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【人】 灯守り 芒種 ここは、いつでも水の匂いに満ちている。 いっそ溺れてしまえたのならば、楽になれるのだろうか そんな、くだらない夢を、 ずっと、ずっと見続けている。 (202) 2022/01/17(Mon) 4:09:46 |
【人】 灯守り 芒種 ── 領域内 ── [ 風を伴わず静かに真っ直ぐ落ちる細かな水垂れの音は しとしとと鬱陶しく耳鳴りのように頭の奥に張り付いて すり硝子で覆ったみたいな半透明の景色は こころのうちを何時だって薄灰色に染めてゆく。 本当に、気が滅入る。 こんな場所を欲しがるなんてどうかしていると 子供の頃からずっと、今でも思っている。 本当に、どうかしている。 彼らも、そして、わたし自身も。 ] ( でも、そうね。これしかないのだものね ) [ 哀れに思う。 すべて投げ出してしまえばいいのに。 それができずに囚われている 彼らと、そして自分を。 ] (203) 2022/01/17(Mon) 4:10:53 |
【人】 灯守り 芒種[ 前略、あほみたいな希死念慮が有る。 正直、あっても仕方ないなと冷静に思うし なくなるのは気が狂った時だと思うので いまのところ特別、医者には罹っていない。 環境を変えろと言われて終わる話だ。 それができないのならば、 抱え続けるしかないのだと思う。おそらく。 ] ……あら、いいかおりね。 これ、この間あの子が送ってくれた茶葉かしら? [ 雨音と同じくらいに麻痺するほどに聞かされてきた 偉ぶりたいだけの年寄りたちの中身のない説教を 聞き流して、ひとこと、そう呟けば 途端、雷鳴のように劈いたのは、癇癪を起こした怒鳴り声。 思い通りにならないと、大きな声で脅かして脅すだなんて まるで赤子のようだと微笑ましさすら覚えた。 この環境で心安らかに在れるほどの 図太さや鈍感さと同義のおおらかさの持ち合わせはなく けれど持ち前の無駄すぎる反骨精神を捨てることもできない。 生き辛くて当然だ。 ここで生きる適性を、わたしは持ち合わせていない。 ] (204) 2022/01/17(Mon) 4:12:53 |
【人】 灯守り 芒種[ 目上の、そして男であるだけで、 女よりも強く偉いのだという漠然とした思い込みを常識と強い 許しもなしに押しかけてきて、散々ひとをこき下ろしたうえで 望んでもいない教えを解こうとする慇懃無礼な年寄りに ゆったりと、皮膚一枚で微笑んで返す。 そう、事実偉くも強くもないわたしの武器はこれしかない。 ならばいっそ抗うことをやめてしまえば 甘えて懐いたふりをして、 ただ命じられて断れなかっただけの飾りとして 適度に頼って自尊心を満たしてやれば きっともっと平穏に過ごせるのだとは思う。けれど。 ] いいえ、『大伯父様』。 勿論聞いておりませんわ。 [ 媚びるなんて、向いていないのだ、生憎と。 それこそ今以上の心労で、禿げ上がるかもしれない。何かが。 目の前の禿げ上がった頭が急激に近づいて 生意気な『小娘』と罵り掴みかかろうとした。 喉元に伸びてきた嗄れた手はほかの二人が押さえ込んで止め、 横に控えていたわたしの猫が庇うように間に入る。 ] (205) 2022/01/17(Mon) 4:14:18 |
【人】 灯守り 芒種あらあら、たいへん。 そんなにお顔を真っ赤になさって。 血圧のお薬、今日は忘れずきちんとお飲みになった? [ 彼が喚き呼んだ通りの生意気な女の顔で嫌味ったらしく 白々しく場違いな案ずる振りをしてみせる。 強くも偉くもない何も持たない弱者であるがゆえに 虚勢を張らずにいられない自分の滑稽さに吐き気がする。 ああ、うんざりする。 きっと、誰かが死ぬまで変わらない 退屈な、いつもの光景。 ] (206) 2022/01/17(Mon) 4:15:04 |
【人】 灯守り 芒種[ 暇さえあれば教育と称しご高説を垂れたがる年寄りは三人。 先代の頃からのそれぞれの蛍を務めるご老体だ。 彼らがわたしを灯守りと認めないように わたしが彼らを蛍名で呼ぶことはない。 出て行く気がないから追い出さないだけで 必要なわけでもなければ無礼に礼を返す可愛げもない。 血族に拘り続け途絶えぬように枝を広げた芒種の家系には 蛍の代わりなんて余る程にいくらでもいるのだから 挿げ替えられた頭が気に入らぬのなら さっさと他に押し付けて辞めてしまえばいいものを…… ああ、それでも。 このために生まれこのために生きて このために学びこのために尽くし このためだけに過ごしてきた時間が長すぎて もう身動きも取れないんだろう。 なんとも気の毒なことだ。同情はする。 ] (207) 2022/01/17(Mon) 4:17:17 |
【人】 灯守り 芒種[ 先代は大叔父、現在賑やかに激昂している老人の兄だった。 次は自分だと信じて疑わずにいた席を、 ある日『小娘』にかっ攫われては 血圧くらい爆上がりもするだろう。 それはとうぜんだ。それはわかる。 ] ( けれど、仕方がないじゃない。 ) ( 向いていなかったのだから。 ) [ 何を以て、向き・不向き、を定めるかは 生憎とわたしにはこれっぽっちもわからない。 代々受け継ぐ役目を御大層な何かと思い込みたいがために 特別な素質が必要だとか一族総出で夢を見ているだけで 受け継がれる能力さえあれば、素質も、血筋も問わず 子供にだって出来る役目と個人的には思っている。 あえて大伯父が『不向き』だったことを挙げるのなら 先代に選ばれることが上手くなかったのだろうと思う。 本当に気の毒だけれど、本当にそれだけの話だと思う。 ] (208) 2022/01/17(Mon) 4:20:49 |
【人】 灯守り 芒種[ あとのふたりは従伯父と族伯祖父だったか。 覚える気もなければまるで覚えきれず、年齢順に、 『おおおじさま』『おじさま』『ちいおじさま』と 勝手に呼んでいるが今のところ特別支障もない。 どうせなんと呼んでも気に入らないのだし。 『おじさま』と『ちいおじさま』は 今までは、次を継ぐ大伯父のその次をと意気込み 大伯父の腰巾着をつとめてきたが 大伯父よりはまだ若く、まだ年齢的に時間もある。 大伯父の脱落を待った上次を狙える可能性もまだある。 ゆえにそのまま大伯父につくか、わたしにつくか 不惑もとおに過ぎただろうに、惑いに惑い続けている。 難儀なことだ。 ] (209) 2022/01/17(Mon) 4:24:07 |
【人】 灯守り 芒種[ 先代はわたしに最初に教えた。 芒種の蛍は、次の芒種候補ではないのだと。 横に並べて競わせれば、どれかが秀でた瞬間に 残りが足を引っ張るのは目に見えていた。 競い合い潰されぬのならそれでもいいが わたしが次の芒種の候補に挙がったのは まだ数えで齢7つを迎えた年だった。 故に次の芒種と育てる弟子のわたしを、 ほかの蛍と競い潰し合う、蛍にする気はないのだと。 傍系から偏ることなく、対等に機会があるかのように 次の候補ではないと告げず蛍を取ることで黙らせてきた。 彼らはそれを知らずに仕え使われ続け それを知らぬまま居座り続けている。 長く役目を勤めてきた彼らは わたしより余程仕事ができたので 代わりはいても引継ぎが億劫で、 黙ったまま、居座る限りはと使い続けている。 ] (210) 2022/01/17(Mon) 4:28:19 |
【人】 灯守り 芒種……ところで。おじさまがた。 わたし、いい加減出掛ける支度をしなくてはいけないの。 だから、 そろそろお引き取り頂ける? ああ、『小娘』の着替えを傍で見たいというのなら べつにいいのよ、そのまま居てくださっても。 [ 老人が居座るせいで蛍にもなれぬ増えすぎた枝のあいだでは 先代から変わらず蛍を務め続けることになった三人は 色狂いの小娘にからだで飼い慣らされているとか よくない噂されているそうな。 故にお互い見ても見られても心底どうでもよかろうとも こう言えば追い払えることはわかりきっているのに。 かわいいわたしの猫が 決して赦さないと 鋭い目つきで威嚇をして、哀れな年寄りたちを追い払う。 先ほど掴み掛ろうとしたのが腹に据え兼ねているのだろうと 止めもせずに好きにさせておいた。 拾った時は仔猫だったのに、 いまではすっかり番犬のようになってしまった。 猫のままのほうが、ずっと愛らしかったのに。 ] (211) 2022/01/17(Mon) 4:30:16 |
【人】 灯守り 芒種[ 少年を引き取ったのは数年前の話だ。 両親を同時にわたしが送った。 身寄りがないわけではなかったが、領地も違い、 疎遠で、何処からも歓迎されてはいなかった。 居場所を選べず歓迎もされない 自分に重ね感傷に浸ったわけではない。 冗談のつもりで尋ねたら、頷かれてしまって、 結果としてこうなっただけだ。 「犬猫の仔でもあるまいに気安く拾ってくるな」と 一緒に住むわけでもない老人どもに怒鳴られて 「犬か猫の仔ならいいんですって」と声をかけたら 「じゃあそれでいい」と心底どうでもよさそうに答えたのが なんだか気に入って、他の引き取り先を探すことなく そのままずっと、傍に置いている。 存外美しく育ったせいか、 或いは猫だなんて呼んで愛でるせいか 若い燕だなんだと言われているらしい。 下世話な噂は割と好みなので好きに言わせている。 低俗であるほど愚かしくて面白いのだと笑う飼い主に 大きく育った飼い猫は、心底呆れた顔をする。 ここに居座るわたしに伸ばされるものはどれも じめじめと暑苦しく、うんざりするほど陰険で。 振り払っても鬱陶しく絡み付いてくる息苦しさの中 いつまでも適度な距離を保ったままの ひどく冷めたその視線だけが心地がよかった。 ] (212) 2022/01/17(Mon) 4:35:07 |
【人】 灯守り 芒種[ 追い払っておきながら急ぎもせずに 温くなったお茶でのんびりと、一息つく。 時間の管理がまるでできない飼い主を手伝うのは いつだってよくできた賢い猫の役目で 今もてきぱきと着替えと手荷物の支度をしている。 どちらが飼い主かわかりやしないし いっそ世話を通り越して介護のようだ。 そこまでさせる程の恩を売ったつもりはない。 気が向いた時だけ気まぐれに、少し可愛がっただけだ。 気が済んだら、好きな時に出て行って構わないのに 大層な高利子で返してくれるつもりのようだと 気付きながらも拒みもしなかった。 ひどい詐欺だと思う。この子に対しても、彼らに対しても。 でももうどこから正せばいいかわからなくて、 楽をしている今を抜け出し身を削ってまでてまで なにもかもに誠実であろうと変わることなど 到底出来はしなかった。 ] (213) 2022/01/17(Mon) 4:37:51 |
【人】 灯守り 芒種会場で、逢ったらお礼を言わなきゃね。 困ったわ、覚えていられるかしら…… [ 思い出させるために出した茶を前に既に忘れる心配を 心にもない声色で呑気に奏でる主を、 頭を抱えた胡乱な目の猫が睨む。 かわいそう、本当に。 わたしなんかに拾われて。 哀れで、憐れで、かわいらしいわたしの仔猫。 手を放して幸せにしてあげるには 今がわたしにとって心地良すぎたし 自分よりこの子を優先してあげられるほどの 愛や正しさは持ち合わせていなかった。 ] (214) 2022/01/17(Mon) 4:38:20 |
【人】 灯守り 芒種[ いい加減着替えて支度をしろと急かす猫を 手を伸ばして、そっと撫でる。 毛並みをもたない肌に、冷え切った指で 無遠慮に触れても、喜びもしないが拒みもしない。 ] ね、脱がせて。 [ 結んで貰った帯が自力では解けないだけだ。 着替えを手伝って欲しいと伝えるだけの言葉に わざとらしい艶を溶かして、ほしいものを強請る。 うんざりと潜める眉、眉間に深く刻まれる皺が愛らしくて 与えられる心地よい無関心を安心して貪った。 これから目眩がするほど真っ直ぐすぎる不可解な好意と 胸焼けするくらいの愛情を呑み干さなければいけないから いまだけは、もうすこし、このままで。 *] (215) 2022/01/17(Mon) 4:41:45 |
【人】 灯守り 芒種 ── 会場手前 ── [ >>112元気いっぱい賑やかな事故現場を >>194眺める視線よりさらに数歩外側で足を止める。 賑やかすぎて気後れしたのもあるし 今駆けつければ気遣わねばならないのが億劫でもあったし それより、なにより…… ] ( ……くっそしんど。 ) [ 機嫌も芳しくない猫を撫で回したのがいけなかったか。 コルセットもかくやというくらいに きつく締め上げられた帯のせいで息が苦しい。いっそ殺せ。 お陰で捻り潰された蛙のような酷い悲鳴も散々吐き出したし 今だって若干愉快な顔色をしている気がする。 しかし元より薔薇色には程遠い名前負けの陰気な面だ 気がするだけで案外、普段と大差ないかも知れない。 ふわふわと辺りを漂う人魂めいたシャボン玉の中の 虹色の薄い膜の向こうには、菖蒲色の炎がゆらめいて 青白い明かりの影になる顔はどうしたって常に昏い。 ] (269) 2022/01/17(Mon) 15:48:32 |
【人】 灯守り 芒種[ 恐らく。おそらくは。 嫌なら体調不良を口実に退席しろということなんだろう。 敏い子だ。 全力全身で来たくなかったのはきっと筒抜けだろう。 けれどなにもいわれていないのだから 気付かないふりをしておくとする。 嫌でなくとも意識混濁で強制退去できそうなので 気遣いでもなんでもないかもしれないし。 あのこから与えられるものを都合よく解釈してしまうのが ……───期待して、落胆する自分に気付くのが 耐え難くて、そっと思考の隅へと追いやった。 ] (270) 2022/01/17(Mon) 15:50:08 |
【人】 灯守り 芒種[ どこの誰にも快適であるはずの会場から流れる空気は わたしには少しだけ肌寒くて、乾いて感じてしまって あの馴染んだ纏わり付く不愉快さこそが自分にお似合いだと 誰にともなく言われているような心地がして、肩身が狭い。 嘲笑を含まず弾む笑う音がそよ風みたいに耳を擽る 和やかで明るい話し声がそこかしこに花開いていて 『この場所に』或いは『この場所にわたしが居ることに』 違和感しか、覚えられなくて。 言葉の通じない異国にでも放り出された気分だ。 まだあの子の顔も見ていないのに一足先に眩暈がしてきた。 きっとここに無理なく自然と溶け込む 誰からも愛される愛らしいあの子。 できれば逢いたくないと思う。 けれど見つかってしまえば駆け寄ってきてしまうのだろう。 嫌いなわけでも疎ましいわけでもない。 可愛いと思う ( それ以外の適当な形容がみあたらないから ) 愛おしく思う ( そう思っていなければ罪悪感を抱くほどに ) それでも、 憂鬱で、しかたがない。 『あの子に慕われる姉』でいることが 死ぬほど似合わない自分を、 これ以上嫌いになるのが、億劫で…… ] (271) 2022/01/17(Mon) 15:52:10 |
【人】 灯守り 芒種[ …… うん。鬱だな 。医者でなくともわかる。原因は多いにある。患うになんら不足なく。 故になんの不思議も不安もない。自然なことだ。 放っておけばどこまでも沈みそうな気分を適当に切り上げて いやだわ、更年期かしらね。なんて 自嘲を含んだため息を零そうとして 吐く息が足りない物理的な息苦しさを思い出した。 もう、ほんとうにむり。 うえかしたからないぞうがでそう。 いっそだしてらくになりたい。 車輪に潰された蛙みたいに、ひといきに。 都合のいい言い訳を手にして漸く 踏み入れる気になった会場へと 足を踏み入れてすぐ、迷いもなく 一直線に逃げ出した。 出迎えになんと挨拶したかも朦朧としているけれど 中にいればあんなに針の筵でも、一歩外に出れば 誰からも愛され認められ支えられている風になっている位 揃いも揃って外面がよく、呼吸するように嘘を吐く そんな面の皮が厚い一族の、これでもいちおう末端だ。 だから今日も 形式通り普段通り、無意識だろうと 挨拶くらい行儀よく振舞うこともできただろう。 ] (272) 2022/01/17(Mon) 15:55:22 |
【人】 灯守り 芒種[ ちゃんと顔を出して、挨拶もした。 引き返してもいない。 だから少しくらい手洗いに引き篭っても 少しくらいは許されるはずだ。 あの子が自慢できる姉としての振る舞いは 少し休んで、それからがんばれたら頑張ろう。 頑張れない時の言い訳の嘘はきっと 呼吸するように自然に吐き出せる筈だ。 今できないのは、わたしが悪いのではない。 だって、帯が苦しいから悪いんだ。 呼吸すらままならない。 用意された乱暴な言い訳に、今は素直に甘えておいた。* ] (273) 2022/01/17(Mon) 16:00:38 |
灯守り 芒種は、メモを貼った。 (a56) 2022/01/17(Mon) 16:35:12 |
灯守り 芒種は、メモを貼った。 (a57) 2022/01/17(Mon) 16:36:49 |
【人】 灯守り 芒種── 御手水 ── [ 芒種になって最初の会合も、こうしていたな、と 手洗い場の鏡の前、辛気臭い顔を眺めて思う。 もっともあの時は実際に内臓が出そうな程 ど派手に吐きまくっていたけれど。 慣れぬ酒の加減を誤り気分を悪くした不出来な娘と 若さ故の失敗を寛容に受け止め甲斐甲斐しく支える蛍 なんて老いぼれどもが思い描いた構図は 微塵もアルコールを受け付けなかったわたしの体質によって なかなか愉快な大惨事になったのは 黒歴史でもあり、気に入りの笑い話でもある。 今以上にただのお飾りとして、黙ってにこにこしていろと 命じられるまま、逆らうこともせず、息を殺して過ごした。 次々と知らない相手に挨拶をされ 普段知る顔とは打って変わって愛想よく話す年寄りの後ろで 文字通り、『黙ってにこにこ』し続けていれば 『大人しい子』で『緊張して』いて言葉が出ないのだと 『温かく見守ってやって欲しい』なんて 年寄りどもが庇うふりをして代わりに挨拶をし 勝手に会話に花を咲かせていた。 ] (406) 2022/01/18(Tue) 5:19:50 |
【人】 灯守り 芒種( わたし、いなくていいじゃない ) [ ここにも必要ないのだと再確認したようで 何もかもがばかばかしくなったわたしは 便器に顔を突っ込んで胃の中身をひっくり返しながら 酔っていかれた情緒でげらげら笑い転げて、 おしとやかな箱入り娘という 爺の求める飾りとしての役目を早々にぶち壊した。 面汚しめと罵られ、恥をかかされたと激昂した面々に なるほどそれが嫌がらせになるのかと学んだ結果…… ひとりで出歩けるようになった今がある。 来たかったわけではないが、来たくはなかった訳だが 爺の飾りにされるよりは幾分ましだと思っている。 ] (407) 2022/01/18(Tue) 5:20:16 |
【人】 灯守り 芒種── 回想 ── [ 先々代が最も芒種に相応しいと定めたのは 芒種を継いだ大叔父ではなく 無論蛍止まりの大伯父でもなく 傍系の早乙女に嫁いだ祖母だったそうだ。 それでも女に継がせる事はできないと 先々代は二番目の大叔父を選んだ。 灯守りに男も女も関係ないが そういう考え方の人だったらしい。 一番になれなかった先代は後継を 一番であった祖母の血筋に拘った。 祖母の息子に生まれた父をたいそう欲しがり けれど、灯守りの役目も、芒種を継ぐ血筋も なにもかもを放棄したかった父は、身代わりを作った。 先代が、血筋だけは満足する女との間に、わたしを。 母が誰なのかはわたしもしらない。 聞けば知る機会もあったかもしれないが 聞かなければ未だに知らぬままなのだから もし生きていたとしても、きっと 父と同じ思いで何もかもを投げ出し 外に嫁いだ誰かなのだろうと思い、探していない。 ] (408) 2022/01/18(Tue) 5:42:41 |
【人】 灯守り 芒種[ 父にとってのわたしは自分が好きに生きるための生贄で 先代にとっては男に生まれなかったことが気に入らないが 渋々納得している父の代替え品で 3番目にもなれなかった大伯父やその他 『芒種』になりたい雑多の枝にとっては 先代が引き取り育てる、先代に気に入られた 扱いの面倒な目障りな娘で。 幼い日、自分を取り巻く環境が なかなかにクソだな、と気付いたとき 一度はわたしも全てを投げ出そうとした。 父のように身代わりを用意もせず 従順なふりをして、先代には継ぐ気があるふりをして 先代がわたしに少しでも期待し始めた頃に 突然、姿を消してやろう、と。 聞けば父は血筋に関わらぬ惚れた女を娶ったそうだ。 そんな父のように自由になりたかった……わけではない。 やりたいことなんて思い浮かびもしなかったし それでも漠然と窮屈なここから逃げ出したかったし あとは、ただ、父が困ればいいと思った。 欲しいものを見つけ、手に入れた父が 何もないわたしには、羨ましかったから。 ] (409) 2022/01/18(Tue) 5:45:15 |
【人】 灯守り 芒種[ 逃げ出したところで生活していくあてもない。 自由はなかったが不便もないくらいに箱入りに育てられた 恵まれた小娘のわたしに一人で生きていけるだけの 能力や知識などなにひとつ備わっておらず けれどその頃から漠然と、 先代に送られることが業腹でかろうじて生きていただけで いつ死んでもいいと無気力に生きていたから、 あとさきなんて、何も考えずに逃げ出した。 散歩にでも行く気持ちで、ふらりと。 いつもどおりに耳鳴りみたいな雨が降っている中 傘もささず、履物も履かずに窓から逃げ出した。 もう少しましな出掛け方もあっただろうけれど あの時は今より若く、『かわいそうな自分』に 今以上に、そりゃもう心地よく酔いまくっていたから。 ] (410) 2022/01/18(Tue) 5:46:27 |
【人】 灯守り 芒種[ 鬱蒼と茂る森の中を好き勝手に散策して 無駄に健康だが軟弱な体をしこたま濡らしたおかげで さほど寒くもない日に器用にも低体温で意識を混濁させ 死なない程度に行き倒れていたはた迷惑な箱入り娘を 拾った人の良すぎるもの好きは『素敵な旦那様』なのだと 目覚めた時に傍にいたかわいらしい女性に聞いた。 表情豊かに、ふわふわと、綻ぶ花のように微笑む顔も おっとりとした穏やかな話し声も スキンシップが過剰でやたらと抱き締めてくる体温も 適度な距離を保つ世話係の愛想笑いしか知らぬわたしには 奇妙で、とても気持ちが悪かった。 しらないものは、怖くて、不快だ。 まるで別な星の生き物みたいで、気味が悪かった。 彼女は無知で恩人に無礼なわたしにも親切で優しく 着替え方すらままならない事にもおおらかで、 けれど甘やかすことなく、適度に雑に扱った。 必ず失敗すると分かっていても尚 手伝いにならない手伝いを任せられたりしたし 信じられない声量で喚く爆発物みたいな赤子を ちょっと見ていてと渡されたときは正気を疑いもした。 ] (411) 2022/01/18(Tue) 5:47:41 |
【人】 灯守り 芒種[ 赤子の扱いなんて当然知らない見ず知らずのわたしに おぼつかないあぶなっかしい手つきで抱かれただけで さいしょから、ぴたりと泣き止んだ赤子もまた 正気を疑う訳のわからなさで、気味が悪くて 女性と赤子が正真正銘の母子であると実感できた。 いろんな体液でぐちゃぐちゃな顔を、 この領域では余り見ることが叶わぬ太陽みたいに きらきらと輝かせて眩く笑うその無邪気な笑顔は わたしの影を濃く際立たせるようで、恐怖を覚えた。 どうせ花の名前なら、向日葵にしたらよかったのに。 柔らかな亜麻色の髪をもつ、茉莉と名付けられた女の子は 涎だらけの小さな手をよくわたしに差し伸べてきて 汚いなと、思いながらも、 その熱く湿った手に強く掴まれる気持ち悪さが、 なぜだか不思議と、そんなに嫌じゃなかった。 ……ものを知らないわたしは、わたしの正体を確かめもせず 親切心だけで世話を焼く女性を都合がいいと思いこそすれ 不自然と疑うこともしなかった。 ] (412) 2022/01/18(Tue) 5:53:50 |
【人】 灯守り 芒種[ 怖くて不快で気味が悪かった女性の優しさが わたしにとって心地よいものだと理解できるまで 女性にとっての『素敵な旦那様』は…… ……父は、わたしの前に、顔を出さなかったし 父が話をつけたお陰で 誰に探され連れ戻されることもなかった。 逃がさず、殺さず、保護しておいて 匿うていで恩を売って 愛情に飢えたわたしが容易く彼女たち母娘に懐柔されて 逆恨みをして危害を加えぬくらいに懐くまで。 賢いなぁと他人事みたいに思った。 クソ野郎なのはもとから知っていたし。 事実を知らなかった妻と、夫の間で 何やらひと悶着はあったようだが、それでも 『娘の姉』としてわたしを容易く受け入れようとした やさしく、おおらかで、おっとりしているようで なぜだか不思議と芯の強い彼女は やっぱりわけがわからなくて、 怖くて、こわくて、気持ちが悪かったけれど 慈しみを込めて柔らかく抱きしめてくれる 暖かな腕の心地よさを知ってしまったわたしには もう一度、不快だと思うことは、もうできなかった。 ] (413) 2022/01/18(Tue) 5:56:52 |
【人】 灯守り 芒種[ ある種の生存本能みたいに、或いは何も考えてないみたいに わけもなく無条件に、不思議と母親以上にわたしに懐いた 熱くて湿った重たいおかしな生き物は 今も変わらず、一度だって変わることなく わたしがまるで太陽であるかのように、 ひまわりみたいに真っ直ぐにわたしの後を追いかけてくる。 もうものを知らない子供でもなければ 生き方だって自分で選んで望み掴み取って 立派な一人前の灯守りになってもなお。 ほかの道も見つからず億劫になって成り行きで 『芒種』という名だけを継いで 怠惰にただの飾りで有り続ける 誇れるものなど何もないわたしを、盲目に慕って。 あの子が盲信する幻想みたいな『理想の姉』を いっそひといきに殺してしまえたら…… そうしてあのこがわたしに幻滅してくれたら きっといまよりずっと楽に息ができるのに。 取り繕うよりずっとずっと簡単であるはずの それが未だに、できずにいる。 あの日、伸ばされるちいさなその手の 心地よさを、知ってしまったせいで。* ] (414) 2022/01/18(Tue) 6:00:43 |
【独】 灯守り 芒種/* Q.いい加減誰かに話しかけては如何ですか? A.結構よ、間に合っているわ。 (意訳:誰が誰で誰と何処で何話してるかなんもわからん) (-130) 2022/01/18(Tue) 6:49:41 |
【独】 灯守り 芒種/* いもうとちゃんかわいいね。 かわゆ……ちかよらんどこ。 ゆきうさぎひろっていぢめたいなぁ。 だめかなぁ。だめだね。やめようね。 (-131) 2022/01/18(Tue) 6:51:27 |
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