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【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ「あんたはよくたって、」 見上げた瞳に翳りを見たのは、逆光のせいだろうか。 ……きっと、違うだろう。 翠の目はあなたを見ている。 学はなくとも、そう鈍くもないのだ。 「――アイだってタダじゃない」 頬へ口付けが降り落ちるそのとき。 少年もまた、あなたへ囁いた。 愛してる、などと。そんなことを言うのはあなたぐらいのものだ。 それは本当であるならあんまりにも過ぎたことだし、そんな価値はこれにはない。 だからすこし、眉を下げた。 促されて、「ん」と短く応える。 受け取った焼きたての串焼きへふうと息を吹き、冷ましながら歩き出す。 「少なくともおれは、何か選べるほど上等じゃない」 (-7) 2022/08/20(Sat) 21:07:52 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 小夜啼鳥 ビアンカ「そ」 短く返す。 こんなガキのたった一言に変えられるものなどないとわかっている。 それでもあなたが笑ってくれるなら、言わないよりはよかったかもしれないと思うのだ。 例えば、何の意味もないとしても。 べつに、そうしたっていいだろう。 かつての道理の通らぬ行動にこそ、意味のない行動にこそ。 埋められた欠落が、確かにあるのだから。 「……まあ、何だかんだそろそろ二年ぐらい経つしな」 これからもまだ、大きくなってゆくはずだった。 (-25) 2022/08/20(Sat) 21:27:12 |
ヴェルデは、それでも、幸せだった。 (c5) 2022/08/20(Sat) 21:27:25 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「2年〜?」 すこし、顔をしかめる。 「……もうそんななるか。 そうかあ」 その言葉はどこか、確認するよう。 これまで歩いてきた足跡を、一歩一歩踏んで確かめるようにゆっくり、頷く。 「……2年か」 はは、と。笑い声が、少し乾く。 「私の、前一緒に暮らしてた人は、2年でいなくなっちゃってさあ」 「そんくらいがちょうどいいのかもね」 「あんたもさっさとでていってくれると、肩の荷が下りるわけよ──……」 ぎゅうと握った手は、離すことなんて考えていないほどに強く、しっかりと握っていて。 「……」 「旅行。鞄かなんかあったほうがいいよね」 大真面目な顔で、そう言った。 (-69) 2022/08/20(Sat) 22:38:56 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → どこにも行けない ヴェルデ「そりゃあそうだ」 声に翳りはない。 「僕の愛は金銭じゃないもの。簡単に買えるわけないだろう?」 そういう意味ではないと、無論わかっている。 わかっているから、わからないふりで否定するのだ。 足並みを揃えて歩き出す。歩幅はあまりに違うのに、君と男が二人でいる時、君が置き去りにされることは一度たりともなかった。近くの席は埋まっているようだから、スープの屋台まで歩こうか。 「ああ、またそんなことを……」 苦笑するようでいて、あえて嘆くようでもある、作った声色を大袈裟に。 「上等かどうかなんて、些細なことだよ」 「僕が見たいんだ。君が思う素敵なものに囲まれている君を」 (-94) 2022/08/21(Sun) 0:25:49 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 墓場鳥 ビアンカ二年、と。 やけにあなたが繰り返すから、少年は首を傾ぎ、あなたへ視線を向けた。 その整った相貌が歪んで、かたちのよい唇から乾いた声が零れ落ちる。 そんな様子を見て、聞いていれば、あまりいい話ではないのだろうと想像もつく。 「……あんた案外オヒトヨシってやつなの」 「それとも、あんたもおれみたいに拾われた?」 前、というのがどれほど以前なのかは窺い知れない。 ならば、あなたも若いのだし、子供の頃の話だろうかと考える。 続く言葉のわりに強く握られた手を、少年もすこし、握り返していた。 「金はそろそろちゃんと返せたらって思ってるよ」 「ま、でも、旅行いかされたらまた嵩むのか――」 「……そんな急ぎの話?」 きょとんと瞳を瞬く。 (-170) 2022/08/21(Sun) 20:40:34 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレうそつき。 子供だと思って、すぐにはぐらかす。 少年はウインナーを齧り、咀嚼し、飲み下す。 「そういう話じゃないって、わかってるだろ」 「金は使えばなくなるし、気持ちだって他人に向けりゃ目減りする」 「余計なもんまで拾わなくていいって言ってんだ」 なんて、そんなことをいくら言ったって。 「それでも結局、あんたはおれみたいなのも構うんだろうけどな」 歩幅が違うように、住む世界だって違うのだ。 それなのにあなたは少年を置いていくことはないし。 無視することもないのだろう。 「素敵なものに囲まれるって言うならさ、」 「おれは結構、もう十分だと思ってるよ」 「何でもかんでも施されなくったって、あんたと話ぐらいはできるし」 「選り好みできるような立場じゃないけど、」 「選ぶのはあんまり得意じゃないけど、」 背が低い分、ずっと短い脚で。 歩幅を広げて、大きく一歩。 「今こうやってあんたと歩いてるのは、ちゃんと、おれが選んだことだ」 (-173) 2022/08/21(Sun) 21:09:50 |
ヴェルデは、だから、やっぱり、幸せだった。 (c22) 2022/08/21(Sun) 21:10:06 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → どこにも行けない ヴェルデ君は聡い。淀みなく紡がれる言葉に、危うく感心するところだった。少し目を見開いて、それからウインナーの先を齧る。そうしながら黙って君の言葉を聞いている。 君は聡い。 それは子どもには不要な聡明さだった。 そうあらねばならなかった道程を思う時、男はいつも少し、眉間に皺を刻むのだ。 子どもは無償の愛に溺れていればいいものを。 何の不安も知らずに笑っていればいいものを──── 金の髪が陽の光を弾く。 よそ見をした男の煙草がそれを焦がさないように、さりげなく押し返して歩いた。 滔々と流れゆく君の言葉に耳を傾けて、その言葉を聞いた。 眩しさに目を細めたのは、きっと昼時の明るさのせいではない。 ▼ (-275) 2022/08/22(Mon) 18:08:18 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → どこにも行けない ヴェルデ「……ああ」 「そうか。……大きくなったね」 口にした言葉はなんだか滑稽でもあった。 君が本当に幼かった頃を、男は知らない。せいぜい季節が二回りした程度の時間は、長い付き合いとは言い難い。 それでも男はまるで赤子の頃から知っているような手つきで君に触れたし、生まれた頃から傍にいるような慕わしさで君の名を呼んだ。 「そう言ってくれるなら何よりだよ、ヴェルデ」 君はまだここにいる。 君もいつか大人になる。 それがとても嬉しくて、 同時に少し寂しいのだ。 (-276) 2022/08/22(Mon) 18:16:31 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「そう見える?」 ふ、と。 気取ったように笑う姿は、いつもの顔だ。 ――いつものとおりに、作ったような、澄ましたような顔。 「大したことじゃあ、ないよ。 他に行く当てがなくて、どうすることもできなくて―― 好きになるしか、なくて。 男の元にいた」 過去のことなんて、女はめったに話さなかった。 だからそれはきっと、気まぐれ。 あなたの手の暖かさにぽたりと溶けた、 かたちのなく静かな結露にすぎなかっただろう。 本当のことを言っているかどうかも、わからない。 それでもその表情は、 懐かしげで。 ――そして、もう失った何かが、そこにあったのだ。 ↓[1/2] (-373) 2022/08/23(Tue) 3:34:31 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「当然でしょ、借りたら返す。 ……まーそうね。 けど、うん」 瞬く瞳に、僅かに笑みをたたえた口許が映る。 「急ぎ。 ……急ぎだよ、ヴェルデ。 やっておけばよかったなんて後悔、私はもうしたくない。 どこかに行くのはね、早い方がいいんだよ」 その日のビアンカは、あなたの手を離さなかった。 もういいと言ったって、なんだかんだと言い訳をして握ったままで。 [2/2] (-374) 2022/08/23(Tue) 3:34:51 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ少年は懸命に、あなたの隣を遅れないよう歩く。 それでも結局、守られていることも、わかって。 だから。 たとえ共にした時間が短かろうと。 生みの親よりずっと、あなたの方が家族だった。 「……なんだよ、それ」 くすぐったそうに少し、肩眉を上げる。 あなたを見上げて、吐息をひとつ。 「サルヴァトーレ」 「あんたホント、そんなことばっか言ってさ」 「人のことばっか見てて、自分のこともちゃんと見てんのか、……心配なんだよ」 それは、そうと自覚してのことではなかったけれど。 少年は確かに、あなたに『愛』を返そうとしていた。 (-450) 2022/08/23(Tue) 20:13:51 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 墓場鳥 ビアンカ美しく繕われた澄まし顔。 いつも通りの表情。 ほかに知っているのは、機嫌を損ねた顔。結構口が悪いところ。 少年が知っていることは、多くない。 「……ふぅん」 「ほかにどうしようもない、か」 これまで、あなたの過去を尋ねることはなかったし、あなたも話さなかった。 同様に、あなたが少年の過去を尋ねることはなかったし、少年も話すことはなかった。 けれど、ふと。こぼれるのは。 「どうしようもなくて、それしかできなくて」 「嫌なことでもそうするしかないの、おれを生んだヒトとおんなじだ」 翠の瞳が瞬く。 すこしだけ、遠くを見るように。 どこかへ行くなら早い方がいいと言うなら、多分、クローゼットから出るのが遅かった。 遅かったけれど、だからここに、今があって。 それでもあんたは行かないんだろ、とよぎった言葉は胸に仕舞う。 少年は今この瞬間、すこしだけ、いい男であろうとした。 「……ん」 だからそう、短く頷いて。 あなたの手を離さないまま、家路を辿る。 (-456) 2022/08/23(Tue) 20:38:19 |
【秘】 墓場鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「……」 足が一度だけ、止まる。 あなたの、どこか大人ぶった態度に、ぱちぱちと瞬きをして。 「――誰が、あんたの母親なんかになってやるかっつうの」 そんなこと、言ってない。 あなたはそんなこと、言ってないのだ。 それなのにそんなことを言って、 ビアンカは手を揺らした。 家へ帰ろう。 あの狭苦しくて、不自由な籠の中に。 過去も未来も現在も、私たちをぎゅうぎゅうと押し込めてくるのだから、 せめてそこだけは心安らぎ、雨風をしのげるようにしよう。 「ん」 「ヴェルデ、あのね──」 ▼ (-468) 2022/08/23(Tue) 20:59:11 |
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