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【赤】 一人の少年 ルヴァあの部屋に、来る。 この日が来たのを知って。 最初に訪れたのは食堂でも森でもなく、 ――ここだった。 大人からの指示を受け、 そして動く子供たちが居た、部屋。 ボードも、何もかも、綺麗に元の位置に戻っていて。 これも、何事もなかったかのようで、少しだけ、震える。 いつも座っていた場所に座り、 裏切者は、静かに、待ち人を待つ。 (*0) 2021/06/02(Wed) 21:37:42 |
【赤】 一人の少年 ルヴァ――待ち人は来た。 ブラキウム風にいえば、賭けでもあったわけだが。 「……やあ、セキレイ。 つくづく、いい性格をしてるな。 いや、何もかもを知っているような、 まるで何も知らないような ……最初からそんな感じだったな。セキレイは」 小さく息を吐く。 思ったよりも、落ち着いている自分がいる。 「……どうだろう。 ここで裏切者と呼ばれることがなくても、 裏切者でなくなることを誰も許してくれないとも思う。 でも、ただ少なくとも、 ここが必要だったときよりは、少しだけ気分がいいよ。 セキレイ、あのときキミや赤ずきんが聞いてくれた話に 一つだけ、最近気づいたことがある」 (*3) 2021/06/02(Wed) 22:49:28 |
【赤】 一人の少年 ルヴァ「こっちも、余り変わりはないかもしれない。 ……ただ、聞いてもらうにはちょうどいい話はあるよ。 少しだけ、暇は潰せるかもしれない」 赤ずきんの来訪と共に、 独り言のように、話し始める。 きっと、二人なら、 聞いてくれるだろうという信頼があった。 先を促されるまでもなく、 ――訥々と話し始める。 (*4) 2021/06/02(Wed) 22:54:43 |
【赤】 一人の少年 ルヴァ二人の顔を順番に見た。 「……ここのシステムについて知ったとき。 何もされなかったのはなんでかって、ずっと思ってた。 俺は、俺なりに考えて、俺に利用価値があるからだって、 そう思っていた。……そう、思いたかったから。 ……でも、違ったみたいだ。 俺は多分……あの時大人に『何かをされている』んだ。 でなければ、基本欺き、不意打ちを重ねてきた俺の両手に、 こんなに、細かい傷痕がある理由にならない」 袖をめくり。シトゥラに見せた袖の下の細かい傷を晒す。 それは、数回の争いや抵抗なんかでは説明できないほど、 無数の疵だった。 「今も、そこで何をされたのか、分からないでいる。 ……『おれさま』がずっと、俺には分からないように、 そこの記憶だけをずっと隠し続けていたんだろう」 (*5) 2021/06/02(Wed) 22:58:55 |
【赤】 一人の少年 ルヴァ遠くを見るような眼をする。 「『俺』は……ずっと、子供の『おれさま』を、 手を汚せる『俺』が守ってやっていたんだと思ってた。 でも、違ったんだ、俺はずっと前から。 本当に傷つくことから、守られていた。 ずっと……子供の、臆病な、あの日から泣いてるはずの、 ……おれさまが守くれていたたんだ。 そしてそれは、今も……」 今も、その記憶には、封が掛けられていて。 弱い、弱いはずだったルヴァが。 泣きそうな顔をして、でも自分は団長だと歪な棒を持ち。 必死に、こちらを遠ざけようとしている。 俺が傷つかないように。 俺が、迷わないように。 ルヴァが、ルヴァでいられるように。 (*6) 2021/06/02(Wed) 22:59:56 |
【赤】 一人の少年 ルヴァ二人を、見た。 小さく、笑った、 誰にも見せたことがない種類の少年の、困った笑い顔だった。 「俺は、誰かに、守られてばっかりだな。 ……シトゥラ、レヴァティ。君たちにも、だ。 ……そしてこれは君たちにしか、伝えられない。 できれば、他の誰にも、伝えずに生きていきたい。 いつか来る、終わりに怯えながら。 それが……俺が、 共犯者だったキミたちに伝える、『願い』だよ」 真っすぐに、二人にだけ、伝えた。 この願いが、叶えばいいなという、祈りを込めて。 (*7) 2021/06/02(Wed) 23:02:29 |
【赤】 一人の少年 ルヴァ>>セキレイ >>赤ずきん 「いい子か。そうだね。シトゥラ。 ……自分が子供だって、よくわかったよ。 そうかな、だったら……俺も少し救われるよ、レヴァティ。 ……ありがとう、話を聞いてくれて」 彼らが耳を傾けてくれるだけで、 今の自分にとっては、随分と救われる話だ。 ……きっと、彼らにはもうここでは会えない。 万が一、ここで会うことがあっても、 きっとお互いの立場は今と違うだろう。 これから、毎日きっと食堂で顔を見るのに。 それでももう、『会える』気がしなかった。 『ここでの彼ら』のことを知りたいと思うその気持ちも、 全てこの部屋に置いていこうと思う。 罪と、罰だけを。それぞれの分だけ懐に抱いたまま。 「……この傷はきっと瘡蓋になって、傷跡になって、 それがいつか、過去を忘れられない楔になるから、 その時に、また……二人に会いに行くよ」 少しだけ笑い。 親指にそれぞれ歯を立てて血をにじませて、 二つの親指を前に差しだした。 「それまで。少しだけ、さよならを」 (*10) 2021/06/03(Thu) 0:49:34 |
【赤】 一人の少年 ルヴァ「いいな……お茶会。 それは、なんていうか、素敵な口説き文句だ……。 茶菓子よりも、かなり甘いし、口に合うよ。 その時は帽子被って来ようかな」 少年の顔で笑った。 合わせられた指の疵も、 いつかは塞がり、刻まれた一つの傷跡になる。 でもそうやって積み重ねてきた罪の上にしか、 自分は生きることが出来ないから。 誰かから与えられた優しさの分まで、 もう少しだけ苦しんでみようと思った。 同じく傷を受けることを躊躇わない人と共に。 その手指が、離される。 自分から、静かに離した。 「……じゃあね。二人とも。 またここ(ギムナジウム)で、同じ星の下で」 自分たちの今の繋がりは、それでいい。 共に歩くことは出来なくても、 同じ星を仰ぎ見ることくらいの絆は、 持っていけると思うから。 一回だけ礼をして、部屋を去っていった。 (*14) 2021/06/03(Thu) 15:41:35 |
【人】 一人の少年 ルヴァ>>0 金魚鉢 その光景が、それが撤去された後も、 網膜の裏に残り続けている。 それが持つ意味はきっと、見る人によって違っただろう。 それくらいその金魚鉢は鮮烈なものだったし、 同時に深い傷を各所に残したりもした。 自分が受け取った物の中で一番強い『意味』は、 ……間違いなく『警告』だった。 ブラキウムが何事もなく赦され 自分が何事もなく赦される代償や歪は、 必ずどこかに出るという。 この金魚鉢のように、中で泳ぐものたちは 消して外に出ることはできないという。 そのオブジェの真意はどうであれ 友人の死を以て伝える、 最悪のメッセージのように思えた。 (16) 2021/06/04(Fri) 7:29:18 |
【人】 一人の少年 ルヴァ――罰は回避された。 ブラキウムを庇い、自分も共に地獄に落ちると決めた決意は、 簡単に手ごたえをなくして霧のように消えていった。 だけれど、食堂で見たその赤に、死に。 心に確かに植え付けられたものがある。 本当に罰は回避されたんだろうか。 本当に罪から目を背けられるものだろうか。 例の部屋で自分はセキレイに、赤ずきんに別れを告げた、 それに、何か強い意味があるのだろうか。 そんな個人の決意や意識などお構いなしに、 自分の知らないところで何かが決まり、 そして決まった通りに未来が描かれていくのだとしたら この安寧は、仮初のものだ。 何もかもが解決したと思っていたある朝に。 自分の元に封筒が届き、それを開いたときに 『再度、ブラキウム』と描かれてないなんて 誰も保証してはくれない。 そしてそれが保証されない以上。 きっと、その夢をこれから、何度も何度も繰り返し見るだろう。 (17) 2021/06/04(Fri) 7:34:02 |
【人】 一人の少年 ルヴァその明日が「今日」なのだとしたら。 せめてその一日をちゃんと泳ぎまわりたいと思う。 絶対に訪れる、君と似た形の終わりを迎えるまで、 それがすべて無為に変わることに怯えながら、 苦しくて苦しくて仕方ない気持ちや不安を押し隠しながら。 それでも仮面を被らない顔で、 向き合いたい人がいるんだ。 ちゃんと伝えたかったけれど、 それは、友人である君に、ちゃんと誇れるような、 そのためによく頑張ったね、って頭を撫でてもらえるような、 そんな本当の気持ちなんだ。 「……つらいな。 でも、背負うよサルガス。俺はさ。 ルヴァ団の、団長だから」 涙は、今度は零さなかった。 (18) 2021/06/04(Fri) 7:44:37 |
【秘】 一人の少年 ルヴァ → 一人の少女 ブラキウム――森の中。 なんとなく、誘って、あの日と同じものを並んで見ていた。 何もかもが元に戻ったわけではなくて。 何もかもが前を向くためのものではなくて。 お互いの全てが理解し合えたわけでもなくて。 お互いの関係が劇的に変わったわけでもない。 ただ居なくなった友人がいて、 でもそこに変わらぬ日常があって、 明日への怯えが薄れて、 隣には、変わらず君がいた。 「………」 森が少しだけ風にそよぐ。 (-89) 2021/06/05(Sat) 6:13:30 |
【秘】 一人の少年 ルヴァ → 一人の少女 ブラキウムすぐに、お互い気になった全てに無遠慮に手を伸ばすことが出来なかった。 自分のこと、相手のこと、大人のこと、サルガスのこと。 自分の過去のこと、やってきたこと、お互いの病気、これからのこと。 お互いにすり合わせていかなければならないことはたくさんあったけれど、 でも、それにすぐ触れてしまうと今が砂城のように崩れてしまいそうで、 何も言えないまま、日々が続いている。 ただきっと、それが少しだけ大人になるということで、 だからその緩慢で心地のいい苦しみの中で生きていくということが、 多分子供ではなくなるということなんだと思った。 どちらかがいつかそれに触れ、互いに痛みを共にする時が、 完全に大人になって歩き出すということなんだろうと思っていても、 もう少しだけ、この状態をとお互い思っているのかもしれない。 この傷口が乾いていくのか膿んでいくのか。 それは、今はわからない。 息を大きく吸った。 「ブラキウム。 一つだけ、お願いがあるんだけど」 座ったまま隣を見て。 袖で口元を押さえて、首を傾げてブラキウムに尋ねた。 (-90) 2021/06/05(Sat) 6:14:21 |
【秘】 一人の少年 ルヴァ → 一人の少女 ブラキウム森を、再び風が撫でる。 そのブラキウムの目を覗き込みながら、 ちょっとだけ真剣な顔で、 今さっき思いついたことのように 今までブラキウムに見せていた顔でいつも通り、 どこまで本気か分からない気分屋のように、 ……尋ねた。 「………。 キスしていい?」 (-96) 2021/06/05(Sat) 11:32:06 |
【秘】 一人の少年 ルヴァ → 一人の少女 ブラキウム袖を口元にやる。 少しだけ考えるような動作。 相手のリアクションを経て初めて 頬も若干朱に染まったかもしれない。 首をさらに傾げて。 「俺が……したく、なったから。かな? あとその、言うと怒られるかもしれないけど、 ちょっとだけ、試してみたくなって。 ……ブラキウムが嫌なら、しないよ」 そもそもが、順番を吹き飛ばしていることは、 自分にもわかるけれど。 でも一方で、自分にとっては、 その飛ばしていることが今は重要なことなのだけれど。 だめかな。と帽子の下を覗き込む。 (-98) 2021/06/05(Sat) 11:48:22 |
【秘】 一人の少年 ルヴァ → 一人の少女 ブラキウムその返事に。 少しだけ、顔が明るくなる。 拒絶されなかったことは、素直に嬉しかった。 ただ、すぐ、何かを考えるような、 少しだけ真剣な表情に変わり。 「うん……」 とだけ、余裕のない返事をした。 下から、素顔に潜るように。 少年の顔が、少女に近づく――。 (-100) 2021/06/05(Sat) 12:12:27 |
【秘】 一人の少年 ルヴァ → 一人の少女 ブラキウム――作法は、知らない。 やり方も、分からない。 そういう行為が、世の中にあると、 ただそれだけを知っていて。 真似事であるし、 だからごっこ遊びでしかない。 言う通りそれでも丁寧に優しく。 ブラキウムの髪を手ですき、頬に触れた上で。 ――静かに、唇を重ねた。 恋慕のキスというにはあまりに拙く、 親愛のキスにしてはあまりに長い。 唇だけが触れ合うような行為は、 子供の指の先程だけ想定より長く、静かに――。 風が、頬を撫でた。 (-101) 2021/06/05(Sat) 12:13:10 |
【秘】 一人の少年 ルヴァ → 一人の少女 ブラキウム永遠に似た時間が、現実に溶ける。 やがて、少しだけ温度という 未練を残して、体が離れる。 ブラキウムの表情を確かめるように瞳を覗いた。 そして、少しだけ、自分の唇を噛み。 その至近距離にある顔に、笑ったような顔を見せた。 「良かった……。 ちゃんと――」 (-103) 2021/06/05(Sat) 12:40:54 |
【秘】 一人の少年 ルヴァ → 一人の少女 ブラキウムそれは。頬は誰が見ても分かるくらい赤く、 やっぱり泣き笑いのような――。 心から嬉しい笑顔のような。 居なくなってしまった誰かを悲しむ泣き顔のような。 ――そんな表情だった。 「――ちゃんと、ドキドキした」 だからこれは――ちゃんと恋で。 それが、恋で。 本当に良かったと思う。 早鐘のように鳴り響く恋の証明。 相手のことが好きだという言葉は今でも、 それだけは偽りでもごまかしでもなくて。 君のことが好きで、本当に良かったと思った。 (-104) 2021/06/05(Sat) 12:41:21 |
【秘】 一人の少年 ルヴァ → 一人の少女 ブラキウム――自分たちの身体の中では、 ちゃんとまだ金魚が泳いでいる。 恋が、生を証明してくれていた。 トクトクと、胸の中で響くその音が、 胸の中で生きている金魚の存在を、自分たちに教えてくれている。 相手の身体を抱きしめる。 同じように鳴り響いているであろう金魚同士を確かめ合うように。 曖昧な時間の中で、相手の金魚を誰にも渡さないように。 このギムナジウムという透明な鉢の中で、 俺たちは今日、生きている。 (-105) 2021/06/05(Sat) 12:41:54 |
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