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【秘】 愚者 フィオレロ → デッド・ベッド ヴェネリオ「犬扱いしているのを相手に真面目に考えるのやめません? ……冗談ですよ。この件は冗談じゃなかったですけどね」 冗談じゃなかったけれど。死んだ時点でなしと彼が口にした時点でもうそれ以上を口にすることはない。求めていたのは事実であっても、その最低条件を満たせないまま強引に口説く程のふてぶてしさは、生前には形成しきれず。 「人の真剣な願いをそうぽいぽい押し付けようとするのはどうかと思いますが、叶える為に一応手伝ってやろう……という善意は感じたのでそこはいいです。 コルヴォにはそれは求めてませんでしたよ。……俺より酷い状況のやつに何かを求めるには、俺は少し不要なものを知りすぎましたから」 リカルドさんもまさかこんなところで縁組の話が出てるなんて思いもしないだろうなあ、と死者はぼんやり空を仰ぎ見た。 「あと、テンゴさんは……っ、 わっわっ、……?」 隙だらけの油断野郎はそんな事された経験もないからそういう行動と言う気配にも気づかず、一瞬で終わった一瞬の夢の中の夢のような時間に、暫し何が起こったのだとばかりに適当な子供たちAは呆けるばかりで。 「……あー、喜ばせるの、下手ですねヴェネリオさん」 乱されて更に崩れた髪を撫でつけるように指で直しながら、喜ばないという意味じゃない。愛に飢えている相手にやっていたとしたなら、それは意味が大きく変わるというのを嫌でも理解していた。 「ほらー。やっぱり罪な男だ。俺じゃなければ別の未練を生ませてましたよ。でも俺は俺なんで、……誰の役にも立てないままでしたが。そのお言葉に甘えて最後以外の殆どの未練は、今ので切っちゃうことにしてやります」 随分えらそうな言い方。不躾気味ではあったもののこんな言い方は滅多にしなかったのだが、髪を直そうとしている腕が顔を隠す意図を考えれば察しはつくだろう。今更だから、逆に見せたくないのだってある。 「じゃ、引き留めてすみませんでした。余り貴方を拘束しているとどこからせっつかれるかわかったもんじゃないので。お元気で」 (-40) 2022/08/26(Fri) 14:34:10 |
【秘】 愚者 フィオレロ → 家族愛 サルヴァトーレ「──ああ、確かに。 "自分の事のように嬉しい"から、なんでもしてやれる、のか。 言われてみればそんな風に考えた時期もありました。 だとすれば……してやれる事ばかりではなく、 相手に求めるものが増えた場合、」 それは、本当に家族を求めているのか、と……」 「いかんせん経験が薄いもので、たまに心配になりますね」 アルバのサルヴァトーレと言えば、コンシリエーレと言う立場もあり名の知名度としてはノッテ側としても相当なものだ。 とは言え、立場の大きさと顔が明かされているかは完全に一致するわけではない。貴方が違和感なく溶け込んでいるのなら、こちらもそう易々と気づけはしないだろうが、さてどうだっただろう。 最も、この時の会話はあくまで"家族"を強く知る貴方に対して興味を持っているから、もしもそうだと知っていたとしても、それはもう一つの意味の"家族"を持っている人として認識が変わるだけなのだが。 「おや、そんなに宝物で溢れているのなら、 一度宝石箱を覗かせて貰いたいものですねぇ。 俺も花言葉に縛られてせっかくの美しさが憚られるのは残念だと、前々から思っていましたよ。 名や形式だけに捕らわれて目の前のものを見落とすのだけは避けたいもので」 透けて朧げな青が透ける様子に目を細める。 言葉はすべて本心で。貴方のような人が院長だったのなら今この場でこんな話はしなかったのだろうと、あらゆる意味で不相応な思考をしつつ、貴方の答え自体に感謝を込めた笑顔を返す。 「つまりは、とてもよくお似合いだと思いますよ。貴方が心から選んだ花ならきっと全てそうなると今感じました」 (-41) 2022/08/26(Fri) 16:22:58 |
【秘】 愚者 フィオレロ → 家族愛 サルヴァトーレ「限度があるといいますか」 この男は半年前に一度名前ごと諸々を変えている。その上半年前まではこうして今の顔として市外に出る事はまずなかった。最近は比較的こうして姿を見せる事がなくはない。アルバの息がかかっている場所なら猶更だ。それ故に今まで顔を合わすことも、知ることもなかったのだろう。 「その人の不幸せに繋がることを願うのは、最早形が変わっているんじゃないかって。家族への愛としては間違っているのではと──」 それを最後まで言い切ることもなく、あ。と、口を滑らせた事を誤魔化すように苦笑した後、相談と言う名の話の逸らし口を即座に挙げ列ねていく。どうかしている。この手の話こそ、"家族"にもまだしたことがないのに。あるいは、だからこそ今まで聞かなかったのかは、まだわからないのだが。 「……変な話をしましたね。忘れてください。 妖精さんなんて滅相も。無理やり例えるとしても、せいぜいが変な汁を塗られた妖精さんのほうがきっと近い」 「さて自分がそんなコメディアンじゃない事を祈りながら、貴方の言う通り愛と信じて、女性に贈る花を相談したいんですがお時間はまだありますか?器量が悪くて不器用で、何かと言えば泥に塗れているんですけど──」 精一杯生きる姿が、美しい人だったんです。と。 貴方から視線を外し、どこか望郷に浸るように遠くの空を見ながら呟きが落ちる。 (-57) 2022/08/27(Sat) 1:18:09 |
【秘】 愚者 フィオレロ → 家族愛 サルヴァトーレ「もー……そんな笑わないで下さいよぉ。俺にとっては結構な大ごとだったんですね。ほら、願う事で不自由を強いる事もあるじゃないですか」 拗ねたようにややはにかみながら苦笑する。馬鹿にされた訳ではないと理解しているし、自分にとっては大げさにも思えるリアクションを採られたのが逆におかしくて、このまま言わないのもあれかと半ば投げかけるだけのつもりで口を開いた。 「例えるなら何をよく聞くかな。……"私だけを見てほしい"とかそういう類ですかね。履歴どころかメッセージのやり取りのスクショすら送らせるとか聞きますね」 俺が考えてるのとは違うんですけど、と付け加える。 例えなわけで別に履歴を遅らせなんてしないが、一般的な話として例えるならこの辺りが近いかも、くらいの提案だった。 「まあとにかく、行動に移しはしないんですけどその手の話は何を見ても正しい答えが書いていないから、考えるだけでもいいのかなぁ。とか、愛ってなんだろうなぁとか、花を見た時の素直に綺麗と思える感覚のように思えたらいいなって事ですね」 返事を求めないというよりは、どちらでもいいくらいには流せるくらいに話を切って。本題はこちらとばかりに、手伝いの件は快諾の意味を込めて頷いた。 「この辺りに住んでいた人でしたから」 「きっと俺より貴方の方が正確なものを選べるかなと」 くすんだブロンドの髪とブルーの瞳の外見の情報だけ追加して。あとは先ほどのおおよそ褒めと程遠いような特徴くらいだった。 (-99) 2022/08/28(Sun) 20:14:36 |
【秘】 愚者 フィオレロ → 家族愛 サルヴァトーレ「答えを持っていそうな風格はありますけどね。いえ、単純に貴方の答えを聞いてみたいと思っただけなので、気楽に……、……」 彼の言葉の紡ぎ方がほんの僅かに違ったから、一瞬これはさすがに不躾な質問すぎたかと過ぎり、解答を聞いてすぐに思い直す。その答えの精細さが違う事にむしろ安堵したような気がして、笑い交じりに言葉を返す。 「全部って滅茶苦茶な無茶を言いますね。いや、」 「……それくらい、必要だったのかな」 それを望むのならそのくらいの覚悟と責務が、なんて思いはしたけれど、貴方の思惑通りこれは独り言のようで貴方に更に詳しく問いかける事はない。ただ、この答えがこの男が考えていた何かを呼び起こさせた事は事実だった。 「──確かに」 「俺じゃ思い浮かばないくらい情熱的だ」 改めて、随分と面倒見のいい人だなと感じる。それは聞く態度や姿勢、言葉の受け取り方も勿論入るし、投げている自分が言うのもなんだがこの手の話題を突然振られても引いた様子一つ見せる事がないところもだ。 実際にどう思っているかはさておき、見た目に出ないのではなく出さないようにしている在り方は見習いたいと話題の隅で強く思う。それこそ、向いてそうだと思ったのは秘密だ。実際は向いているどころか遥かに上の立場の人だったのだが……それを知る日もついぞこなかった。 それから、唐突に「付き合わせてしまったお礼にお礼でもと思ったんですが、……折角の花ですから引き留めるのもよくない。だからまた、機会があればその時はお礼をさせて下さい」 なんて一方的に告げて、唐突に声を掛けた時と同じように貴方に答えて貰った花を機嫌よさげに買って帰ったのだろう。その"機会"も結局は来なかったのだが──とある無人の空き家に、燃える鮮やかな赤の花が贈られる事になる。 (-131) 2022/08/29(Mon) 13:38:26 |
【秘】 愚者 フィオレロ → デッド・ベッド ヴェネリオ「そうですね。でも、それ以外の大切なものも沢山貰いましたから。確かに喜ばせる事が下手ですけど、救うのは上手でしたよ。 俺が、そうでしたから」 こうは言っても、半分も伝わりやしないのだろう。 どうしてあの花を贈ったのか。 貴方に何の幸福を見出していたのか。 それを直接語ったことは、ついぞないまま。 貴方は、あの花を見ただけで理解したのかもしれませんが。 救われたと、こうして言葉にできたのだから、もうそれで構わない。 「……地図でも書いてもらった気分ですね。 大丈夫です。そこだけは最後まで守り抜きましたから。 そうしてお墨付きをもらえたなら、もう迷いはしません」 例え記憶が失われて、別の家族を知っても。 その人格が別になるほどに、この男の"家族"はノッテだけだった。 「さようなら、カランコエを贈った 貴方。 もう、この鐘の音も──」 ずっと聞こえていた。 死後、この不安定な空間でずっと聞こえていた過去の象徴の音が。 生前、貴方がその印象を変えてくれたように、死後でもそれは変わらない。 だから、もう少しだけ待ちたい人を待てる気がする。 この後、終ぞ役に立てなかったと思っていたことすらも、 言葉を交わした少女によって教えられた男は、二度と迷子にならないまま。 どんな結果であれ、その日を待ち続ける事となった。 (-135) 2022/08/29(Mon) 18:29:54 |
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