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【秘】 死神 ゲイザー → 夜の一族 チャンドラ……ならばきっと、今。少年は、おとぎの国に居た。 あなたと空を泳いでいる。 夜を舞い、滑って、 いつかゲイザーが焦がれたワルツを踊るように。 (-90) 2021/10/25(Mon) 21:46:00 |
【秘】 死神 ゲイザー → 夜の一族 チャンドラいつも興奮状態にあるリーパーは、 混乱すれば、一周まわってひどく冷静になっていた。 空を飛ぶだなんて。 これじゃ、敗走することもできやしない。 夜の匂いがする。 「……なんで……、」 「なんで助けてるんだよ」 「オマエを殺そうとしたオレなんかを……」 (-91) 2021/10/25(Mon) 21:46:56 |
【鳴】 死神 ゲイザー「ハッ! オマエのはらわた、 死人みたいに冷たくて……もごごご」 「す、すみませんっ!! まだうまく、 お互いの人格が馴染んでいないみたいです」 喧嘩はしているようだけれど。 なんとかうまくやっていけてるのは、きっと伝わるだろう。 これで大団円のハッピーエンドという程、 話は簡単では無いのだけれど。 何せ、元・殺人鬼だ。 ⇒ (=3) 2021/10/25(Mon) 22:38:32 |
【鳴】 死神 ゲイザー「それじゃあ。 あ、……改めて、自己紹介をしますね」 「気弱で、すぐにいじめられちゃってたあたし、ゲイザーと。 何も言い返せないあたしに代わって、 怒ってくれた──話を聞いてくれていた『リーパー様!』」 「それが、あたし達です」 ⇒ (=4) 2021/10/25(Mon) 22:45:54 |
【鳴】 死神 ゲイザー「今までは、あたし、 リーパーの存在が認識できなかった」 『ひひひ、こいつ全然気づかねえんだぜ! 夜な夜な人間を殺して回ってたのにさあ……。 もごごご。もうしない、もうしないって!』 「──でも。こんなふうに、 お互い意思疎通できるようになったんです」 ⇒ (=5) 2021/10/25(Mon) 22:48:05 |
【鳴】 死神 ゲイザー「こうなったのは、べつに大した理由じゃない。 過去に特別なトラウマがあった訳でも無くて。 ……ただ、いじめられっ子のあたしは、 お友達が欲しかったから」 『でもさァこいつ、オレが世話焼いてやったのに 年取ったらオレの存在忘れやがった!』 『だから、ムカついて仕方なくって、 オレは殺人鬼になったんだ。 人間の腹を裂いて、ウサ晴らしてた!』 『オレ、まだ許して無ェかんな!』 『……ま、ちょっとはマシになったけどな、アイツも。 何か、ずっと”怒る”役目だったけど。 役目なんかなくても、居て良いって、あのノロマが』 ⇒ (=6) 2021/10/25(Mon) 22:53:04 |
【鳴】 死神 ゲイザー長い長い話を滔々と語り、少女はこう締めくくる。 「……あたし達については、これで良いでしょうか。 えへへ、あたし達。少しだけ、大人になったんですよっ」 ⇒ (=7) 2021/10/25(Mon) 22:55:45 |
【鳴】 死神 ゲイザー「──ね、あたし知ってます。 あなたが、ゲイザーを助けてようとしてくれたこと。 リーパーに、為さなければならない報いを与えようとしたこと」 「ずっと、……あなたと話したかった」 「ありがとう」 『え、これオレも言った方がいいやつ?』 『ぜってー言わねー!』 ⇒ (=8) 2021/10/25(Mon) 22:58:02 |
【鳴】 死神 ゲイザー「……何か、あなたにお礼がしたいんです。 あなた、ずっとあたしのこと心配してくれたから」 「…………」 「ば、『晩酌』……。 お付き合いしたほうが良いですか……っ?」 結局純潔のままだった少女は、 声を上ずらせて尋ねて来る。 けれどきっと、もうそれはあなたには必要ないことだ。 (=9) 2021/10/25(Mon) 22:58:45 |
【秘】 死神 ゲイザー → 夜の一族 チャンドラきっとあなたの言葉を聞いたのならば、 リーパーはひとつだって頷かない。 殺そうとされたら、見殺しにするし。 どうして自分のことを知ろうとするのかも、わからない。 あなたの論理ひとつだって理解しようとしない。 魔法使いと夜空を跳ぶ。 あなたの輪郭はきらめいて、 どこか浮世離れしたうつくしさがある。 少年のリーパーは、それひとつで── 一目ぼれしてしまいそうだった。 今、ふたりは対等だ。同じ高さで夜を駆ける。 「…………、」 「……ハッ。マジで勝手だな」 「オマエが妙になってから……。 オレの話、ぜんぜん聞きやしないし!」 それはこの殺人鬼も同じだ。 ⇒ (-103) 2021/10/26(Tue) 0:39:56 |
【秘】 死神 ゲイザー → 夜の一族 チャンドラ……怖さは不思議と、無くなっていた。 死の恐怖を通り過ぎて、奇妙な光景に囲まれて。 リーパーはなんだか笑えてきたのだ。 月の魔力に諭されて。理解不能を、許容する。 月の魔力に酩酊して、饒舌になる。 ああ、わかった。 心の奥底の欠落に気付いてくれたから。 手を差し伸べてくれるあなただから。 あなたのような性格だから。 ──聖なる月の色と、影に生きる血の色。 そのふたつは交わらない。 ……その振る舞い、言葉遣い、指先の仕草ひとつまで。 彼女が信じがたいまでの善人であるのは明白で。 だからこそ、殺人鬼のリーパーとは釣り合わない。 ⇒ (-104) 2021/10/26(Tue) 0:40:46 |
【秘】 死神 ゲイザー → 夜の一族 チャンドラだからリーパーは、べっと舌を出す。 差し伸べられた手を払い除ける。 「バーカ! オマエの言うことなんて聞いてやらねー!」 「オマエと友達になんて、なってやんねェよ!」 「知らなくたっていい。オマエがオレを知る必要はない。 バカはバカ同士仲良くしてな! ゲイザーとチャンドラで!」 ……それは、話の発端── チャンドラとゲイザーが、友達になることの許容だった。 ⇒ (-105) 2021/10/26(Tue) 0:42:40 |
【秘】 死神 ゲイザー → 夜の一族 チャンドラあなたの柔和な笑みが少年を見つめる間際、 リーパーはふいと顔を逸らした。 僅かに、たじろぐ。頬が赤いのは、興奮のせいだ。 「オマエはなんだか気持ち悪いから……。 殺すのはまた今度にしてやる!! 降ろせ!!」 あばれている。 (-106) 2021/10/26(Tue) 0:43:29 |
【秘】 死神 ゲイザー → 夜の一族 チャンドラリーパーは自身に選択権があると思っている。 この夜空で、絶対はあなたにあるというのに。 そして、夜の絶対者は彼を簡単には諦めてくれないらしかった。 それでもリーパーは否定する。 「ハッ! ……いいぜ」 「何度だって、オレに『友達になりましょう』と誘えばいい」 「何度だって、オレをどこかに連れ去ろうとすれば良い」 「オレは、……その度に何度だって。 そんなオマエの魂胆をめちゃくちゃにしてやる!」 ⇒ (-110) 2021/10/26(Tue) 21:21:45 |
【秘】 死神 ゲイザー → 夜の一族 チャンドラ──リーパーは、心底では、 あなたのことを決して嫌ってなどいない。 寧ろ、魅入られてしまった。一目ぼれしてしまった。 リーパーは本当に美しい花は、鑑賞に留めることこそが。 最も尊い愛し方なのだと思っている。 ⇒ (-111) 2021/10/26(Tue) 21:25:00 |
【秘】 死神 ゲイザー → 夜の一族 チャンドラ『ご感想は?』なんて。 ……もちろん、答えはひとつ。 「サイアクだ!」 助けてくれたけれど、ありがとうのひとつだって言ってやらない。 あなたを罵倒し、否定し、距離を取る。 きっとこれは少年にとって、恋だ。 実ることのない、実らせなんかさせない片思い。 どうしたって友達になろうとする夜の魔女。 そして好きだから、近づかない。 その全てを否定し続ける殺人鬼。 歪でおかしなふたりの関係。 でも、どっちも”ヤバいヤツ”なんだから、 これくらい許されるだろう。 今日のところはね。 (-112) 2021/10/26(Tue) 21:26:48 |
【鳴】 死神 ゲイザーその声色にゲイザーは、”まるで憑き物が落ちたみたい”と思った。 同時に、”今のあたしたちの関係のほうが、きっといい”という、 曖昧な印象も。 「あなたってひとは」 「年頃の女の子の、純潔を奪おうとして置いて」 その癖、幾らでも代わりのいる筈の下女を心底心配してしまう。 照れ隠しのような仕草に、ゲイザーはくすりと笑った。 ねえ、あたし。 あなたになら、初めてをあげてもいいと思っていたんですよ。 「ほんとう、憎み切れない、ろくでなし」 ⇒ (=12) 2021/10/27(Wed) 17:15:06 |
【鳴】 死神 ゲイザー「良いですよっ。あたし、暫くこの館にいますし。 そう、あたしっ。 お手伝いじゃなくて、正式に雇用されたんですっ」 だからこそ、何度でも次はあるのだ。 ゲイザーは贖罪をする必要が有る。 しばらくこの夢から覚めることはできない。 ……けれど、どうやら退屈はしなさそうだ。 ⇒ (=13) 2021/10/27(Wed) 17:17:51 |
【鳴】 死神 ゲイザー「だから『お誘い』は、いつでも。 あたしももっと、あなたのこと知りたいから。 どうでもいいことをお話しましょう」 「……茶飲み友達して、ね?」 ゲイザーは大人になって、少しだけ悪戯ができるようになった。 『えっ!? オレこいつと茶飲むのなんかゼッタイイヤだぜ。 あとジュースがいい!』 あまのじゃくの騒々しい一声と共に、ゲイザーは通信を切る。 きっと、この通信を使うのは最後になるという予感があった。 だって、普通に顔を合わせればいいのだから。 ⇒ (=14) 2021/10/27(Wed) 17:18:42 |
【鳴】 死神 ゲイザー日の光が降り注ぐ、中庭に隣接した通路で、 ゲイザーとリーパーは”そのあと”の話をしていた。 『あっっっっりえねえ!! オマエ、けっこうアイツのこと”イイ!”って思ってたんだろ。 知らんやつに取られて、それで良いわけ!?』 「良いわ。……だからこそ、良いの。 あたしは、あのひとに光を掴んでほしい。 いつも酒に溺れて、誰でもいいから女のひとに助けを求めて。 そんなあのひとが、あんなに穏やかな声色で言ったんだもの。 あのひとを”悲しい目”から引き揚げてくれるのは、 きっとそのひとだわ」 (=15) 2021/10/27(Wed) 17:28:56 |
【鳴】 死神 ゲイザー「相手が誰だって、あたしは祝福する」 「ああ、でも。──優しい人が良いわ!」 ゲイザーは日の光を眺めて、笑っていた。 『はーぁ。オマエ、マジで救いようのないバカだよな』 『ちょっとは分かるけどさ』 これはきっと、二人だけにしか聞こえない内緒話。 さあ、今日はどんなパイを焼こうか。 (=16) 2021/10/27(Wed) 17:29:36 |
【赤】 パイ焼き ゲイザーリーパーは、館の協力者の役目を終えた。 誰かを襲う画策をすることもない。 館の魔力によるこの声も、もう届くことはない。 それにリーパーはべつに、キエのことを 特別だともなんとも思っちゃいない。 これは、刹那の繋がりだ。 だから、別れを告げなければ。 ⇒ (*0) 2021/10/28(Thu) 16:51:40 |
【赤】 パイ焼き ゲイザー「ようキエ! まだこれ、聞こえてるか? いやあ、オマエには世話になったな。 オマエが居なければ、あんな謎は作れなかった」 ⇒ (*1) 2021/10/28(Thu) 16:52:00 |
【赤】 パイ焼き ゲイザー「それに何より、オマエには恩が有る。 あの時は、オレが”下”だったんだ。 オレは副人格だった。 棄てられて、なかったことにされて。 認識すらされなくて」 「……だからひとときでも あいつの躰を奪ってやれたのはスカっとしたぜ! それに、あのお陰で今みたいに対等になったんだし。 何より、ゲイザーのあの顔! あの悲鳴! ギャハハハハ!!! (*2) 2021/10/28(Thu) 16:52:46 |
【赤】 パイ焼き ゲイザー「でもオマエやっぱムカつくわ」 「いつだって人を食ったようなツラしてさ。 オレは誰のいいなりにだってなりたくない!」 (*3) 2021/10/28(Thu) 16:53:16 |
【赤】 パイ焼き ゲイザー「そういやオマエ、最初は探偵だって名乗ってたよな。笑える!」 「……じゃあ、待宵館殺人事件はこれでおしまい。 オチは探偵と犯人の結託による完全犯罪だ。 陳腐で、趣味の悪い、最高のミステリー!」 (*4) 2021/10/28(Thu) 16:54:07 |
【赤】 パイ焼き ゲイザー「捕まえてみろよ、インチキ探偵!」 さよならなんて素直な言葉、言ってやらない。 リーパーはリーパーらしく。 最後に行ってやるのは捨て台詞。 もう殺人なんてする気はないのだけれど。 統べる者に歯向かうのが愚かな殺人鬼の最後の矜持だ。 ……さて、気に入ってくれただろうか、あなたは。 さあ、ご感想は? (*6) 2021/10/28(Thu) 16:55:45 |
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