─ その後 ─

[あの鮮烈な経験の後、私は累さんと連絡先を交換して帰った。
交換できたよね？　少なくとも私は渡そうとしたはずだけど。　

でも後日アヤネに絡まれてしまって面倒だった。
流石に証拠は握られてなかったけど、あんなに変態だったんだとか、お尻で感じるなんて〜、みたいな。
あんな場所に置き去りにしたことを責めたかったけど相手にはせず、さっさと退職届を提出する。
社長令嬢に目をつけられたまま働くのなんて厳しいし。仕事では特に問題ない……と言いたいけど、重要な連絡を此方にしてこなかったりイヤな上司と引き合わせてきたりと地味な嫌がらせがあったから。
　
……そんなふうに撤退準備を進めていた頃。
　
言い寄ってくる男の人がちらほらで始めた。
会社を辞めたらもう会わないかもしれないから？
どういうつもりなのかしらね。
もちろん、私は丁寧に謝罪してお断りしていたけれど。
　
あの子の流した噂のせい──だなんて、やっぱり私は気付けない。
累さんに気に入られたのがよほど癪だったみたい、ね？]*
　

─ その後 ─

[仕事先は彼に甘えることにした。
それから、恋人らしいことはしていたかしら？
恋人同士だと公言したり。
映画館だとか水族館だとかの普通のデートしたり。
お揃いのものを買ったり、──そんな、普通の恋人みたいなこと。
　
今までそんな恋に憧れてたから。
憧れてたけど。
出会いは身体からだったから、そうした希望は口にしないと通らなかったかもしれない。
映画に誘ったり、食事に誘ったり。
恋人同士だと宣言がなければ私の片想いに見えたかもしれないわね。
あなたに言い寄る影もあったかもしれない。

恋人同士と宣言できて。
普通の恋人らしいやり取りがあったなら、別だけど。]