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【赤】 鬼 紅鉄坊そうなのかもしれない 記憶がある者たちは、皆それぞれ恨みがあるようだからな 私にもきっと、あったのだろう 喜ばしい思い出も大切なものも、塗り潰してしまうような何かが [ 何処か常より稚気な口調で繰り返される呟き、 自分自身に言い聞かせ、理解しようとしているようだった>>3:*10 預けられた細やかな重みを支える鬼の表情は穏やかだ。 ] だが、不思議とな お前と共に知るのならば、恐ろしくないような気がするのだ [ 今の千は認められるだけではなく、相手を認めようとしている。 その姿に愛おしさを覚えぬことなどあろうか?>>3:32 心強さを感じずにいるだろうか? 心とは身体のように簡単に支えられるものではない。 人間の夫婦でも、きっと。 ] (*1) 2021/06/29(Tue) 22:54:24 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ 今は他人のようにしか思えない自分を見つけたとして、 何を思うのは鬼には未だ分からない。 それでも、千の想いが喜ばしかった。 この子がいれば何かが悪いように傾くとは、思えなかった。 ──だが。 眉を寄せ、少し遠くを見るように考え込んで。 再び口を開けば、重くなった声で語る。 ] とはいえ、今更その手段など…… [ ありはしないだろうがな、と。 ]* (16) 2021/06/29(Tue) 22:55:22 |
【秘】 鬼の花嫁 千 → 鬼 紅鉄坊[「お前と共に知るのならば、恐ろしくないような気がする」 その一言は、苦しみだけを引き出す可能性のある行為に千を立ち上がらせる力を持っていた。 閉ざした目が穏やかな表情を捉えることはなくとも、素直なその気質を反映した言葉はありありと鬼の心を伝える。 襤褸の布の端を握りながら、胸を締め付けられるような慣れない心地に鬼子はあの時耐えていたのだ。] (-106) 2021/06/30(Wed) 1:37:55 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ 別離を選んだ時胸にあった不安は、 こうして共に暮らし続けても現実にはならなかった。 千が喰らえと求めなくなったからでもあり、 自分自身の生活も見るようになった為でもある。 定期的に獣の血肉を取り入れることを忘れずに過ごした。 怪我により暫く、それは難しくなってしまった。 相手にとっても知れたこととはいえ、 己の手で獣を獲ってきた日は本当に驚いた。>>*2 ] これを千が……本当に? ……私の為に? [ 信じられなかった、呆気に取られた。 若者の罠作りの腕でも、少なくなった獣を捕らえられたことでもなく。 山を下り人と生きる、別離の先の未来を想い教えた知恵で、 鬼の為にその糧を得て来てくれたことが。 一人で不安では無かっただろうか、 その噛み跡は痛かったのではないか。 それらよりもずっと、自分への想いが強かったのか。 胸を満たすものは、その出来事だけでも数多にあったというのに。 ] (*5) 2021/06/30(Wed) 19:21:35 |
【秘】 鬼 紅鉄坊 → 鬼の花嫁 千[ 鈍る手を急かしはしない、二人は同じ心地である筈だから。 ただ、沈黙の中で鬼の腕が伸びる。 ] 何も恐れることなど無い [ 何があっても、お互いの在り方は変わらない。 手の甲の上に添え──大きさの違いで、結果的に包むような形で── そう囁いただけで、記述を探すのは千の指と間隔に任せた。 ] (-111) 2021/06/30(Wed) 19:22:11 |
【人】 鬼 紅鉄坊……これは、 [ やがて、示された文字の連なりは凄惨な過去を綴る>>24 大きな流れの中に点在した、小さな村の陰の歴史。 ある僧侶と流れ者が辿った末路。 理解出来る筈の言葉が、思うように頭に入らない。 やがて千が声とした名を、子供のように追い掛け繰り返し。 ある一瞬で、隻眼を見開き身体を強張らせる。 ] ああ、そうだ。そうだった…… 私は、この僧に命を助けられた……そして、共に殺された [ 夢を見ているような朧な声が、取り戻したものを告げた。 意識の外で震え、小さくなっていく。 それでも抱えた花嫁の耳には、全てが届くだろう。 ] (27) 2021/06/30(Wed) 19:22:26 |
【人】 追憶 紅鉄坊とても寛大で慈しみ深い方だった いつ死んだって構わない、そう思う程絶望していた私を 老いた身で懸命に看病し、励ましてくれた 山の鬼のことを、恐れるのではなく憂い 危険な場所から離れず、彼らが救われることを祈り続けていた 数多の恩を受けたというのに 守れなかった……私はいつでも、無力だった [ 取り戻さなかった──千が見せることを選ばなかった記述の中 そこにいる親代わりのような誰かのことも 僧に宿っていた面影が、曖昧に輪郭を形作る。 湧き上がるのは温かさと、それを奪われた喪失感。 ] (28) 2021/06/30(Wed) 19:22:49 |
【人】 鬼 紅鉄坊よく見つけてくれた、礼を言う これで充分だ……充分過ぎる程、取り戻せたよ 千のお陰で思い出し、受け止めることが出来た [ 悲しみも憎悪も、その声には宿らない。 鬼がかつての生の全てを思い出すことは無かった。 それでも、喪ってしまった大切なものの記憶は蘇った。 心を落ち着ける時間を、千の体温を感じたままに暫く得てから 再び口を開き、切り出そう。 ] (29) 2021/06/30(Wed) 19:23:32 |
【人】 鬼 紅鉄坊千、お前に伝えたいことがある だが、それはとても大きな話で 私たちだけではなく、山にも村にも影響が出てしまう 長い間変わらなかった二つの関係が、大きく揺らぐのだ だから、待っていてほしい 私の心が決まるまで、重い選択をする覚悟が出来るまで [ 触れた手をそのままにしてくれていたのなら、 そっと握り込んでから離し、言葉を続けるだろう。 ] (30) 2021/06/30(Wed) 19:23:55 |
【人】 鬼 紅鉄坊冬が明けたら、きっと告げよう あの花が──梔子が咲く前に …………必ず全て、話すから [ 背中から抱く腕の力は、人間の身には少し痛い程に。 今だけは緩めることが出来そうにない。 ]* (31) 2021/06/30(Wed) 19:24:11 |
【人】 鬼 紅鉄坊── 来たる冬 ── では、行ってくる 見つければ村近くまで届けねばならないのでな、 遅くなるだろうが、心配しなくていい [ 戸口に立った千を見下ろし、頬を撫でる。 人よりずっと強く逞しくある鬼の身体とはいえ、 凍える空気の中その命の温かさが愛おしい。 少しばかりの名残惜しさを覚えながら、背を向け山の奥へ歩き出す。 その日、独り寺を出たのは陽が昇りきった刻 薬屋の店主が訪ねて来た後だった。 ] (48) 2021/07/01(Thu) 1:56:16 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ 奪い合った時間、抱いていた温かさはもう名残も無い。>>37 その分過ぎた日々で、幾度も触れてきた。 すっかり梔子の実が橙に染まり、収穫を終えたのは数日前のこと。 辺りは白に包まれ、すっかり姿を変えている。 この百数十年山で過ごし、数える程しか見たことのない雪。 やはりこのところの気象が影響しているのだろう。 店主曰く、その中で一人の子供が朝から山に遊びに行ってしまい 昼を過ぎても帰ってこず、村人が立ち入れる範囲では見つからない。 先日実を引き渡した際、寺を気にしている様は気に掛かったが 村の者など皆、どうせ千を嫌っている。早く喰われろと思っている。 引き合わせたわけでもないなら、そこまで気にすることもない。 千について口に出して何かを言うでもなかった男の願い、 小さな子供の命が掛かっているとあれば、引き受けぬ理由は無い。 ] (49) 2021/07/01(Thu) 1:56:32 |
【人】 鬼 紅鉄坊……一体、何処に行ったんだ [ 山は何処までも静まり返っている。 どれ程歩いても、痕跡は見つけられなかった。 同胞が騒いでいないのなら、つまり襲ってはいない。 雪はとうに降り止んでいる、 途中からでも隠されていない足跡がある筈だ。 陽の傾き始めた空を木々の合間から確認し、ふと気づく。 ああ、 そういえば性別も名前も聞いていなかった。 ]* (52) 2021/07/01(Thu) 1:57:19 |
【秘】 鬼の子 千 → 鬼 紅鉄坊俺の命は婆さんのように長くは保たないだろう あんたはいずれまた違う人間を迎えるのだろう その意思に関わらず、古の約束に基づいて 分かっている、分かっているから聞かなかった 優しいあんたを困らせないように いつか来る時に寂しさを誰かが忘れさせてくれるように それでも…… (-128) 2021/07/01(Thu) 2:00:36 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ 人の善意を信じる鬼は、何の情報もなく未だ彷徨い続けようとしていた 何処からか怒号のように響き渡る、 育ての父たる男の声がその歩みを漸く止める。 直ぐに同胞が狼狽え囁き合うような気配を、あちこちから感じた。 ] まさか…… [ 鬼は漸く気づく。 山に棲まう妖らにとっても想定外の、非常事態が起きている。 迷子など、何処にもいない。 ] (59) 2021/07/01(Thu) 2:02:28 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ 輿入れの季から時は過ぎ、 鬼の知る彼らしい振る舞いをしていた薬屋の店主。 その傷は決して癒えないものだとしても、 裏で何を考えていたのか、思いもしなかった。 体躯に似合わぬ速さの走りが、鬼の焦りをありありと表す。 己を傷付けることなど無い枝や草など押し退け、 道無き道を駆け、最悪の想像を払う為に寺を目指す。 ] (60) 2021/07/01(Thu) 2:02:43 |
【赤】 鬼 紅鉄坊なんだ、この匂いは…… [ 酷く食欲を唆る。濃すぎる血の芳香だ。 門に到達する前から、強く鬼の鼻腔へと届いた。 ほんの一時、指から流れる一筋を舐めただけの 千の血を思い出すことは、流石に無い。 だがこの状況で嗅ぐそれは、不穏を煽るに充分なもの。 ] (*14) 2021/07/01(Thu) 2:03:02 |
【赤】 鬼 紅鉄坊千……ああ、千! 何故、どうしてお前が…… [ 衝撃でぐらついた視界、なんとかよろめきを堪えて戸を潜った。 込み上げる本能への嫌悪で、胃酸がせり上がる。 抱き上げよく見れば、片目から顔に掛けて傷つけられている。 外套の前を開けば、白い着物が無残に色を変えている。 まるで自分と対照にされたような傷の他にも、 酷く虐げられた跡が身体中に存在していた。 刃物を使ったのだろう。同胞の所業ではない。 これはやはり──薬屋の店主からの、村人からの報復だ。 ] (*16) 2021/07/01(Thu) 2:04:56 |
【赤】 鬼 紅鉄坊お前は何も悪くないのに 全て、これからの筈だったのに…… [ かつて同じであった人の子を喰らい続ける同胞と、 彼らを見捨てられず約束を取り付けた自分に罪はあろう。 それでも千は無関係だ。 村で千が何をしていても、鬼子と呼ばれるに相応しい悪人でも 花嫁たちは彼のせいで死んだわけではない。 報いを受けるべきは自分だ。 村人を飼い殺すような契を押し付け、長きに渡り花嫁を送り 今更全て捨てて千と外の世界へ向かおうとしていた鬼だ。 ] (*17) 2021/07/01(Thu) 2:05:20 |
【赤】 鬼 紅鉄坊千、死ぬな…… 私を置いて行かないでくれ…… [ 微かに息があることに気づいても、鬼の声は絶望に震えている。 血が足りない。傷が多すぎる。 収穫した実は全て薬屋に渡した。 対価は後日、寺まで届けられる筈であった。 約束の傷薬も、“これからの為”求めた止血の生薬 ──梔子の薬も此処にはない。 血に塗れた愛しい唯一に、何も出来ない。 命が、消えてゆく。このままでは、千は死ぬ。 ]** (*18) 2021/07/01(Thu) 2:06:01 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ これ程までに声を上げ身に触れても、目一つ開けず反応も無い千 暮らしの中健康的に変わった筈の肌は、また白くなってしまった。 取り戻してしまった記憶が、 目前で大切なものを喪う悲劇が三度目であることを理解させる。 戦慄く唇、震える身体。 かっと見開いた紅の目尻に水が溜まっていた。 喪いたくない、喪いたくない、……喪いたくない。 直ぐ其処にある終わりの前で、 尽くす手も見つからず、それでも諦められない鬼は ──やがて、気づきに至る。 ] (*19) 2021/07/02(Fri) 2:30:57 |
【赤】 鬼 紅鉄坊[ 血 山の獣の命を啜り得てきた、潤沢な 六尺の身体を動かせる程のそれが! 鬼は笑みを浮かべていた。 それは日常の中、千の隣で時折緩んだ表情とよく似たもの。 抱くのは村人への憎悪ではなく、愛した者を守れる喜び。 常軌を逸した思考に至っても、鬼は花嫁の愛した鬼のままでいる。 ] (*20) 2021/07/02(Fri) 2:31:15 |
【赤】 鬼 紅鉄坊待っていろ、千 [ 上向きに千を横たえ開いた大口は、無論彼に牙を剥きはしない。 持ち上げた自らの逞しい腕の、太く血管が流れる手首へ ──鋭い犬歯を突き立て、一気に噛み切った。 ] ぐ……っ [ 堪らず漏れる呻き声。 躊躇いの無い自傷行為は外敵に与えられるのとは違う痛みを齎す。 それでも、止まることは無い。 顎を持って口を開かせ、押し当てるように傷口を触れさせる。 その喉に鬼の血が流れ込んでゆく。 ] (*21) 2021/07/02(Fri) 2:31:33 |
【赤】 鬼 紅鉄坊生きろ、未だ死んではならない どうか目を開けてくれ……、私の元へ戻ってきてくれ [ 急激な失血とこの場に漂い続けている濃厚な血の芳香 この人間を喰らえと、足りぬものを補えと叫ぶ本能。 その一切を無視し抗いながら、 鬼はひたすらに血を注ぎ、呼び掛け続けた。 ]* (*22) 2021/07/02(Fri) 2:31:47 |
【赤】 鬼 紅鉄坊…………ああ、ああ、嗚呼 [ いつしか降りていた闇の中、全ての変化を捉えることは 視界からも余裕からも叶わなかったが 知性の光が一つ紅に灯る瞬間を、その目は間近で視た。 それは鬼から言葉を奪い取る程の光景。>>*27 あれ程苛み続けていた痛みと食欲が、今は全く感じられない。 ] お前は、助かったんだ 今はそれだけ分かればいい [先程までの姿を想えば、戸惑う千に記憶がないことは察せられる。 しかし今は多くの説明はせず、掌に齎される感触をただ受け入れた。 背にしていた壁に千を抱えたままで寄りかかり、 力を抜いて腰を落ち着かせ、それから。 ] (*31) 2021/07/02(Fri) 2:36:50 |
【秘】 鬼 紅鉄坊 → 吸血鬼 千愛している 全て捨てて、共に旅立とう ────二人で自由になろう [自分を取り戻した日、いつか伝えると決めた言葉を告げた。 予定より早くなったが、今こそその時。 奪われかけた命を、二度と喪わぬ為に。 ]** (-165) 2021/07/02(Fri) 2:37:14 |
【人】 紅鉄坊男が二人、何かを話している。 息を殺し足音を潜め近づき、様子を覗っているが その内容が聞き取れる位置に来ても、意味がよく分からない。 こんな寂れた資料館なんかに、強盗が入ったというのか。 どれ程建物が新しく見えても、金があるわけがないだろう。 大昔は山ばかりだったという、過疎化の進んだ田舎町だが 夜遅くだって、いくらでもコンビニやガソリンスタンドがあるのに。 自分から見て正面に開け放たれた窓、左右に展示物が置かれている 差し込む光により、それを眺める男達の輪郭が浮かび上がる。 一人は黒い短髪の大柄な男、青緑色の上着越しにも筋肉が分かる。 もう一人は脱色したのか白い髪の小柄な男で、やけに着込んでいた。 (106) 2021/07/02(Fri) 23:07:44 |
【人】 紅鉄坊侵入経路は明確だが、窓に鍵を忘れていたのだろうか。 今までそんなことは一度も無かったし、 警報装置が起動していないのも奇妙だ。 だが、凶器の類は見当たらない。 懐にあるとしても、こちらは直ぐに然るべき場所へ連絡が出来る。 何が目的かは未だ検討も付かないが、 その現代社会を舐めた行いをすぐ後悔することになるだろう。 踏み込み、彼らを手持ちのライトで照らしながら叫ぶように言った。 (107) 2021/07/02(Fri) 23:07:57 |
【人】 紅鉄坊驚いたように両者の身体が反応し、こちらへと振り返った。 そして、そして──……これはなんだ? 続ける言葉も思考も足も、何もかもが停止してしまう。 自分は休憩室の机に突っ伏して、居眠りでもしているのか? そう思ってしまう程、信じられないことだった。 (109) 2021/07/02(Fri) 23:08:22 |
【人】 異形 紅鉄坊男達が一瞬で、まるで普通の人と思えない姿に変わったなどと。 奇特なコスプレイヤーという言い訳すら出来ないじゃないか! 勇敢な警備員ぶろうとしていた筈が、腰を抜かして座り込む。 大柄な──より異形が強い方が何か弁明する言葉など、 耳にも入らないどころか、必死に距離を取ろうとしてしまう。 その時、小柄で白い方が動いた。 一歩、一歩。この状況など意に介さないような軽い足取り 目前まで近づいて、屈んでこちらを紅い片目が凝視した。 男達はどちらも片方しか目が開いていなくて、 紅色をしていることも同じらしい。 補い合うように左右対称のそれの意味を考えてしまったのは、 恐ろしさでついに後退ることも出来なくなった現実逃避なのか。 (111) 2021/07/02(Fri) 23:09:03 |
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