【人】 XIV『節制』 シトラ── 廊下・『隠者』の彼女の部屋の前 ──アリアちゃん いつものお薬……もらっても、いい……? ……うまく、眠れなくて [ 繰り返す悪夢に魘されて眠れぬ夜が続くとき わたしは、決まってあの子の部屋の扉をたたく。 お薬自体の効果は勿論あるのでしょう。 『隠者』の証を持つ彼女の作るお薬は特別なもので、 その効力のほどは、実際常用しているわたし自身が 身をもって噛みしめているところ。 けれどよく眠れるのは、きっとお薬だけの力じゃない。 あの子の顔を見ると、あの子の声を聴くと ひつじたちの毛に頬を埋めたときみたいにほっとするの。 それを口にしてしまえば彼女はどう思うか、 きっと、……悪いようには取らないと思うけれど 言葉にはせず心の内にしまい込んだままでいる。 もう一度、扉を叩く。返事はない。 程なくして、玄関の方から よく通り明朗に弾む、澄んだ声が響く。>>111 一日半ぶりにチェレスタさんが帰ってきたのだ。] (132) 2022/12/11(Sun) 16:38:00 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ アリスさんのお誕生日パーティーで お祝いの歌を歌わないか、との 彼女の提案を、わたしも部屋の隅で聴いていた。 誕生日には祝いの歌を歌うものなのだと わたしが知ったのは、この洋館に来てからだった。 皆で同じ曲を、この世に生を受けた日を祝う詞を 同じ旋律で、或いは異なる旋律で歌い それらが交じり合ってひとつの調和を織り成す。 チェレスタさんの提案はわたしにとっても この上なく素敵な提案に思えた。 でも、 わたし、歌えるの? わたしが参加しない方がきっといい歌になる。 メロディーも歌詞も一から覚えないといけないわたしは みんなの足手纏いになっちゃうんじゃないかな。 参加しないべき……じゃないかしら。 ──そんな想いが 挙げかけた掌を背中へと引っ込ませる。 おずおずとみんなの反応を窺えば 少なくともアリアちゃんは参加する方針のようで>>112 迷うわたしの心を見透かすように、 そっと寄り添うような視線を送ってくれた ] (133) 2022/12/11(Sun) 16:38:24 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 『あなたがしたいことをするのが一番』 アリアちゃんはいつだって、 やわらかな優しい声でそう言ってくれる。 わたしがしたいことは何なのか、 この洋館に来るまで改めて意識したことはなかったし それを疑問に思ったことも、ほとんどなかった ] わ、……たし わたし、…………も 歌、って、みたい チェレスタさん、構わない……ですか……? [ たった一言の意志を示す為に掛かった時間は 現実にはほんの一瞬だったのかもしれない。けれど、 わたしにとっては、途方もない挑戦とも呼べるものだった ] (134) 2022/12/11(Sun) 16:38:56 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ たった一言の意志を示す為に掛かった時間は 現実にはほんの一瞬だったのかもしれないけれど わたしにとっては、途方もない挑戦とも呼べるものだった。 あれから毎日、時間さえあれば お庭の花畑の隅、人気のない木陰で、或いは自室で こっそりと歌の練習をしている。 みんなの前で歌うのはまだ恥ずかしくて ごく限られたひとにしか、聴かせられていないけれど。 チェレスタさんに教わったところ、 すこしは綺麗に歌えるようになったと思う。 荷解きが終わって、身体を休めて 落ち着いた頃合いを見計らって、また見てもらおう。 今はまず、「おかえりなさい」のお出迎えを。 そう思って玄関の方へと足を向ければ 探していた彼女の姿もそこに在った ] (135) 2022/12/11(Sun) 16:39:34 |
【人】 XIV『節制』 シトラ── 玄関前 [ 声を掛けるタイミングを見失って もごもごと、言葉と視線が宙を舞う。 わたしが口を開けたのはきっと チェレスタさんと、はっきりと目が合ってから ] お、おかえりなさい……! お疲れさま、です あっ、あの、わ…… [ 『わたしもお手伝いします』 そう言いかけて唇を噤む。 触れられたくない荷物が入っているかもしれないし 長旅で疲れているだろう彼女に 余計な気を遣わせてしまうかもしれないし、 第一、手伝いの申し入れはアリアちゃんが既にしていて。 けれどチェレスタさんの荷物は、 一人で運ぶにはどう見ても大変そうで ] (136) 2022/12/11(Sun) 16:40:22 |
【人】 XIV『節制』 シトラ ……わたし、にも 何か できること、ありませんか……? [ 消え入りそうな声で紡ぐ。 荷物持ちの手が足りそうなら お茶の準備をしに行こうかな。 と言っても、わたしにできるのは 売店でフォルスさんにお願いして 疲れを癒すお菓子と飲み物を用意してもらう、くらい ]* (137) 2022/12/11(Sun) 16:40:57 |
XIV『節制』 シトラは、メモを貼った。 (a22) 2022/12/11(Sun) 16:46:36 |
【人】 XIV『節制』 シトラ──あ……っ [ ヒナギクさん、とわたしが呼び掛けるより早く 太陽より眩しいオレンジが、 わたしを通り越して一目散に玄関へと駆けてゆく。>>148 チェレスタさんの声が美しい清流のような音色なら ヒナギクさんの声は、軽快に弾けては咲う花のよう。 はい、そうです。わたしも居ます。居ました ] そ、そう、……ですよね そう、ですか……? (177) 2022/12/11(Sun) 21:09:30 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 彼女の『お手伝い要らないね?』に、おろおろと 返事になりきらない独り言のような声が零れた。 わたしは頭数に要らないかもしれないけれど ヒナギクさんは要るかもしれないし、 それを決めるのは、チェレスタさんだ。 自然と「どうですか……?」と 答えを窺うように彼女を見てしまう ] (178) 2022/12/11(Sun) 21:09:40 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 政府の広告塔として活動に励んでいる ヒナギクさんのお仕事の一端は、 わたしも、洋館の広間のテレビで見たことがある。 聴き慣れた声でくるくると表情を変えながら 笑顔で証持ちについて語るヒナギクさんは 薄い板越しにもやっぱり眩しくて、 一挙手一投足がキラキラと輝いて見えた。 ただそこに在るだけで場を暖め照らす『太陽』 洋館でも、ヒナギクさんが居るところには 楽しげな明るい空気が流れるように感じる。 直接の会話を交わすことは少なくとも、居心地の良さゆえに そっと日常の一幕の隅に身を置こうと試みる そんなひとときは多々あったでしょう。 その天真爛漫な煌々としたまばゆさに 時折、ほんのすこし、目が眩むけれど ]* (179) 2022/12/11(Sun) 21:10:03 |
XIV『節制』 シトラは、メモを貼った。 (a31) 2022/12/11(Sun) 21:14:41 |
【独】 XIV『節制』 シトラ/* ぴええ……ヒナギクさぁん……!! 過去が、過去が……重い……っ シトラは村のみんなたちの諍いに心を痛めてはいたし 直に酷いこと言われたりもしてはきたけど 優しい心を持てる程度に優しく大切にも扱われていたし、 もし泣くなって言われても だからって笑顔は作れなかっただろうので やっぱりヒナギクさんは強く映るし、眩しいんですよね 何も知らなくてごめんなさいの罪悪感が募って またシトラ泣いてしまう…… 今は心からの笑顔でも、 いつかヒナギクさんが無理に笑おうとしたとき その違和感と己の愚かさにシトラが気付いてしまったとき 得体の知れない恐怖と悲しみと身勝手な尊敬と理解の追いつかなさで心がぐちゃぐちゃになってしまいそう…… (-38) 2022/12/11(Sun) 22:29:07 |
【独】 XIV『節制』 シトラ/* 寝つきが悪くなって薬をもらおう! の勢いの良さすき アリアちゃんすきだあ……置いてってごめんね…… 今世ではぜったいに置いていかないから……(ふらぐ感) ほしねPの導入文が天才すぎる話まだしてませんね??します 創世神話という名の箱庭で起こった真実の数々 読み進めるうちリアルに鳥肌が立って泣いてしまいました ほしねP凄すぎます 創造神ほしねP……!! いったい何を召し上がってこられたらそんな神がかった世界を生み出せるのか……っ!! アリアちゃんの入村文の参考書籍の執筆者名もこっそりすきです ほしねさんだぁ……!! (-42) 2022/12/11(Sun) 23:00:03 |
【人】 XIV『節制』 シトラ── 回想・生まれ故郷の村 [ どんな些細な物事であっても 村民みんなで話し合いをして決める。 それが、わたしの故郷に古くから伝わる慣習だった。 今年の放牧はいつからどこで行うか どんな毛織物をどれくらい、いつまでに、誰が作るか 誰かの罠に偶然掛かった獲物を、どうするか 祭祀を執り行う日取り、段取り、捧げ物の内容 村に新たに生を受けた子の名前、 死にゆく誰かの魂を鎮める葬送の儀 そういう文化を持つ村だったから、 『証持ち』のわたしの誕生以来 その処遇を巡る話し合いは連日執り行われていたようで 記憶にある限り、いつも揉めていた。] (409) 2022/12/13(Tue) 0:08:35 |
【人】 XIV『節制』 シトラ 『この娘は災いだ。一刻も早く村から追い出すべきだ』 『ですが、一説には『節制』の証を持つ者には 不老不死の妙薬を生み出す力があると……』 『神より遣わされし聖女を私利私欲の為に利用するなど』 『子は宝じゃ。たとえ証を持とうと、なかろうと 大切に守り育ててゆかねばならん』 [ まだ幼かった頃は、会話の内容はよくわからなかった。 それでも、 時として罵声や怒号が飛び交う『話し合い』が 他ならぬ自分のせいで行われているのだということだけは 向けられるまなざしや表情で、幼心に理解していた。] (410) 2022/12/13(Tue) 0:08:41 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ お母さんもお父さんも、物心ついた頃から いつだって腰を深く折っては誰かに謝っていた。 『話し合い』に連れ出される度に胸が苦しくなった。 わたしと同じくらいの歳の子を連れたおじさんが、 眉を吊り上げて声を荒げるのを見た。 あのひとは、わたしの顔を見るまでは 穏やかで優しそうな顔をしていたのに。 顔にも手にも深い皺の刻まれた小柄なおばあさんが 可哀想じゃないか、と顔を強張らせるのを見た。 あのひとも、話し合いが始まるまでは わたしに微笑みかけてくれていたのに。 わたしの、せいなの。 村のみんなの表情が、声色が それまでとは比べ物にならないくらい一変するのが 怖くて、怖くて、ただひたすらに怖ろしくて 幼いわたしは抑えきれない感情のままに泣き叫んだ。 すると話し合いは中断せざるを得なくなって、 翌日に持ち越される。 そんな日が、何日も何日も続いた。] (411) 2022/12/13(Tue) 0:08:54 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ ごめんなさい。ごめんなさい。 おこらないで。なかないで…… 最初は、両親を真似るように。 心身に刻み込まれた罪悪感は涙になって いつからか、とめどなく溢れ出るようになった。 わたしが歳を重ねて成長するにつれて お母さんの泣き顔を見る回数も お父さんの身体の傷痕も、増えていった。] おかあさん、どうしてないてるの? ──ごめんなさい 大丈夫よシトラ。必ず貴女を護ってみせるからね おとうさん、どうしていつもけがをしているの? ──ごめんな シトラ、お前は何も気にしなくていいんだ。 俺がもっとしっかりしていれば……! (412) 2022/12/13(Tue) 0:09:22 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ ……そう言ってわたしの頭を優しく撫でてくれた両親も わたしを寝かしつけた真夜中、扉の向こうで二人 何事か激しく言い争っているのを、一度ならず耳にした。 『シトラ。貴女はあまりお外に出ない方が良いわ。 母さんと一緒に、お家で編み物をしましょうね』 それはきっとわたしを守るために 両親が話し合って導き出した最善の道。 わたしはただ、泣き腫らしたまま小さく頷いた。 幼い我儘で両親をこれ以上困らせるより、 聞き分けの良い子になるべきなのだと、そう思った。] (413) 2022/12/13(Tue) 0:09:33 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ そうしてわたしは、進んで部屋に籠もるようになった。 朝から晩までアルパカや羊の毛を紡いで、 紡いだ糸で無心に何かを編んでいる間は 何も考えずに安らいでいられたの。 証持ちが編んだことを伏せて 野菜や果物と交換された毛織物を、 どこか遠くの誰かが着てくれている。 それだけで、心が温かくなる気がしたの。 もう随分と長く、青空を見ていないことに気付いても センパスチルの花に太陽を懐かしんでも 幼い頃両親がよく遊びに連れていってくれた、 山間に流れる小川への行き方を忘れてしまっても。 危ないからと、台所に入らせてもらえなくても 読もうと手に取った本を、取り上げられても 紛糾する話し合いだけが村のみんなとの繋がりでも 友達がぬいぐるみしかいなくても。 わたしが、わたしを、我慢することで みんなが、笑顔でいられるなら わたしはそれでいいの。] (414) 2022/12/13(Tue) 0:10:06 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 本当は1日でも早く村を出て行くべきだとわかっていた。 わたしさえ居なければきっと村の人たちも 両親も、あんなにも苦しまずに済んだ。 けれどこの村で生まれて育って 外の世界を何ひとつ知らなかったわたしには、 村から出る伝手も、知識も、勇気もなかった。 彼女が──アリアちゃんが、 4年前、わたしを迎えに来てくれるまでは。]* (415) 2022/12/13(Tue) 0:10:53 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ ──4年前のあの日のことは、 昨日のことのように鮮明に憶えている。 奇しくも彼女の瞳と同じ、 緑 の毛糸を編んでいた。昼夜問わず締め切られたカーテン越しにも 窓の外の異様な空気は伝わってきた。 言いつけを破って、ほんの少し窓を開けて 村の様子を窺おうとした、そのときだった ] …………っ (416) 2022/12/13(Tue) 0:11:14 |
【人】 XIV『節制』 シトラ 逢いたかった。 ずっと、ずっと逢いたかった。 ……これは、 ごめんなさい。ごめん、ごめんね 心優しいあなたをわたしが変えてしまった。 大切なあなたを置き去りにしてしまったわたしに あなたよりも死を選んでしまったわたしに、 それでも、あなたはこうして 逢いに来てくれたのね。 誰の、感情? (419) 2022/12/13(Tue) 0:12:04 |
【人】 XIV『節制』 シトラよう、かん…… せいふ な……なんの、こと……です、か…………っ [ 昂る誰かの感情を抑えつけて、嗚咽交じりに 初めて耳にした単語について問い返す事しかできなかった。 彼女の緑色をただ見つめているだけで 己の感情とは無関係に滾々と溢れ出す涙。 たしかに初めて出会ったはずなのに、 遥か遠い昔からよく知っているような不思議な安心感。 見えない糸に導かれるように 玄関から飛び出したわたしの周りで、 村の人たちや両親が口々にそれぞれの主張を叫ぶ。 そのひとつひとつを聴いて呑み込もうとしたわたしの喉が 息苦しさに詰まって圧し潰されてしまう前に、 感情の濁流を割るような凛とした声が響いた。>>0:258] (421) 2022/12/13(Tue) 0:12:57 |
【人】 XIV『節制』 シトラそ……んな、場所が………… [ わたし以外の「証持ち」が居る場所が。 「証持ち」が暮らすために用意された場所が。 そんな場所があるなんて、それまで知らなかった。 知らされていない可能性にすら 思い至らないほどに、無知だった。 ] わ……たし、が 決めて、いい …………こと [ その頃には、着るものも、食べるものも 手仕事も、一日の過ごし方も ほとんど全てを誰かに決められて 決められた通りの日々を送っていた。 わたしの選択はいつだって「正しくはない」から わたしは何も決めない方が良い。 自分でも心の底からそう思ってしまうほどに。 だから突然与えられた自由は、 わたしを戸惑わせ、悩ませ、混乱させるには十分すぎた ] (422) 2022/12/13(Tue) 0:13:34 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 道を敷かれ 手を引かれてばかりだったわたしが 自分の足で一歩を踏み出すのには それこそ崖から飛び降りるくらいの、覚悟と勇気が必要で ] わ、わた、し [ けれど彼女はただじっと、わたしの わたし自身の導き出す答えを待ってくれていた。 目元の涙を袖で拭って、深く息を吸い込んだ。 高原のつめたい空気と、 枯草と花と獣のにおいが肺を満たした。 おずおずと、首を伸ばして 天を仰げばどこまでも高い青空。 雄大な山麓の頂上をかすかに覆う雪。 流れ落ちる滝と清流、点々と建てられた家々。 草を食むひつじたちの群れ。 わたしの、生まれた小さな村は たとえ悲しい想い出の方が多くても 言葉には言い表せないくらいに、美しくて ] (423) 2022/12/13(Tue) 0:14:37 |
【人】 XIV『節制』 シトラ…………わたし、 [ 黙り込んでしまった村の人たちの表情を一人一人、見つめる。 このひとたちは、こんなに小さかったかな。 ……違う。わたしの方が大きくなったのね? 辛く当たってくるひと、なにかに怯えているひと けれどまるで実の娘か孫か、妹のように 慈しんでくれるひともいた。 太陽の下、あらためて両親の顔を見る。 ふたりとも、焦燥と疲労と安堵の混じったような 複雑な表情をしていて 実際の歳よりもひどく老けて見えた。 きっとこれが、わたしにできる最後の親孝行 ] (424) 2022/12/13(Tue) 0:14:54 |
XIV『節制』 シトラは、メモを貼った。 (a64) 2022/12/13(Tue) 0:33:36 |
【独】 XIV『節制』 シトラ/* そう…… 初めて出逢ったはずなのに 遥か遠い昔から知っていたかのような安心感 アリアちゃんはまさか か……(ここで文章は途切れている) アリアちゃん大人気でさすがアリアちゃんだなって思ってるの わたしが自殺してもぜんぜんひとりじゃないのよ アリアちゃんを大切に想う人は他にもいるのよ しかもイケメンなのよ というわけで死にたい気持ちがゆらゆら揺れるわ……(?) フォルスさんもさすが ゆ……(ここで文章は途切れている) (-95) 2022/12/13(Tue) 0:45:38 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ アリアちゃんに連れられて洋館へと向かう道中 わたしはずっと、肩を丸めてきょろきょろしていた。 目に映り耳にするほとんどすべてのものが、 わたしにとっては初めて経験するものだった。 山を下った先にも、 ずっとどこまでも道は続いていて 故郷の村の家々と似た作りの家も まったく違う作りの家も並んでいた。 故郷が遠ざかれば遠ざかるほどに道は整い幅は広がって、 立ち並ぶ家々の数も、すれ違う人の数も増えていく。 軒先ではしゃぐ子どもたちの笑い声。 庭に干された、知らない色の洗濯物。 長い椅子に座って外で食事を楽しむ人たち、 記憶にある小川とは比べ物にならないほど大きな川。 空の色も、村のものとは心なしか違う。 これまで自分の生きてきた世界が、いかに小さかったか カーテンの向こうに広がる世界が、いかに大きかったか そう長くはなかったはずの旅路の間に こんなにも未知の世界が広がっているなら、 もっと北や東の彼方には一体何があるんだろう ] (583) 2022/12/13(Tue) 18:38:32 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 初めて口にした我儘を叶えてくれた彼女に わたしは、できるだけ迷惑を掛けまいと思っていた。 けれどいざ洋館に辿り着いてみれば どう過ごして良いのか、それすらもわからなかった。 結果、無意識のうちに、あるいは意識的に 気付けばいつもアリアちゃんの後を追っていた。 このひとの傍に居れば何も怖いものはない、 このひとの傍から離れてはいけない、って 魂が訴えかけているみたいだった。 洋館で暮らし始めた最初の頃は、特に 完全にひっつき虫状態だった。 アリアちゃんの隣で過ごせる時間が 一番、ほっとしていられた。 ] できなくても、いい…… [ メイドさんにお世話になってしまう度 先住のみんなに世話を焼かせてしまう度に 心の底から感謝しながらも 申し訳なさでいっぱいになってしまうわたしに、 自分の無力さを思い知って泣いていたわたしに アリアちゃんは、そう言ってくれて>>261 ] (584) 2022/12/13(Tue) 18:39:53 |
【人】 XIV『節制』 シトラ失敗しても、いいの…… ? [ 仕損じれば間違いなく誰かを 困らせたり怒らせたりしてしまうから、と 何かをする前から立ち竦んでしまうわたしの、 背中をそっと押そうとしてくれて ] わたしが、やってみたい、ことを するのが、一番………… [ そんなこと、 そんな風に言ってくれるひとは 今まで、身近には誰もいなかったよ。 与えられる惜しみない優しさに返せるものを、 わたしは何も持ってはいないのに。 それどころか、 ]わたしは、あなたを置いて死へ逃げたのに。 (585) 2022/12/13(Tue) 18:40:07 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ それから一歩ずつ、毎日すこしずつ わたしはわたしの心に耳を傾けて やってみたいことをしてみるようになった。 文字をきちんと学んで、書けるようになりたい。 お菓子を作れるようになって、お礼に渡したい。 お金の使い方が、わかるようになりたい。 洋館に書庫があるなら、本を読んでみたい。 アリアちゃんにばかり頼るのは申し訳なくて 教えてくれそうなひとを見つければ>>36、 希望が叶うか否かは別として すれ違うたびにじっと見つめてしまったり 故郷の近いらしいシャルレーヌさんには どこか懐かしい空気と親近感を勝手に覚えて、 実際に会話が成り立つかどうかは別として お話してみたい、と思うようになるのも早かった。 植物の知識は、アリアちゃんから教わろうとした。 お薬の調合はさすがにできなくても 素材集めならもしかしたらわたしにも 役立てるんじゃないかって、そう思ったから。] (587) 2022/12/13(Tue) 18:41:19 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ そうした小さな挑戦と失敗、 失敗を重ねた先の成功が積み重なって ほんの少し自信が持てた今があるからこそ 「歌ってみたい」なんて言い出せたのだ。 かつてのわたしなら、とてもじゃないけれど そんな大それたことは言えなかったと思う ] ひぇ……っ そ、そう……です、けど ま、まだ、ぜんぜん 練習中……で でもあの、が…… がんばる、ので………… [ 心底驚いた様子なヒナギクさんの声に>>375 反射的に身体がびくりと強張った。 こちらを二度見する視線から逃げるように アリアちゃんの方へと一歩、後退る。 そ、そんなに……意外だった? 二度見するほど?? とはいえ改めて日頃の己を振り返れば 当然ではある。何せ、 表舞台と称されそうな場には とことん出たがらない自覚は一応あるもので ] (588) 2022/12/13(Tue) 18:42:19 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ けれど何やら感慨深そうな様子の彼女は>>377 わたしが参加しようとしているのを 喜ばしく感じてくれているよう、で。 ] あの、えっと、えと…… [ エーリクさんやプロセラさんや ユグさんやゼロさんが歌ってくれる姿を 一瞬思い浮かべてみてからはっと我に返った。 勝手に想像しちゃうなんて、申し訳ない。 おねがいしたら歌ってくれないかな なんて思うのは、心の内だけに留めて ] (589) 2022/12/13(Tue) 18:42:59 |
【人】 XIV『節制』 シトラ……そ、です ね 歌えるなら、全員で……歌えたら ──素敵、です [ ほんとうに素敵だと思った。案そのものも、 そういう発想が自然と生まれて それを実際に言葉として発することのできる彼女も。 わたしが出逢う前 彼女にも ]笑わなかった時期があったなんて 目に見えるものしか視えないわたしは、想像もしない (590) 2022/12/13(Tue) 18:43:46 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ チェレスタさんが荷物持ちの申し出をやんわり断って 代わりにお茶の準備を頼んでくれたのが>>216 彼女の思慮深さゆえだったとも、気付けない。 わたしより早くすらすらと必要事項を 全部言ってくれるアリアちゃんの言葉に>>427 隣でこくこく頷くのが精一杯だ。 『一緒に歌も見てもらえると心強い』の一言には 特に大きく首を縦に振ってみせた ] まっ、また、あとで……っ [ チェレスタさんにぺこりとお辞儀をして 食堂か売店か、 何処かへと向かうアリアちゃんの後を追う。>>428 振り向きざま、 既に荷物を奪わんとしているヒナギクさんの姿が>>379 ちらりと視界の端に映り込んだ。 ……まったく大丈夫ではなかったのに 『大丈夫』が口癖になっていた母さんの声を、 不意に思い出したのは チェレスタさんたちからすっかり離れてからだった。]* (591) 2022/12/13(Tue) 18:45:29 |
XIV『節制』 シトラは、メモを貼った。 (a88) 2022/12/13(Tue) 19:10:03 |
【人】 XIV『節制』 シトラ ──回想・三年前の誕生日 [ 誕生日を祝う歌は、わたしの村にはなかった。 贈り物をする風習は、一応はあった。 毎年じゃなくて、5歳の誕生日にだけ その歳まで生きられたことを祝って 親から子へと、ぬいぐるみをひとつ贈る風習。 洋館まで持ってきた数少ない手荷物の中 鞄のほとんどを埋めていた白い犬は 5歳のわたしが両親から受け取ったもの。 わたしの村では誕生日は、幸運の訪れる日で その人個人の持つ力が 一年で最も増幅される一日だと信じられていた。 新しく始めたい物事、 どうしても成功させたい挑戦は特に 誕生日に行うのが最良とされていた。 だから、だったのでしょう。 わたしにとって誕生日は一年で一番 村のみんなを不必要に警戒させてしまう日で、 そうと判っていたからこそ 特別なことは一切せずに、 普段と変わらず過ごそうと努める日だった。] (635) 2022/12/13(Tue) 22:23:21 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ だから、洋館に来て驚いたの。 誕生日が毎年当たり前に祝われていたことに。 一年目は、一方的に受け取るばかりで 二年目になって職員さんを頼れるようになり 三年目になって初めて 唯一の特技を生かせるようになった。 事前に欲しいものが尋ねられていたならそれを、 尋ねられていなかったなら 消耗品やお菓子を小さな箱に詰めて。 拒絶されたり、遠慮されたりしない限りは 誰にでもおずおずと。 誕生日のわからないひとには、年の初めに贈ろうとした。 ──けれど、 あのひとの誕生日だけは あのひとが来た一年目は、お祝いできなかった。 前日まで悩んで、悩んで、悩み続けて 肝心の誕生日当日に、わたしは ひどい高熱を出して寝込んでしまったのだ。] (636) 2022/12/13(Tue) 22:24:21 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 紙製の品を贈れば 肌を傷つけてしまうかもしれない 筆記具を贈れば 滑り落ちたそれが目を突くかもしれない 毛糸を紡いだ品を贈れば 絡まって首を絞めてしまうかもしれない ぬいぐるみを縫って贈れば 内から針が出てきてしまうかもしれない お茶やお菓子を手作りして贈れば 混入した毒に気付けないかもしれない 植物や動物を贈り物とすれば それが原因で病気に罹ってしまうかもしれない ガラス、陶器? もってのほか。] (637) 2022/12/13(Tue) 22:24:46 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 何を選んでも、わたしが彼に贈ろうとするものを わたし自身が誰より信用できなくて、 すっかり熱が引いた頃には 渡す機会を完全に見失ってしまった。 初めて彼の姿を見たとき、 わたしを見るその表情に心臓が跳ねた。 わたしが少しでも彼に近付いてしまえば 取り返しのつかない災いが起こる、 そんな怖ろしい予感がした。 ごめんなさい。ごめんなさい。 どれほど謝っても償えるものではない。 たとえ故意ではなく 混乱の中で起こした過失だとしても、 わたしがあなたを この手で殺めたのは 紛うことなき事実なのだから! わたしを見て笑顔を失った彼と時を同じくして わたしも、すっと血の気が引いてゆくのを感じた。] (638) 2022/12/13(Tue) 22:25:12 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 自己紹介もそこそこにその場から走り去って 得体の知れない恐怖と寒気に襲われること一週間、 漸く落ち着いて部屋を出られるようになったとき わたしの方から彼に近付く勇気はもうなかった。 姿が見えれば、自然と距離を取った。 わたしたち、きっと、離れて暮らした方がいい。 彼が──クロさんがどう思っているかはさておき わたしの方はそう思っていたものだから、 他のみんなに贈られるのと同様 わたしの元へとやってきた羊のぬいぐるみに>>529 わたしは驚きを隠せなかった。 まるくて、白くて、 可愛らしく掌に乗るもふもふのひつじ。 ただただ愛らしさを振りまくそれは純粋に贈り物で、 『誕生日祝い』以上も以下もないのでしょう。 ひょっとすると、 わたしにだけ贈らないわけにもいかなくて やむを得ず贈ってくれたのかもしれない。] (639) 2022/12/13(Tue) 22:25:47 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ けれど、どんな気持ちで彼が贈ってくれたのかも 直に訊くのは怖くて尋ねられなかった。] ぅ、あ……っ、あり、がと……ござい、ます 大切に…………しま……す、ね [ 歓喜と恐怖、驚嘆と自戒 相反する二つの感情が押し寄せて勝手に声が震えた。 やっとのことでお礼を述べて受け取ったその子は 部屋の隅、チェストの上で 今日に至るまでずっと、わたしを見張っている。] (640) 2022/12/13(Tue) 22:27:46 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 彼が洋館にやってきて二年目の誕生日 わたしは、贈り物に一冊のノートを選んだ。 考え抜いた末、それが一番実用的で かつ安全なように思えたの。 ただ、わたしの手で直接渡すのは やっぱり怖くて、こわくて。 彼の師でもあるフォルスさんに、 わたしの代わりに手渡してもらえるよう お願いさせてもらったのだった。 接客もお茶の用意も、わたしには難しいけれど 棚出しや陳列やお掃除ならきっと、できます ]** (641) 2022/12/13(Tue) 22:28:18 |
(a96) 2022/12/13(Tue) 22:34:14 |
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