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【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール「ん……?」 真白の雪が道行く人の髪に絡めとられ、街灯を反射して煌めている。 クライマックスを引き立てるような世界。 祭りの熱気はまだ冷めやらぬ大通りに女は居た。 何をするでもなくぼんやりと天から降り注ぐ雪を見ていたようだ。 彼女の色素の薄い亜麻色の髪も例に漏れず、雪に馴染んで透き通って見える。 変わらないうなじの痣も、どこか幻想的に存在を主張していた。 「エミール。 どうしたんですか?名前なんて呼んだことありましたっけ」 あなたに追いかけられてから数日。 あれから怯えた姿は鳴りを潜めていた。 今日はあてどなく祭りの雰囲気に身を任せていたところ。 名を呼ばれて振り返って小さく手を振りながら近づいた。 孤児院ですら名前を呼ばれることは皆無であり、唯一とも言える知り合いのあなたが初めて名前を呼んだのならすぐに気づいた。 はっきりしない呼び方はあなたらしくて。 ちょっとだけ可愛げを感じたのは黙っておいた。 「……あ。当ててあげましょうか。 宿題を持ってきてくれたんでしょう」 (-6) 2024/02/15(Thu) 20:45:50 |
【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール「やっぱり。 お祭りも終わる頃だからそろそろかなって思っていました」 回り道をするような間をじっと待って、頷いたときに相槌を打つ。 その逡巡に込められた想いをまだ知らないけれど。 あなたのことだから脈絡もなく呼んだ訳ではないのだろうと踏んでいた。 ふっと浮かべた笑みはあの日張り付けた作り物ではない自然な笑み。 あなたが感じたように、憑き物が落ちたような様子は確かだった。 細めた瞳に舞う六花がそうさせるのかもしれない。 「……聖女様と?」 驚きに目をまんまるに開いて、明後日の方へちらり。 すぐに戻ってあなたを見た。 「どう思うと言われても、エミールがそう思ったなら間違っていないと思いますよ。 あなたって……ほら、よく人の事を見てるから。 こんなにたくさんの人の痣が光ったのもきっと寂しがりな所為だったのかもしれませんね」 否定も肯定もしない。 人差し指は口許で幾度か跳ねて、頬の横。 「私がどう思おうともう、何も変えられませんし。 だからやっぱり、どうとも言えません。 聖女様は聖女様。それだけ。そのままに思います」 「エミールは聖女様がそうだって思ったら、何か変わりましたか?」 (-10) 2024/02/16(Fri) 20:39:48 |
【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール>>-13 「そうですか……」 聖女の事をどう思っているか。 痣を持つ者達はそれぞれに想いを抱えているだろう。 帰りたいと願う心と同じように、帰らないでと願う心もある。 それをあなたが知っているのかは分からないけれど。 帰れなくなった転生者は少なからず彼女を疎んでいるのではないだろうか、と。 己の経験に基づいて思ってしまったものだから、あなたが抱える元の気持ちがどうであるかに掛かっていた。 それはあなたの答えとして聞けるだろう。 「あなたが天秤にかけられなかったのはその二つだったんですね。 こういう時優しいって言うんでしょうか? だってエミールの両親は代わりが居ないでしょう。 孤児院の 子供達 はそうじゃない。一緒に遊んだあなたならよく知っているように、みんな何処にでもいる普通の人間ですよ」 そこには女自身も含まれていた。 しかし、ファリエにとっては数少ない知人であり、この祭りに際して関わった時間が無為だったと言いたいのではない。 単純な勘定。どちらがより特別かという、簡単な計算。 展示物には触れてはならないのと同じ。だから手を後ろに回して客観的に述べる。 「だから……だから、もったいぶらないで言っちゃってください。 あなたが何を手に入れて何を手放そうと恨んだりしませんから」 行かないで、なんて。特別でもないのに口にできない。 (-18) 2024/02/18(Sun) 10:05:47 |
【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール>>-26>>-27>>-28 じっと、あなたを見たまま答えを聞き届け。 「────」 また目をまんまるにした。 外の世界を見に行こうと話をしたのは覚えている。 けれど、まさかこんな風に選ばれるなんて思ってもみなかったから。 「え、ええと」 「あの……えっと…………」 あの、とか。えっと、とか。場繋ぎの声ばかりで考えが言葉にならない。 あなたからこうもはっきり告げられた答え。 それは、今まで奥底に秘められていたこその純真さもあった。 積み上げられた時間は目には見えなくとも、滲みだして女を逃がしてくれない。 きっとそれはポジティブな想いだけで連ねられていない。 真っ直ぐに伝わってしまった証拠に、薄墨の瞳はあなたを映したまま揺れ続けている。 ▼ (-37) 2024/02/18(Sun) 23:31:16 |
【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール>>-32 「エミールは本当は、そういう人なんですね。 今までは我慢していて深入りしないところで足を止めていただけで」 言葉に詰まる。 思い出すのは祭りの前のこと。それから追いかけてくれた時のこと。 「 うー…… だから、はあ……私のこと気にかけてくれたのも、ですよね」「真面目だなあ。それを優しいって言うんですよ。 あなたくらいなら、自分勝手には入りませんよ」 少なくとも、全部を切って捨てようとした我儘で薄情な女よりはずっと人情があった。 そんな私もひっくるめてファリエだから、こんなのが選ばれて良いのかなと思わないと言えば嘘になる。 けれど口に出してしまえば、あなたの誠意に泥を塗るような心地がした。 ▼ (-38) 2024/02/18(Sun) 23:32:49 |
【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール「──じゃあお言葉に甘えて」 だから、私も変わりたい。 この世界を愛せるように。 この世界に居させてくれるものを受け入れられるように。 そうして女はこの世界に生きていると言えるようになるため。 一度も逸らさなかった瞳を細めてはにかんだ。 「私を この世界に 連れ出してください。エミール」──祭りの前と後できっと致命的に変わったりなんてしない世界。 幾星霜の未来が待つ、聖女の作り上げた世界。 私を傍に置いてくれる人の傍で息をできたら。 私は幸せになれるかな、なんて。 これもエゴだろうか。 ううん。これは痛くないしあわせのかたち。 これからはこんな思い出を積み重ねていけるよね? (-39) 2024/02/18(Sun) 23:36:10 |
ファリエは、これからも醒めたまま夢を見る。 (a4) 2024/02/18(Sun) 23:36:55 |
ファリエは、天を駆ける箒星の尾は──もう要らない。 (a5) 2024/02/18(Sun) 23:37:53 |
(a6) 2024/02/18(Sun) 23:39:20 |
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