やってやろうじゃないか。巻き上げるのは得意だもの」 燃え広がる炎に身を委ねる。 もう我慢しなくていい。仮面を被る事なんてしない。 自分の生きる為の薪であった、自分の業とも言うべき"嫉妬"を剥き出しにして。 恋なんて生温いと思わせるほどの炎を燃やし。 自分の全てを、相手に叩きつける。 身も心も焼き尽くすような激情に身を委ねながら、勝負師は隠し持っていた"ゲーム"を用意する。 「──ムルイジ。これが正真正銘、最後の勝負だ。 勝ったら相手の全てを貰う。分かりやすいオールイン。 用意したゲームはロシアンルーレット。 実弾を込めたその銃で──私を、撃てる?」 指先一つで相手の命を攫える鉄の塊。 噛み付くように睨め付けて、賭け師はそれを差し出した。 文字通り、命を賭けてやろうじゃないか。 (-84) 2021/07/11(Sun) 17:02:49 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル余りにも温度の高すぎる焔に触れると、 人は肌に冷たさを覚えるという。 このディーラーを前にしてオレが覚えていた、 絶対零度の透徹した思考と理論はやはり、 その奥に潜む情念の緑色の炎の裏返しだった。 皮膚の表面を炙られるような緊張感に、 己の中の賭け師としての血が騒ぐ。 差し出された鉄の塊。 引き金を引けば弾が命を奪うそれを見て。 ――ああ。成程確かに。 これなら、どんな結果が出ても、 二度と忘れることはできないだろうな と思った。このディーラーの。 この賭け師の。 この女の執着と執念を、鉄の温度で感じた。 「………」 ――命を。――間違いなく、乗せてきやがった。 それは、自身がめちゃくちゃにされてきた 可愛い女の稚気のように。意趣返しのように。 オレ自身を――オレの心を、めちゃくちゃにするために。 ▼ (-85) 2021/07/11(Sun) 17:47:51 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル必要な情報は与えられない。 必要な幸運に縋りつくことも許されない。 選ぶのは自分で、それを選ばせるのが目の前の"賭け師"だ。 選択肢は山ほどある。 ――弾が込められているのか。 ――引き金を引いたとき銃の挙動は。 ――撃った後に起こることは何だ。 ――これ自体が罠の可能性もある。 ――イカサマが含まれているか。 ――この"賭けの真意"は何だ。 ――真の、勝利条件とは。 ――どこに向けて。何を撃つかが――オレの手の中にある。 ニアの言葉が脳裏をよぎる。 『……だから、次からは賭ける前から。 それがギャンブルかどうか、よぉ〜く確かめるっすよ』 分かってる。 今度はしくじらない。 だけどな……ニア。 本当に勝ち取るためには、 先に賭け金をテーブルに置かなきゃいけねェんだ。 ▼ (-86) 2021/07/11(Sun) 17:49:05 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル銃口を。 ―― 己の頭に向ける 。「……一つだけ、聞かせろ。 サダル。 それで、このギャンブルに決着をつける」 相手が命を差し出す覚悟なら。 こっちも相応の物を支払わないといけない 。これは"賭け"なんだから。 どんなに不平等だろうが不条理だろうが、 それに勝つには、自分の心すらも何もかもを捻じ伏せなければ。 ――そこに勝利なんて、ない。 嫉妬の怪物に。 豪運の調伏者は問うた。 「オレに――勝てると思うか?」 かつて自分を地獄に落とした女に――問うた。 (-87) 2021/07/11(Sun) 17:51:18 |
ムルイジは、ギャンブラーだ。 (a40) 2021/07/11(Sun) 17:58:50 |
ムルイジは、その引き金に、指を掛けている。 (a41) 2021/07/11(Sun) 18:00:47 |
【秘】 陶酔トリッパー バーナード → "賭け師" ムルイジ「ハハッ、全人類が俺だとマジで世界ごとこの船になるぜ?俺と感性が近いからなぁ。どうせ死角があって操縦士に戻れない不良品の目だったしな。腹立つって感情も、記憶戻されたせいで半端に切られてもうどこまでが“俺の感情”かが不安定でね。そう言う意味でお前が一番“元のまま”っぽいから遊びに来た」 特定個人に目を奪われた場合は烈火の如くキレ散らかしていたのだが、今回のケースだと相手が最早概念に近い上に、それ以上に思う事が多すぎて何処かに感情を置いて来てしまった感覚がある。 「なに。俺に話した程度で遅れる計画なんざ永遠に叶えられねぇよ。──いや、船出るならいいけどよぉ。お前、ナフに甘いの、アイツ特定個人を気に入ってんの?それとも単純にガキに甘いの?お前のこと自己中心的な人間って思ってたけど、お前この船の在り方見て、チャンスが出来たとして、捨てていけんのかなって単純に疑問に思っただけ。 俺はガキをガキと扱わないし、普通に利用してやるつもりだった。普通のガキならまだしも“暗殺”仕掛けられたら報復も当然だろ?んでアイツ、愛情に飢えてるの目に見えてるじゃん。だから付け込んでやろうとしたら、お前の名前が挙がるからよ」 はぁ、と冷めた/冷えたような溜息が漏れる。楽しみにしていた事が中止になったような、それこそ楽しみの夕食のメニューが変わった程度の軽さで。 「こう言うのって頼れる相手が一人しかいないなら有効な訳で、お前がいるなら計画倒れするわけ。俺も無駄な時間は使いたくないの。気分屋なモンで。だからお前のスタンス聞きに来たわけよ」 (-88) 2021/07/11(Sun) 18:04:48 |
【秘】 "賭け師" サダル → "賭け師" ムルイジ「……ッ、な……!」 炎を浮かべた緑色が見開かれる。 自分を撃ってもらう筈だった。 自分を殺すかもしれない、けれどそれを乗り越えてでも自分と勝負して奪いにきてくれるかどうか、それを確かめるつもりだった。 地の底に落ちた自分を迎えにきてくれるかどうか──それが、女が五日目に吠えながら行った賭け事だ。 男は本当にやって来た。牢獄に入れられた囚人のように、厳しい枷を嵌められてでもなお。 あとは命を賭けて、奪りに来てもらうだけ……そう思っていたのに! ▼ (-92) 2021/07/11(Sun) 18:39:30 |
【秘】 "賭け師" サダル → "賭け師" ムルイジ勝負師は一瞬動揺したものの、すぐに意図を汲んで唇を引き結ぶ。 勝負をするなら賭け金が必要だ。だから男は差し出した。自分と同じ額のチップを。 なんてことない、賭け事の基本じゃないか。 唇を歪めて笑う。 賭け事はある意味理不尽で、ある意味公平だ。 けれど、辛気臭い顔をした人間を女神が愛する筈がない。 吹っ切れた人間にこそ、女神の気まぐれは訪れる者だ。 「ムルイジ」 "……あなたは、運命というものがあると言われれば信じるかな。" 占い師の、協力者の言葉が脳裏をよぎる。 もし運命が存在するのなら、きっとこの大一番の勝負さえも結果が既に出ているのかもしれない。 "…………嫌だ。そんなの" でも、私は運命なんて信じない。 「分かりきったことを聞くね」 嫉妬の怪物は。 豪運の調伏者に答える。 ▼ (-93) 2021/07/11(Sun) 18:40:44 |
【秘】 "賭け師" サダル → "賭け師" ムルイジ「──勝つよ」 長い長い年月をかけて燃やし続けた嫉妬の炎。 その煌めきを瞳に宿し──地に落ちた女が、男に微笑んだ。 (-94) 2021/07/11(Sun) 18:41:07 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → 陶酔トリッパー バーナード「大して変わんねえだろ、この船も世界も……。 ……何言ってんのか全っ然わかんねェけど、 いっぺん雨に濡れたら傘とかどうでもよくなったって気分か?」 何かを亡くした状態で来やがるやつ多すぎんな、と呆れた。 バーナードの指摘を受けると、眉根を上げる。 「あー……? そんな風に見えてんのか? オレは世界中の人間全員に博愛の感情を持ってるナイスガ、 まぁ、いいか。そういうのは。 ……自己中心的で間違いねェと思うぞ。 オレはあいつのこと救ってやれねェよ。同情はしてもな」 このザマの人間がソレ聞かされて、 何が出来るってんだと鎖を鳴らす。 目の前の男とナフの関係は知らないが、 首を突っ込む気もさらさらない。 「その上で個人的な、勝手なこと言うなら、 ガキに良い大人がムキになってんじゃねェよ。 アイツから何の被害も受けてねェ オレの勝手な意見だがこれがスタンスだ、オーケィ?」 ▼ (-95) 2021/07/11(Sun) 18:42:56 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → 陶酔トリッパー バーナード「……んで。 オレも相当な気分屋なんで、アイツ殺したら教えてくれよ。 気が向いて人生に暇が出来たら 殺してやる から」殺意はない。 ただ単に。 通り道に邪魔なもんがあったら蹴飛ばすくらいの感覚で、 気が向いたらお前を殺してやるよとつまらなそうに言った。 邪魔はしない。 守る気もない。 ただ平等に、奪うやつは奪われる世界であってほしいと願う、 ギャンブラーのスタンスを示した。 「……この忌々しい鎖がなけりゃって前提、 いちいち入れるのクッソ面倒だけどよ……」 何度も言うが。今のオレを買い被りすぎじゃねェか? (-96) 2021/07/11(Sun) 18:43:54 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル仮面がねェと。 ……本当に、可愛い女だなこいつ。 ただ、その反応で確信した。 その言葉で、その笑顔で確信した。 この勝負が、どういう勝負なのかを――。 「――そうか。 ありがとよ 」▼ (-97) 2021/07/11(Sun) 18:50:11 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダルだったら。 これが。 これしか。 オレが出す答えは、ない――。 オレ達は今。 誰にも、邪魔なんてされないから――。 激動すぎて―― もっと別の出会い方が出来たらなんて、 思う隙間もなかったな。 ▼ (-98) 2021/07/11(Sun) 18:51:31 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル息を止める。 オレは、自分のこめかみに向けていた銃を。 その銃の引き金に指を掛けたまま。 ―― 銃口を、サダルに向けて、 引き金を、引き絞った。 (-99) 2021/07/11(Sun) 18:53:50 |
【秘】 "賭け師" サダル → "賭け師" ムルイジ貫かれた箇所に手を当てて。 愛おしそうにそっと這わせて。 音もなく溢れてくる紅色の命で手を濡らしながら、貴方へ歩み寄る。 「……っ、あ、はは…… ほん、とうに……来てくれた…………」 胸の中を満たす充足感。 頭が痺れるような快感と、初めて感じる"しあわせなきもち"。 「ムル、イジ……、……ムルイジ」 踊るように何度もたたらを踏みながら。 貴方の元に倒れ込む。 ▼ (-101) 2021/07/11(Sun) 19:11:29 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル銃弾は、発射された。 ――血の色の睦言を耳にして。 重ねられる唇の感触に、 籠った温度に火をそのまま口にしたような痛みがあった。 指先が。 銃弾を発射したその反動で、 痺れていて。 力なく、紅を零しながら倒れ込んでくる身体を。 唇を噛み締めながら、抱き留めた。 最後まで、嘘吐きが。 いや違うな。 これでもう。オレがお前のことを。 この感触を、指先と唇から忘れられなくなることが。 ――最初から勝利だったっていうのだろうか。 『すきだよ』 耳に残るその言葉がずっと、ずっと脳内を駆け巡る。 ▼ (-104) 2021/07/11(Sun) 19:32:34 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダル胸の中の女に向けて、 小さく、囁く。 聞こえているかは分からない。 聞こえていなくとも構わない。 これは、そういう言葉だ。 「サダル。 ……オレの愛した女が、 お前に似てるなんて、―― 嘘だ 」――それは呪いでもあり。 ――答えでもあった。 "似てるだけの顔の女"を。 ――"オレが覚えるもん"かよ。 似ても似つかねえよ、お前の顔も、生き方も 。一個も似てねェし、そう言やテメェが嫌がるかと思えば、 別のとこに刺さりやがって、本当、面倒で簡単な女だ。 ケツの下から聞こえる負け惜しみに、まんまと騙されやがって。 それこそが ブラフだ って言ったら、今度こそ怒り狂うかもな、テメェは。 ▼ (-105) 2021/07/11(Sun) 19:33:39 |
【秘】 "賭け師" ムルイジ → "賭け師" サダルお前は、誰にも似てなかった。だから覚えてたんだ。 オレがお前に重ねたのは。 ―― オレ自身の中に芽生えた、お前への好意 だ。それが、どこかでお前と会えないかと願っていた俺の本心だ。 しっかりもう。 "アイツ"が残していった穴に、 しっかりと四文字を埋め込んでいきやがって。 本当に、お前は厄介な女だよ、サダル。 腕の中から、温度が失われていく。 呼吸もか細くなっていく。 ただ――それが、それこそが。 オレが選んだ。 オレ達の、"賭け札"だ。 ――あまりに不平等で不条理で。 聞けばきっと、誰もが指さして嗤うような、そんな選択だ。 ▼ (-106) 2021/07/11(Sun) 19:35:32 |
【秘】 "お前の愛した" ムルイジ → "賭け師" サダルオレは、銃弾を撃ちこんだ。 その上から、コイツが一番気になる言葉を捻じ込み蓋をした。 サダルの心に未練という形で存在していたとするなら、 それが『嘘』だと言われれば、次を求めるはずだ。 それしか。 それだけしか、オレが選べる手札はなく。 その銃弾が本当に貫き殺したかったのは、 こいつ自身が見に纏っていた『嫉妬』そのもので。 ――それが成功したのか、失敗したのかは分からない。 間に合うかも、助かるかも分からない。 その選択が全て間違いであることもあるかもしれない。 ただ。それがオレ達の。 "賭け師の生き方"だから。 「……オレも。 オレが勝つことを、信じてんだよ。同じだな」 オレはだから。 もう少しだけ"愛せたかもしれない女"に。 静かに――長く、唇を重ねた。 眠り姫は――まだ、目を覚まさない。 (-107) 2021/07/11(Sun) 19:39:37 |
【人】 "ギャンブラー" ムルイジそっと、その体を寝かせ。 「……………クク。 ハハハ。 ハァーッハッハッハッ!!! 」仰け反って、大声で叫び笑う。 部屋に据え付けられたカメラに向けて、 熱病に冒された子供のように狂い笑う。 「……見たかよッ。 見てんだろ、サイコーのショウをよォ! ムルイジ様をこんな地獄に落とした、 生意気なクソ女にギャンブルで勝ったぜオイ!! 見てるヤツらの中にゃ、 こいつにイライラ来てたやつもいるだろうよ!! 見たかよこいつの銃弾食らった時の顔、 絶望に塗れて、こんな掃きだめで、 自分の落としたやつに復讐されて、 サイコーにキマるだろ、チョーシに乗ってるやつが、 思いっきり地べた這いつくばる様はよォ!!」 カメラのマイクではサダルの小さな囁きは拾えず。 その細かい表情までは見えないはずだ。 だからオレはあえて、煽るように嘲るように 両手を真上に上げて挑発するようにカメラに向かって叫んだ。 ▼ (57) 2021/07/11(Sun) 19:47:13 |
【人】 "ギャンブラー" ムルイジ「見たかったんだろォ!? 自分より偉い人間、強い人間、安全圏に居る人間。 そういうやつらが、皆等しく地に落ちるこの瞬間をなァ!! 」両手を広げることができないので、限界まで鎖を引き延ばす。 「堪んねェだろ、オレのこと見てるやつは 皆そういうイイ趣味してるって、オレは信じてるぜ? 自信満々で、鼻もちならねーやつが、 後悔のなか無様に敗北する様が見たくて、 モニタに齧りついてるのが、 オレにとってのお得意様ってやつだからなァ!」 きっとモニタを見ているやつの中には、 オレのこの演説にも反発し、 さらに責め苦を与えようとする者もいるだろう。 関係ない、オレたちが本当に賭けていたものは――。 オレたちがその"賭け台"に乗せていたものは――。 「サイコーのショウにしてやったぜ、 従業員だって、この船の上では例外でも治外法権でもねェ。 すべてが供され、何もかもが賭け台に乗る、 安全圏なんてどこにもねェ、支配もギャンブルには及ばねえ! 最初から結果が決まってねェからこそ、 賭けってのはサイコーにアガるんだろうが! 喝采を以って慟哭しろ、賞賛を以って怒声を放て、 負け犬の遠吠えと笑いながら、この海上の楽園で愉しもうぜ!」 ▼ (58) 2021/07/11(Sun) 19:48:27 |
【人】 "ギャンブラー" ムルイジ――それは文字通り、 負け犬の、敗北者の、意味のないパフォーマンスだ。 だが、こうやって従業員だったサダルが 地に堕ちたオレによって撃ち殺されることで。 思ったはずだ。感じたはずだ。例え僅かだけでも。 ――何かが間違えば、 自分が、こいつらの賭け台の前に立つかもしれないと。 実際その可能性は低い。 この船では、地位に、金に、立場に、物理的に、 何かに守られているやつが大半だ。 疑念が具体的に芽吹く可能性は杞憂とするにしても あまりにも確率は少ない。 でもその萌芽は。 百日のうちの一日の不安を煽る。千日のうちの一秒を惑わす。 この画面を見ていた全ての人間に極小の種を撒き散らした。 それは否定すれば否定するほど根付き、いつかそれが花咲くとき。 人を一律に舞台の上でギャンブラーに堕とすだろう。 そのきっかけは、どこにだって、誰にだって平等にある。 何もかもを賭け台に乗せるオレ達の生き方を、 嗤いたきゃ嗤えばいい。それが――画面越しである限り。 ▼ (59) 2021/07/11(Sun) 19:50:46 |
【人】 "ギャンブラー" ムルイジその時にオレの銃口の先に、 己の運や決断しかない状態で立っていて正気で居られるかを、 オレはこの船の上で高らかに問うた。 一人の、ギャンブラーという生き物として。 ああ、愉しいな、世界はこんなにも自由で不自由だ。 従業員たちが部屋になだれ込んでくる。 安否を確認される、備品であるサダルの姿を横目で見ながら、 四方を従業員に掴まれながらも大声で叫ぶ。 これは"オレたちの戦いの始まりの合図"だ。 お前の愛したギャンブラーは、 どこに居たって"ギャンブラー"だ。 さっさと来てみろ、追いかけてみろ、 いつだってどこでだって、相手してやっからよ。 「――さあ。 ご来場の皆さま、引き続きクルーズを楽しもうじゃねェか。 遊びたきゃいつでも相手してやるよ。 煉獄と天国の狭間を泳ぐ、 ――オレ達、賭け師の楽園、 イースター・カッサンドラの上でなァ!!」 (60) 2021/07/11(Sun) 19:53:19 |
【秘】 陶酔トリッパー バーナード → "ギャンブラー" ムルイジ「いや変わる。変わる……。え?俺が生きてた外はさすがにもうちょっと表面上はお上品でしたけども、カジノ通いだとこんなショーが毎日行われてる場ばかり見ますの? ……俺、職業選び間違えた気がしてきた」 路地裏だの空爆だの汚い世界は何処にでもあるが、こんな異常性癖に特化した場所はその辺に転がってる気はしなかったので、少し後悔しだした。自分が生きてきた人生はこの船が“普通”の感性では無かった為だ。 「いや、みんな“船に染まって来た?”お前だけそのまんまって感じしたから、強靭メンタルって思ってたけど……“外と船が大して変わらない”って感性ならそりゃそうなるか。納得した」 「他者に同情できるのも才能だろ?『同情なんか』って跳ね除けるヤツもいるけど、同情を貰う事で立てるようになる人間もいるんだから、そう言う意味で救いにはなる。のでー、邪魔かな、と思ったけどそのスタンスなら問題ない…… アハ。それ、俺みたいな系統の人間は喜ぶから。 心当たりない?」殺してやる。の言葉に冷めていたテンションがやや向上する。嬉し気に、それはそれで面白そうだと笑う。 「お前、ナフのせいで今そんな鎖じゃらじゃら楽しいショーの見世物扱い喰らう羽目になって『生きる為に仕方なかった』って言われて子供だったからって許せんの?俺は未遂だろうと絶対ヤダ。どんな理由があっても、仕掛けたなら仕掛けられる覚悟、しなきゃな。何歳でもな。……って事で、気が向いたら殺し合おうな」 ご機嫌なまま立ち上がって、言うだけ好き勝手言って部屋を立ち去る様子だ。 (-119) 2021/07/13(Tue) 23:17:55 |
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