【雲】 le chien セト[ 幸せを祈る言葉は、二人分。 異国の呂律は彼女にはわからなかったようで、 なぁに?と振り返る姿は、 陰鬱な地下に咲いた大輪の花の如く とても美しいと思った。 なんでもないというふうに首をそっと振って 睫毛を伏せて。 ] (D10) 2021/04/20(Tue) 18:18:51 |
【雲】 le chien セト * [ 困ったことに彼女は迷子を卒業したようで、 それから幾度となく此処を訪れる。 ・・・・・・ 自らの意思で。 時には、彼女の小さな友と一緒に。 良くないことと知りつつも、 彼女が来ると場の空気が穏やかに、 ゆったりと流れることに気づいていた。 荒んだ心が彼女の清らな佇まいに包まれ 次第に凪いでいく。 時折、わざとか偶然か、 その細く白い指が己のものと絡んだりすれば、 とん、と心臓が跳ねることさえあった。 ] (D11) 2021/04/20(Tue) 18:20:03 |
【雲】 le chien セト[ 無論、女性と触れるのが初めてと 言うわけではない。 久しく感じることがなかった柔い身体に、 抑圧された男の性が顔を覗かせている訳でも ないよう。 そう、それはきっと。 豪奢なドレスに身を包み、 何不自由なく暮らしていて尚、己と同じように 本当の自由というものを知らず、 焦がれている、美しい少女。 この清廉な彼女に己は惹かれているのだと、 理解は出来ても認めてしまうのは なんとも恐ろしいことだった。 (D12) 2021/04/20(Tue) 18:21:54 |
【雲】 le chien セトそうですね、ずいぶん大きくなりました。 一人で鼠を獲ったり出来るように なったかな。 [ 己の膝の上を昼寝のベッドにして安らぐ ピヤールの、ずしりと感じる重さを 頭に浮かべてふふと笑う。 生憎今日はいないようだ、 大凡陽だまりの下にでもいるのだろう。 ] ……外で? あなたが? [ なんの前触れもなく、 突然問われた質問に>>D9眉がぴくりと動いた。 ] (D13) 2021/04/20(Tue) 18:23:54 |
【雲】 le chien セト…………そう、ですねぇ。 まぁ、無謀と言うか、 無謀でしょうね。 [ くっくっと意地悪く笑う。 ] 外は自由ではあるが、危ないことも多い。 あなたのようなお嬢様が、 なにも知らずにひとり外へ出て 容易く暮してゆけるほど、 この国の情勢は今、整ってはいないでしょう。 [ そっと彼女の表情を窺う。 傷つけたようなら、すみません、と謝って。 ] (D14) 2021/04/20(Tue) 18:27:27 |
【雲】 le chien セト─── ご結婚、とでもなれば、 別なのでしょうね。 ……なにか、あったのですか? [ あまりに突然の純粋な問いかけに、 少し怪訝な表情を返した。 彼女の父になにか言われたり、 勘付かれたりしたのではないか。 ふと、そんなことを思う。 勘、と言うものは、侮れないものだ。 (D15) 2021/04/20(Tue) 18:27:52 |
【雲】 le chien セト鼠の死体を得意げに咥えて持ってきたとて、 嫌悪感を滲ませて叫んだりしては いけませんよ。 ピヤールを褒めてあげてくださいね。 [ 貴族の娘にあるまじき、 地面にドレスの裾が擦れるほどに しゃがみこんだ姿勢の彼女と>>D16 いつものように壁に背を預け 床に足を投げ出して座る己の視線は 柔らかく絡む。 精神的な隔たりが少しずつ解けるに従って 物理的にも距離は詰まった。 初めの頃とは、座る位置が少し変化していて。 格子から離れた部屋の隅に居たのが、 今は床について伸ばした手は、 白い手が外から侵入し、己の指を 容易く掬い絡め取ることが 容易になるほどにすぐ、側で。 ] (D20) 2021/04/21(Wed) 13:49:43 |
【雲】 le chien セト[ 彼女の口から出た唐突にも思えた 疑問の理由>>D17がぽつりと聞こえる。 なんとなく、想像がついていたことだ。 僅かに眉が動くだけで、 表情が大きく乱れたり変化することはない。 ただ、言葉の最後に、 消えそうに小さな声で呟かれたことには、 思わず目を見張った。 ] (D21) 2021/04/21(Wed) 13:50:37 |
【雲】 le chien セト─── 馬鹿なことを。 あなたの相手が俺になるなど。 [ 珍しく、いつもより大きな声は微かに震えた。 住む世界の違いに気付かぬほど、 考えのない娘とは思えないのだけれど。 嗚呼、やはり、ここへ来ていることは 正しくはなかった。 わかりきっていたことなのに、 己の甘さに反吐が出そうだ。 (D22) 2021/04/21(Wed) 13:51:46 |
【雲】 le chien セト……良いと、思いますよ。 お父上が連れて来られた方であれば、 申し分のない男性でしょう。 [ 平静を装って、婚姻を勧める。 彼女を利用してここから出ようなどという 考えはいつのまにか、何処かへ消えていて。 彼女の幸せを願う想いだけが残っているようで。] そういうことなら、今度こそ此処へは 来ないほうが良い。 俺はいつでもあなたとピヤールの幸せを 祈っています。 [ ふ、と口元を三日月の形に持ち上げて 彼女から視線を逸らした。 ] (D23) 2021/04/21(Wed) 13:53:29 |
【雲】 le chien セト * [ 彼女から婚姻の話を聞いて、しばらく。 彼女の父に閨に呼ばれた際、 あえて己のほうから、 そういえばお嬢様のご結婚、 誠におめでとうございます、と 完璧な笑顔を添えて言ってやった。 幾つもの修羅場を潜ってきたであろう 彼女の父は、取り乱すようなことこそ なかったが、それでも生意気な犬から 不遜な事実を聞き出そうと 様々な方向性からの陵辱や暴力を 与えることになった。 ] (D24) 2021/04/21(Wed) 13:56:42 |
【雲】 le chien セト[ 呻き声ひとつ、あげることを拒みながら。 薄ら遠のく意識の寸前には、 心配しなくても手は出してねェよ、と 言ってやった。 不敵に見えるよう笑んだつもりだったが、 上手くいっただろうか。 そのまま、視界は闇に沈んだ。 ]* (D25) 2021/04/21(Wed) 13:57:31 |
【秘】 貴族の娘 アウドラ → le chien セト 無事に届いているかしら。 明日には輿入れ。 来世で幸せになりたいわ。 あなたとなら、どんなところでも 幸せになれると思っていたのだけれど さようなら、私の大切な人。 (-57) 2021/04/21(Wed) 20:24:28 |
【雲】 le chien セト[ 嗚呼、やはり。>>D27 責めるような、縋るような声が、 澱んだ空気をひりつかせる。 いい年をして、彼女の言いたいことが わからないはずもなかった。 けれど、どうしようもないではないか。 あの主のもとにいる限り。 そうして己の飼い主は彼女の父なのだから。 アウドラにと彼女の父親が選んだ相手が どんな人間か、そんなことは どうでも良かった。>>D27 ただ、彼女を大切にしてくれるなら。 彼女が幸せなら、それで良かったのだ。 ] (D31) 2021/04/21(Wed) 23:01:26 |
【雲】 le chien セト[ 自分自身に言い聞かせるように ぽそりと呟いて>>D28 こちらを見ることも 別れの挨拶もないまま去っていく姿。 翻るドレスの裾はいつもと変わらないはずなのに、 やけに重く、いつまでもその場に残像が残るよう。 まるで幼子が、母親の衣服の袖を握りしめて 引っ張って離さないような。 そんなふうにそのゆうるりと揺れる 柔らかな生地を、白い指ごと掴んで 引き留めることが出来れば どんなに、と─── ] (D32) 2021/04/21(Wed) 23:02:39 |
【雲】 le chien セト[ 彼女が幸せならそれで良いと思っていた。 意思を無視して諸々の事情のみで与えられた 婚姻であっても、その全てが 不幸というわけでもないだろう。 けれど、彼女は。 自身の足で、自身の手で、 掴みたかったのではないだろうか。 そんなことをふと思う。 その相手が己だったと自惚れて良いなら、 えらく泥濘んだ道を選んだものだと 苦い笑みも浮かんだ。 同時に、何もかも与えたつもりで、 何もかもを奪い、全てのことから彼女を ひとりにする彼女の父親に、 今まで以上の怒りを感じた。 ] (D33) 2021/04/21(Wed) 23:04:14 |
【雲】 le chien セト * [ なぁお、と鈴を転がすような声がする。 目を閉じたままの頬にざらざらとした鈍い痛み。 ゆっくり持ち上げる瞼が重い。 こつん、と滑らかな毛皮に包まれた 小さな頭が擦り寄せられたのがわかった。] ………… ピヤール。 [ 希少な宝石よりずっと煌びやかに輝く エメラルドグリーンの瞳。 ふ、と息を吐いて、久しぶりだね、と 声を掛けた。 ] (D34) 2021/04/21(Wed) 23:05:36 |
【雲】 le chien セト……君のご主人は、元気かい? [ 訛りのように重い腕を動かして頭を撫でる。 身体中の傷と痛みで、起き上がることは諦めた。 喉もとをそっと掻いてやろうとした時、 美しい首輪に結ばれたものに気付く。>>D29 両手をどうにか伸ばし、首輪から外そうとした。 がたがたと震える両手で、 それが傷つかないように外すのは 存外に苦心したが、優秀な配達猫は自慢げに じっと座って喉を鳴らしていてくれた。] (D35) 2021/04/21(Wed) 23:06:50 |
【雲】 le chien セト[ 別れの言葉。 今まで幾度となくここで会い、 けれど聞いたことのなかった、 Au revoir さよなら─── ぎり、と唇を噛み締めた。 このままでは、きっと。 ] (D36) 2021/04/21(Wed) 23:09:17 |
【雲】 le chien セト[ がり、と音を立てて、歯で薬指の皮膚を破く。 ぷつぷつと湧き上がる赤い滴を、 そのまま己の唇に塗った。 ここには返事を返すためのペンも、紙もない。 感謝を、もしくは朧な愛を告げるための 花も、宝石も。 言葉すら、届かない。 ならば。 その手紙の隅に、そっと唇を押し付けた。 血の赤が、唇の形に咲く花のように 見えただろうか。 ] (D37) 2021/04/21(Wed) 23:10:30 |
【雲】 le chien セト─── ピヤール、ありがとう。 返事を書いたんだ。 また、お使いを頼める? [ 乾いたことを確認して、 もとのようにピヤールの首輪に手紙を結んだ。 届かなかったら、それはそれで良いのだ、と。 なぁお、とピヤールの声が凛と響く。 良い子、と頭を撫でれば、 また、目の前に暗幕が張った。 ]** (D38) 2021/04/21(Wed) 23:12:04 |
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