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【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → どこにも行けない ヴェルデたかが二年。数字にすればそれだけ。それでも少年期の一年は長く、ひとつの季節、ひとつの月でさえ濃密な時を孕む。 幼少期から少年期を経て青年になり、それから大人へとなる道程。変貌の時期を共に過ごしている。 傷だらけでみすぼらしかった捨て猫は、多少痩せ型ではあれど毛並みよく、涼やかに二本の脚で立って歩くまでになっていた。 だからだろうか。 君が呼んだ名を、男は訂正させようとしなかった。 戯れる愛称ではなく「サルヴァトーレ」と言うのを、嗜めようとしなかった。 真っ直ぐに名前を呼ぶその姿に、いつかたどり着くであろう大人の姿を見たからかもしれない。或いは小さな舌がはきはきと音を出すのを、その音が整然と並んで自分の名を作るのを、聞いていたかったのかもしれなかった。 「僕はちゃんと、三食の食事をするよ」 心配いらない、と。 ウインナーを齧って顔を少し顰めた。 「これ、思ったより辛いんだよね」 (-35) 2022/08/24(Wed) 11:37:55 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ少年が他者の名を呼ぶことは少ない。 客の名前なんかいちいち知りやしないし、それよりもずっと近しいあなたの名前さえ、碌に口にしやしない。 そういう習慣がついていないことがひとつ。 呼べば振り返らせてしまうと知ったことが、もうひとつ。 ――それでも今、確かにあなたを呼んだ。 「メシだけじゃなくて」 「ヒトのことばっかじゃなくて、自分のことも愛してさ」 「ヒトからちゃんと愛されろって言ってんの」 あんたはそうできる場所にいるだろ――と。 呆れたような声音は、暗にそう告げている。 あなたのことをよく知りもしないくせ、子供らしい無責任さで。無鉄砲さで。 ウインナーをかじる。翠の視線があなたをちらと見上げる。 「……やっぱこっちと換える?」 (-36) 2022/08/24(Wed) 13:26:46 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 坑道の金糸雀 ビアンカあなたが止まれば、少年は一歩、前に出て。 その拍子につんと手が引かれ、振り返る。 「……そりゃそうだ」 「おれみたいなガキがいるにはさ、」 「――あんたはちょっと、キレイすぎる」 それは聞き飽きた賛辞だろう。 あなたはもっと美しい言葉をかけられてきただろう。 それでも、口の巧くない少年は、嘘のつけない少年は。 心からそう思って。 さざなみのようにかすかに、繋いだ手が揺れる。 狭い部屋の隅っこ。 毛布と本のある寝床。 きっと自由からは程遠く、けれど確かに、あたたかい場所。 ――家へ帰ろう。 ▼ (-40) 2022/08/24(Wed) 14:09:27 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 坑道の金糸雀 ビアンカ「なんだよそれ」 「そういうのは、おれが言う方だろ」 「かえる場所をくれて、ありがとう」 少年はさみしさを知った。 (-41) 2022/08/24(Wed) 14:10:20 |
ヴェルデは、だから、やっぱり、幸せだったのだ。 (c17) 2022/08/24(Wed) 14:15:11 |
【秘】 いつかの夢 ヴェルデ → 坑道の金糸雀 ビアンカもしも、こんな状況でなかったら。 もしも、明日も明後日もその先も、未来があったなら。 少年はいつかのあなたが言った通りに、他の仕事ができるようになろうと努めただろう。 お節介焼きのだれかさんに借りを作って、真っ当な教育を受けようとしただろう。 過去より架せられた苦痛を手放して、ほかの道へと目を向けただろう。 それは浅慮な子供らしい、想像力を欠いた夢。 困難を知らずに語られた無謀な言葉。 けれど確かに、自らの意思で。 呪縛でなく、義務でなく、強制でもなく。 十年後もこの手を、握っていたかった。 ――――それは、ここにはなかった、もしもの話。 (-42) 2022/08/24(Wed) 14:15:49 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → いつかの夢 ヴェルデ「僕は幸福だよ、ヴェルデ」 愛されろ、という言葉にはそう返事を。 君の言葉を嫌ったのでも、否定したのでもない。事実男は満たされている様子だった。男が君を、或いは彼女を見つめる瞳に愛以外の何かが混じったことはなかったし、何か飢えた様子を見せることも、妬む目付きをすることだってなかった。 男はいつだって愛だけを与えて、与えて、与え続けた。 それしか知らないように。 それだけが呼吸のように。 だから、君の無責任な問いは、無鉄砲な言葉は。 案外、それが本質だったのかもしれない。 それでいて、見上げる君の視線を、ほら見ろとでも言いたげな顔で受け止めるのだ。 「……おや、優しいね。ヴェルデ」 「でも平気だよ。それってちょっと、かっこ悪いし……」 (-54) 2022/08/24(Wed) 18:38:00 |
【秘】 金毛の仔猫 ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ「……そ」 あなたがそう言うのなら、少年にはこれ以上、重ねられる言葉はない。 口が巧くはないのだ。 それに何より、元よりそこにないものを欠けていると認識することはむずかしい。 少年自身だって、そうなのだ。 それでも今、差し出そうとしている気持ちが届いたらと。 それは、ほんのささやかな我儘だ。 「無理に食べるのもかっこよくはないだろ」 「じゃあ、ええと――おれが」 「おれがほしいから、ちょうだい」 (-74) 2022/08/24(Wed) 19:47:59 |
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