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【人】 宮々 蓮司行きの車内は静かだった。 俺はただ前だけを見つめていた。 どこにも辿り着かなければいいのにと思いながら。 それでも行かなければいけない。 今に留まるのではなく、未来を掴むために。 宮々の家は都内から少し離れた場所にあった。 その町は電車を使えば2時間程度で都心まで出られる位置にある。 囲いのある広い敷地で、武家屋敷を思わせるような平屋建て。 忌まわしい実家だ。 命が掛かってでもなければ戻ることはなかった。 車を停め、エンジンを切っても体が重い。 (4) 2022/05/26(Thu) 19:13:01 |
【人】 宮々 蓮司「 瀬里、覚えてるか? 」 あのときに聴こえた美しい歌声。 あのときに聴こえた指を鳴らす音。 二人の幸せを願う音色が二つ。 「 俺は忘れない。 あのときの音も、お前のことも。」 たとえ忘れてしまったとしても。 もう一度それを思い出すのだと、強く強く誓う。 (5) 2022/05/26(Thu) 19:13:22 |
【人】 宮々 蓮司暫くしてから車を降りると、 手を繋ぎ、家の中へと向かう。 出迎えてくれたのは老人がひとり。 それが蓮司の祖父であり、ただひとり連子の味方であった。 蓮司の祖父は物腰柔らかに家の中へと二人を招き入れた。 二人が通されたのはさほど広くはない和室の客間だった。 中央には小さなテーブル。 しばらく待つように告げると祖父は部屋を後にする。 それからすぐに別の人物が部屋をおとずれたが、それは宮々のお手伝いさんで、二人にお茶を運んできただけだった。 * (6) 2022/05/26(Thu) 19:15:05 |
【秘】 雨宮 瀬里 → 宮々 蓮司口づけの温かさも、幸せな気持ちも。 貴方を想うすべてを。 指で貴方の眼帯を撫でて、微笑んで。 貴方がそうしてくれたように、 私からも身を寄せて、もう一度だけ短くキスをする きっと、今の貴方との、最後の口づけ。 (-3) 2022/05/26(Thu) 19:46:49 |
【人】 宮々 蓮司瀬里に聞かれて、自分がまるでそのことを気にしていなかったと気づいた。 治療がうまく行かないこともある、病気が治らないことも。 でも、そんなことよりも、瀬里を失うことの方がずっと怖かった。 「 いいや、……いや、すごい怖いな。」 それでも、考えてしまえばそれはよりリアルに感じられる。 うまく行かなければ、それこそ命を失う可能性だってある。 終わりを迎えれざ、瀬里との未来が閉ざされてしまう。 それが何よりも怖かった。 「 でも、大丈夫だ。 爺様は宮々でも腕利きなんだ。」 だからこそ。 その見立ては正しいと思えてしまう。 祖父がそう言うのなら、きっとそうなってしまうのだろう。 (9) 2022/05/26(Thu) 21:09:23 |
【人】 宮々 蓮司「 瀬里、……もし…… 」 言葉が詰まった。 何を言えばいいのか、何を聞けばいいのか。 刹那の逡巡。 「 上手くいったら、何がしたい? 」 何がしたい? 何処へ行きたい? もしも、治療が成功して、 そして何もかもがただの杞憂で終わったとしたら。 そのとき、お前は何を望むのだろう。 俺は何を望むのだろう。 * (10) 2022/05/26(Thu) 21:10:19 |
【人】 宮々 蓮司それは二人とも望んでいながら、口に出すことのなかったもの。 瀬里には夢がある。 俺はそれを応援したいと思うと同時に、負けられないというくだらない意地があった。 だから、瀬里が卒業した後も二人は生活の拠点を別にした。 でも、離れれば離れているだけ、お互いがお互いをどれほど大切に思っているか、思い知らされた。 お互いの身に何かが起こるのではないかという不安、そして実際に起きた時にそばに居られない焦燥。 瀬里が黒い不安を抱いていたなんて、思いもよらなかったが。 「 ああ、そうしよう。 やっぱり、離れているのは嫌だな。」 意地も、都合も関係ない。 上手くいったら きっと訪れない仮定を前に、ただ純粋な想いと望みだけが残っていた。 (13) 2022/05/27(Fri) 14:02:36 |
【人】 宮々 蓮司机を挟んで向かい合っていたせいで、瀬里に触れることが難しい。 それでも身を乗り出して手を伸ばそうとした時。 『 蓮司、準備をしなさい。』 ノックと共に届いた声。 祖父の言葉が、二人の時間を終わらせる。 「 今、……いきます。」 身を乗り出したそのままに立ち上がる。 くらりとした小さな立ち眩みに目の前が揺れる。 改めて、今この身体が病魔に侵されていると自覚する。 (14) 2022/05/27(Fri) 14:03:07 |
【人】 宮々 蓮司「 行ってくる。 待っていてくれるか? 」 治療にかかる時間は半日から1日と聞いている。 待たせるのなら、この家に瀬里を泊めることになるが。 「 必ず戻るから、待っていてほしい。」 ひとつしかない瞳で瀬里を見つめる。 怖い、こんなにも愛しい人を失うかもしれないと、そう思うだけで身体が震えるほどに怖い。 必死に内なる恐怖と戦い、体の震えを抑えながら、瀬里へ向けた顔の口元には微笑みを浮かべてみせた。 いつだって、男は好きな女には虚勢を張っていたいものだから。 * (15) 2022/05/27(Fri) 14:03:38 |
【人】 宮々 蓮司瀬里が泣いていた。 わかってる。 あの微笑みが作り笑いじゃないことぐらい。 あれは瀬里の心からの微笑みだ。 でも、そう、泣き顔をかくした顔だった。 瀬里をひとり残して離れへと向かう。 沐浴を済ませ、鎮痛成分のある薬湯を飲んだ。 精神が追いついてきてゆっくりと眠気にもにた浮遊感に包まれる。 思い浮かぶのは瀬里のことばかり。 もしも、俺が変わってしまったら、瀬里は泣くだろうか。 瀬里まで変わってしまうことは思い及ばなかった。 (21) 2022/05/27(Fri) 19:23:54 |
【人】 宮々 蓮司「 爺さま。 瀬里を、連れてきた女の子なんだけど。」 準備をする祖父に向けて話しかける。 「 もしも、 俺が彼女のことがわからなくなっても、 ……彼女に会わせて欲しい。」 恋心が失われて、もしかしたら記憶までなくなって、彼女のことがわからなくなっても、会えばきっと思い出せる。 思い出せるはずなんだ。 (22) 2022/05/27(Fri) 19:24:17 |
【人】 宮々 蓮司陽が落ちて、 月が昇り、木々が風に揺れる。 背中に祖父の気配を感じながら、 頭の中は瀬里のことだけで一杯にしていた。 初めて会った時のことも、 恋矢によって結ばれた時のことも、 それから一年の間はずっと瀬里との思い出ばかり。 笑顔も、真剣な顔も、それから…… 「 泣き顔は、……まだ見たことなかったな。」 そう小さく呟いくと同時に、 意識が段々と小さく希薄になっていった。 (23) 2022/05/27(Fri) 19:24:45 |
【人】 宮々 蓮司夢を見た。 とても大切な人と手を繋いでどこかへと歩いている夢。 顔には陰が掛かっていてそれが誰かはわからない。 俺は、その子の名前を呼んでいるのに、それがどんな音なのかわからない。 聞こえない。 自分の声も、彼女の声も。 目を覚ました時。 朝の日差しが辺りを包んでいた。 まだ早朝だと言うのに随分と暑く感じられ、季節がもう夏へと移り変わったのだと知った。* (24) 2022/05/27(Fri) 19:27:10 |
【人】 宮々 蓮司俺は宮々に戻っていた。 そう、体の不調を祖父に相談し、その治療のために。 それを思い出して最悪の気分だった。 とても幸せな夢を見ていた気がする。 どうしてもどんな夢だったか思い出せないが、とても幸せな夢。 だが、其れがただの夢であるとわかればあとは憂鬱だけが残った。 これから陽が高くなればまだまだ蒸し暑くなるだろう。 (31) 2022/05/27(Fri) 22:27:57 |
【人】 宮々 蓮司着替えを済ませて離れを後にした。 昨日は顔を合わせなかったが、いつまでもそうではいられないだろう。 父と母、そして弟と妹。 祖父を除けばそれが家族と呼べる者たちだ。 本音を言えば顔も見たくない。 気が重い。 足取りも。 ここへ来るときは、そんなことほとんど気にしなかったのに。 なぜだろう、わからない。 (32) 2022/05/27(Fri) 22:28:16 |
【人】 宮々 蓮司瀬里の部屋の扉を誰かが三度叩いた。 『 雨宮瀬里さん、と言ったか。 よく寝られたかな? 』 扉を開ければそこにいたのはひとりよ老人だった。 好々爺といった感じで笑みを浮かべた物腰柔らかな老人。 髪は白く、皺は深く、そして両の瞳は紅く。 『 朝から突然すまんの。 いきなりじゃが、 あんた、 ……ここに来た理由を覚えておるか? 』 ニコニコとした笑顔。 だが、その目は決して笑ってはいなかった。* (33) 2022/05/27(Fri) 22:29:09 |
【人】 宮々 蓮司老人はその答えに目を細めた。 崩れぬ笑みはその胸の内を明かさない。 『 そうか。』 短くそう言うと老人の背中に純白の翼が現れる。 恋天使の翼。老人は女に自分が同類であると示したのだ。 小さな身体に似合わないかなり大きな翼。 『 宮々はその蓮司≠フ家じゃよ。 今のあんたには知らん男だろうがな。』 相変わらず口元には笑みを浮かべたまま、笑わぬ目を女に向けていた。 (37) 2022/05/28(Sat) 9:41:59 |
【人】 宮々 蓮司老人は少しばかり逡巡するようを見せた。 飄々とはしていたが何か迷いのようなもの。 『 恋矢についは知っておるな? 蓮司≠ヘあんたの恋人≠カゃった。 ……手違いでな。 それでわしがその手違いを元に戻したのじゃよ。』 老人は言う。 ちょっとした事故で二人は恋矢に結ばれてしまったと。 宮々にはそれをなかったことにする方法があって、二人の同意のもとにそれを行ったのだと。今はその影響で少し記憶に混乱が生じているだけなのだとも。 (38) 2022/05/28(Sat) 9:43:10 |
【人】 宮々 蓮司老人は目を伏せた。 先ほど広げられた翼は折り畳まれている。 『 会ってどうする? 既に恋矢は抜き取ったあとじゃ。 二人ともそれはよくわかってるはずじゃろうに。』 口調が少しだけ棘を帯びた。 恋矢が結びつけた二人の恋。 それがなくなったのだから、二人はもはや恋人でも何でもない。 赤の他人になったのだと、老人はつげていた。 (43) 2022/05/28(Sat) 10:47:24 |
【人】 宮々 蓮司記憶の混乱。 なぜここにいるのかその理由すらわからず、突然恋人がいたのだと言われればその混乱は益々深まったことだろう。 それをどうにかしたいと思うのは、極自然のこととは言え。 『 あまり混乱はさせたくないんじゃが。」 老人が渋っているのは明らかだった。 『 まずは朝食を摂りなさい。 その間に蓮司に会うかどうか聞いておく。』 老人はそういうと女の意向など気にもせずに部屋を後にする。 蓮司≠ェ会うと言うのならば会わせる。 そうでなければ──── * (44) 2022/05/28(Sat) 10:47:57 |
【人】 宮々 蓮司彼女の答えは会いたい≠セった。 そして自分はそれを聞いてもまだ迷っていた。 雨宮瀬里。 名前を聞いても、恋人だったと聞いても顔も思い出せない。 2度目のお見合いで出会ったらしい彼女。 わからない。 何も覚えていない元恋人に会ってどうするのか。 それでも。 祖父が伝えてきた言葉が背を押した。 「彼女に会わせてほしい」 それが恋矢を抜く前の自分が頼んだことらしい。 (49) 2022/05/28(Sat) 12:54:53 |
【人】 宮々 蓮司朝の時間が過ぎて、昼よりも前の頃。 外の温度はたいぶ上がって汗ばむほどになってきていた。 瀬里が案内されたのは敷地内の広い庭。 そこには男がひとり佇んでいる。 風景には馴染まない洋装で。 短めに切り揃えられた髪。 男が瀬里の方を向くと、左右で色が違う瞳が彼女を捉えた。* (50) 2022/05/28(Sat) 12:55:25 |
【人】 宮々 蓮司その子は現れた。 白いブラウスに赤紫のスカート。 モノトーンの自分とは違うその姿に、何故か少し違和感があって、だけどとても似合っているように思えた。 「 雨宮瀬里 」 口にしたその響きにどこか懐かしさにも似た感じがある。 記憶にはなくとも初めてではないからか。 「 瀬里…… あ、瀬里≠ナいいか? 」 そう、一度呼び方を確かめた。 (54) 2022/05/28(Sat) 14:40:15 |
【人】 宮々 蓮司目のこと。 もしかしたら彼女は自分のことを覚えているのだろうか。 今はもうこの左眼に痛みも何もない。 右目と同じように見えるし、光を強く感じることもない。 「 ああ、大丈夫だ。 左右で色が違うだけだ。 ……少し格好いいだろ? 」 そんなことを少し戯けてみせる。 (55) 2022/05/28(Sat) 14:40:29 |
【人】 宮々 蓮司「 何か、……不思議だな。」 こうして面と向かっても湧き上がる感情はない。 恋矢がなくなったことに加え記憶が曖昧になっているせいか。 「 はじめまして、ではないんだよな。」 確かに初めて会った、それとは違う。 でもその顔もその声も、記憶のどこにも見当たらない。 ましてや恋心なんてものはどこにも。 あの日、あのお見合い。 そもそもその記憶自体が曖昧でよく思い出せないでいた。* (56) 2022/05/28(Sat) 14:40:47 |
【人】 宮々 蓮司覚えていないこと、貴方もですよねと問われて小さく頷いた。 雨宮瀬里のことを思い出そうとしても、例えば昨日のことを思い出そうとしても靄がかかったように、記憶の輪郭が定らず手を伸ばしても霧散してしまう。 そこにあるようで、ないような不思議な感じ。 視界に揺れた彼女の背中の翼。 薄紫のきれいな羽根。 視線がそれを掠める。 それを見た記憶もない。 ただ、なぜだろう、その羽根に手を伸ばしてしまいたくなるのは、昨日までの自分がそこに何かの感情を抱いていたからだろうか。 (61) 2022/05/28(Sat) 17:10:23 |
【人】 宮々 蓮司「 手紙……? 」 差し出されたのは一通の手紙。 封はすでに開けられている。 読もうか読むまいか悩んでいると、彼女が少し距離を詰めてきた。 その言葉は意外なものだった。 祖父が彼女に言ったというそのことば。 手違い≠サんなこと自分には言っていなかったのに。 それは、自分が彼女へと書いたらしい手紙を読む動機として十分だった。 (62) 2022/05/28(Sat) 17:10:40 |
【人】 宮々 蓮司「 随分と、……貴方≠愛していたらしい。」 読み終わって口をついた感想はそれだった。 まさに今この状況を憂い、それでも彼女≠愛し、必ず彼女の元へ戻るのだと、そんな手紙の内容。 でも、それはすでに失われた愛情なのだ。 「 ……さあ? これは俺≠ェ書いたものじゃないから。」 そう。 同一人物ではあるが、今の自分とは別物。 どれだけその愛情が深くても、いや深かったがために、今その愛が失われたことが確かな事実なのだと判ってしまう。 昨日までのその心がその感情が真に恋や愛なのかはわからないけど、少なくとも今はそうではない、それだけが確かなこと。 (63) 2022/05/28(Sat) 17:10:56 |
【人】 宮々 蓮司「 瀬里、 ……俺のことが好きか? 」 彼女の様子を見るに、きっと自分と同じなのだろう。 だから、この問いの答えは否≠ナあるはずだ。 「 結局、 昨日までの俺たちはどこにもなくて、 今はもう昨日とは違う俺たちがいるってわけだな。」 俺≠ゥら彼女≠ノ宛てた手紙。 それを読んでなぜか申し訳ない気持ちになるが、それこそ昨日まで抱いていたらしい感情が他人事である証。 (64) 2022/05/28(Sat) 17:11:18 |
【人】 宮々 蓮司手紙を彼女へと返す。 きっと、これは彼女≠ノ宛てたものであっても、今この目の前にいる彼女に宛てたものじゃないだろう。 だから返されてもきっと困るだろうけど。 「 ……駅まで送るよ。」 昨日までとは違う自分はと彼女。 それは、昨日までの二人の関係が終わってしまったことを意味しているのだから。 答えはとうに出ている。* (65) 2022/05/28(Sat) 17:11:50 |
【人】 宮々 蓮司つられるようにスマホを開けば、彼女と同じ写真が全面に写っていた。 瀬里は撮り慣れているのか綺麗な顔を見せていたけど、その隣の自分らしき男は少しぎこちない。 でも、二人ともいい笑顔だった。 「 ああ、構わない。」 恋心は置いておくとしても、記憶がないのは確かに不安というか気持ちの悪さがある。それが極限定的であっても。記憶とは自分自身の歴史なのだから、それもそのはずだ。 「 きっと、昨日までの蓮司≠煌ぶだろう。」 そんな皮肉を口にした。 実際、その蓮司≠ェいないのだから、こうなっているというのに。 (71) 2022/05/28(Sat) 19:07:24 |
【人】 宮々 蓮司いっその事、もう一度恋矢で結ばれるのはどうか。 それを考えなかったわけじゃない。 だけだ、それでは結局また恋熱病に冒されてしまうかもしれない。 ゆえにその選択肢は取れない。 手紙にあった通り、もう一度瀬里≠ノ恋をしたのなら、もしかすると記憶も何もかも戻ったりはするだろうか。 だけど、それはあり得ない。 恋天使は恋をしてはならない。 だからこそ恋天使はお見合いをするのだ。 自然の恋愛ができないから。 結局のところ、昨日までの二人がどれほど互いを大事に想っていても、二人が結ばれる可能性は皆無なのだ。 それを昨日の自分はりかいできていたのだろうか。 (72) 2022/05/28(Sat) 19:07:45 |
【人】 宮々 蓮司車の窓の外を景色が流れていく。 車内には自動的にスマホと接続したナビが音楽を流していた。 どこかで聴いた歌。 スマホに入れているだから当たり前なのだけど。 「 これ、知ってる? clarity≠チて歌手なんだけど。」 歌手、というか歌い手≠ニいうのだったか。 今ではフェスなんかにも参加したりして、最近話題を耳にすることも増えてきた。 「 彼女の歌、好きなんだよ。」 それはいつからだったか。 いつから彼女の歌を聴き始めたのだろう。 いつ彼女のことを知ったのだろう。 その切っ掛けが思い出せない。* (73) 2022/05/28(Sat) 19:08:29 |
【人】 宮々 蓮司どうしてだろう。 どこで聴いたかもわからないのに、俺はこの歌い手を知っている。 とても、とても大事な思い出だったはずなのに。 その歌を聴くとひとつのシルエットが浮かぶ。 淡いブロンド、紫の瞳に紫の羽根。 黒のゴシックワンピースにヒールを履いた女の子。 顔には靄がかかってわからない。 (77) 2022/05/28(Sat) 19:53:05 |
【人】 宮々 蓮司信号が赤くなって車を停める。 停車中でも俺の視線は前を向いたまま、隣の子がこちらを見ていることにもまるで気を留めず。 ただ、スピーカーから聞こえる歌に合わせて指を鳴らした。 ─── パチン、パチン それもまた何処かで聴いた大切な音。 不思議だった。音に合わせて指を鳴らすたびに、脳裏に浮かんだシルエットが彩を増していく気がした。 その服はあまり趣味ではなかった。だけど、それは彼女によく似合っていた。 だから全く着なくなってしまったのなら、それはそれで少し惜しい気もしていた。 それなら誰にも荒らされたことのなかったルージュ。 それもまた、綺麗で可愛らしい彼女によく似合っていた。 そして、そう、そんな風に完璧に装っていた彼女の、意図的に作られた唯一の隙、それは──── 信号が青に変わって、車を発進させる。 自然、指を鳴らす音は途絶えた。* (78) 2022/05/28(Sat) 19:55:15 |
【人】 宮々 蓮司どうして? そんなのは決まってる。 命と恋を天秤にかけたのだ。 それで恋を取るほど馬鹿ではなかったということ。 誰だって命は惜しい。 「 死にたくなかったんだろうな。」 患った病は大した病気ではなくて、でも宮々の人間には致命的にもなり得るものだった。ただそれだけを伝えた。 それは当たらずとも遠からず。 恐れたのは死んで、永遠に瀬里を失うことだったけど。 それも今となってはわからなくなっていたこと。 (83) 2022/05/28(Sat) 21:12:09 |
【人】 宮々 蓮司恋をしている顔。 自分のスマホには二人の写真がそれほど多くはなかった。 風景だったり、それから瀬里≠撮った写真。 確かに写真の中の彼女は今横にいる彼女とは違って、とても楽しそうに、そして幸せそうな笑顔ばかりだった。 きっと、それをカメラ越しに見ていた自分も同じ顔をしていたのだろう。 「 少し、……羨ましいな。」 恋矢が重篤な病を引き起こすなら、 自分は二度と恋なんてできないことになる。 今はもう恋に憧れも何も抱いてはいないのだけど。 胸には後悔のような昏い水底へと沈むような感情がある。 結局、瀬里を失ってしまうことへの後悔が。 (84) 2022/05/28(Sat) 21:12:23 |
【人】 宮々 蓮司車は駅前に着くと静かに停車した。 「 着いた、な。」 いつか「どこにも辿り着きたくない」そんな風に言った男がいた。そいつは今のよう場面を想像していたのだろうか。 ここで、彼女が車を降りればそれでおしまい。 さっき彼女が言った通りたまに連絡が来るかもしれない。 でも、きっとしばらくすればそれもなくなる。 だからと言って何もできないし、何かしようとも思えない。 なあ、蓮司 お前はこんな終わり方も想定していたんだよな? エンジンを切ると、助手席の瀬里へと視線を向けた。* (85) 2022/05/28(Sat) 21:13:55 |
【人】 宮々 蓮司それは何か考えるよりも先の行動だった。 気づけば手を伸ばしてその涙を拭っていた。 どうしようもなく切なかった。 そして、彼女が涙を流しているのが、そうさせているのが自分なのだと思えば許せなかった。 (91) 2022/05/29(Sun) 0:49:20 |
【人】 宮々 蓮司昨日まで瀬里を愛していた事実は消えない。 彼女を愛していたのも、それだって俺なんだ。 記憶を失っても、恋心を失っても。 ──── 全部俺なんだ。 (95) 2022/05/29(Sun) 0:51:58 |
【人】 宮々 蓮司「 こんな終わり方は嫌だ。」 理由を聞かれてもわからない。 だけど、こんな終わり方は絶対に嫌だった。 昨日までの蓮司≠ェとかじゃない、昨日も今もなく俺が嫌だと思っている。* (96) 2022/05/29(Sun) 0:52:15 |
【人】 宮々 蓮司それは提案。 恋心がなくても、かつての二人に関する記憶がなくても、二人が恋人同士でお互いを深く愛していたのなら。 中身が伴わなかったとしても、 その形がもしかすると何かのキッカケになるかもしれない。 そうは言っても、恋心のない二人だ。 だから、少しずるい理由を付け加える。 「 きっと、 瀬里≠熈蓮司≠烽サれを望んでいるはずだ。」 たとえ、まるで別人の様に感じていても、 やはりそれは二人にとっても過去であることに変わりはないはずだから。 * (102) 2022/05/29(Sun) 10:37:20 |
【人】 宮々 蓮司涙が止まったのを見て手を頬から離した。 「 宮々蓮司だ。 よろしく、っていうのも何か変だな。」 はにかむ瀬里に同じ様な笑顔を見せていたと思う。 不思議なもので、恋をせずに恋人になるというのに、恋人になったと思えば、そうであることが当然の様に思えた。 (106) 2022/05/29(Sun) 19:09:23 |
【人】 宮々 蓮司「 ドライブデートか。 恋人の第一歩としてはいいかもな。」 そうと決まればシートベルトを着け直して、車を走らせようか。 ドライブのBGMには聴き覚えのある歌、透明な歌声。 お互いの知らないことを話しながら。 不思議な感覚は知らないのに新鮮味がないこと。 本当は知っていたはずのことだからか。 そんな他愛のない話。 無くした記憶を埋めていく様に。 そうやって全てを埋め直したら、また以前みたいに慣れるのだろうか。 (107) 2022/05/29(Sun) 19:09:37 |
【秘】 雨宮 瀬里 → 宮々 蓮司…だから。というわけではない。 それは、随分と自然に、 最初からそうしたかったかのように 私の右手が勝手に、動く 手のひらを差し出す動き 貴方が手を取ってくれるなら、 添えるように、貴方の左手に重ねる (-5) 2022/05/29(Sun) 20:04:57 |
【秘】 雨宮 瀬里 → 宮々 蓮司 とん、 色のない人差し指が貴方の掌を叩く 誰かに褒めてもらった、大好きな爪 とん、 いつかも、こんなリズムで 暖かな掌を爪で弾いた、懐かしい記憶 とん、 掌に、重ねた想いは、なんだっけ 離れがたい、どこにも着きたくない 記憶がすこしずつ、色づいていくような * (-6) 2022/05/29(Sun) 20:06:46 |
【秘】 宮々 蓮司 → 雨宮 瀬里オーディオから透明な声が恋の詞を歌う。 とん、とん、とお前が掌を叩く。 いつしか俺はその指を捕まえる。 掌を合わせて指を交互に絡めて、ぎゅっと握る。 お前の柔らかな手を。 (-8) 2022/05/29(Sun) 22:14:25 |
【秘】 宮々 蓮司 → 雨宮 瀬里相変わらず記憶は曖昧なまま。 だけど、色づいていくものがある。 もっと触れていたい。 手だけじゃなく、もっと瀬里に。 この気持ちは誰のものだ? (-9) 2022/05/29(Sun) 22:14:56 |
【秘】 雨宮 瀬里 → 宮々 蓮司えっ、と声を出した時には もう、貴方の顔は近くにあった。 私はそっと、瞳を閉じて顔を傾ける 私にとっては初めてのキス …なのに身体は、ちゃんと覚えている 瞳の閉じ方も、顔の傾け方も、 貴方の唇の温度も柔らかさも。 唇が離れるときに、名残惜しいと思う気持ちも。 (-10) 2022/05/30(Mon) 8:22:13 |
【秘】 雨宮 瀬里 → 宮々 蓮司もう一回、なんてお願いするよりも早く 私は、貴方にふたたび唇を重ねる。 貴方とのキスの仕方は、身体が憶えている。 指先を絡めて、ギュッと握りしめたら もう少しだけ、深いくちづけを。 「 ……おかしいね、私 蓮司さんと、離れたくないんだ ずっと、こうしていたいの。 」 記憶が戻ったわけじゃないし 貴方に恋をしたって断言はできない 好きという気持ちもわからない だけど、心が、身体が、貴方を求めていた 全部、全部、頭じゃない部分が憶えている 貴方がくれる、 悦 びも、全部。 * (-11) 2022/05/30(Mon) 8:23:18 |
【秘】 宮々 蓮司 → 雨宮 瀬里一度目は自分から、 そして、二度目は彼女から。 握り合う手と手。 絡め合う指と指。 触れ合う柔らかな唇。 二度目はより深く、より官能的に。 (-12) 2022/05/30(Mon) 12:18:46 |
【秘】 宮々 蓮司 → 雨宮 瀬里「 俺も、同じだ。 お前といつまでもこうしていたい。」 記憶だって戻らない。 これが恋なのかもわからない。 だけど、心が、身体が、お前を求めていた 全部、全部、頭じゃない部分が憶えている お前が欲しいと、お前の全部、全部。 (-13) 2022/05/30(Mon) 12:20:01 |
【秘】 雨宮 瀬里 → 宮々 蓮司唇が重なる。指先が重なる。 それから気持ちが、言葉が重なった。 どこにも着きたくないと願ったいつかの気持ちが 今新しい感情として、蘇る。 だけど……着いてしまったから。 この車を降りたら、また離れ離れになるから。 (-14) 2022/05/30(Mon) 13:08:16 |
【秘】 雨宮 瀬里 → 宮々 蓮司「 今日、泊まっていきませんか 」 はしたない、と思いながらも ちいさな声で貴方に尋ねる 答えはどうだっただろうか。 我慢、と言われたら、 車の中で、貴方ともう少しだけ。 そうじゃなければ続きは…きっと暗い部屋の中で。 (-15) 2022/05/30(Mon) 13:09:00 |
【人】 宮々 蓮司諦めていた。 朝、目を覚ました時に記憶が曖昧なことに気づいた。 ぽっかりと胸の中に穴が開いたような心地。 自分に何が起きたのかはわかっていた。 彼女に関する記憶をなくしていること。 抱いていたらしい恋心を失っていること。 昨日までの自分がどう思っていたのかはわからない。 ただ、きっと上手くいかなかったのだろうということは理解できた。 そして、 それならば仕方ないのだと。 失った記憶も、恋も、仕方のないことと受け入れた。 (117) 2022/05/30(Mon) 14:36:26 |
【人】 宮々 蓮司だけど、彼女は違った。 連絡してもいいかと聞いてきた。 そんなこと意味がないと思った。 彼女は、瀬里は自分のことを諦めなかった。 自分のことを取り戻そうとしていた。 彼女だって恋心なんて無くなっていて、蓮司≠フことなんて覚えてもいないのに。 そして涙を流した。 悲しみなのか、悔しさなのか、蓮司≠ネらわかったのだろうか。 (118) 2022/05/30(Mon) 14:36:52 |
【人】 宮々 蓮司それは嫉妬に近かった。 昨日までの俺が、瀬里に愛されていたということ。 今の自分ではないことが、 無性に悔しくて、 このままでは終わらせたくないと思ってしまった。 (119) 2022/05/30(Mon) 14:39:17 |
【秘】 宮々 蓮司 → 雨宮 瀬里返事を返さずにその唇を塞いだ。 交わすキスは、瀬里を強く深く求める。 誰も見ていない、真っ暗な車の中で、聴き慣れた歌とキスの音だけが耳に届く。 「 ……行こう、…… 」 耳元にそっと囁くと、エンジンを切った。 オーディオから聞こえていた歌が途切れる。 その衝動はきっと瀬里と同じなんだ。 (-16) 2022/05/30(Mon) 14:39:54 |
【秘】 宮々 蓮司 → 雨宮 瀬里─── 暗い部屋に影が二つ。 強く抱きしめ、唇を重ねる。 指先が、唇が、瀬里の肌に触れる。 絹のようななめらかな触り心地。 首筋に紅い花。 人に見えてしまう場所。 深い口付け。 何度も何度も重ね合わせ、何度も何度も絡み合う。 (-17) 2022/05/30(Mon) 14:40:47 |
【人】 宮々 蓮司そのメールには短く、 『 もちろん 』とだけ返信をした。 不思議な感じがした。 記憶もない、 以前の 恋心もない。だけど、今たしかに彼女に恋をしている。 かつての恋ではなくても、今たしかに。 だけど 変化が訪れたのは、それから丸一日のあと。 (121) 2022/05/30(Mon) 14:42:14 |
【秘】 雨宮 瀬里 → 宮々 蓮司音が途切れたオーディオ、それから暗い部屋 貴方を招き入れて、部屋の灯りを点けるよりも早く 私は貴方を抱きしめる。 当然、衝動はそれだけでは収まらず 灯りを消したまま貴方とふたり、シーツの上へ いつ付けられたものか分からない、 消えかけた紅い花の隣に、新しい紅い花 私にとっては初めての行為なはずなのに 身体はちゃんと貴方から与えられる快楽を憶えている (-18) 2022/05/30(Mon) 15:09:33 |
【秘】 雨宮 瀬里 → 宮々 蓮司「 たくさん愛して 」 貴方にとって、昨日までの蓮司≠ェ 嫉妬の対象だったというのなら 今、初めて私も、昨日までの瀬里≠ノ嫉妬する 貴方と幾度交わってきたのだろう 貴方に幾度愛されてきたのだろう 昨日までの瀬里≠ノそうしてきたように 私を深く、深く、もっと愛して欲しかった。 貴方を、私を、教えてほしかった。 (-19) 2022/05/30(Mon) 15:10:13 |
【人】 宮々 蓮司高速を飛ばして、それから下道も飛ばす。 そうして短いようで長い道のりをやってきた。 山間には余り似合わない車を停めたのは、夕日が地平線にだいぶ近づいてからだった。 今日は はじめて の週末デート。エンジンを切って車を降りる。 もうあと数歩の距離がもどかしい。 ドアの前。 一度シャツのヨレを直して、それから三度ノックした。 (126) 2022/05/30(Mon) 20:38:41 |
【人】 宮々 蓮司今はもう頭にかかっていた靄はすっかりと晴れていた。 でも、それを瀬里に伝えてはいない。 今ここにいる自分はいったいどの蓮司≠ネのだろう。 瀬里に会う前? それとも恋人になってから? 記憶をなくして、もう一度瀬里に恋をした男? それとも──── どの蓮司¥o会っても構わないし、 それを決めるのは自分自身ではない気がした。 それは、これから目にする愛しい瀬里が決めればいい。* (127) 2022/05/30(Mon) 20:39:16 |
【人】 宮々 蓮司ドアが開いて俺の両目が瀬里の姿を映す。 それだけで鼓動が強くなっていく。 『 蓮司さん 』 瀬里の声。 俺は両手を開いて華奢な瀬里の身体を包む。 会いたかった。 この一週間はまるで何ヶ月にも感じられた。 お前を思い出してから、こうして会えるのが何よりも待ち遠しくて。 お前に会うたびに、お前に触れるたびに、恋をしているのかもしれない。 (131) 2022/05/30(Mon) 22:42:20 |
【人】 宮々 蓮司「 そうだな、まずは飯にしようか。 」 今日はどこがいいだろう。 和食?中華?イタリアン? 肉がいいだろうか、魚介にしようか。 きっとそれが何でも何処でもきっと楽しい時間になる。 「 ……今日は、泊まっていってもいいんだろ? 」 耳元に唇当てて、そっと囁いた。* (132) 2022/05/30(Mon) 22:42:44 |
【人】 宮々 蓮司それはとても不思議な感じだった。 記憶を取り戻した今でも恋心は無くしたままだった。 あのお見合いで雨宮瀬里を選び、兼光と灯歌によって結ばれた恋は治療と共にたしかに霧散してしまった。 だけど 今もたしかに 恋 をしている。記憶を取り戻したからこそ理解できる。 瀬里が目の前にいる、瀬里が隣にいる、瀬里に触れている、その一分一秒ごとにもっと好きになっている、夢中になっている。 俺は雨宮瀬里が大好きなんだ。 (141) 2022/05/31(Tue) 6:46:36 |
【人】 宮々 蓮司薄暗い部屋の中。 肌を寄せ合いながら、瀬里の言葉を聞いていた。 相変わらず蓮司さん≠ニ呼ぶ瀬里は、記憶が未だ戻らない。 なぜ二人にそんな違いが生じたのかはわからない。 瀬里にとって、思い出したくない何かがあったのだろうか。 相槌を打ちながら、時折返した言葉に瀬里は首を横に振った。 (142) 2022/05/31(Tue) 6:46:52 |
【秘】 宮々 蓮司 → 雨宮 瀬里俺は瀬里の肌に唇と指を這わせる。 瀬里を欲すがままに、 瀬里が求めるがままに、 恋心を一度失う前がそうであった様に、 深く、深く瀬里を愛する。 瀬里の身体に刻んだ愛と官能を呼び起こすように。 (-23) 2022/05/31(Tue) 6:47:37 |
【人】 宮々 蓮司緩く抱きしめていた瀬里の身体が離れる。 それは、よく知っている赤いマニキュア。 二人を結びつけたきっかけ。 瀬里は知らないまま。 俺はよく覚えている。 「 つけてみたらどうだ? 」 何気なく口にする。 見覚えがあるとも、ないとも言わず。 それがきっかけで記憶が戻るかもしれない。 そう思ったわけじゃない。 記憶の中にある恋を失う前の瀬里がつけていたからでもない。 ただ単純に、瀬里にそれがよく似合うことを知っていたから。* (143) 2022/05/31(Tue) 6:48:01 |
【人】 宮々 蓮司『 これを? 』 俺は小さく頷く。 『 似合うかな 』 似合うに決まってる。 『 不思議ね 』 そう、たしかにあった。 俺はスマホを手に取るとライトをつけて瀬里の指を照らす。 そうして、瀬里がようやく目を覚ます。 (154) 2022/05/31(Tue) 9:37:48 |
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