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【雲】 妖もどき 辰沙[ 人間でいうならため息を吐くところなんだろう。 それに近い間が、僕と彼女のあいだに流れた。 家出をしてきた? よりにもよって、こんなところに? そしてそれ以上に。 ] ……君は、僕が怖くないのか? [ この姿を見れば、小さな子供ならきっと、 泣き叫ばれるだろうとそう思っていたのに。 あまりにもあっけらかんとしているものだから なおいっそう、此方は混乱してきた。 ] (D9) 2022/09/22(Thu) 1:03:00 |
【雲】 妖もどき 辰沙……。 [ 弱ったな。 ] ねぇ、おちびさん。 [ 泣きじゃくる彼女にゆらりと、 闇を凝らせて作った手を差し伸べたところで。 ふと、彼女の額の傷に気づいた。 それから、彼女の目元が既に泣き腫らした後だったことにも。 …これは。 ] (D14) 2022/09/22(Thu) 1:13:52 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ ―――…なんていうか、呆れた。 この子供は、自分が怪我をして泣いていたというのに。 それでも、自分以外の誰かが泣いていると思ったら そちらのほうを優先しようというのか。 そのために、この真っ暗な洞窟に足を踏み入れたというのか。 こんな、まだ小さな子供が。 ] どうして、 [ 言いかけた言葉を、どう続けたらいいかわからずに。 ただ、伸ばした闇色の手で彼女の頭を撫でて。 それから、その頬に触れて、涙を拭った。 特に抵抗もなく、ただ驚いたような顔を見せる彼女に。 ] (D15) 2022/09/22(Thu) 1:16:02 |
【雲】 妖もどき 辰沙……心配しなくていい。 僕は妖怪ではないし、君を食べるつもりはない。 [ 信じてもらえるかはわからないけど。 彼女の額にそっと手を添えて撫でながら 赤い眼を逸らさず、幼い彼女にも伝わるように 言葉を選んで話しかける。 ] ―――君も見てわかるとおり、僕は人間じゃない。 君たちの言葉でいう『神様』と、呼ばれる存在だ。 というより『祟り神』と言ったほうが 君たちにはよりわかりやすいかもしれない。 遠い昔、渡守の一族にこの山に封じられ、 以来、代々この洞窟に閉じ込められてきた。 ―――君たち人間にとって、忌まわしい神だ。 [ 僕にとっては、人間のほうがよほど恐ろしく 悍ましい存在だけれど。 それをわざわざ、こんな子供に伝える必要はない。] (D16) 2022/09/22(Thu) 1:17:11 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ 言い終わって額に触れていた手を離せば 額の傷は跡形もなく消え去っていた。 おそらく痛みも消えているだろう。 ] ―――さ、帰りなさい。 これ以上ここにいては、なにより君の身体に障りがある。 [ とん、と小さな彼女の背を軽く押して入口へと促す。 ] 森の中に蛍たちがいただろう? 彼らが村の中まで送ってくれる。 洞窟を出たら、決して振り返ってはいけないよ。 [ ぽふぽふと、どうにか彼女を安心させたくて なるだけ優しく、背を押し出す。 ] (D17) 2022/09/22(Thu) 1:19:08 |
【雲】 妖もどき 辰沙―――ありがとう、小さい子。 短いあいだだったけれど、君と話ができて嬉しかった。 [ 長く独りだった身には、 彼女の、幼くも優しい言葉は温かく心に沁みた。 それでも、祟り神となったこの身に、 彼女の眩しさや温かさは毒そのもので。 離れがたくなる前に、彼女を元の場所へ帰そう。 ]* (D18) 2022/09/22(Thu) 1:21:44 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ …困ったな。 ] 僕は……僕には名前なんてものはないよ。 僕は、ただの『神様』だから。 [ 人間たちにとっては 役割さえ果たせれば、それでいいのだから。 名前なんて、必要ない。 今も、そしておそらくこれからも。 ] (D21) 2022/09/22(Thu) 5:41:30 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ やがて、扉の前に近づいたところで。 ] …! [ ぐらり、と目の前の空間に歪みが走る。 それと同時に、地の底から響くような 唸り声とも断末魔ともつかない不気味な声が空間を揺らす。 それは瞬く間に周囲へと拡散して、 ―――やがて、爆ぜるような衝撃とともに 大地が、空気が大きく揺さぶられた。 …その日。飛鳥井村とその周辺の山々を震源とした 大規模な地震が発生したと、後に聞かされた。 だけどあのときは、そんなことを知る由もなくて。 ただ、彼女を守ることで、精一杯だった。 ] (D22) 2022/09/22(Thu) 5:42:31 |
【雲】 妖もどき 辰沙僕につかまって!!しっかり!! [ 咄嗟に彼女の周囲を質量を持たせた闇で 覆いかぶせるように取り囲むとその身体を中空へ。 今は下手に彼女を外に出さないほうがいい。 どうして、彼女を庇うんだろう。 ]出会ってほんの少し言葉を交わしただけの、 (恐らく渡守の血を引いているだろうけど) ほとんど何の力も持たないような、こんな子に。 (D23) 2022/09/22(Thu) 5:44:06 |
【秘】 妖もどき 辰沙 → 落ちこぼれ退魔師 渡守 理音[ ―――ああ、でもこの子は。 何も知らないはずのこの子は、僕のことを案じてくれた。 それ以上の理由なんて、きっと要らない。 僕は、彼女を守りたい。 ] (-2) 2022/09/22(Thu) 5:46:01 |
【雲】 妖もどき 辰沙……ッ [ …体感にして二分ほどだろうか。 漸く揺れが収まった頃、外へ視線を向ければ 月明かりが照らす、門の向こう側の狭い景色だけでも、 その惨状が伝わって来た。 森の樹々は一本残さず倒され、 樹の幹や大地には所々抉られたような傷痕が残っている。 そして何より、樹々の向こうの闇から滲むように 湧き上がってくるのは、醜い小鬼や虫妖の類。 狙っているのは、僕か、 それとも僕の腕の中の小さな彼女か。 どちらにせよ、関係ない。 ] (D24) 2022/09/22(Thu) 5:48:02 |
【雲】 妖もどき 辰沙……ことね。 しっかり掴まってて。 [ 僕とて、並の妖怪程度にむざむざやられてやる気などない。 ましてや、今この腕の中には小さな命を抱えているのだから。 ―――結局、有象無象の妖たちを全て退けたのは夜が明けてから。 漸く終わったとほっと息を吐いたところで。 …腕の中の小さな彼女が、 ぐったりとしていることに気づいた。 ] (D25) 2022/09/22(Thu) 5:53:52 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ 彼と、彼の仲間たちに保護されて、彼女は森の外へと運ばれていく。 どうやら、浄化の儀式を済ませた後に病院へと運ぶらしい。 運ばれていく彼女を洞窟の中から見守る僕に、彼は囁いた。 『もし、彼女と一緒に居られる方法があるとしたら 君は、どうする?』と。 ―――…そうして、後は知っての通り。 やがて意識を取り戻した彼女が此処に戻って来た後。 僕らは、互いに契約を交わした。 僕が彼女の『式』へと降ることで 僕は『祟り神』としての力をほとんど失い、 妖としても実に半端な力を持ったなにかになった。 そうして、僕らは八年の年月を共に過ごしてきた。 落ちこぼれの退魔師と、彼女に仕える式神として。 ]** (D27) 2022/09/22(Thu) 5:57:33 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ ―――それから、その日は考え着く限り休日を満喫した。 カフェで遅めの昼食を食べた後、書店の中を一通り見て回る。 絵本や児童書の棚の近くを通りかかったときは 平積みされた絵本にふと懐かしい気持ちになった。 まだ、出逢ってまもない頃、 「本を読んだことはない」「文字も読めない」と 彼女に告げたところ、さっそく毎日のように 彼女の読み聞かせが始まった。 幼児向けの絵本から小学校の教科書、 やや分厚めの児童書から文庫本までなんでも。 一生懸命読んでくれたし、文字の書き方も教わった。 思えば、彼女は末っ子で、しかも兄たちとは 比較されてばかりだったと聞いているから。 …お姉さんぶりたかったのだろうかと、今は思う。] (D42) 2022/09/23(Fri) 23:38:17 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ それから、レシピ本のコーナーで暫く足止めを食らった。 最近彼女はお菓子作りに凝るようになってきた。 とはいえ生来大雑把なところがあるので、計量がそれほど難しくなく、 かつ工程が簡単なものが彼女としては理想のようだ。 よく動画サイトをチェックして、気になったもの、気に入ったものを 積極的に作っている。 …彼女の作る食べ物は実際美味しいし、 美味しいと伝えると喜んでくれるので。 もっと、正直に伝えられるようにならないと。 「これとかどう?食べたい?」と 傍らにいるとよく聞かれて居心地が悪いので、 それとなく距離をとって見守る。 彼女が本を選んでいるあいだ、近くにあった フリーペーパーを手に取って暇つぶしに眺める。 途中、冊子の片隅に書かれていた 『SRNK彗星が地球に最接近!千年に一度の天文ショー!』 と書かれた記事にはほんの一瞬眉を動かしたけれど。 (4)(5)(15)(8)(11)5d15分後、お目当ての本を見つけたようで こちらへ手を振ってかけてきたので再び合流することにする。 ] (D43) 2022/09/23(Fri) 23:38:53 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ それから、シアター近くのゲームセンターで 暫くクレーンゲームに没頭する理音に付き合った。 彼女のお目当ては、何かのアニメのキャラクターらしい。 赤い眼をした白兎。 特に表情のないただのぬいぐるみのはずなのに、 なんだか妙におちゃらけた印象があるのは、なぜだろう? ] ……、もう、諦めたら? [ 既に千円分、このゲームに注ぎ込んでいる。 これはもうご縁がないということなんだろうけど。 …どうしてもほしいと言い張る彼女に、 小さくため息を吐いてから] …ぼくがやる。やらせて。 [ 基本的な操作方法を教えてもらってから、 ボタンに手をかける。 ―――本当はよくないけれど、ごめんね。 彼女の月々のお小遣いの額を知っている身としては このまま続けられるのはいろいろ障りがある。 ] (D44) 2022/09/23(Fri) 23:40:49 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ それから数分後。 件の白兎と、ついでに薄紫の瞳の黒猫を手に入れて 上機嫌の彼女だった彼女は、運良く座れたバスの座席で すやすやと穏やかな寝息を立てていた。 白黒二匹のぬいぐるみを抱きしめたまま、 僕の肩に無防備に頭を預けて眠る彼女の横顔に ふふ、と口許が柔らかくなる。 時刻は既に夕方。 空の色はすっかり、茜色に変わっていた。 最初こそ十人ほど人が乗っていたバスは、 大通りを過ぎてから急速に乗客を減らし、 新興の住宅地を過ぎた頃には 僕ら以外の客はすっかりいなくなっていた。 彼女からいったん視線を外すと、 ふと何気なく窓の方へ目を向ける。 学校方面へと緩やかに坂を上るバスから見えるのは 黄昏に色づく賑やかな街の風景。 ] (D45) 2022/09/23(Fri) 23:41:56 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ まだ、天候は暑かったり肌寒かったりと 不安定ではあるけれど 陽の傾きが少しずつ早くなっていっていることに、 季節の移り変わりを感じる。 もうすぐ秋が来て、それから冬がやってくる。 クリスマスを過ぎればそこからはあっという間に次の年だ。 これまでもそうであったように、これからも。 こんなふうに彼女と、日々を重ねていけたらいい。 ……そう、願わずにはいられない。 ] ……………………。 (D46) 2022/09/23(Fri) 23:43:19 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ ―――…夕焼けは嫌いだ。 思い出したくもないものを思い出してしまうから。 まだ、自分が何者なのかもわからなかったとき。 彷徨うなかでたまたま見つけてしまったあたたかさを、 与えられなかった優しさを、 あの闇の中へ縛り付けられたときの絶望を 嫌でも、思い出してしまうから。 ―――僕だって、誰かを恨みたかったわけじゃない。 憎みたかったわけでも、呪いたかったわけでもない。 ただ、僕は…… ] ……ッ。 [ 今は違う、と。 今の僕にはこの子がいると 自分に言い聞かせるように、彼女の肩を抱き寄せる。 腕に抱くこの温もりが、あたたかさこそが 僕が生きるべき世界なのだと、言い聞かせる。 胸の内で、何度も、何度も。 そうでもしないと、頭がおかしくなりそうだったから。 ] (D47) 2022/09/23(Fri) 23:45:34 |
【雲】 妖もどき 辰沙…理音。 もうすぐ着くから、降りる準備をしよう。 [ 彼女の肩を軽く揺すって、声をかける。 バスを降りて寮へと辿り着けば、 そのまま慌ただしく夕飯の支度をすることになるだろう。 そうしてまた、いつもの、 慌ただしくも穏やかな日常に帰ることになるはずだ。 きっと。 …妙な胸騒ぎがするのは、きっと気の所為だ。 ] (D48) 2022/09/23(Fri) 23:47:11 |
【雲】 妖もどき 辰沙[ ―――その夜。 ] ……。 [ 誰かに、呼ばれた気がした。 時刻は日付が変わって少し経った頃。 無論、こんな時間帯に理音が起きていられるはずもなく。 そっと隠形を解いて実体を形作ると、 ベッドの上で無防備に眠る彼女の毛布を一度きちんとかけ直す。 そっと、彼女の寝顔を覗きこんで起きる気配がないのを確認するとそのまま姿を消して部屋を後にした。 再び僕が姿を現したのは寮の屋上。 消灯時間もとっくに過ぎた時間帯、当然照明などあるはずもなく。 非常用通路の灯りの他は月と星の光だけが辺りを照らしている。 そしてそんな時間帯、そんな場所に、わざわざ僕だけを呼び出そうとする相手なんて限られている。] (D49) 2022/09/23(Fri) 23:49:18 |
【雲】 妖もどき 辰沙――…何か、ご用ですか? ……先生。 [ 夜闇の向こう側にいる人影に声をかければ。 暗闇に何かを擦るような音と、 それと同時に現れた小さな炎が人影の顔を照らし出す。 ] 『やぁ、シャイボーイ。 デートは楽しめたか?うん?』 [ 紫煙をくゆらせながら、彼は僕に語りかける。] ……ご用件は? 『まぁそう固くなるなって。 ……こちらとしてはなぁ辰沙、 お前たちと険悪になるつもりはないんだよ。 なんといっても、お前たちが小さい頃からの付き合いだしな』 ……。 (D50) 2022/09/23(Fri) 23:50:19 |
【雲】 妖もどき 辰沙『ま、そうはいっても難しいか。 あの子はともかく、お前自身は気づいてるんだろう?』 [ 言いながら、彼は空を指差してみせる。 彼の指差す方向に見えるのは、 火星より、アンタレスよりも大きく、そして尾を引く大きな赤い星。 ] 『今、この星に近づいている噂の彗星な。 千年に一度、最接近するって言われて 一般連中にも広く知れ渡っちまってるあれ。』 『俄かには信じがたいが……あの彗星が、 本来のお前の大許……本体なんだろう?』 (D51) 2022/09/23(Fri) 23:51:26 |
【雲】 妖もどき 辰沙『彗星・ソラナキ。 かつて百鬼夜行にも描かれた空や闇を切り裂く天上の妖。 千年前、この星に最接近した折にこの国に残した置き土産。 ―――そして。』 [ 不意に、先生の声音から柔らかさが消える。 後に残るのは、ただの硬質な殺意。 ] 『この星へと送り込まれた禍の種。 それが、お前だ』** (D52) 2022/09/23(Fri) 23:53:01 |
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