【人】 東天[初めに拍子などはない。 その身に染みつき湧き出す拍から、舞を紡ぎ出す。 空を掻く指はその爪の先まで神経を使い、 伸ばした足が描くのは脈々と計算され尽くした円、 扇の起こす風は花弁を纏って上へ下へ。 りん、と鳴る鈴で、舞に音が灯る。 通りすがる人々も、灯っていく音に振り向けば、 そこに狐面の舞手が居よう。 この舞は標。 神のためではなく、人のために。 いつしか生まれる拍子に合わせ、 舞は静と動を繰り返す。 空気をはらんだ袖は花弁を巻き込みながら撓み、翻り。 そうしてぴたりと止まる。 指先は東の天を指して] (38) 2022/04/14(Thu) 23:09:48 |
【人】 東天[それははるか昔の約束だという。 故郷へと彷徨い急ぐ二人がいた。 必死にその道を走り、待つ者がいる故郷の方角へと一心不乱に駆けるが、 ………しかし、それは叶わなかった。 その片方がその道半ばで倒れ込む。 体がついに保たなかったのだ。 倒れた者は最期の力を振り絞り、連れに頼み込んだ。 "どうか、その綺麗な花咲く木の下へ埋めてほしい" "そうすれば、それを標にまた会えるから" 故郷まではまだ遠く、息絶えれば連れ帰る事はできず。 連れの者は約束通り、近くの蕾の膨らむ木の下に埋めて、独り故郷へと帰って行った。] (39) 2022/04/14(Thu) 23:11:14 |
【人】 東天[暫くの後、約束通り会いに来た連れは困ってしまった。 様変わりした街道で、どうにもわからなくなったのだ。 朦朧とした意識で走っていて正確な場所もわからず。 その木がどんな花を咲かすのかもわからず。 ただわかるのは、綺麗な花が咲くだろう、蕾の膨らむ木の下。 ──ならば。 綺麗な花咲く木の下全てで舞えば良いかと、 妙な開き直りをして、手始めに街道沿いの木の下で舞を始めた。] (40) 2022/04/14(Thu) 23:11:35 |
【人】 東天[──火が灯る。 暗闇の中、標となる燈籠の火を継いで。 わたしはここでまっている。 はるかむかしから、 わたしはここでまっている。 ──水面は流れていく。 長い時の中、途切れ継いだ場所など教えぬままに。 ただ、ひとり、 "わたし"はここでまっている。 きみにあえるひをまっている。] (41) 2022/04/14(Thu) 23:13:31 |
【人】 東天[今でもその約束通り、どこかを目指して会いに行く。 会いに行っては舞う、繰り返し繰り返し。 あの人が愛した舞を絶やすことなく、生きた証を灯し続けよと。 この舞を愛し惚れた者の巡礼の道として、その教えは今日も守られる。 綺麗な花咲く木と言う標。 こちらが示せるのは舞と言う標。] [とん、と足を踏み鳴らせば。 りん、と、鈴が一度鳴り。 また一曲、舞は終わった。**] (43) 2022/04/14(Thu) 23:15:24 |
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