鳥葬 コルヴォは、メモを貼った。 (a1) 2022/08/25(Thu) 16:28:41 |
【置】 鳥葬 コルヴォ「結局のところ、俺は一人で生きていけるほど強い人間ではなくて」 「死んでいく人間の全てなんて、到底受け止めきれるような人間でもなくて」 「一人でも、誰かとでも、生きていくっていうのは苦しみに変わるばかりで」 「一緒に死ぬにしたって、それは死ぬ以外に選択肢の無い奴だけでいい」 「何から何まで、ただ自分の為にしていることで」 「だから俺は一人で死ななきゃならなかったんです。」 「そう思っていたんですよ」 (L7) 2022/08/25(Thu) 16:30:25 公開: 2022/08/25(Thu) 17:00:00 |
【置】 鳥葬 コルヴォ「けれど今更になって、それも違うと気付いてしまった。」 「だから俺は、」 「あんた達の運が良ければ、その内あんた達の思う通りになって」 「俺の運が良ければ、その内俺の思う通りになる」 「どちらも運が悪ければ、どちらにもならない。」 「それでいいって事にしようと思うんだ」 (L8) 2022/08/25(Thu) 16:31:12 公開: 2022/08/25(Thu) 17:00:00 |
【置】 鳥葬 コルヴォ最後の夕暮れ、最後の夜の、その前の事。 そして、誰かと港の埠頭で再び会う少し前の話。 僻地の廃倉庫での、誰も知る事の無い、観客の無い幕間。 「俺にとって、明日が続いていく事は苦痛だった。 いつか終わりが来る事だけが希望だった。 ……続いた先に、一握りの希望さえ信じられなかった事を」 誰にも手を伸ばす事さえしなかった者は、 何を得る事も無い。誰も悲しませたくなかったからこそ、 遠ざける事しかできなくて。誰の言葉も真と信じていたのに、 そこに希望を信じる事ができなくて。結局は最後の最後まで、 誰の手も取る事ができなくて、「 ごめんな、許さないでくれ 」この血を吐くようなひとことが、誰にも届かなければ良いと思う。 無宗教者に、懺悔する先は無い。 あてのない言葉は、人知れず夕暮れ前の薄闇に溶けて消えた。 それでいい。祈りの真似事は終わり、立って行くべき先は決まっている。 そして黒衣が翻り、重苦しい靴音の後、廃倉庫は今日もまた静かになる。 次の夜も、その次の夜も。 もう二度と、この場所で、掃除屋から誰かへの弔辞が告げられる事は無い。 (L9) 2022/08/25(Thu) 16:32:54 公開: 2022/08/25(Thu) 17:00:00 |
【置】 鳥葬 コルヴォそうして、生者達には今日も変わらない夜明けが来て。 名もなき烏はもう何処にも居ない。それが全てだった。 烏は亡骸を晒さない。 人の営みから遠い何処かの夜闇にて、 ぽとりと枝から地面に落ちて、それで終わり。 烏同士は目を啄かないが、 屍となれば共食いをする。 屍は同族に啄まれ、 後には何も残らない。 事実どのような結末に至ったのかは、今は定かではないこと。 確かな事と言えば、もう誰の死を弔う事も無いという事だけ。 (L10) 2022/08/25(Thu) 16:34:11 公開: 2022/08/25(Thu) 17:30:00 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>8 リカルド 「あ?……うわ、すげえ。 あんだけあたいが言ったのに出歩いてるド級のバカがいる」 ぐりんと振り向くその顔に、呆れと呆れと呆れを貼り付け、 そんな言葉。常なら雷だっただろうが、 まあ、なにせ今は普段そうやらない"暗殺"帰り。 暗というには派手な鐘の音ではあったものの、 つまりは魔女のやり方があの子とは違うというだけの話。 とにかく、両手は塞がり、背中に荷物。 ついでに疲労と頬の欠けもくっつけて、 釘打ち機を取り出すような気力は今はなかった。 「交友ね……ま、そうかもね。 ビビってる腰抜け共の態度に比べれば、 あたいのは十二分に交友だと思うよ」 ほんの僅かの間、閉じた瞼に浮かぶのは いつも変わらないあの顔と、それが少しだけ動いた時の顔。 「……。……で?まだしないわけ?」 あたいの方のことはさておき、と目を開いてそう切り出す。 何を、とでも返せばもう一太刀。 「ケツ拭いてもらった相手の顔に向かって 思いっきりクソを塗りたくるような現状への言い訳。 そろそろ来るかと思ってんだけど」 魔女は、多少疲労した所で、辛辣さが抜けるわけもなかった。 (9) 2022/08/25(Thu) 18:37:39 |
【秘】 ザ・フォーホースメン マキアート → 天使の子供 ソニー役に立ててる気分になれるから、身体を求められること、求められた分だけ返すことが好きだ。 その間柄に偽りのない愛情がこもっていれば申し分ない。 腰を導かれる間、切羽詰まった声で何度か名前を呼んで。散々愛撫で翻弄された尻穴に熱いものが宛がわれると、本能のもと待ち侘びたとばかりに咥え込んでいく。 音にならなかった喘ぎを荒々しく吐いては、今度は浅い呼吸を繰り返し、視線を下に落として表情を窺う。見るまでもなく心地よさを感じてくれてるのだろうけど、それでも。 「あ───……入っ、ぁ゛、 気持ちい、ソニー……キミも、オレの中……イイでしょ?」 額に触れるような口づけを何度かしたり、包むように両腕を回して肌を触れさせたり。こちらが辛くないように、という気遣いを細々としたところに感じると、人懐っこい笑みを零す。 陽物が抜けていく動きに合わせ絡みつくように肛を締め付けて、それから奥まで抉ってもらえるように緩める。客を喜ばせる為に覚えたことを、己が満足の為に卑しく行って。 でもそんなちょっとした余裕は、動きが速まるのであればぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、やがてされるがままに。 (-16) 2022/08/25(Thu) 18:58:58 |
【人】 銀の弾丸 リカルド【路地の店】>>9 ストレガ 予想と違わず辛辣な言葉を受け、さすがの仏頂面も少しばかり眉を下げ。 それでも、辛辣な言葉の裏に面倒見の良い一面がある事を知っているから、降参の意味を込めて軽く両手を上げた。 「お前の言葉には何一つ言い返せないな」 頭を撃たれて絶対安静にならないわけがない。 ド級のバカと言われればそのとおりだが、どうにもそういう訳にはいかない。 外回りを押し付けられてる時点で、色々警戒すべきこともあるのだが、それはさておき。 正面から貴方の顔を見れば、流石にその大荷物と欠けた頬と耳の状態には気づくだろう。 「……だからその傷を作ってきたのか? その大荷物も気になるが……闇医者で見た時はそんな傷、なかっただろう」 表に見える範囲でしか、彼女たちの交友を知るわけもなく。 自分とて、あの2人を殺した人物は洗い出したいと思っているから、その様子を見れば何をしてきたかくらいは想像がついた。 断られるだろうなとは思いながらも、両手に荷物があることを良いことに流してある横髪に触れ、傷を診た。 「俺が密売に使ってる港の5番倉庫の地下によかったら来い。 綺麗に手当をしてやろう。女の顔にこの傷をそのまま残すのは忍びない」 続く言葉には「言い訳……」と頬をかけば、 「テンゴさんがそこで、俺以上の重体で寝ている。 俺が今、ベッドで寝ている時間は1秒たりともない。心配させてすまんな」 と言い、そこには最新の医療施設を作っていると告げ、そこでマウロを手術したことも告げた。 貴方になら、あそこに今寝ているテンゴにも会わせてもいいと、思っているからこそのことだった。 (10) 2022/08/25(Thu) 19:39:01 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>10 リカルド 「言い返してたらあんた今頃女になってるよ。 ついさっきも女を一人造ってきた所だから、すぐやれるね」 ふん、と鼻を鳴らす。命の保証のない性転換の話、 分かるものはこの場に魔女しかいないだろうけど。 「ま、そんなとこ。住処を吹き飛ばしたんでね、 ああ、あとあたいここに引っ越すから。この店貰うよ」 上への確認もなしに、勝手な事を言いながら。 髪に触れた瞬間、ぐんと首を逸らして避けて、 「次勝手に触れたら指なくなっても文句言うんじゃないよ」 なんて恐ろしい事を口走る。 「まだヤクが抜けきってないのがよくわかるね。お断りさ。 これくらいある方が、かえってハクがつくよ。それに――」 数日前、烏に言った言葉を呼び起こし。 「『忘れねばこそ、思い出さず候』、ってね。 これはあたいのものだ、あんたなんかにあげない」 魔女は魔女らしく、凶暴に笑う。 きっと、大きな疵痕になる。 だが、魔女はそれを捨てる気はないらしい。 (1/2) (11) 2022/08/25(Thu) 19:59:55 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>11 そして言い訳に関しては、 「お、よかった。頼りになる幹部殿が2人とも…… じゃああたいとしても困るからね。 腑抜けの下につくつもりもないし」 「ま、気が向いたら見舞いにくらいいくよ。 ……あんたはさっさと用事を済ませて マウロ共々ベッドに戻るんだね、 じゃなきゃあの時のあんたのツラと状態について ソルジャーの間でもちきりの噂にしてやるから」 と、やはり恐ろしい事を口にした。何が恐ろしいか。 それは、この魔女なら本当にやりかねない、という事。 あなたは身体を大事にしなくてはならない。自分の為にも。 そして、ファミリーの為にもだ。 (2/2) (12) 2022/08/25(Thu) 20:03:51 |
【秘】 坑道の金糸雀 ビアンカ → 金毛の仔猫 ヴェルデ「ふ」 きれい。 誰からも言われなれて、 なんなら自分かわ言わせることもあるその言葉。 けれどそれが、あなたから出たこと。 そうして感じた暖かさは、それまで感じたことがないもので──── 違う。 ――それは、失ってから、十年近く。 その灯火は、久しぶりに物置から引っ張り出したガスストーブのように、がたごととノイズをたてながらビアンカ・ロッカの胸の内を暖めた。 「――なぁまいき」 ありがとうなんて言葉には、やめてよ、と手を振って。 ▼ (-17) 2022/08/25(Thu) 20:07:09 |
【秘】 坑道の金糸雀 ビアンカ → 金毛の仔猫 ヴェルデ▼ 結局、ビアンカ・ロッカはいい育て親でもなかったし、母親なんかにはなれなかった。 ゴミ捨て場で見つけた少年を、何かの代わりのように育てて自分の胸にぽっかりと空いた、 どんなかたちかもわからない穴を埋めようとしただけだった。 それでも、彼女は人間だった。 ビアンカ・ロッカは、あなたのことを愛していたし。 失いたくなんて、なかった。 ただそれだけの、ことだった。 ▼ (-18) 2022/08/25(Thu) 20:07:27 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → 金毛の仔猫 ヴェルデ▼ あなたの手をとって歩く道すがら。 ビアンカは、めったに歌うことのない歌を口ずさんでいた。 「――Ninna nanna,mio figliuolo!」 「――Ninna nanna,occhi ridenti…」 Ninna Nann。 古臭い、子守歌だ。 「――Canta,canta,rusignolo…」 「――…che il mio bimbo s'addormenti!」 ニンナ・ナンナ、おお、夜鳴鶯。 みんなでここへ来て、坊やに歌を聞かせてね。 ニンナ・ナンナ、おお、墓場鳥。 そうしたら坊やは眠るでしょう──…… そんな古い歌を、彼女はなぜか覚えていた。 きっといつか、誰かに歌うために覚えた歌を、 あなたにだけ、歌うのだ。 幸せそうにはにかむ笑顔で。 嬉しそうな、ステップで。 (-19) 2022/08/25(Thu) 20:10:37 |
【秘】 ザ・フォーホースメン マキアート → 家族愛 サルヴァトーレ「嘘は怒られるからつくものなので」 ちょっとお道化て言う。正直に生きていられるならそれに越したことはない、表情を偽ることが良いものだとは思っていない。 役に立つためだ、全部。役に立てなきゃ怒られるし、褒められるのはとても嬉しい。怒られてもあまり気にするたちではないのだが。 ただその中で、正直に振舞っていても何も言われない場というのは気が抜けて有難いものだった。友人にしろ、後輩にしろ、今目の前にいる彼にしろ。 そこまで思ったところで身体が引かれるまま傾いて───頬に柔らかい感触を遺す。きょとんと眼を開いて、そして続けざまに後輩のことを聞かれればぱちぱちと瞬きを繰り返した。わかりやすいのかも、オレって。 「よくできた後輩ですよ。オレにはもったいないくらい」 「賭博の技能は及第点以上として……何より、温かみがある。 冷酷なことはできるけど、非情になりきれないような、ね。 大事だと思うんです。 いくらこんな世でも、人らしい気持ちを持つことは、とても」 (-20) 2022/08/25(Thu) 20:13:14 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ「ふ、ふふ」 そのすまし顔に、なんだかおかしくなったように微笑う。 今度はあなたの匙が進む様子を、楽し気に眺めるよう眸を細めた。 「――はいはい。 まったく、ちょこちょこ溜めた金も多分パアだし。 財産とかいってのこせりゃいいんだけどね、身の安全にも何かと物入りだし……」 金を使ってまでするようなこと──"旅券"の手配やら、なにやら。 彼女が今まで、その体と女を切り売りして得た金は、それこそ彼女の血肉そのものだった。 普段の彼女はそりゃあもう、1ユーロたりとも無駄にしないと鼻息荒く節制に励んでいたものだ。 ――……外見を保つようなことに関しては、必要経費だと惜しまず散財する傾向もあったが。 だけど、消えた。 それらも、全て、埠頭から投げ入れた小銭のように燦々と散って、沈んでいって、 彼女の人生も血肉も全て残らない。 あるのはただ、あなたの中。こうして過ごした記憶だけ。 ↓[1/2] (-21) 2022/08/25(Thu) 20:27:34 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ↓ 「お願いね。 ……ヴィー。 ……ふふ 、……ふふふ、あはは、…は、は、は はっ!! 」名前と視線が、酒精の熱に溶けていく。 あなたの目をじい、っと見つめ返して── ビアンカはいきなり、甲高く鳴り響くクラッカーみたいに笑いだした。 涙まで浮かべて、グラスに僅かに残ったワインを揺らして。 「やっぱ今日デートってことにしない?」 少し身を乗り出して、にんまり、笑った。 [2/2] (-22) 2022/08/25(Thu) 20:29:41 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → 家族愛 サルヴァトーレ「――うそばー…っか」 最後に君が見たのは、そういってにんまりと、笑う。 まぶしくて、さびしげで、 どこか誇らしげな、ひとりの娼婦の笑顔だった。 (-23) 2022/08/25(Thu) 20:33:30 |
【人】 銀の弾丸 リカルド【路地の店】>>11>>12 ストレガ 「……それは、そいつは大層泣きわめいたことだろうな」 それは大体の男は震えあげる話だった。 言葉通りに受け取って、それを想像してみれば痛いどころの話ではなく、いっそ死にたいくらいの絶望だろうなと理解した。 「時計塔まで吹き飛ばしてきたのか。その荷物は引っ越し道具か? ……まぁ、いい。今の話で件の経緯はだいたい予想はついた。 この家は好きに使うと良い。 ……下手人は、トスキファミリーの者かどうかだけ教えてくれ」 これが今ここにいる本来の仕事のため、確認を取り。 内容を聞き出せれば、助かったと礼を言う。 避けられ断られとするだろうから、然程気にはしてない様子だが、あなたの言葉には「わかったわかった」と返している事だろう。 「ヤクについてはしばらく後遺症が残るかもしれん。 とはいえそれでお前に迷惑をかけるつもりはないから安心しろ。 ……まぁ、お前がそれを残したいというのであれば無理強いはしないさ」 この傷は、お互いにきっと、一生残る。 大きさや酷さの話ではない。 強い願いを成す傷とは、案外消えずに残るものなのだ。 その傷を持つものが、忘れない限りは、ずっと。 ▼ (13) 2022/08/25(Thu) 20:43:43 |
【人】 銀の弾丸 リカルド【路地の店】>>13 ストレガ 「あぁ、手当はともかく見舞いには行くと良い。 あの人も話し相手が出来れば喜ぶだろうからな」 ただの昼行灯ではないと、ちゃんとわかっている人間がここにもひとりいる。 それはとても良いことだ。 あの人がどう思おうと、まだまだ彼には現役で居てもらわなくてはならない。 「あの時の件については是非内密にしていてもらいたいものだが……、 状況が許してくれるようになれば、その時はゆっくり休ませてもらうことにしよう」 随分心配をしてもらえたものだなと、小さく笑った。 ……俺が、ツィオが、マウロが。そして貴方も。 それぞれ力をつけて立てる日が来るまで、あの人達にはずっと見ていてほしいと、そう思うのだった。 (14) 2022/08/25(Thu) 20:44:44 |
【人】 孤独では死なない兎 ツィオ>>5 >>6 負け犬 猫被り 【ノッテアジト廊下】 はぁ、と嘆息して、 マウロの横でそのザマを見る。 なんともまあ……締まらない。 それくらいが、自分たちには似合いなのかもしれないが。 「噛まれたらコトだから、 手出さない方がいいんじゃないかな。 もしかしたら野良犬かもしれないしな」 拾ってくれる優しい飼い主がいたら、 今度こそ首輪の一つでもつけてもらいたいものだ。 マウロの後ろから、近寄っていく。 (15) 2022/08/25(Thu) 21:17:12 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ「そうだけど。あ〜あ、羨ましいこったな……」 こう言っている本人の普段の立ち振る舞いこそ呑気に見えそうなものだが。その実ずっと気を張っていることは、本人だって自覚していないかもしれなかった。 『やる気のある期待できる人間』だと思われたくない男は、いつもやる気のない振りをする。 改めて人気のない事を確認する。 夏の夜闇が重たく漂っているこの場所には、やはり、どうやら自分達しかいない。 「……お前は昔から冗談がうまいな。サヴィ」 「別に苦しませたい訳でもない。お前の綺麗な顔が歪むのを見るのもまた良いかもしれないが」 一歩、近づく。 すいと伸ばされた手が、貴方の首を指でつう、となぞる。 「そんな趣味も無い」 そのままもう片方の手で撫でるように首を包む。 貴方がいつかこの男にそうやって触れたように、優しく。 力は籠められないまま。 「……死ぬのは怖いか?」 きっと変わらない表情を浮かべているのだろう貴方に。 ふと聞いた。 (-24) 2022/08/25(Thu) 21:50:04 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → 郵便切手 フラン>>フラン 「えぇ、その時は」 微笑ってみせる。 本音かブラフかを隠した顔で。 今、賭け金もなく、配当もないのなら、 これはただのカード遊び。 弱っていても、それくらいには応じることができる。 温かなミルクが、あなたとの他愛の無い話が、沈み切った心を それができるくらいに引き上げてくれたから。 空になった皿にフォークを置く。 「美味しかったです。 フランはよくこの店に来るのですか?」 軽く店内を見回しながら、尋ねる。 店に入った時は、そんな余裕すらなかった。 ……そういえば、今日は何も口にしていなかったな、 なんて今更思い出しながら。 (-25) 2022/08/25(Thu) 22:09:10 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ>> ビアンカ 微笑いながら眺める視線に、 今度はこちらが唇を尖らせる番のようだ。 けれど、目が合えば。 ついくすくすと笑いが零れる。 もうそんな歳じゃないというのに なんて思いながら。 「残してあげる気だったのですね」 今までは黙って聞いているだけだったそれを、指摘する。 理由なんて、分からない。気が付いたら口に出していた。 回ったワインの所為かもしれないし、 今日は素直なあなたが口を滑らせるのを 期待してかもしれない。 ……あるいは、どこかで何かの予感を。 別れの予感を感じていたのかもしれない。 約束を結んだばかりだというのに。 [1/2] (-26) 2022/08/25(Thu) 23:05:38 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ突然笑いだすあなたに瞬きをひとつ、ふたつ。 それから、溜息をひとつ。 「……。……遠慮しておきます。 こんな酔ってばかりで、甘さの欠片もないデートなんて」 呆れの色も隠さずに、そんな事を言う。 本当は酔うのは嫌いじゃない。 酒に酔うのも、夢に酔うのも、楽しいから。 けれど、それは―― 「それに私はただの飲み会が良いんですよ」 あなたと、ですから。 男たちなんかじゃなくて、 友達 とだからこそ過ごせるひと時でしょう?そんな贅沢は、口にした途端消えてしまいそうで。 だから、ただ笑みを。 鏡映しの笑みを、あなたに返す。 [2/2] (-27) 2022/08/25(Thu) 23:07:05 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ「ん、」 きゅ、と眉根が寄せられる。抗議のようにも性感に落ち着かなさを覚えているようにも見える。 全てが演技なわけじゃない、得られた快楽を普段よりも深く受け取って、わざと弱気を曝け出している。 こんなところに連れ込んで、強気に出たところでそそらせることは出来ない、から。 自分から仕掛けたくせに文句の一つでも言いたそうな顔をして、深く深く息を吐く。 手先に誘導されて顎を上げ、絡み合う舌は相手に任せながらに時折顎の裏側をなぞった。 息の苦しいのをごまかすように、時折顎を引いて短い言葉を交わす。 「それ、好き、かも。もっと触って、マウロ」 甘えたように懇願して、時々額をこつりとぶつけた。堪らないものを伝えて、せがむよう。 布越しに擦れ合う陽物はだんだんと芯を持ち始めて、下着を引っ張る形の先に体液が滲む。 手の内で質量を増すごとにふ、ふ、と息が弾む。爪先が凹凸をなぞるとぞわりと背を震わせた。 恥じて怖気突いて、興が冷めてしまう前にと自分が先に下着の中から腫れた肉を取り出した。 充血して、亀頭は滴った先走りでじわりと濡れていて。望みを伝えるようにコツコツと腰を合わせる。 交差するように合わさった陰茎を片手で包む。筋張った指がふたつ、包み込んで擦りあげる。 互いの熱が混じっていくごとに、抑えが利かないみたいに腹筋に力が入った。 互いの頭のコントロールをすっかり相手に任せて、片手の指先を唾液ですっかりと濡らした。 片手は相手のベルトを緩めながらボトムの裾に入りこんで、さして自由の利かない空間の中で動く。 街路からのかすかな喧騒から隠れるように、ほとんど体勢は変えないまま。 そのくせこれからどうしたいか、表すように指は段々と裾から中へ、尻肉の間に入っていく。 尾骶骨を指が押し上げて、その下に捩じ込むように入り込んで。隠れた窄まりに、触れる。 長く、息を吐いた。 「……片足、ちょっと開いて」 (-28) 2022/08/25(Thu) 23:07:20 |
【人】 風は吹く マウロ>>16 悪ガキ達 【ノッテアジト廊下】 「どの面で"無理するな"なんて言ってんだかな」 「人に説教する前に、自分を鏡で見てみろよ。箱入りの室内犬でももう少し自分の世話が出来るんじゃないのか?」 人に見せられないような顔で出歩くなんて本当にらしくない。 本来ならもう少し手心を加えてやるところだが。 なにしろ、君には言いたいことが沢山沢山あるのだ。 「とりあえず座れる場所に行こうぜ、会議の疲れもあるしな」 「"リック"の部屋でいいだろ、五体満足なんだから荷物くらい持ってやれよ ツィオ」 いつからか呼ばなくなった愛称を口にして。 先に部屋の方へ向かって歩き出すのだろう。 (17) 2022/08/25(Thu) 23:12:36 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー音も無く、幽鬼じみた影が一歩、また一歩と近付いて。 それが発する声は、やはり随分と生気の削げたように聞こえる。 柔くも鋭くもなく、ただどこかうつろに底冷えしたその音を 対話とその他のどちらともつかない距離で聞いて、息を吐く。 「烏は選り好みをしない。 仕事とあらば何だってやりましょうとも。けどね、 身内の死体をどうにかしてやろうってのは、結構なことですが」 見せたくない、ではなく、見せてやりたくない。 敢えてそのような言い回しを選ぶ事から、身内のものと推測した。 それを選ぶ人間は、世に居ないわけではないけれど。 「掃除屋に処分を頼むって事が、どういう事なのか。 あんたもわかってないわけじゃないだろうに……」 掃除屋に処分される。人によっては、それそのものが冒涜になる。 持ち込まれた遺体はバラバラに切り刻まれて、炉で焼かれる。 キリスト教圏では土葬が主流で、その理由を思えば、尚の事。 「……まあ、いいさ。 それがこっちに一つとして利の無い仕事だったとしても。 死んだ奴にだって、見るに堪えない姿を晒さない権利はある」 「お時間頂けりゃ結構。どうせ後は時間潰しだ」 どこか冷めた声色は、あなたのそれとはまた異なるもの。 何ら信の置けるでもない相手からの、大した益も無い仕事。 それでも理由はどうあれ了承を返して、何処へも足は向けない。 一度相手の言葉を待つ。用事のある者は何処に、と問うように。 (-29) 2022/08/25(Thu) 23:33:58 |
【人】 孤独では死なない兎 ツィオ>>17 >>16 腐れすぎ縁 【ノッテアジト廊下】 「見てみなよリック、 俺たちの愛息子はこんなに立派に育ってるのに、 ベビーシッターのお前がそのザマじゃ笑いが出るな」 やれやれ、世話の焼けるやつらだと肩を竦めて。 生憎、女性以外の荷物を持つように、 俺の肩は出来てないんだけどなと言いながら荷物を持つ。 肩に荷物を抱えたまま。二人の前を行き、振り返る。 「まあ、病み上がり二人抱えて、 こんな場所でダンスを踊るつもりはないから安心しなよ。 たださ、キミら俺に何か言うべきことあるんじゃない? なあ、マウロ、リック」 そろそろ俺も――"おかえり"が言いたいんだが。 それは言葉にせずに、たった四文字だけ相手に求めて。 右手をマウロのために、左手をリカルドのために。 すれ違いざまにそれが出来るように、顔の横で相手に向けて開いた。 (18) 2022/08/25(Thu) 23:43:14 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → ザ・フォーホースメン マキアート少なくとも男にとって、君はいつだって可愛い家族だ。心配こそすれ疑うことなんて何もない。もしかしたら騙されていたって気にしなかったのかもしれない────それは少し、顧問として頂けない態度ではあるけれど。 でも今だって、瞳の色をころころ変える様子は素直そのもので。 だからこそ言うのだ、偉いね、と。素直な君にその仕事は負担ではないかと。信じていないわけではないけれど、心配になるのは親心。 「そう。そうか」 「温かみ、ね。それはいい。非情が悪いとは言い切れないけど、そうじゃない方が喜びは多いもの」 (-30) 2022/08/25(Thu) 23:49:05 |
【人】 銀の弾丸 リカルド【ノッテアジト廊下】>>17>>18 どうしようもない奴ら 「随分良いように言ってくれるじゃないか。 散々面倒をかけてくれるのはいつもお前たちだというのにな」 荷物を奪われ、少しだけ慌てたように「それは大事なものだから、丁重に扱え」と指示をして、前を歩くツィオの後に続く。 慎重に歩かねばならないのはマウロと同じだから、ゆっくりとした足取りだ。 ふらふらした様子を見せないのは、気を張っているからだろう。 それでも、ツィオがこちらを向いて手を掲げれば、 貴方達にしか見せない顔が、ここに確かにあって。 本当に泣きそうな、それでいて安堵したかのような。そんなくしゃり、とした笑みを浮かべて手を伸ばす。 「――ただいま、兄弟」 こつん。 本当に軽く、拳を手のひらに当て、 その開かれた左手にそっと手のひらを重ねた。 (19) 2022/08/26(Fri) 0:17:24 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルドたいそう大事にされていたのだろう男は、けれども背中に隠されていた時間が長すぎて。 大事にされていたのだということそのものが見えなくなって、離れて遠くなりすぎた。 分かる筈もない。随分と遠ざけられて、すり減って。そうして在るのが、今此処の彼岸だ。 薬というのは、弱いものほどセッティングが大事だ。集中できる環境が無ければ悪酔いするだけ。 そして強度が違えど機序は、通る神経は同じだ。薬効の危ういほど、対外的な補助は不要になる。 場が整えば、神経を走る感覚と融合すればするほど。一層脳が蕩けだす。 鼓動が打つほどにきっと、血の廻るように楽園が血管を流れるのは、最悪の気分だろうな。 口を開いて乾けば、唾液腺からつうと水気が溢れる。それを舌に伝わらせ、潤すように。 尻肉の間に鼻先を埋めるようにして、丹念に穴に舌を這わせて、馴染ませて。 そう簡単に熟れてくれるものじゃない体も、薬のおかげで真っ更よりかは扱いやすい。 しつこいくらいに舐めていればどうしたって何もしないよりかは受け入れやすくなるはずだ。 相手の声の調子が随分と変わってくるくらいになると口を放して、膝をの間に足を割り込ませる。 着衣のままの男は、ポケットからプラスチックの瓶を取り出した。手先に中身を出して、少し温めて。 粘度の高い温感ローションに塗れた指を、今しがた舐め解していた穴に擦り付ける。 少量から、量を増やして。門渡りに垂れるくらいには、いくらか指先をねじこんで。 「……ね、気持ちいい? ケツの穴舐められて、ほじくられてさ。 イヤそうにするわりには随分よく鳴くよね。興奮してるワケ? コールガールにでもいじらせてた? ああでも女避けがちなんだっけね」 相手の事は相応に調べていた。普段のスケジューリング、弱み、嗜好や交友関係に至るまで。 一端のソルジャーよりも余程重要な立場だからこそ、噂は立ってしまうものだ。 だからこうやって揚げ足取りのように論う材料には、事欠かない。 言い返す元気はまだあるかな。ゆるゆるとかったるく動く指は優しいのに、口先は下品なものだ。 (-31) 2022/08/26(Fri) 0:24:59 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ「はあい……オレに出来っこないよそんなの。先生くらい背が高けりゃな。 でも先生も着こなすって感じじゃあないよ。たまにシワ取りきれてないじゃん」 返事はするけれど、やはり青年はいわゆる優秀な子供ではなかった。手先は器用だが、頭は並だ。 荒事ばかりが運ぶわけではない世界に混ぜ込むための人材を作る施設の中では、評価は良くも悪くも。 身体能力では劣っていても頭の良さで青年を上回って見込まれた人間のほうが、それなりに多かった。 だから、望まれるような一人前の姿は……ちょっとだけ、自信がない。 「……いじわる」 説教じみて耳に痛い言葉から逃れるように、低い位置にある頭は貴方の肩に埋もれた。 肩口というにはもうちょっと内側、胸板につながる辺りのところに、少し固めの髪がうずくまるよう。 子供じみた仕草をするにはもう大人に過ぎる。昔から、怒られるとよくこうしていたのだろう。 いつまでも子供のつもりで居る、わけではない。自分の年齢に相応しい振る舞いを弁えてないわけじゃない。 甘やかされるのを期待しているのが半分。甘えてもいい相手だと思っているのが、半分。 心臓の音と体温を感じて、うまく詰めきれない距離をどうにかしてしまおうとしているのが、ほんの僅か。 「オレも先生といっしょがよかったな。また会いづらくなる…… 先生のお菓子だって最近食べてない気がする。味忘れちゃうよ。なんかない?」 言葉にしてみると思い出したように、ぐうと腹が鳴った。条件反射が早すぎる。 これだけ寄り添っていたくせに現金な目は急にきょろきょろと部屋の中を見回す。 わがまま放題に振る舞うのは、貴方に随分甘やかされて育ってしまったからなんだろう。 同じような季節の、木に成る花に近しいようで違う独特の甘い香りのせいかもしれない。 この時期、一部の観光地や街路樹には、机に今転がされているのと同じアーモンドの花が咲き誇っていた。 花祭りの季節、別にそれを目にするのは珍しいことでもなんでもなかった。 (-32) 2022/08/26(Fri) 0:47:38 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>13 >>14 リカルド 「そりゃね。玉と棒に1本ずつ、合計3本釘打ったからね」 女性にはその痛み、想像し辛いという。 恐らく9割方の男性は、或いはあのツィオや、 下手をすればコルヴォでさえ、 この話を聞けば顔を引きつらせるかもしれない。 「荷物はそんなとこ。ああ、トスキの屑だったよ。 立場は知らないけど、末端のカスにあの子が やられるとは思わないからそこそこの立場じゃない?」 「ま、ダクトテープと布切れよりはガーゼの方がいい。 その内行っとくよ。今は優先事項があるんでね。 精々内密にして貰えるように振舞いな」 「んじゃ、あたいは店ん中に用があるから。 この辺一帯も改造しなきゃな。ソルジャーも配置して……」 結局。魔女は、魔女のまま。 なんだかんだと先を見て、自分のことを優先して。 好きなように、生きていく。 チリン、と鳴るドアベルが、或いは猫の鈴のようだった。 (20) 2022/08/26(Fri) 0:58:42 |
【秘】 銀の弾丸 リカルド → 天使の子供 ソニー体を触られ始めて、どれくらいの時間がたっただろうか。 実際にはそんなに経ってなかったとしても、自分には永遠にも長い時間が経過しているように感じられて、危険だ。 「――――――ふ、うっ」 最後に残った羞恥心が、クッションを噛むようにして声を殺した。 もう十分に回ってしまった強い酒と薬が混ざり合って、身体の中で暴れていて、熱い。 喉はからからと乾いているくせに、湿らされた下の方ばかりが熱を求めて震えている。 頭の中では警笛が鳴り響き続けているけれど、それに従う理性はもう欠片も残っていない。 ただただどうにもならない飢えが、叫びだしているかのようにその舌を、指を受け入れてしまっていて、 とろりとしたローションにまみれてしまう頃には、空気を求め浮いた口から甘くなった吐息が漏れ出た。 「そ……な、こと、した―――ことな、っ、あ、あぁ」 決して女のようには柔らかくないそこが、男根を受け入れるための受け皿になっていく。 熱があるかのように火照ったそこだけは潤んで、身体がどんどん作り変えられていくかのようだ。 どんなに言い返して見せたって、その顔はもう、生真面目な幹部候補のそれではなかった。 (-33) 2022/08/26(Fri) 1:46:49 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド男はよく君を褒めた。 例えば仕事を終えた時。例えば一緒に飲む際の夜食を作った時。例えば店で依頼通りのチョコラータを見繕った時。男は必ずさすがだとかすごいだとか言って、それからありがとうと笑うのだ。 それだってある種の期待ではあったのだろう。のしかかる重い期待ではなく、信頼する人間を自然と信じる程度の期待。それを男は君にかけていた。 「冗談だなんて。信じてくれないの? 悲しいなあ」 軽く揶揄う言葉を吐く。本心だよ、なんて蛇足を付け足したりはしない。君がどう思おうと、自分がそう感じていることに変わりはないのだ。だから大抵の事は、それでよかった。 首を撫ぜれば、擽ったいのか喉が震えたのがわかる。実際男はそのまま、くすぐったいと小さく声にして笑った。君が触れやすいように顎をあげれば、やや見下すような目付きになってしまうのは仕方がないことだろう。 「どうだろう」 「考えたことなかったな……」 落ち着いた声は酷く能天気だ。 「君にこうされてるっていうのは不思議な気分だね。そう、今から死ぬのか」 「なんとなく自分はずっと死なないような気がしてたんだけど、そうもいかないみたいだ」 「家族に二度と会えないのは寂しいけれど……」 「君がどうしてもって言うなら、仕方ない」 (-34) 2022/08/26(Fri) 4:48:43 |
【秘】 天使の子供 ソニー → ザ・フォーホースメン マキアート小さな椅子の基部とクッションとが、重みで引っ張られて軋んだ。よく働いてくれるものだ。 きし、きしと小さく耳に立つ音に合わせるように、喉奥から弾む息が漏れる。 呑み込まれる感覚にひく、と眉を動かし、喘鳴のような声が絡むように混じった。 直接的な快ではなくとも、額に柔らかな感触を受けると幸福感で腹筋に力を入れる。 「んァ、やば……も、出しちゃいそう。 もちっと、格好つけさして、よっ」 相手が貴方とあっては、自分のペースに合わせて余裕綽々にとはいられない。 すねたような文句を飛ばしつつ、腰に巻き付けた腕を引き寄せてホールドする。 辛うじて伸ばした爪先を起点に、自分の体を持ち上げるようにして下から突き上げる。 締め上げられるたびに耐え難いものに縋るように引きつった声を上げ、上がってくる何かを塞き止めた。 汗の絡んで柔くなった髪が、互いの体が跳ねる度にくしゃくしゃになって揺れる。 「すっげぇ、気持ちい。死んじゃうかも」 今の状況にあっちゃ縁起でも無い言葉だ。 自分で言ってしまってから自覚したのか、なんだかやけに可笑しくて笑ってしまった。 椅子の軋む音がどれだけ続いたか自分自身ももうじきの限界を感じ始める。 左の下腕で抱いた腰の重心を任せ、顎で胸板を押すようにちょっとだけ隙間を作る。 腰の動きだけでぐ、と神経の先に感じるとっかかりを引っ掛けるように刺激し続けながら、 余らせた手で相手の性器を包み、追い詰めるように扱き上げる。 息が弾む。まだイカされないうちにと、自分に相手を追いつかせるように前後から責めたてて、それで。 (-35) 2022/08/26(Fri) 6:43:46 |
【秘】 郵便切手 フラン → プレイスユアベット ヴィオレッタ「……そうですか。……そうなるといいな」 気の利いたことがいつも言えるわけではない青年は、それだけを返した。 本音や建前を気にしない信頼が生まれる頃にも、互いに息をしているといい。 これからがあるかはあなた次第なんだろうけれど。 「……ええ。落ち着く場所なので」 ふくよかな中年女性が切り盛りしている個人経営のカフェは、洒落た印象よりは家庭的な雰囲気を感じさせる。 店内を見回せば他にも仕事終わりに立ち寄ったような客がいるだろうか。 入店時に『デートかい』、なんて聞かれてあたふたと否定する姿があったのを思い出すかもしれない。 会計用の伝票は青年の手元にある。 付き合わせたのは自分だから、それくらいは持つつもりだ。 傷だらけの心が、せめてひと時でも安らぎを得たことを願うばかりだった。 (-36) 2022/08/26(Fri) 7:19:11 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ「……半分は、もう見つかってるから」 人の魂はどこに宿るのだとか、怒られるかも知れないだとか。考えないわけじゃない。 けれどもうまく答えが出なかった。相手からしてみれば呆れるようなものかもしれないな。 死んだ人間の処分に困る、なんてことは今までなかったのだ。困るほど選択肢に迷いがなかったから。 「望まないかも知れない、けど、これでいい。もう充分辱めを受けた、だから。 これ以上きれいにしてやれないなら、もうこれで、いい」 滔々と流れるような言葉はテープレコードのような無機質を孕んでさえいる。 拙い頭を動かしはして、考えるだけはして、その結果だ。他に思い浮かばなかった。 わかっている。わからないわけじゃない。貴方が本来敵対する人間なのも。 狭き門を潜る門を閉ざす行いだということだって、ちゃんとわかっていて、それでも。 暗がりの向こうを指差す。そこには白いバンの輪郭が浮かんでいた。時折街を走る、花屋の配達車だ。 こんな場所、こんな用事にも関わらず乗り合わせてくるなんてのは見るからに冷静じゃない。 どんなに頭を巡らせたところで、とうに錯乱し切って頭は壊れているのかも知れないな。 貴方がついて歩いてくるなら男はバンの扉を開いた。後部座席、小さな花びらが点々と散るその中に、 男物のジャケットを着せられた、女の上半身がやわらかいブランケットの上に寝かせられていた。 夏の三日月島は穏やかだ。死臭が満ちて、水気を含んだそれは既に状態も悪くなり始めている。 貴方が今朝方のニュースをアジトで耳にしていたなら、アルバファミリーの庇護下にある女が一人、 抗争の混乱の中でひどい死に方をしたのだという話を聞いていたはずだろう。その、片割れ。 海の匂いのかすかに混じり、髪には真水で洗いきれなかった塩がほんの少し残っていて。 それでもなんとか小綺麗にまとめて、顔の化粧を薄くやり直してやって。裸の体を隠してやって。 今貴方に、彼女にとって縁のない人間に引き渡す直前までは、礼儀を尽くされていたのだろうそれは、 このまま警察に引き渡したならこの男が犯人だと断定されかねないくらいには手を加えられていた。 → (-37) 2022/08/26(Fri) 8:17:53 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ胸元の皮膚を削ぎ取るように与えられた傷は、すっかり血が抜けてから出来たものなのだろう。 そこに何が刻まれていたのかだって、件の報せを聞いていたなら察しがつくはずだ。 可能な限りに整えて、与えられた侮辱を覆い隠して、あまりサイズの変わらない上着を着せられて。 それでも凄惨だ。耐え難く、おぞましい。人の悪意の残り香がある。 そういう、用事だ。 「見つかるなら、逆ならよかった。けれどそうならなかったなら、見せるべきじゃ、ない。 女たちに追い打ちをかけるわけにはいかないだろ? わざわざそんなこと、さ、 ……どうするの、移動したほうがいいの」 空笑いが声に混じった。努めてなんでもないと振る舞おうとしたのは、失敗した。 男女の情愛では無いこそすれ、目の前の彼女と男の間にはそれなりの心の通い愛があったのは、 ばかばかしいくらいきちんと整えられた彼女の有様を見れば、貴方にもなんとなくわかるだろう。 呆然と眺めるのをやめて、貴方に指示を仰ぐ。 (-38) 2022/08/26(Fri) 8:18:22 |
【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 天使の子供 ソニー小さな重さを受け止めつつ、一瞬上がった熱を感じながら深呼吸をした。 鼓動がいつもより早くなりそうで自分でも驚いた、油断すれば――その距離が0になってしまうのも時間の問題だったのだ。 一度過ちでも犯してしまった方が楽なのかと思考が走り、この子供が大人しくなる光景が浮かばない。与えるのは甘くて溶けるような、そんなドルチェだけでいい、そう繰り返してため息をついた。 「雇ってもらえただけありがたく思え。 そう簡単に選べる立場でもないだろお? もっとお前自身がしっかりして、 雇い先が潰れでもしたら次の仕事を斡旋してやるよ」 子猫のように部屋を見る貴方を暫く眺めていてもよかったが、小腹をすかせ過ぎるのも困り者だ。 懐から出すのは変哲もないキャンディで。 包装を外し、フルーツのフレーバーをした雫を人差し指と親指でつまめば餌を求める口元へと連れていってやった。 「もっと美味しいのは冷蔵庫だ、今はこれで我慢できるか?」 差し出しながら立ち上がり、座って待っていろと視線を他所へと向けた。 こんな四年後の男が見ても甘すぎる態度。今の男が四年後を見ても、触らなくなっただけじゃないかと乾いた笑いを溢す仕草。どうしようもないほど甘くて、他のもので中和するのに一苦労している。 薄く香る白い花も、二つ分の温度もこの家にはあまりに余分すぎる。祭りだからいいか、と納得付けるにもこの街では何度祭りが行われるかなんてわかりきっている頭では、いつまでたっても離れてくれないことを示していた。 貴方にとって我慢できない時間と、男にとって我慢できない時間が違いすぎる。わかっていて押し付けた関係、いつ殺されても仕方ないなと気付いていたのはこの頃からだっただろうか。 (-39) 2022/08/26(Fri) 11:55:14 |
【秘】 愚者 フィオレロ → デッド・ベッド ヴェネリオ「犬扱いしているのを相手に真面目に考えるのやめません? ……冗談ですよ。この件は冗談じゃなかったですけどね」 冗談じゃなかったけれど。死んだ時点でなしと彼が口にした時点でもうそれ以上を口にすることはない。求めていたのは事実であっても、その最低条件を満たせないまま強引に口説く程のふてぶてしさは、生前には形成しきれず。 「人の真剣な願いをそうぽいぽい押し付けようとするのはどうかと思いますが、叶える為に一応手伝ってやろう……という善意は感じたのでそこはいいです。 コルヴォにはそれは求めてませんでしたよ。……俺より酷い状況のやつに何かを求めるには、俺は少し不要なものを知りすぎましたから」 リカルドさんもまさかこんなところで縁組の話が出てるなんて思いもしないだろうなあ、と死者はぼんやり空を仰ぎ見た。 「あと、テンゴさんは……っ、 わっわっ、……?」 隙だらけの油断野郎はそんな事された経験もないからそういう行動と言う気配にも気づかず、一瞬で終わった一瞬の夢の中の夢のような時間に、暫し何が起こったのだとばかりに適当な子供たちAは呆けるばかりで。 「……あー、喜ばせるの、下手ですねヴェネリオさん」 乱されて更に崩れた髪を撫でつけるように指で直しながら、喜ばないという意味じゃない。愛に飢えている相手にやっていたとしたなら、それは意味が大きく変わるというのを嫌でも理解していた。 「ほらー。やっぱり罪な男だ。俺じゃなければ別の未練を生ませてましたよ。でも俺は俺なんで、……誰の役にも立てないままでしたが。そのお言葉に甘えて最後以外の殆どの未練は、今ので切っちゃうことにしてやります」 随分えらそうな言い方。不躾気味ではあったもののこんな言い方は滅多にしなかったのだが、髪を直そうとしている腕が顔を隠す意図を考えれば察しはつくだろう。今更だから、逆に見せたくないのだってある。 「じゃ、引き留めてすみませんでした。余り貴方を拘束しているとどこからせっつかれるかわかったもんじゃないので。お元気で」 (-40) 2022/08/26(Fri) 14:34:10 |
【秘】 愚者 フィオレロ → 家族愛 サルヴァトーレ「──ああ、確かに。 "自分の事のように嬉しい"から、なんでもしてやれる、のか。 言われてみればそんな風に考えた時期もありました。 だとすれば……してやれる事ばかりではなく、 相手に求めるものが増えた場合、」 それは、本当に家族を求めているのか、と……」 「いかんせん経験が薄いもので、たまに心配になりますね」 アルバのサルヴァトーレと言えば、コンシリエーレと言う立場もあり名の知名度としてはノッテ側としても相当なものだ。 とは言え、立場の大きさと顔が明かされているかは完全に一致するわけではない。貴方が違和感なく溶け込んでいるのなら、こちらもそう易々と気づけはしないだろうが、さてどうだっただろう。 最も、この時の会話はあくまで"家族"を強く知る貴方に対して興味を持っているから、もしもそうだと知っていたとしても、それはもう一つの意味の"家族"を持っている人として認識が変わるだけなのだが。 「おや、そんなに宝物で溢れているのなら、 一度宝石箱を覗かせて貰いたいものですねぇ。 俺も花言葉に縛られてせっかくの美しさが憚られるのは残念だと、前々から思っていましたよ。 名や形式だけに捕らわれて目の前のものを見落とすのだけは避けたいもので」 透けて朧げな青が透ける様子に目を細める。 言葉はすべて本心で。貴方のような人が院長だったのなら今この場でこんな話はしなかったのだろうと、あらゆる意味で不相応な思考をしつつ、貴方の答え自体に感謝を込めた笑顔を返す。 「つまりは、とてもよくお似合いだと思いますよ。貴方が心から選んだ花ならきっと全てそうなると今感じました」 (-41) 2022/08/26(Fri) 16:22:58 |
【人】 誰も殺さなくていい レヴィア>>21 ストレガ 猫が好きだった。 死を悟り、誰もいない場所に消えるその生き物が好きだった。 死を見るのが嫌いだった。 どうしようもなく悲しくて、泣きそうになってしまうから。 だから、猫が好きだった。 猫のようになりたい、と誰かに言った。 死んだ時、どこへでも消えて、無くなって。 誰も悲しませないように、そんな生き物になりたかった。 女は、店の中にて。 2匹の猫を抱いたままの体勢で、そこに居た。 猫になれなかったのか、ならなかったのか。 烏はまだ来てないのか、置いてあるだけか。 何もかもわかることはないけれど、ただ。 女がそこに居る事だけが、確かだった。 店は散々な状況だった。 撃ち抜かれて止まる時計、割れたランプ。 壁も窓も、扉だって傷だらけ。 激しい戦闘が行われたのだろうことが分かる。 女は、無防備に眠るような顔で。 横たわっている。 (22) 2022/08/26(Fri) 17:38:52 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>22 レヴィア 「よう、Piccolina.」 女は、それらをすべて見て。 見た上で、軽く手をあげてそう言った。 軽い挨拶を、いつものように。 それから眠る姿の隣に行って、散らばる木くずや、 ガラス片なんかを軽く足で払って。 重い荷物を下ろすと、女の隣にあぐらをかいて座り込んだ。 「はあ。おかえりが言えなくて残念だよ」 「……なあ、寝ながらでいいから聞いてくれよ」 「ちゃあんと、あんたの仇は討っといた」 「それもとびっきりの方法でね」 「それに、吹っ飛ばした分だけよく聞こえたろ?」 「弔いの鐘って奴。いい音だったと思うんだ」 「まあ、あんたのグラスハープには負けるけどさ」 返事もない、他愛のない話。 傷だらけの店をぼんやりと眺めながら、 笑い交じりにぽつぽつと落としていく。 魔女は、猫が好きだった。 可愛い顔して、人を寄せ付けず、かと思えば寄ってきて。 自由そうで、不自由で、その癖時々凶暴な、ワガママな奴。 まるでどっかの誰かみたいだ。 そんなやつが、魔女は好きだった。 (1/2) (23) 2022/08/26(Fri) 18:50:55 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>23 女は、眠り姫へと手を伸ばす。その髪を軽く撫でてやる。 「……。ああ、そうだ。時計塔、吹っ飛ばしちゃったからさ。 あたいここに住む事にしたから。いいだろ? これなら毎日、借りに来ることが出来るじゃんか」 勝手な事を口にして、髪を撫でていた手を離し、 抱かれた猫の片方、くたくたになった黒猫の頬を突く。 くにゃりと曲がった顔は、首を傾げるようだった。 「でもさあ、あんたは……あんたはさ、 いつまでもここにいる訳にもいかないだろ? それにハエなんかたかってるの見たら、 あたいがまた住処を吹っ飛ばしちまいそうだし。 ……だからさあ、提案なんだけど」 そう言って、抱かれた猫の内、幾らかしゃんとした 白い猫を腕の中から抜け出させてやる。 「あたいがこの子、借りていくよ。 で、あんたにはその子、貸したままにしとく。 それでさあ……いつかまた会う時が来たら、 お互いの猫を返すってのは、どうよ?」 名案だろ?なんて微笑んで、返事もないのに様子を窺った。 (24) 2022/08/26(Fri) 19:01:00 |
【人】 誰も殺さなくていい レヴィア (25) 2022/08/26(Fri) 19:16:26 |
【人】 誰も殺さなくていい レヴィア>>24 ストレガ そんな声が聞こえてくるわけもない。 死体は何の音も立てない。 もう口から冷たい言葉を吐くことも。 細い指先がグラスを撫でる事もない。 何もかもが終わってしまった、ただの肉の塊。 もう少しすれば死の匂いが強くなり、やがて腐り。 きっと見るに耐えない姿になっていく。 黒猫を、胸に近い側に。 白猫を、その一つ外側に。 そうやって抱きかかえていたから、死後に固まる腕の中、 黒猫の方は随分ぎゅぅ、と抱きしめられていた。 まるで離さないとでもいうような、いいやきっと、 それはただの現象でしかなく、そこに意味などないのだけれど。 それでも何となくそう思えるような、抱きしめ方で。 白猫は、すんなりと取れる。 黒いリボンが一つ増えている。 女の頭のリボンが一つ減っているのも、貴方にはきっとすぐわかる。 足の付け根には拙い刺繍。 L..v...と、少しぐちゃっとした文字のようなもの。 殺すだけの女の手では、針子の才能はなかったようで。 手袋の取れた指、何度か針の刺さったような傷がその証拠。 背中にも、目立たない縫い目がある。 中に何かを入れて、また閉じたのか。 やはり拙いそれは、糸を切ればすぐに開いてしまうような 縫合だったけれど。 (26) 2022/08/26(Fri) 19:24:18 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 愚者 フィオレロ「相手に求めた場合?」 続く言葉に笑んだまま片眉をあげる。 「面白いことを言うね。何か悩み事があるみたいだ」 男は、家族の以外に対して排他的に接するようなタイプの人間ではなかった。それは敵組織に対しても。 それでも、ノッテの人間と二人きりで会うことは血の掟を破ることになる。であれば彼はそれを避けようとするだろう。つまるところ、会話が成立するかどうかは君が男を知っているかどうかではなく、男が君を知っているかどうかにかかっていた。 男が立ち去らないのは、君がノッテに所属してそう長くないことも幸いしたのかもしれない。 「そりゃあ、そうだろう。愛しているからより欲しくなるし、触れたくなるし、近づきたくなる」 「簡単な事さ。誰かの笑顔を見たいと思った時、その相手が誰でもいいなら君は芸術家かコメディアンだ。でも思い浮かぶ人がいるなら────それが家族でもだれでも────君はその子を愛しているよ」 たかだか花屋の店先で出会っただけの君に、男はそんなことを説いてみせる。どうも愛の話になると饒舌になるようだった。しかしその語気に押し付けるような響きはなく、あくまで語りかけるようで。 「もちろん、いつかね」 「君だってすぐに分かるさ。すれ違っただけで振り向かずにはいられない。ひと目でわかるよ、ああ、これがあの人の言ってた家族か、って」 肩を竦めて冗談を零すその姿にも、やっぱり家族へのあたたかな愛が溢れているのだ。 「おや。気が合うね、親切な人。もしかして僕の背中を押すために現れた妖精だったりして」 「お褒めに預かり光栄だよ、妖精さん。君のお墨付きがあれば、僕も胸が張れるというものだ」 (-42) 2022/08/26(Fri) 19:53:57 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>25 >>26 レヴィア 窺えど、返事もなければ、身じろぎもしない。 当たり前だ、それは死体で、終わった話。 ため息ひとつも零れるだろう。 それでも、強く抱かれたようにみえる黒猫と、 "大事にされていた"白猫を見れば、口元には笑みが浮かぶ。 「……ありがと。次会ったら裁縫くらい教えてやるよ」 ぽつりと呟いて、またその髪を撫でた。 それからふと、白猫の背中に拙い縫い目を見つければ。 「……。ちゃんと後で縫い直してやるから、 ちょっとだけ……ごめんね」 片手をカバンに、工具箱から小さなニッパーを取り出して。 努力の証を開くのも、なんだかなあと零しながら 糸を切って中を確かめてみた。 (27) 2022/08/26(Fri) 19:59:35 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → 郵便切手 フラン>>フラン 女は肯定も否定もせず、にこり笑うだけ。 つかず離れずの関係。 他人というには互いに会うのを楽しみにして、 友人になるには女の抱えたものが多すぎる。 あなたが無理に距離を詰めない限り、 女が様々なものを棄てない限り、 この関係は続くことだろう。 「ここは……お酒も出るのでしたよね?」 視線があなたへ戻り、尋ねる。 伝票がそちらの手元にあることに気が付いて眉が下がる。 「それなら、暫くは通ってみることにします。 タルトも美味しかったですし」 もし次の”偶然”があるのなら、その時には今日の礼を。 そう思いながら、バッグを手に取る。 「今日はこのあたりで帰りますね。 フラン、おやすみなさい。良い夜を」 女はそう言って立ち上がる。 あなたが止めなければ、そのまま去るつもりだろう。 (-43) 2022/08/26(Fri) 20:30:23 |
【人】 誰も殺さなくていい レヴィア>>27 ストレガ 教えてやる、と言われて返す言葉は、きっと決まってる。 いつもと同じ温度で、同じ抑揚で、きっと頭の中に響く。 猫の胸の辺り、心臓の代わりに入っていたのは、 小さな紙きれ。 少し丸い文字が並んでいる。口語体の文章。 『貴女がこれを読んでいるなら、きっと私は死んだのね。 そして貴女は生きている。そういう事だと思うわ。』 『件の抗争は決着がついてるかしら。 ついてたらいいわ。そうしたら、死から少し遠くなる。 怪我はしてないかしら。治さなきゃだめよ。 貴女、ただでさえ目立つって自分で言ってたもの。』 『貴女が今どんな感情でいるか、なんて知らないけれど。』 『私、濡れるのは嫌いなの。』 『貴女の雨で濡らさないで頂戴ね。』 『手紙なんて、書いたことがないから、 何を書けばいいのか分からないわ。 何事もなく終わって、ずっと後にこれが見つかったら、 どんな顔をすればいいのかしら。』 『そうね。』 『伝えたい事があるの。それを書いて終わるわ。』 (28) 2022/08/26(Fri) 20:41:18 |
【人】 誰も殺さなくていい レヴィア>>27 ストレガ 『私、誰でも殺せる女なの。』 『敵も、味方も。殺せと言われたら殺せるわ。』 『つい最近も、ノッテの人を殺したもの。』 『誰を殺せと命令されても、その通りにしてきたわ。』 『でも最近、命令をされるのが怖かったの。』 『あなたのせいよ。』 『貴女が懲りずに話に来て、律儀に飲みものを用意して』 『贈り物なんて考えて、いってらっしゃいなんて告げて』 『怖がりもせずに、当たり前のように接してくるから。』 『怖かったわ。』 『怖かったのよ。』 『───命令で貴女の名を呼ばれる事が、怖かった。』 『だって、私、そうなったら。』 『きっと』 『きっと、命令に添えなかったもの。』 『私、貴女だけは殺せそうにないわ。』 『あなたのせいよ。』 『馬鹿。』 ▼ (29) 2022/08/26(Fri) 20:49:50 |
【人】 誰も殺さなくていい レヴィア>>27 ストレガ 『……それだけよ。』 『ねぇ、これを読んでるのが、殺せない貴女なら。』 『どうか、祝福してくださらない?』 『貴女を殺さずにすんだ、殺すしか能のない女の事を。』 『祝ってほしいの。』 『文字を書くというのは疲れるわね。』 『ここまでにしておくわ。』 『じゃあね、唯一人の貴女。』 『Arrivederci.』 『PS:』 『リボンは貴女がつけなさい。』 『嫌そうな顔をしないの。』 『その方が』 『目立って見つけやすいかもしれないじゃない。』 そんな拙い文章の手紙が数枚、 ぬいぐるみの心臓部に入っていた事だろう。 (30) 2022/08/26(Fri) 20:55:52 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>28 >>29 >>30 レヴィア きっと、いつもの通りに返されれば、 いつものように返すのだ。『かっわいっくねえー』なんて。 そして、いつもの言葉を脳内で呼び起こしながらも、 隠されていた心を読めば読むだけ、言いたい言葉が一杯だ。 『遺書を用意するなんて、用意がいいのね、だっけ?』とか。 『なんで生きてないんだよ本当に、あー無駄になった』とか。 『馬鹿なのはどっちなんだよ、まったく』とか。 『あたいにリボンとか、趣味が悪いよあんたは』とか。 だけど、そのいずれも出やしない。 代わりに、雨が降り出した。それは、どしゃぶりの雨で。 濡れるのが嫌いなあなたを濡らさないように、 無理矢理に手で掬うから、その手に赤い雨が滲むのだ。 強い風は唸り声と紛う事もあるというから、 今吹き付ける甲高い嵐もきっと何かと紛う事もあるだろう。 ああ、それにしてもまったく、魔女というものは 誰にとっても、本人にしたって、御しがたいもので。 きっとそれは、猫のように、気まぐれで、自由で。 お願いしたって、碌に聞いてくれやしないのだ。 傷だって、ずっと持っていこうと思っているし。 雨だって、当てないようにしたって少し零れているし。 どうしようもないほどに、ままならない。 あなたの言葉を借りるなら、きっとこの魔女は馬鹿だった。 (31) 2022/08/26(Fri) 21:26:54 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>28 >>29 >>30 レヴィア やがて、その雨風が弱まって。 時計の音が雨音をかき消すくらいになった頃に。 やっと、落ち着いたストレガは口を開く。 「……悪い、ちょっ、とだけ、濡らしたね」 がらがら声が、無理矢理に元気を作っている。 白猫に手紙を返して、優しく抱いて。 「まあ、……許してよ。次会う時、怒ってくれていいからさ」 「それで、祝福だっけ?あたいそういうの、 全然知らないんだよなあ……するように思える? 思えないだろ?そもそもさあ……はあ〜〜〜〜……」 ぐちぐち、続けそうになった口を適当に切り上げて、 代わりに溜息を吐いて。肩を竦めた後、 目元を親指でぴっ、と拭う。 「あんたは、ノッテ・ファミリー。 だけど、それ以上にあたいの……ハ、唯一の。友達だよ。 言っとくけど!家族になるより友達になる方が 何百倍も難しいんだからね。ことあたいにとっては!」 なんだか、ちょっと怒ったような口調でそう言って。 黒いリボンを、おもむろに白猫からひとつ、解いて見せた。 「……友達の頼みじゃ、一等断れない。 まったく、ちゃんと見つけないと承知しないからね」 (32) 2022/08/26(Fri) 21:43:39 |
【人】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ>>27 >>28 >>29 唯一人の貴女 そうして、ぼさついて広がった髪を後ろでひとまとめ。 根元をきゅっと、黒いリボンで結わえて。 「 Ti voglio bene, Levia. 」呟くと、物言わぬあなたの、額に唇を落とした。 少しだけ長く、別れを惜しむように。 やがて離れて、最後にもう一度だけ髪を、そして頬を撫でて。 「……やれやれ、最後に一仕事だけしなきゃ」 鞄を探ると、取り出したのは針と糸。 黒い猫には白い糸を。抱かせたままに、縫い付ける。 友達が縫った所と同じ場所に、『Strega』と。 白い猫には、黒い糸を。背中を敢えて、 はじめと同じように少し緩めに縫い合わせ。 友達の名前は、そのままに。これが、一番いい形だから。 「出来た。……なあ、次に会うのは随分先になるからさ。 そん時はレヴィアの顔、驚きと喜びで ふにゃふにゃにさせてやるからな? ……おやすみ、唯一人の貴女」 そう告げて、……一旦。この場を去るだろう。 一枚、烏達に向けて。「ぬいぐるみと一緒に、頼む」と添えて。 (33) 2022/08/26(Fri) 22:00:43 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー「せめて人知れず葬ってやるしかない事もある」 見切りをつけたような、或いはがっかりしたような。 或いは失望か諦めのような。その焼け残った灰のような冷たさは、 何れも向ける先はあなたではないものだけれど。 それはあなたの知った事ではないだろう。その逆も、また然り。 「わかるとは言わないが、わからないとも言えやしないな」 肯定はしないが、否定もしない。 共感と理解は必ずしも片一方を伴うものではない、別々のものだ。 何れも正しくそれを行う事ができるほど事情を知りもしない。 けれど空回る思考の末に選んだその選択が、 結局は何処までも生者の自己満足でしかない事は知っている。 今更道理や正しさを説いた所で、どうにもならない事なのだと。 ただどうしようもなく、その事だけを知っている。 だから他人事の男は、他人事ゆえに肯定も否定もしない。 客観的に見て、客観的な事実だけを認めて、ただそれだけを言う。 そもそもの話、あなたの話の何処までがはかりごとでないかなど あなたと死者の間柄を知らぬ者からすれば、 少なくともこの時点では、まったくわかったものではないのだ。 (-44) 2022/08/26(Fri) 22:06:42 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニーけれど何れにしたって、どうだって良い事でもあって。 何せどうにもならない事なのだから、なるようにしかならない。 心の底にはいつだってそんな諦めが広がっているものだから。 リスクを、最善を、想定はするけれど、何れも信じてはいない。 尽くを失って来た人間は、何にも手を伸ばそうとはしない。 だからあなたが先に背を向けたなら、喪服姿はその影のように。 人間二人、三人ほどの距離を開けて、粛々と後ろをついて歩く。 嗚呼成る程、たしかに半分だ。 そうして開かれた扉の先。 別れ花じみた花弁と、後部座席に横たえられた女の上半身。 そんな光景を一瞥して、他人事の思考はただそれだけを思う。 名もなき烏は生者の顔など逐一覚えてはいないし、 そうでなくたって、今ここで眠る女は知った顔でもなかった。 けれど未だ記憶に新しい報告が脳裏を過りはしただろう。 それを聞いた時、思う事が無かったわけでもない。けれど。 今ここで言う事なんて、なんにもありはしない。 弔いの言葉一つ言いはしない。それは自分の役目ではないから。 (-45) 2022/08/26(Fri) 22:07:22 |
【秘】 高らかに、あなたの元へ届け ストレガ → 誰も殺さなくていい レヴィア「Ti voglio bene、なんて 多分今後言わないよなあ……。 全く、本当に"唯一人の貴女"じゃないか。 ……ま、大事に取っときな。あたいのそれは貴重だからね」 ……なんて言うのは、心の中だけ。 誰かに唇を落とすような事も、初めてだったわけだから。 やれやれ、なんて笑っていた。 (-46) 2022/08/26(Fri) 22:07:29 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー悪意に晒されて、酷い仕打ちを受けて、剰え既に朽ち始めていて。 今は善意によって、丁寧に整えられて、こうして庇護されている。 それでももうどうにもならないアンバランスな亡骸。 もはや何処にも行き場の無いそれを、せめても一思いに葬り去る。 いつだって、ただそれだけが自分のすべきこと。 あなたの痩せ我慢を気にする人なんて、今は何処にも居やしない。 「……このまま俺の仕事場まで送ってもらえます? 生憎と、今夜仕事があると思ってなかったもんで。 持ち歩くのに難儀する道具は一つも持って来てないんですよ」 「用向きのある奴をこれ以上待たせるのも酷な話だ。 何より今から取りに戻って、 それを待つなんてのはあんたも手間でしょう」 運転は任せます、免許持ってないんですよ。 思い出したようにそれだけを付け加えて、 仕事場である僻地の廃倉庫の場所は簡潔に伝えられる。 この男の根城たるその場所に赴くかは、あなた次第だけれど。 それをあなたが許容するなら、二人と一人の道中は何事も無く。 やろうと思えばやれる、なんてのはきっと互いに同じ事。 掃除屋が手を出す事は無い。あなたが何もしない限りは。 今この時に限り後部座席が死者の為の寝台であるならば。 乗り合わせるにしても、きっとそこは避けるべきなのだろうな。 (-47) 2022/08/26(Fri) 22:08:42 |
【人】 貴女の友達 レヴィア>>33 ストレガ 結局、一つだって約束を守ってくれない貴女。 それでも女が怒ることは、きっとない。 たとえ頬を突かれたって、怒ったりしなかったのだから。 だから、女は。 もうあなたに見える事も、触れる事も出来ない、 曖昧な存在のまま、 雨が降るのをただ見ていた。 まさか見られてる、なんて貴女は思わないだろう。 貴女もそんな顔するのね、なんて言葉も、届かないだろう。 「友達、そう。」 「………馬鹿ね、人を見る目もないなんて。」 「リボン、やっぱり似合わないわね。」 「見つけやすくて助かるわ。」 伝わらずとも、そんな事を呟いて。 ぬいぐるみに刻まれる名前も、閉じられていく傷も見届けて。 全部、全部、全部。 その最後まで、見届けて。 額にキスされたのを見れば、そっと、顔を寄せて。 ぐっと背伸びして、同じようにして。 きっと貴女の額には、届かなくて、それより下になったけど。 「Anche io.」 そんな言葉を、呟いて。 (34) 2022/08/26(Fri) 22:24:37 |
【人】 必ずまた会いに行く レヴィア>>33 ストレガ 最後に黒のぬいぐるみを傍に置かれて、 立ち去っていく貴女を、その背中を眺める。 「……必ず、見つけに行くわ。」 「だって私、暗殺屋だもの。」 「必ず、必ずよ。」 だからそれまで、待っていてちょうだい。 次に会った時、それが貴女とは違う姿形で、 私も違う姿形だったとしても。 絶対に見つけて、また、同じように。 貴女に同じ言葉を言わせるわ。 だって、私は暗殺屋。 暗殺屋は、狙った標的を絶対に逃がさない。 レヴィアが狙う、最後で、最初の標的は──── (35) 2022/08/26(Fri) 22:32:59 |
レヴィアは、指鉄砲を、貴女の胸に突き付けて。 (a2) 2022/08/26(Fri) 22:34:23 |
レヴィアは、くすり、年相応に、楽しげに笑って。 (a3) 2022/08/26(Fri) 22:34:52 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルドかわいそう、と他人事みたいに口の中で呟いた。音になっていたかはわからない。 捨鉢な頭の中で、これが理不尽であることはわかっていて、されど止める理由もない。 小暗い高揚が胸の内を占めている。散々に虐げたことで、怒りそのものは収まった。 けれど、最初から怒りのためにこんなことをしているわけではない。 探しているのだ、 を。だから、狂人の行いだと言われたのだし、その謂れは正しいのだ。 碌な理屈も持ち合わせちゃいないのだから、感情が冷えたところで止まるわけでもない。 一度きりでそうそう具合がよくなるわけでもないが、薬は様々な助けにはなるだろう。 筋肉を緩めたり痛みを誤魔化したり、互いにとって都合がいい。それが喜ばしいかはさておき。 指先をねじ込んで開かせ、どれぐらい緩んだかを確かめ、頷いた。 「アンタの仲間たちはどう思ってくれるもんかな……少なくともアンタを知らない連中は。 本当は不誠実な人間だった、って。そおう思ってくれたなら、オレも気分がいいんだけどな」 代わりに手を動かすのはやはり僅かばかり燻る悋気だ。いつからか、貴方が羨ましかった。 仰ぎ見る誰かの隣にいられることか、それとも見たこともない親と同じポストにあることか。 もしかしたらそこに、理想的なものを見出していたのかもしれない、だからこそ。 ベルトを緩め、ボトムの前を寛げる。体裁だけでもそれらしく、とはしない。必要がないから。 緩く立ち上がりつつあった熱に指を添えて擦り上げて、陰惨な欲動を陽物に集める。 薄く滴りのあるうちに、今しがた押し開いた後孔へと亀頭を無理矢理ねじ込んだ。 皮膚であったり肉であったりのひきつるような感覚があった。ぐ、と息を詰まらせる。 深呼吸をして痛みを誤魔化する。人並み程度の大きさだが、それでも呼吸が苦しくなるほど。 ゆっくりと腸壁に馴染ませるように、男根を押し込んでいく。 (-48) 2022/08/26(Fri) 22:53:30 |
【秘】 郵便切手 フラン → プレイスユアベット ヴィオレッタ「? ええ、そうですが」 質問には肯定を返しつつ。 「そう、ですか。はい。 おすすめ……です」 もう会わないかもしれない、なんて後ろ向きな予感があったものだから、少し意表をつかれた。 そのまま荷物を手に取る様子を視線で追って。 いつか偶然というカードを引き当てることができたら。 また話の続きをしたいと思った。 「……良い夢を。」 引き止めることなく、その後ろ姿を見送るだろう。 (-49) 2022/08/26(Fri) 23:47:04 |
【秘】 金毛の仔猫 ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレさて、少年は口が巧くないから、丸め込むことも簡単だったろうけれど。 あなたはどうやら、応じてくれる様子。 暮れかかる空に似た色の、ずっと高いところにある瞳を見つめる。 少年もまた、唇をかすか、笑みのかたちに歪めた。 「……大袈裟だな」 「食べてみないとわかんないけど、多分、ヘーキ」 そうして、食べかけの串焼きをあなたへ差し出すのだ。 だってきっと、『家族』とは、こんな風に支え合うものなのだろうと、知り始めているから。 愛することも愛されることも知らなかった少年は、あなたの姿に、振る舞いに、それを学んでいるのだから。 (-50) 2022/08/26(Fri) 23:51:08 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ相手がどう感じているかだなんて知らぬままだ。手の届かないものと思っているから。 だから天上に向かって手を伸ばしている、何度も。幾度となくそれを繰り返してきた。 これだってその延長線で、響いているとは思わなかったから空振りし続けているつもりなのだけど。 「わかった、わかった。ちゃんとやる。別にやる気が無いわけじゃないってば。 ……待つ!」 やりとりだけならそれこそどうしようもなく大人と子供だ。 片付けの出来ない子供が急かされるみたいなやりとりの末に、差し出されたキャンディに視線が寄る。 唇に触れる透き通った甘味を、口づけるみたいに受け入れてから。 ばく! と指ごとかじった。実際にかじり取れたのは当然飴玉だけだ。してやったり、悪戯の成功した子供みたいに笑って見送る。 多少こうやって上回らせてみせてやれば、案外落ち着いて待ってみたりもできないわけじゃないのだ。 手持ち無沙汰に、伸ばした足を揺らしながら相手が帰ってくるのを待つ。 「まだ全然寒いけどもうちょっとで春が来るんだなあってわかるから、花祭り好きなんだよね。 母さん達からもちょうどこの時期に花が届くから…… あ、そうだ。もう一個報告あんだよね」 まだ、ガラスランプのシェードに細かな罅が入る前。内側の灯りがむき出しになって壊れる前。 いつだかの青年は、今の男よりもずっと素直で、明るくて。寂しそうな翳りなんてのもなかった。 他の誰かに傷つけられる前に貴方を殺さなければならない、なんて追い詰められたりも、しない。 キッチンの方に向かう背に、張った声を投げかけつつ思い出したように声をあげる。 言ってみてから、なんだかにやにやと。けれども仔細な話は相手が戻るまで待とう。 (-51) 2022/08/27(Sat) 0:05:31 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ「――私がさ。 金以外、何が残せる?」 子供みたいな笑顔の裏に、子供ではいられない現実がある。 「お金だけは、……お金だけは、……あげられるかもしれないじゃない。 せめて、そのくらいは──……」 ゆるやかな肯定とともに、グラスがくるくると回った。 その表面に映った自分の顔を、ぼんやりと眺めている。 ――素直だ。 きっと、酔いのせいもある。 どのみち、こんなことを彼女が言ったのはこれが最後。 「お金があれば、とりあえずは人生大分楽だし」 「…多分ね」 どこか自信なさげに、そんなことを言う。 その儚げな笑みを見るのも、その時が最後。 ↓[1/2] (-53) 2022/08/27(Sat) 0:39:30 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ↓ 「そ。ざぁんねん」 上ずった呼吸混じりの笑い声。 そこに失意の色はなく、あなたの笑みと鏡映し。 ――こうして酔い、浮かれるようななんでもない日々こそが、 女たちにとって何よりも現実的で、何よりも大切な夢だから。 「それじゃ、飲み会としてつづけまっしょー。 ねえねえ、メインディッシュメインディッシュ!」 おなかへったー、と騒ぎながら、グラスの縁をネイルがこんこんと叩いた。 お行儀がわるい。 [2/2] (-54) 2022/08/27(Sat) 0:39:40 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 金毛の仔猫 ヴェルデうっかり落としてしまわないよう、二人で慎重に交換。口をつけたものでもお互いに気にはならないだろう、特に今は、相手が相手なのだから。 「辛いもの、苦手なんだった。滅多に食べないから忘れてたよ」 そう言った浮かべた笑顔はいつもの柔和なそれではなく、なんとなくはにかむようなものだった。 最早無表情と形容していいくらいに笑顔のみを浮かべる男は、何故だか君の前では、こうして血の通った表情をすることが多かった。寂しがる時や悲しがる時でさえ薄ら笑んでいるような男だったのに、君には驚きも、決まり悪さも晒した。 それはきっと無意識だったのだろう。男が家族と向き合う時に、自分を繕ったことはない。 「ん、おいしい。ちょっと冷めていい感じだ」 「ヴェルデも無理はしなくていいからね。辛かったらスープに入れてしまおう。行儀は少し悪いけど、こんなところじゃ誰も咎めない」 あの子がいれば注意されちゃうかもしれないな、と、言葉の裏が語っている。君の脳裏にも浮かぶだろうか、軽く顔を顰める彼女の姿が。 「昼ごはんはちゃんと食べたよって、それだけ言うんだよ」 (-55) 2022/08/27(Sat) 0:42:20 |
【秘】 銀の弾丸 リカルド → 天使の子供 ソニー――貴方が言う通り、 俺は、ソニーの過去を何でも知ってるわけではない。 あの方と過ごした日々を、ボスとの諍いを、親友とのあれこれを知っているわけではない。 それでも、ずっと見てきた。 気のおけない好敵手として、上司の大切な人として、見てきたんだ。 彼がどう言う存在なのかを。 笑顔を使い分けて、本当の自分を見せないようにする。 人懐こそうなくせして、独りになろうとしているようにすら見える。 たった一人以外は要らなくて、我儘を振りまく子供のような男。 「―――は、それでは、あの方は手に入らないというのになぁ……」 ぽつりと漏らした言葉が、貴方に届いたかはわからない。 直ぐにそれは溶けてしまって、言葉にならない喘ぎに変わってしまっただろうから。 どう思われようともう、構わないと思った。 これ以上の凶行を止める一手になるのなら、それくらいの事は何のブレーキにもならない。 たとえ自分が堕ちた淫魔と呼ばれようとも、それであの方の心が晴れるというのなら、これ以上幼馴染が、家族が狙われなければそれで良い。 「あ、あ、―――――――っ」 熱い、アツイ。衝撃に目の前に火花が散った。 舌や指とは比べ物もならない質量の異物が、自分を貫いていく。 痛いのに、痛いだけじゃなくて、それを待ち望んでいたかとでもいうように、体が悦んでいる。 きゅうきゅうに締め付けているのは、慣れきっていない狭さからなのか、それとも快楽によるものなのか最早自分にはわからない。 手が自由に使えていたならきっと、クッションにしがみついて耐えただろうけれど、それすらも敵わないから、肩をソファに押し付けて弓なりに背を反らせた。 けれども、それと反比例するかのように、自分自身のそれは萎えたまま。 それは、体内に回りきった薬の影響としか言えないのだろう。 (-56) 2022/08/27(Sat) 0:47:11 |
【秘】 愚者 フィオレロ → 家族愛 サルヴァトーレ「限度があるといいますか」 この男は半年前に一度名前ごと諸々を変えている。その上半年前まではこうして今の顔として市外に出る事はまずなかった。最近は比較的こうして姿を見せる事がなくはない。アルバの息がかかっている場所なら猶更だ。それ故に今まで顔を合わすことも、知ることもなかったのだろう。 「その人の不幸せに繋がることを願うのは、最早形が変わっているんじゃないかって。家族への愛としては間違っているのではと──」 それを最後まで言い切ることもなく、あ。と、口を滑らせた事を誤魔化すように苦笑した後、相談と言う名の話の逸らし口を即座に挙げ列ねていく。どうかしている。この手の話こそ、"家族"にもまだしたことがないのに。あるいは、だからこそ今まで聞かなかったのかは、まだわからないのだが。 「……変な話をしましたね。忘れてください。 妖精さんなんて滅相も。無理やり例えるとしても、せいぜいが変な汁を塗られた妖精さんのほうがきっと近い」 「さて自分がそんなコメディアンじゃない事を祈りながら、貴方の言う通り愛と信じて、女性に贈る花を相談したいんですがお時間はまだありますか?器量が悪くて不器用で、何かと言えば泥に塗れているんですけど──」 精一杯生きる姿が、美しい人だったんです。と。 貴方から視線を外し、どこか望郷に浸るように遠くの空を見ながら呟きが落ちる。 (-57) 2022/08/27(Sat) 1:18:09 |
【秘】 風は吹く マウロ → 天使の子供 ソニー自分を求められたことも、自分から誰かを求めたこともない。 青年は、ただ自分の主導権を手放さないために意固地になっている。 理性を失い、相手に全てを預ける事を良しとしない。 実際のところ、君の手の内なのかもしれないけれど。 経験に長けているのは君の方だから、乱暴に相手を壊さないようなそれをしないようにするのが精いっぱいだ。 不意に口内で遊ぶ舌にぞくりと背筋を震わせる。 君が口を離すと、混ざり合った唾液が糸を引いた。 「ハッ……く…」 年下であろう君に、慣れたように行われる緩やかな前戯は、青年の余裕を奪い取っていく。 脚に、体幹に力を込めて、身体を支えながら。君の下着の上から満足するまで。爪先で弾き、引っ掻き、刺激を与え続けていく。 下着の中かがそれが取り出されたのなら、その手を止めてしまうのだけれど。 喉の奥から呻くような声が、君の手で擦られる度に漏れ出しそうになるものだから、歯を食いしばって耐える。 時には、もう一度その唇を奪って、気を紛らわす。 「は、お前 何して」 入り込んで来た手。他人に許したことのないそこに触れる、湿った指先。 少しばかり仰天したような顔で、顔を離す。 こんなところで、という思いと、俺がそっちなのかという気持ち。 男を抱いたことも、抱かれたこともないから。 結局のところは、今は快楽が与えられるのならどちらでも事は進んでいくのだろう。 君のそれを強く止める事はないはずだ。 (-58) 2022/08/27(Sat) 1:22:42 |
【秘】 ザ・フォーホースメン マキアート → 家族愛 サルヴァトーレ「非情な人間のみで世を埋め尽くしてしまったら、 何かを分かち合う喜びが失われてしまいます。 奪うことも、時には必要だけど…… 与えることだって人の営みには大切なので」 金を吸い上げてばかりの賭博場なんて、 いつか枯れて立ち行かなくなってしまう。 むしろ多少は人の気持ちに寄り添えた方が良くって、故に今自分がやっていることを向いてないと思ったことはない。自信ありげな笑みはその表れだ。 「いつかこの島で幅を利かせて争うような真似が起こらなくなったら、オレも安心して……もっと穏やかな暮らしを始めるでしょう。 ブルーノ……彼のように、 誰かと子を育むのも悪くないかもしれませんね」 困り眉でありつつも、そうなるなら楽しみだという表情をとる。 相手は考えつかないが。何せ生まれてこの方家族としての親愛ばかりで生きてきたもので。 (-59) 2022/08/27(Sat) 2:15:56 |
鳥葬 コルヴォ(匿名)は、メモを貼った。 2022/08/27(Sat) 2:36:40 |
鳥葬 コルヴォ(匿名)は、メモを貼った。 2022/08/27(Sat) 2:36:57 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 愚者 フィオレロ「ふうん。不幸せに?」 言葉を切るのは触れるなのサインだろうか。そうなのかもしれない。けれど、それ以前に零れてしまうということこそが、きっと抱えきれないというサインだった。 サルヴァトーレは、目の前に差し出された救難信号を、見て見ぬふりはしない男だった。 それがちらつくということは、少なくともそこに何か拭いされぬものがあるということだ。どんなに些細なことでも。 それを見逃しているようでは、顧問は務まらないし。「変な話なもんか。大切な話だろ? 君にとって重要な話だ」 「あはっ。つまり花のせいで目が眩んでしまって、大切なものを見失ったってわけだ。なるほど、ほら! 大事じゃないか」 別にどう足掻いても聞き出したいというわけではないけれど、そこにあるものには応えたいと思うのが人情というものだろう。どうもこの男はそういう、マフィアには不似合いなお人好しさを持っているらしかった。アルバという組織の特性ゆえだろうか。 「へえ、それは素敵な女性だね」 「いいのかい? そんな美しい人に贈るものを、僕が手伝ってしまうなんて。ああもちろん、僕にとっては幸甚の至りだけれど」 (-60) 2022/08/27(Sat) 3:05:34 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ最初から本当に友達になりたくて近付いていたわけではない。最初は偶然から。 或いはいつからか男は貴方の素性を探って、ひとつの失われた者に近しいものを見つけたから。 甘やかな絆を築くつもりではなくなってしまったのだから、貴方の瞳に映る色も。 男にとっては知ったことではないし、その逆も同じだ。 此処で何を説かれたところで、何を変えられるわけじゃない。きっと納得しない。 罅の入ったまま幹を育てた植物はいつまでもその内側に傷を残したままに育つ。 いつか傷ついたままの幼いままの心は、他人の言葉で納得するほど良い人間ではない。 「……逃がそうとしてたんだ。こいつが面倒見てた子供と一緒にさ。 こいつらはオレたちの争い事なんかとは殆ど関係ない身分のやつだから。 自分は何処にも行かない、ここに残るなんて言うもんだから、どうにか説得しようとしてて。 逃がすつもりだったんだ。どっか遠く、別の生き方の出来る場所まで……」 説得しなければならないということは、彼女の望みとは違えたもので、勝手な押し付けだった。 それを喜んだかもわからない、けれどそうすべきだと思っていた、それは全て破綻したが。 相手にとっては少しも関係のない話は、同情を買うつもりというでもないのだろう。 後悔だとか、無力感だとか。耐えきれないものと向き合えば吐露せずにはいられなくなる。 死体はころりと分厚い毛布の中に転げて、座席から少しも身じろぎせず降りようとしない。 幅の圧迫痕のある両手首の先にある爪先には、新しく塗られたネイルがエナメルのように輝いていた。 中身のないからっぽの胴体は、頭は、折れた骨と伴う肉は直しきれずにそのままで、 その凄惨さが軽減されたわけではなく、ギャップが余計に物悲しいものを思わせた。 大事にしたかったのだ。友達のつもりだったから。それも手遅れなら全てが無意味だ。 相手の答えが欲しい訳では無い、けれど。壁と話して溜飲を下げられるものでもなかった。 → (-61) 2022/08/27(Sat) 13:10:06 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォわかった、と頷いて運転席に乗り込む。助手席は空いているから、座れやするだろう。 そこにもいくらか花びらが落ちている、干からびたものはなくて新鮮なもので。 まともに体と頭が動いているうちは、きちんと掃除されていたのだとわかるだろう。 裏の顔と表の顔が混在する。つい最近まではそういう場所ではなかったのだ。 エンジンキーを回せば、少し古びたエンジンが起動し始めた。ギアを入れて、夕闇の中を走り出す。 手はハンドルとギアを行き来して、その間に狙われたなら簡単にとは言わずとも殺されていただろう。 片方が何も出来ないのが理由で、どちらも血を流すことはなく車は走り続ける。 都市部の郊外から郊外へと抜けていく道中は、誰に邪魔されることもなく静かだっただろう。 今も尚互いのファミリーを狙う問題が解消されていない今であっても。 「ビアンカを、こいつを狙ったのがアンタらじゃないのはわかってる。 ……そう構えなくていいよ、疑ってるわけじゃないから。他はともかく。 アンタが、オレがやったことをどれだけ知ってるかもはわからないけど」 そろそろようやくはっきりと、言外に己が何者であるかを明かした。 本当なら、普段ならそんな無意味なことはしない。幾らでも黙ったまま取り繕う方法はある。 迂回せずに会話を続けることが気怠くなったのかもしれない。もうそんな必要さえないから。 さして車は走り続けたわけでもなかったろうに、長い長い道中。 ぽつぽつと時折口を開いた時に出てくる言葉は、以前よりも迂闊にさえ思えるものばかりだ。 相手がそれを気にすることはないだろうから、ただただ事実の羅列でしかないのだろうけれど。 (-62) 2022/08/27(Sat) 13:10:30 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ貴方が褒める度、アベラルドはそれを拒むことなく受け入れた。 誰が自分の事を評価してもそうだ。受け入れた。 その度に居心地が悪いような気がしたけれど、 それでも感謝をされるのは悪い気はしなかった。 期待があれば失望がある。失望が怖いわけではないが、 勝手にかけられた期待を裏切り勝手に失望されるのが非常に面倒臭かった。 思えばアベラルドは、貴方に失望されることを考えていなかった。 それもきっと貴方に対する信頼だったんだろう。そして、甘えの一つだ。 「そうかい。でも懲りないんだろ、お前」 軽くあしらえど貴方はまたそういう言葉をこちらに掛けるのだ。 ……明日からは、こういう事ももう誰も聞けなくなる。 「……そうだよ。どうしてもだよ」 「死なない訳ないだろ。お前も、俺も、家族も、いつか死ぬ。遅かれ早かれいつか死ぬ。それが今ってだけだ」 旧知の友を手に掛けるとなれば怖気付きでもするのだろうかと思ったが、案外自分に迷いは無いらしい。 貴方の首をぐるりと包む手付きに震えはなかった。その上を走る動脈の位置を確かめるように、親指が皮膚を撫ぜた。 自分を見下ろすアメジストを見つめる。 「俺も不思議な気分だよ。……安心しろ。うまくやる。苦しいのは短くて済むようにさ。他の奴に殺されるよりきっとずっと楽だ」 「……ハハ。そうか。お前、死ぬんだな」 「俺も惜しいよ。ありがとう」 他人事のような言葉を皮切りに手に力を籠める。 壁に押し付けるようにぎゅう、と。 貴方の最期の体温を掌に感じながら。 (-63) 2022/08/27(Sat) 13:56:54 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ>> ビアンカ 「えぇ、そうですね。 お金があれば、穏やかな生き方ができるでしょうね」 期待通りの素直な答えに、目元を緩めて。 あなたらしい現実を見据えた答えに、僅かに苦笑する。 そしてその通りだとゆっくり頷いて。 「でも、きっと。 あなたはもう色々なものをヴェルデさんに あげられていると思いますよ。 そうでなければ、ひな鳥なんて すぐ親の元を去るものですから」 いつかその子から伝えられるだろうから、 余計なお節介だと知りつつも、言葉を注ぐ。 穏やかな笑みと声に、ひと匙だけ。敬意を込めて。 [1/2] (-64) 2022/08/27(Sat) 14:30:11 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ少しも残念そうではない声に 口の端を僅かに上げる。 そう、この日々こそが辛い夜に見る、儚くも楽しい夢だった。 「はいはい、随分と賑やかなお客様ですね。 すぐ準備いたしますので、少々お待ちください」 催促の声にくすり笑って、席を立つ。 ついでにグラスをその手から救い出した。 「次は少し時間をいただきます。 その間に愚痴などあれば、聞きますよ?」 別のグラスに今度は赤ワインを注いで、手元に一つ。 あなたの前に一つ。こちらにはウィンクを添えて出す。 ここからはきっと、いつも通りの二人。 愚痴を零して、愚痴を聞いて、とるに足らない話をして。 慰めたり、笑い飛ばしたり、飾らない話を聞かせあう。 強くて弱い女たちの、 ささやかな、けれど大切な夢見る時間が今日も始まるだろう。 [2/2] (-65) 2022/08/27(Sat) 14:36:48 |
【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 愚者 フィオレロ「変なやつといい仲になるのがうまいなあ……違和感を感じたのがその辺りだったんだよ。 たらい回しにするつもりはなかったぞ、斡旋というんだ」 愛の形に趣味がありすぎた、普通を求めるのなら、なんて。そんなことを説教連ねたって仕方ない。 「喜ばせるのが上手かったら、少なくとも部下をこんなめに合わせることにはならなかったんだ。頭がいたくなる説教だ」 死なせることもなかった。 共に並んで好きなことができて。 未練を残させることもなかった。 これは身勝手な、贖罪。 「おう。 ……まあ俺を"待っている"やつなんて何処にも居ないがな」 大切なものを守りたくて。 手を伸ばされても掴めない場所に全て置いてきた。 だから今だって、また一つ手離す。 「フィオレロ」 それでも俺たちが遺したものは確かな形になるだろう。 生きている兄弟の手によって。 「もう迷子になんなよ。 お前は生涯ノッテだったんだからな」 ごきげんよう、手をあげながら何処へともなく男は足を向けた。 (-66) 2022/08/27(Sat) 15:17:01 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド君の甘えを男は際限なく受け入れた。 君だけではなく誰の甘えもそうだった。それが家族に乞われるものであれば、求められるものであれば、欲しがられるものであれば、どこまでも与えた。注いだ。そこに微塵の躊躇も、遠慮もなかった。 結局は早い者勝ちだった。 笑顔は肯定。いつだって男は笑顔を浮かべて、いつだって君の言葉に肯う。 君の言葉は正しい。 今だって失われる命がある。昨日だって誰かが死んだ。そもそもこの波乱は相手の頭が飛んだことから始まっているし、そうでなくても日々何がしかで人は死ぬ。それら喪われたものを悼む男の姿を見たことはあるだろうし、もしかしたら一緒に花を手向けに行ったこともあるのかもしれない。 だから、やっぱり。 男の言葉は甘い。まるで使い古された陳腐なフィクション、或いはぬるま湯で生きる市井の人々に通ずる無頓着さがあった。 「そうだね」 今、彼は君に命を明け渡す。無防備に無遠慮に差し出してしまう。 性別なりに喉仏の浮いた首元に指を這わせれば、橙の瞳と紫の瞳がかち合った。酷く殺風景で寂しい路地裏のこの空間で、互いの瞳に灯る夕暮れと夜の手前だけが鮮やかだった。 最期の交わりが途切れないように見据える。 男が少し唇を噛んだように見えたのは気の所為かもしれない。 そして。 「どういたしまして」を告げる猶予は果たしてあったのか。 首が絞まる。気道が潰される。空気の供給が絶たれる。息が、詰まった。 (-67) 2022/08/27(Sat) 15:28:19 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ欲した者から与えられるのであれば、今貰い受けようとしているこの手の中の命も早い者勝ちだったのだろうか。 いや、きっとそうだ。そうだと思っているからこそ、 自分は今ここでこうしている。許されるままに。 貴方の骸が遺れば悼む者はきっと多いのだろう。 自分だって貴方の墓標があれば毎日花の一つでも添えるだろう。花屋で買う花が一本増えていた事だろうし、 この話はこれからの未来で起こり得ぬことだ。 「サヴィ」 返事は出来ないだろうに、声を掛ける。 「お前、人は死んだらどこへ行くと思う。天国でも、地獄でも、あるだろ。もしかしたら、どこにも行かないのかもしれないけど」 声音は努めて冷静でいつも通りだった。込められる力ばかりが強くなる。貴方の瞳が閉じるその時を見逃さないように、一時も目を逸らさずに。 「俺、お前と一緒に地獄に行きたいよ。お前はもしかしたら天国へ行くかもしれないけどさ」 いつ貴方が自分の声を聴きとれなくなるのかもわからないのに、世間話のように続けるのだ。 「道の途中で待っててくれよ。サヴィ」 「お前と言葉を交わせなくなるのは少し惜しいんだ。お前と話すの、嫌いじゃなかった」 「嫌いじゃなかったんだよ」 それで、いつもみたいに笑うのだ。 貴方が事切れるその時まで。 (-68) 2022/08/27(Sat) 17:01:07 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド────息が苦しい、 今更になってそんな当たり前のことを思う。 涼し気な顔をしていても、穏やかな物言いをしていても、男はただの人間だった。ロボットでもアンドロイドでもないのだ。息を絶たれれば苦しみを感じる。死に瀕すれば痛みを感じる。緩やかに弧を描いていた唇の形が歪んで、ぱくりと開くまでにそう時間はかからない。強ばった指が震えて衣服を掻いた。 酸素が回らない。 頭が割れそうに痛む。このままでは死んでしまうと訴える。顔が酷く熱いのに身体の内側はやけに冷えていた。足の感覚は既に消えてしまって、自分が今立っているのかも分からない。行き場のない諸々が身体の中で暴れ回るようで、酷く痛くて五月蝿くて、それでも君の声だけは呪詛のように聞こえてくる。いつもの癖で返事をしようとしても咳すら出ない。 ────ああ、 死ぬのだ、と。 不意にはっきりとわかったのは、ようやくその時だった。それで一瞬頭が晴れて、それから限界を迎えたように霧散していく。意識がゆっくりと溶けていく。意思の束がほつれていく。とろとろと思考がほどけていく。 ああ、くるしい。 あたまがいたい。 陽がもう落ちる。夜が来る。 暮れる瞳から生理的な涙が零れ落ちた。 消える直前の火は一際強く輝くという。 いきができない。 とてもくるしい。──── 閉じようとした双眸は最後にもう一度、一際大きく、大きく開かれた。 「──── 、」 ▼ (-69) 2022/08/27(Sat) 19:10:03 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド色を失った唇が微かにうごく。 「Baciami,」 「Baciami, ────mio,」 " Baciami, amore mio. " キスして、僕の愛しい人。 色を失った手が緩慢に伸びる。 男の手は真白の手。君の守った無垢だった。 (-70) 2022/08/27(Sat) 19:18:38 |
サルヴァトーレは、家族を愛している。 (a4) 2022/08/27(Sat) 19:20:15 |
【人】 孤独では死なない兎 ツィオ【ノッテアジト廊下】>>19 >>37 ファミリー ――すれ違いざまに 軽い音で叩いていった手と、軽く重ねられた手に、 目を瞑って、笑いながら満足げに、口の端を持ち上げた。 「おかえり、俺の愛しい悪童ども――」 振り返ると、すれ違っていった怪我人二人の首を 纏めるように両手で抱いて廊下の行く先を指さす。 そこには。 あの日三人で忍び込んで、こってり怒られてなお、 網膜から消えてなくならなかった『街並み』がある。 俺たち大人になり切れない少年が、 ――不要の烙印を押されたはずの孤児が。 何かを求め、希求してしまうほどに光り輝く街並みがあった。 ▽ (38) 2022/08/27(Sat) 19:51:39 |
【秘】 グッドラック マキアート → 天使の子供 ソニー「こんな、ッ!ことで─── ハァ、死んだら、恨むからな……」 なんてことを口走るんだ、と叱るようなニュアンスを込めて。つられて苦笑をするものの、力強い突き上げに耐えかねて直ぐに表情はだらしなく崩される。 アナル全体から奥の一点まで甘い痺れを訴え始めたころ。散々嬲られたところを包み込まれる感触がすると、ひゅ、と息を呑む音がした。 腰を逸らそうとしても今度は杭のように突き込んで前立腺を擦るそれが許してくれないどころか、より一層絶頂へと押しやってきて、肌を打ち付け合うたびに気が狂うような射精欲が込み上げてくる。 「んはァッ、あっ、あぁ゛! わか、った、わかった、から……ぁン!」 天を仰ぎ、甘い善がり声で鳴かされる。こんなの直ぐにどうにかなってしまいそうだ! ただその中で、意図をなんとなく察する。向こうも限界が近いのだろう、背中に整えられた爪を突き立てたり掻き抱いたりして、一身に受ける快感への抗議としておいて。 けれど相手の顔を立たせるべく、抗わず瞼を閉じて腰から全身までに駆け巡るエクスタシーを懸命に拾い上げようとする。 蕩けきった声で名前を呼び、イキそうなことを何度も伝え、情欲に突き動かされるまま可愛らしく吠えた。 (-71) 2022/08/27(Sat) 19:55:49 |
【人】 孤独では死なない兎 ツィオ【ノッテアジト廊下】>>38 "マウロ" "リック" "ツィオ" ――俺は嗤う。 「――天辺取ろう。 今度こそ、手を伸ばしても届かなかったあの景色を、 諦めの悪い死にぞこないの俺たちのものにしよう。 独りじゃ無理だ。二人でも足りない。 ただ三人なら、急に敵が居なくなる――そうだろ?」 こいつらの顔を束ねて見えなくしたのは、 互いの表情を見えなくするため。 だってキャラじゃないだろう――? 本気で夢を見るときの横顔なんか、 いつだって、男は見られたくないもんだ。 その三つ並んだ背中が。 あの日、監視塔の上で街を眺めたその背と重なる。 carina. 「――さあ。――踊ろうか、カワイコちゃん」 兎は、マフィアの顔で嗤った。 (39) 2022/08/27(Sat) 19:58:25 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニーあなたの素性にも、その腹の底にも、大して興味は無かった。 仮令何者であったとしても、もう誰も懐に入れるつもりは無くて。 初めから、これは何処までもそんな薄情な人間の言葉なのだから。 そのようなものが、誰の心に留まるなど期待するはずもない。 何れにしても、確かな事といえば。 あなたが何者であっても、掃除屋にとっては重要な事ではなかった。 あなたは死者の前で無粋な真似をするような人間ではなかった。 今はただそれだけが判れば十分だった。 「だが、何も得るものは無かった。」 「あんたも、あんたが手を差し伸べてやろうとした相手も。 少なくとも、あんたの思ったようなものは、何一つとして。」 死者は黙して語らない。 少なくとも、凡そ大半の人間にとってはそうだ。 ともすれば、それ以外の何かは得ていたのかもしれない。 それでも、あなたがそうして描いた望みの通りにはならなかった。 だから生者にとっては、今ここにある事実だけが全てでしかなく。 日常の中、薄っすらと死の気配が漂う車内は、静かなものだった。 死者は何も語らず横たわり、及ばなかったあなたの思慮を物語る。 後には破綻した願望の跡と手遅れの悔悟ばかりが虚しく転がって。 心の軋むようなその独白を、慰めるようなものは何処にも居ない。 その疵に寄り添うようなやさしい答えなどありはせず、 けれど、物言わぬ屍体や壁と言うには幾許か聞く耳を持って。 それを聞き届けるものだけが、確かにそこにあった。 (-72) 2022/08/27(Sat) 20:02:00 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー対話とも、一方通行の話ともつかない距離感の助手席で。 夕闇の中、目的地へと着くまでの、長くも短い道中の事。 取り繕わないあなたの言葉を聞いて、息吐くように笑った。 「俺があんたの仕出かした事を幾つか知っていた所で、 今更何にもなりやしませんよ。 起きた後に何をしたって、そこには何の意味もありはしない」 「後には何も残らない。たった一つ、俺達の、後悔を除いて。」 持ち込まれた遺体に何ら関わりが無いのは、言うまでも無い事。 あなたが何をしていたとて、何もしないのも本当の事。 無い仮定として、あなたが唯一の友人を殺めていたとしても この掃除屋はきっとここで何をしようともしなかっただろう。 「…そうは言っても、腹の底も知れない人間の前で、 ちっとも構えもしないなんてのは。 それはそれで、却って疑わしいもんでしょう?」 なんてのは、今のあなたの様子を鑑みれば 随分と皮肉の利いた言葉になってしまうのだろうけど。 たとえば付け入る隙があれば、誘い込むような怪しさがあれば。 魔が差す事は、或いは猜疑が首を擡げる事はあるだろう。 掃除屋は、相手が身内であっても、それ以外であっても。 何れにしても、同じだけの線を引いていた。 互いにそれをしない為の均衡は、必要なものだった。 事ここに至ってしまえば、それも不要なようだったけど。 (-73) 2022/08/27(Sat) 20:02:31 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー「結局は。さっきも言ったように、後は時間潰しなんだ」 「俺はこの後どうなろうと構いやしない。 あんたも、そこの知り合いを連れて帰ったら…… その後は、どうなるんだかな。」 回りくどく取り繕う事を止めたあなたの言葉は、 もはや殆どそれなりの事をしていると白状したようなもの。 そこには幾らかの差こそあれど、それはこちらも同じ事で そして今している事も、互いに随分と勝手な事だろう。 いったい、自分勝手に行動を起こしたツケというものは。 果たして誰にとって、どれほどのものになるのだろうかな。 結局の所、掃除屋もあなたに答えを求めてはいない。 互いに何を語った所で、恐らく殆どは互いに殆ど関係の無い話でしかなく、 だから何れに答えが返って来ようと、或いは何も無かろうとも。 きっとじきに二人と一人を乗せた車は目的地へと着いて、 そうしてきっと、この夜もまた、一つの死が葬られる。 名もなき烏の仕事場たる僻地の廃倉庫。 広くがらんとした庫内には、あたかもそこがガレージであるように 花屋のものとは違う、一台の商用バンが乗り入れられている。 暗い夜に、内部全てを照らせるだけの灯りは随分と目立つものだから。 灯されるのは幾らかの作業灯だけ。 薄暗く、人の営みの気配の感じられないその場所は、 ともすれば、その倉庫そのものが、一つの棺のようだった。 (-74) 2022/08/27(Sat) 20:03:21 |
【人】 銀の弾丸 リカルド【ノッテアジト廊下】>>37>>38>>39 俺の家族 「――ハ、ついに天辺ときたか」 夢を語るのは俺の役目だったはずなのにな、と嗤う。 俺の上にいるべき上司は、たった一人だけ。 その上司に送り出されたのだ。……ならば、あの方の元へ行くときは、誇れる自分であらねばならない。 「お前たちに耳に入れておくべき情報がある。 特大級の機密だ……3人でなら……、 上手く料理できるだろう。――わかるな?」 これだよ、と。 ツィオが持つノートパソコンとUSBが入ったカバンを撫でた。。 上司が長年努力して作り上げた情報収集装置。 ラウラが残した軌跡を見たならば、貴方達はなんと言ってくれるだろう。 閉じた目の裏に描くのは、あの日見た広い街並み。 あの全てを手にするために。 地獄のよしみだ、肩を組んで歩いていくとしよう。 (40) 2022/08/27(Sat) 20:36:45 |
【秘】 銀の弾丸 リカルド → 風は吹く マウロ【アジト内のリカルドの部屋】 廊下で兄弟たちと再会して、それから。 リカルドに充てられた部屋で、上司と密かに眺めながら情報を得ていたパソコンについて話した後だろうか。 上司のために淹れるのがとても上手になってしまった珈琲を入れ振る舞ったりして、不意に話題を変えるように2人に声をかけた。 「あぁ、そうだ。 俺がマウロに手術を施した医療施設についてだが……、あそこは秘密裏に作ったものだから機密にしていて欲しい。 もしもの時に活用してきたものだからあまり知られたくないし……それにだな」 「あそこに今、 テンゴさんを入院させて匿っている 」このゴタゴタの中で、彼やヴェネリオを邪魔に思っていた身内の犯行と断定しながら、語る。 自分たちには、今すぐてっぺんを取る力はない。 個人的な事情をおいて考えても、ヴェネリオが居ない今、まだまだ彼に引退されるわけにいかない。 それが最大の機密にしたい理由だ。 「俺やマウロ以上の絶対安静の状態だ。 ……そう言えば容態に関してはわかるだろうが……、よかったら時間を見つけて顔を見に行ってやってくれ」 (-75) 2022/08/27(Sat) 20:57:13 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ貴方の表情の変化を、苦しげな様子を、夜さりの頃のようなその穏やかな色から雫がころりと零れ落ちるのをじっと眺めていれば、そういえば人が死ぬ様子をこんなにゆっくり見た事は無かったな、なんて頭のどこかにぼんやりと浮かんだ。 人を殺すのにこうやって首を絞めるのも初めてだった。 普段であればこんな面倒な事、しないのだから。 ただ、貴方の命を仕事のように簡単に終わらせたくないと思った。 これは仕事でもなんでもない。 ただの私情で、甘えで、エゴだ。 どれも貴方以外にはあまり見せなかったものだ。 貴方の命を大切にしたくて、こんな事をしている。 これは矛盾だ。判っているとも。 命の灯が一つ消えて暗澹とした帳が意識を覆い包むのも、 また一つの夜の訪れとも言えるのだろう。 月の明かりも碌に届かないようなこの場所でも、 この男の瞳の色は尚も明るく。 「………………、si」 伸ばされた手を最期に握ってやれないのは少し残念だった。 汚れのない貴方のその手は、頬にでも伸ばされただろうか。 「Volemtieri tesoro.」 そう言って、貴方の首を絞める手はそのままに。 少しだけ背伸びをして、冷たくなってしまった貴方の唇に口付けた。 僅かに残った貴方の命を啄んでいるかのようだった。 (-76) 2022/08/27(Sat) 21:15:31 |
【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 天使の子供 ソニー噛まれた指をわざとらしく痛そうに振って立ち上がった。 冷蔵庫に入っていたのは男の得意料理。あえて教えてもいないが主食であり娯楽のひとつであるのは既に知られてもおかしくはない。 もっとも仕事ですら分け与えているのは20年来の友人と直属の部下ぐらいであり、プライベートでの付き合いなんて当の昔に潰してる上に、今では足を揺らして座っている子供ぐらいとしか面と向かって話さないのをきっと彼は知らない。 電話で今では何でもすむ、聞かれてもいい内容だけを話すのは厄介だが少しでも接点を作らないことが他人に疑われない秘訣だ。 伝えてやる機会なんて早々ないだろう、関係はないと言うにはあまりに冷たいがこれから離れ離れになっておかしくないのだ。向こうもファミリーからノッテの悪態をどれほど吹き込まれるかわかったもんじゃない。 「ブラーヴォ、ソニー。 相変わらず花が好きだなお前は、祭りならどこでも花が見れるだろ……まあ暖かくなってくるこの時期は嫌いじゃねえけどよ」 食べかけのタルトタタンを取り出し調理台の上に乗せ、一人分を綺麗に切り取れば残りの半人前は全部自分用に。 食事代わりにもしている甘味は、林檎の蕩けた甘味が凝縮されたような琥珀色をしていて作りなれているのがよくわかる。 「なんだ、まだ何かあったのか? 思い付かないな……教えてくれ」 表情からしていい報告なのだろうか。 お互いの機嫌や回りの視線を気にしなくていい最後の時間かもしれない、そう思っていた男は努めて気さくに。普段通りと、名残惜しさを含めて再び隣へと向かう。 銀のフォークを並べる頃にはその顔を覗き込もうとした仕草を抑えて、時間をかけて挽かれた珈琲へと手を伸ばしていた。 (-77) 2022/08/27(Sat) 21:21:28 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド「いいんだ。どうせもう会いには行かない」 しばらくは。この時にはまだそれくらいのつもりで、本当に二度と会えないとは思っていなかった。 知っていたならばもう少しくらいは考えた行動が出来ただろうか。それとも、余計に錯乱していたか。 互いに知ることの出来ない朝日の色を、想像したところで意味がない。 けれど相手の感じていたように、素のままの自分を見せていたのは、たった一人にだけだ。 手が届かないと思っていて、見上げるばかりだと思っていて。 手に入るなんて思っていたならもっとずっと、何もかも振り切って何でも出来ただろうに。 二人分の体重と身悶えを受け入れて、柔らかいソファが大げさなくらいに音を立てる。 初めは殆ど強引にこじ開けているようであったのも、ごくゆっくりと引き抜いて、押し込んでを繰り返すごとに段々と少しくらいは身動きがとれるようになってきた。 流し込まれた潤滑液を絡めて、体の中をぐらぐらと茹だったような熱が動くの感じるのだとしたら、 神経に由来する快だけでなく、痛みや単純な体温の上昇のためもある。 信号の全てを撚り集めて錯覚させたなら、それはそれは随分と脳を揺さぶるものだろう。 脳髄を突き抜けて飛び出すような快楽も、異常なほどに目の前を眩ますような昂揚感も。 精神論の一本で耐え足掻こうともままならないから、それは罪であり、薬なのだ。 「どんだけ吠えたって外には聴こえやしないから、安心してよ。スタッフにも少し騒ぐと伝えてある。 ……こんなのさ、味わったことないでしょ? クセになっても困らない状況で、良かったね」 空間を押し広げて奥まで突き込み、雁首の抜けそうになるまで腸壁を引きずる。 肉がぶつかるたびに、流れ落ちる液体が卑猥な音を立てた。それも耳に入ってるやら、どうか。 元々こうした行き過ぎた行いが好きな訳では無い。自分の気分を乗せるために、上体を傾ける。 背中を見下ろして、短い髪を指で梳いて。過剰に巡る血流の為に赤く染まるだろう首筋に触れる。 シャツ越しの肌が、背中に寄せられた。 → (-79) 2022/08/27(Sat) 22:02:54 |
【独】 天使の子供 ソニー果たして本当はあの日、自分はどうしたかったのだろう。 誰かに殺されるくらいならと恐れて、焦って。その前に自分で手をくださなければならないと思った。 それが叶わず指が震えるのなら、どうか殺して欲しいとさえ考えていた。 けれども結局は、向かい合う誰かに何を伝えるのも尻込みしてしまって、喉がつかえて。 何も言い出せず逃げるようにその場を後にしてしまった。 振り返ってもう少しだけでも言葉を交わしていれば、己の意思を伝えていれば。 何か違う結果を手にしたのだろうかと、今になってもそう思う。 それは敬愛だったし、性愛だったし、甘やかな思慕であったのだろう。 なんだってよかった。傍に在れるならどんな形であってもよかった。 それが壊れるのも、一度突き放されたように距離が離れたのも怖かった。 舌先に僅かに残った薬が己を錯覚させる。求めるものはこの場にはない。 けれども増幅された共感は、夢見る思いをほんのすこしだけ表層に押し出した。 (-78) 2022/08/27(Sat) 22:03:06 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド「、ずっと。こうしたかった」 腕を回し、自分よりも背の高い体を抱き寄せる。そうだ、多分これくらいだ。 微かに鼻に触れる甘い匂い、煙草の匂い。虚しいだけの錯覚を後押しする。 一度決壊し掛けたものがつんと鼻の奥をなでて、少しだけ声を震わせた。 ほとんど自分が満足するためだけのピストンを繰り返しながら、肩に頭を埋める。 首筋に、やけに控えめな浅い鬱血痕が残された。唇は柔らかい。 「先生、」 (-80) 2022/08/27(Sat) 22:06:24 |
【秘】 金毛の仔猫 ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ誰が口を付けたものであれ、躊躇うことはない。 そう、特に、あなたが相手であれば。 「そんなの忘れるなよ」 呆れたような声。 かたちのよい眉が片側だけ、わずかに歪む。 少年は、あなたが普段、どんな風であるのか知らない。 あなた方の集まるような場へ顔を出すこともないのだから、少年の前のあなたしか。 あなたが何であれ、どのような人物であれ。少年にとっては、そういうあなたがすべてだ。 だから少年も、いつもよりすこし、ただのこどもみたいに。 交換したウインナーをかじる。 辛みがじんわりと舌に熱を灯す。 「そお、よかった」 「おれも大丈夫。 でもそうだな、これは喉が渇くかも」 よく叱られる相手と言えば、脳裏をよぎるのは一人だけ。 けれど彼女だって存外、口が悪いことを知っている。 それに、何より。 怒らせたいわけでは勿論ないけれど、彼女に叱られるのはべつに、少年はそんなに嫌ではないのだ。 くす、くす。唇がかすかに、笑声をこぼした。 (-81) 2022/08/27(Sat) 22:12:36 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → グッドラック マキアート君の言葉に男は目を細めるだろう。 君はいつだって素直で、優しく、そして聡明だった。マフィアという組織はどうしたって暴力的な側面を孕んでいる。法を嘲笑い、倫理に抵触し、時には道徳に砂を掃きかけもする。 そんな中にあって、いつまでも擦れてゆかない君のような人間は貴重だったのだ。もちろん多少要領がよくなったり、隠し事が上手くなったりはしているのだろうけど。 「へえ、それはいいね」 こちらも同じく、楽しみだという表情を。 「その時は何でお祝いしようかな、君はあの子ほどお酒も好きじゃないし……」 「君が何を選んでも、僕は応援するよ。何でも言うといい」 未だない先を想うのは、生者の特権だ。 少なくともこの時二人は、無責任な明るい未来を絵図に描いていた。それくらい、穏やかな夜だった。 (-82) 2022/08/27(Sat) 22:45:43 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ触れる位置にあった顔の距離が離れれば、ようやく息がしやすくなる。 けれどもなんだかそれも寂しがるみたいにちょっとだけ追って顎に顔をくっつけた。 潤滑も足りず未だ浅く触れているだけの指は、感触で相手が初であるのは理解したらしい。 「ダメ? 体験、してみたくない?」 けれどもそれでは退かず、追い縋る。大した意味はないんだけれども。 どうせするなら、という欲求が半分ほど、 殺すのならば不利な姿勢は取りたくないのが半分ほど。 そんな我侭ぶったようなやりとりをしている間にも手の甲は動いて、ボトムの後部をずらす。 素肌に感じられる外気の気配だって、酒気に追いやられてあまり気になるものじゃないだろう。 指を動かしやすくなったのなら、ポケットから個包装のローションを取り出して封を開ける。 やたらにビビッドなピンクの液体を指先に絡めて、相手の下肢の付け根に押し込んだ。 この日の為に持ち歩いてるのだかいつもなのだかは知らないが、遊び慣れた様子なのは確かだ。 前は相手の手先にまかせて、指は肉の輪に染み込ませるように動かす。 柔く馴染ませて、その先の行いが苦しくないように。時折、違和感をごまかすようにキスを重ねる。 しばらく指が一本入るくらいまで捩じ込むと、片腕で相手の膝を担ぎ上げた。 後ろを向かせるよりかは恥ずかしい格好じゃあないだろう。背中は少し擦れるかもだけど。 男の方が背は低いから、相手が片足を調節してさえくれればさほど苦しい体勢ではない。 「……ガマンしてるんだったら、遠慮しなくって、いいよ」 どちらが女役かというのを変えるわけではない。けれどもし相手が何かこの交合に引け目があるなら。 それを弾き飛ばせるくらいには、何もかも忘れられるくらい楽しんだほうがいい、そうだろう。 (-83) 2022/08/27(Sat) 22:59:58 |
【秘】 ”復讐の刃” テンゴ → 風は吹く マウロ【隠された医療施設】 いつかのこと。 悪友から施設と顧問の事を聞き、貴方は足を運ぶ機会があった。 見舞いか、それとも他にも用があったかもしれない。 施設のスタッフに話を通せば、貴方の悪友の手引きもあってか、なんの問題もなく面会の許可が下りるだろう。 さて、当の顧問であるカラス面とは言えば。 ベッドの上の住人になっていた。 点滴の管が繋がれたままであるし、体中と右目を覆うように施された包帯が何ともこの顧問には珍しいだろう。 (-84) 2022/08/27(Sat) 23:25:20 |
【秘】 天使の子供 ソニー → グッドラック マキアートケラケラと笑う声は気の緩みのせいかもしれない。笑って喉が震えるのが耐えられず慌てて息を整えた。 ひとりで取り残されるのはいやだ。だから、相手にも手を伸ばす。 時折鼻を抜けてくうくうと鳴く声が、背伸びして振る舞いきれずに甘く空気を揺らす。 こうした行いの為よりかは仕事のためだろう爪が掠るのを、ため息のような喘ぎが迎え入れる。 「、は。……カフェえ……」 そのくせ返す声と言ったらなんとも弱々しくて、すがりつくみたいにしようもない。 この男はよく名前を呼ぶ。甘えて、追い縋って。狂おしく感じているのを知らせるみたいに。 わかりきった患部を何度も押し込むようにぐりぐりと責め立て、均整の取れた体を掻き抱く。 どちらもおそろかにせずにというのは難しくて、それでも男なりに頑張ってみせる。 姿勢と身長差のせいで顎下ばかり見える視界、その先を柔く唇が吸い上げる。 その頃にはちょっとばかし気遣いも頭の外に追いやられて、夢中になっているかもしれない。 押し返すように、包み込むように陰茎に刺激を与える中の蠕動に眉を寄せて、 捉えた快感を逃してしまわないように身をよじらせて。 「っ、ふ……!」 ひときわ弱々しい声を上げて、背筋が震えた。薄いゴムの中へと精液が放出される。 幹の中を通り開放される感覚に息を途切れさせながら、振れてしまいそうな呼吸を整えて。 何度か腹筋にぐっと力を入れてからようやく体を脱力させた。 なんだか、悪いことをしたあとの子供みたいに瞼を絞り、おそるおそる相手を見る。 (-85) 2022/08/28(Sun) 0:00:26 |
【秘】 銀の弾丸 リカルド → 天使の子供 ソニー会いには行かないという言葉に、 器用そうに見えるのに、本当の貴方はとても、不器用な人間だなと思った。 それはあの方も、自分も同じだ。 誰か一人でも器用に動けていたなら、今このような事態にはなってはいなかっただろう。 ――だけど、そうなってしまった。 もう何処にも引き返せやしないのだ。 「は、ぁ、っあ”、あっ」 まるでイイ所探されているかのようなゆっくりとした動きに、身悶えした。 もっと、感じる間もなく痛みだけを与えてくれれば、こんなに苦しむことはなかったと思うのに。 貴方が、俺に良くする理由がわからなくて、混乱して、尚もその意識は快楽の海に溺れていく。 潤滑油を頼りに、中でごり、と何かを抉るように擦られれば、一際大きく鳴く声が上がっただろう。 もうそこに、普段の仏頂面の幹部候補など居やしない。 本来ならば排泄期間である場所が、濡らされて受け入れている。 雄を受け入れてきゅうっと締め付ける様は、雌にでもなってしまったかのようだ。 響く音も、擦れる感触も、痛みも、優しさも。 楽しんで性行為をしたことなどなかったから、それは正真正銘今まで感じたことがなかった快感で、頭の中をどろどろに溶かされている気分だった。 ▼ (-86) 2022/08/28(Sun) 0:08:15 |
【秘】 銀の弾丸 リカルド → 天使の子供 ソニー恨みと嫉妬をぶつけられているのはわかっている。 自分が欠片でも好かれているとは思っていない。 自分が向けた好意にもにた感情と同じ物が返ってくるのではと思うのは、烏滸がましい、独りよがりな思考だ。 髪を梳かれ、温かい何かを背中に感じた。 それまで体の自由を奪われ、身悶えして捩ったり跳ねたりするだけだった体だったが、 包み込むようなそれが、腕であることに気づいた時には、はた、とそのの動きを止めて、 何が起きたのかとぼんやりした頭で考えたが、首筋を吸われて落とされた言葉に 今、背中にぴったりとくっついてきた男の目に、自分が何に視えているかを理解してしまった。 ――本当に、悲しいくらいに、 想いの一方通行しか、ここには存在していない。 「―――……、腕を解け。 これじゃ、お前の頭を撫でてやれないだろう」 あの人ならば、きっと、そうしてくれるだろう? (-87) 2022/08/28(Sun) 0:09:14 |
【人】 風は吹く マウロ>>38 >>39 >>40 Tesoro mio 【ノッテアジト廊下】 「……いいじゃねえか、ツィオ。俺たちでこの街獲れたら最高だ」 混じった血では、届かなかった場所へ。 凝り固まった組織を新しく変化させて、夢見たあの景色を。 あの時、夢の中で見た烏に話したように。 3人で肩を並べて。そうあれたのなら、これほど幸せな事はない。 「どこまでも―――最高だな」 そのための準備はもう始まっている。 この2人が一緒にいるなら、無敵だ。壁なんて、壊して進んでやろうじゃないか。 あの時のような景色を、あの時とは違った目線でもう一度眺めて。 悪戯を思いついた子供のように、笑ってみせるのだ。 (41) 2022/08/28(Sun) 0:26:21 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ独り言、独り言だ。決して同情して欲しかったわけではない、では何を求めていたのか。 言った当人とてこれといった展望のあるような話ではないのだろう。 けれどもこれ見よがしに突き放されたなら、それを侮りとしてとったのかもしれない。 男が反応したのはどの言葉だったろう。ひょっとすると流れるような跳ね返しの全てか。 ハンドルを切り、カーブを過ぎて真っ直ぐな道を前に見据えたところでちらとミラーを覗いて。 頭の位置を確認すると、上腕と手首を固めて反動で打つように、 相手の顔に向かって裏拳を放った。 「……口の利き方に気をつけろよ、根暗野郎。掃除屋なんだろ。 オレにはいい、でも他人の結果については利いた風な口して語るなよ」 尤もらしく言葉を付け足したところで結局のところ相手の言葉が癪に障ったに過ぎない。 ただ、執拗に突き放されるように幾重にも渡って重ねられたなら、耐えられなかったのだろう。 線引だって行き過ぎればただの対外的な嘲りだ、そう言いたかったのかもしれない。 ただ、車中でそれ以上相手に手を出すことはなかったろう。お返しも一発なら看過したかもな。 段々と地平線向こうの太陽もまた、深く深く見えない向こうへと潜っていって。 アスファルトを照らす光は月光のそれに変わりつつある。 最早誰を相手が手掛けたか、なんてのは仔細に問い詰めるべき対象ではなくなっていた。 漠然と憎悪はある。けれどもそれを上回って無力感が強かった。 今更何をしたところで状況に変わりがない、そう骨身に滲みすぎてしまったから。 倉庫の中へと車を乗り入れ、都合の良いところで停める。運転席をおり、後部座席を開けて。 半分しかない女の死体を、ごく丁寧に抱えあげて目線で指示を仰ぐ。 既に肌の下の肉は腐臭に変わりつつあった。発見場所は水辺に近かったから。 それでも決して、粗末には扱わない。その後は切り刻んで燃やすのを了承しているくせに。 目に見え、己の手の内にあるうちだけは丁寧に扱おうと、そうしていた。 (-88) 2022/08/28(Sun) 2:04:57 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオどれくらい会えなくなって、どれくらい態度が変わって。 少しずつ変質していく互いの距離がどんなものになるかなんて、想像もしていない。 足を揺らして相手が帰るのを待ち望む仕草は、なんだかんだと今と変わらないことを期待している。 「好きだよ。散る花でもオレにとってはひとつひとつが思い出。 思い出せる記憶はなくても、それそのものが大切なんだから」 季節ごとに贈られる花は青年にとっては両親の思い出だった。 その時はそう思っていた。 一人息子を手放し、便りも少ない薄情にも思えるそれを、青年は大事に受け取っていた。 親というものの存在する人々に囲まれた環境ならまた受け取り方は違ったかもしれない。 皆にとってその思い出なんてない孤児院の中だからこそ、大切だと思えたのだ。 本当はとうにそこには、見たこともない二人の男女の意思は消え去っていたとしても。 焼き菓子の、まだふんわり鼻先をくすぐる甘く香ばしい匂いに頬を緩める。 煙草の匂いに、甘い匂いに、珈琲の匂い。いつからかいつだってそれを求めていたのかもしれない。 不良少年の口先から香るシガリロの煙が何を内包しているか、貴方は気付いていただろうか。 「一応さ。一人前になるわけだしさオレも。タトゥーパーラーでちょっと一筆入れてもらったんだよね。 ……見る?」 報告そのものは別段変なものでもないし、多少やんちゃではあるもののありふれた話だ。 行儀や品性は悪くはあるものの、年若い人間としてはそうした証を欲しがるものなのかもしれない。 それとして、なんだかにやにやといたずらの一つでも考えているように笑っていて。 貴方が見る、とも見ない、とも返事をしたかどうか、 ベルトに手を掛け、ボトムの内掛け釦とホックを外すと指を引っ掛けてぐっと大幅にずらす。 腰骨の外側右、下着を履いたら隠れてしまいそうなところに。 白で花房を塗った花の意匠が彫られているのを見せつける。 ちょうど部屋に転がされている、祭りの主役とおんなじアーモンドの花だ。 見えているのはタトゥーだけ。他に余計なものは見えてやしない、が。 (-90) 2022/08/28(Sun) 2:37:02 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド愛した全てが行き過ぎる。面影が去来する。 朧な人の影がいくつも眼裏に現れて消えた。 涙も、見開かれた瞳も、これほどまでに冷えた温度も。 君はきっと初めて知って、それと同時に最後になった。 包むように絞めながら、啄むように口づけて奪うのだ。 男の手から力が抜け落ちる。 長いまつ毛が淡く震えた。 掻き毟る指が動きを止める。 瞳から残光が失せてゆく。 両の足がゆっくりと頽れた。 穏やかに今、幕が下りる。 それで、終い。 それで、終り。 結局男は一度さえ君の行いを否定することなく、 抵抗どころか逃避を試みることさえしなかった。 息絶えたかんばせは酷く穏やかで、 その面差しには幸福が綻んでいた。 きっと聖母の腕ですら、これほどの安寧は得られまい。 (-92) 2022/08/28(Sun) 2:49:53 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 金毛の仔猫 ヴェルデ「滅多に食べないからさ。食べようとも思わないし……」 稀にしかその気にならないから、食べようと思った時に自分の限界を測りかねる。どうやらそういうことらしい。一般的なことかは分からないけれど。 そんな胡乱な説明をしながら、な交換したものに口をつける君をじっと観察する。平気そうなら軽く頭を撫ででもしたのだろう。褒めたいだとか明確な意思があったわけではなく、何となく触れたくなった、程度の柔らかな手つきだった。 そうやって、しばらく歩いて。 「あった、あった」 距離で言えばそう長くはなかったのに、人の多いせいで随分かかってしまった。 流されないように注意深く大通りを逸れて、目当ての屋台へと向かうのだろう。 (-93) 2022/08/28(Sun) 5:47:25 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルドこれ程に優しくする必要なんてのはない。丁寧にするということは身体的にも隙が出来る。 わざわざ拘束した腕を己の胸の下に敷いてしまって、縋り付くみたいに腕を絡めて。 ぎゅうと貴方よりも軽い体重を伸し掛けた体は、ぼんやりと体温の上がった手で体に触れる。 汗をかいた髪に、首筋に寄せられた唇は花に指を添えるみたいに柔らかい。 「先生、……好きだ、愛してる。ずっと、ずっと。 好きだった。あなたがオレに優しくしてくれた時から、ずっと」 終ぞ面の向かって言う事の出来なかった言葉が、震えた涙声と共に吐き出される。 伝える相手を違えている。これから男は貴方を殺すのだ。だから伝言というわけでもない。 もしも、だとかたらればを思えば、息をするごとに胸に抱いた熱が溶け出すのを抑えられない。 そのくせ、腕に絡んだシャツを解けという声には無言だけがはねのけるように返る。 単純に抵抗を恐れたのか、相手が伸べたそのものを退けたのかも自分でわからないくせに。 頭の奥底ではわかっている。相手が自分の愛しい人でないことも、口に出来ない己が悪いのも。 肌の上を熱っぽい指が這う。撫で竦めて、全てを掌の内に集めるみたいに掻き抱く。 甘くまとったベチバー、アンバー、キャンディアップル。融け込むように首筋を汗が流れる。 「 ヴェネリオ 、――……」普段は口にしない彼の名前を呼んで、耳朶に声を滑らせて。 はふ、とかすれたような声混じりの息が弾み、合わせるように何度も腰を打ち付けた。 女のようには柔らかくなくたって、きつく扱き上げられ続ければ下腹部に溜まる快は大きく。 随分と長くあったような交合の果てに、奥の奥まで腰を押し付けて体をまるめて。 凍えたようなかすれ声と共に、腸内の行詰りへと長く長く吐精した。 それが終わったにも関わらず、背中にしがみつくように頭を擦り付ける。 固い髪質の束がくしゃくしゃに押しつぶされている感触があった。 (-94) 2022/08/28(Sun) 6:50:51 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ「そうかな」 自分でも、そうとは信じられなくて。 「……だと、いいけど」 ――けれど、そう信じたくて。 「…飛べるなら、さっさと飛んでほしいものだけど。 いつまでも籠の中にいたら、飛び方を覚えたって飛べなくなる。 ………ここはここで悪くないなんて、ほんとは思っちゃいけないんだよね」 友の穏やかな笑みに、ゆっくりと沈みこむように。 胸いっぱいの後悔と、一匙の郷愁を。 ただ一言、嫌いだと言い切るには──……女は、籠の中に長くい過ぎたから。 ↓[1/2] (-95) 2022/08/28(Sun) 7:21:05 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ↓ 「えっへへ、はあい」 グラスがその手をつい、と離れて。 ふらふらと頼りなく揺らしていた手は、 新しく注がれた神の血を待ちわびたようにくるくる回す。 「時間ね。それはもう、たっぷりと時間をかけてもらいましょうか。 いつもみたいに閉店時間を気にしないでいいんだから、 色々と話すことも聞きたいこともあるわけでさ──……」 ウインクには、ウインクを。 こちらの愚痴には、あなたの愚痴も聞きたいな、なんて嘯きながら、ワインを一口。 立場も生まれも違うけれど、今この時だけは、同じようにありたかった。 いつもどおり、いつも通り。 そのいつも通りこそが、 人生を賭して手に入れた最後の宝。 ――どのような時間が流れたとしても。 その日、彼女は最後まで、笑顔のままだ。 [2/2] (-96) 2022/08/28(Sun) 7:21:27 |
【秘】 銀の弾丸 リカルド → 天使の子供 ソニー例え紡がれる言葉が自分へのものではなかったとしても、その声色は甘く震えて耳の奥に響くようだ。 頭の中が真っ白になっていくようで、どこかに連れて行かれてしまうような気分になる。 「ふ、あっ、んんっ」 快楽に堕ちた瞳には、何も映らない。 ただ、その頬に触れた硬い髪に頬ずりをしてやるだけだ。 受け止めたそれは愛ではなかったけれど、貴方とのこれまでを否定しやしない。 あれはあれで、駆け引きをちゃんと、楽しんでいたから。 でも、今はただ。熱くて、気持ちがいい。 奥を突かれて苦しいのに、たまらない。 名を呼ぶ囁きに、異常な熱がこもった。 ――馬鹿が……俺は、リカルドだ 否定する言葉は口からは出て来ない。 代わりに、絶え間なく嬌声と肌がぶつかる音が部屋の中に響かせて、頬を涙が伝って流れた。 それでも本来なら立ち上がるべき自分のそれは、そういう事なく萎えたまま。 何かせせり上がってくるような感覚が、体をぶるりと震わせている。 もう代わりでも、恨みでもなんでもいい。 ただ、どうか最後まで離さないでいてほしいと、ただそれだけを願って。 「っふ、は、あ、ゃ、ああ―――――っ」 長い吐精を腹の奥に受けながら、全身を強張らせ、震えるように弛緩する。 男を受け入れるのは初めてであったのに、後ろだけで深い快楽に達した身体の力が抜けて、背中にすり寄る頭を自由にさせている。 もう、身体の何処にも、力が入る余裕はなく、 ただ、静かに目を閉じて全てを受け入れていた。 (-97) 2022/08/28(Sun) 16:44:29 |
【秘】 グッドラック マキアート → 天使の子供 ソニー気遣いとか、そもそも身体の動かし方から何も考えられなくなってきて、ただ目の前の男との交わりに同じく夢中になり、目の前がちかちかとしてくる。 より快楽を貪ろうと、気づけば右手の人差し指を自分の乳頭に這わせて弾いて。腸内を圧迫されるたびに喉を使った嬌声がそのまま押し出されていく。恥ずかしくて抑えよう、なんて試みようとすることももうない。 「は、ソニー、いい、もっと……」 顎に舐るような感触にじわとした熱が胸に籠る。歪な形ではあるものの、赤子をあやすような心地でより一層抱きしめたくなって。 だけどせめてもの矜持で邪魔はしないように力は込めず、けど、離れたくはなくて縋りつく。 「あ゛、イッ、……は、ぁあ゛、!」 咳の混ざる、微かに枯れた喘ぎののちに全身を強張らせて精を吐き出した。 そのまま汚れるのも厭わずしな垂れかかり、余韻に浸って。 やっとの思いで身体を離したかと思えば眉間に皺を寄せて、ポーズではあるけれどあからさまに怒ってる、みたいな。とはいえ仕方ない奴だな、という受容の姿勢も見せている。 いちど、深々とため息を吐いて。けれど慈しむような口づけを、額にまた落とした。 (-98) 2022/08/28(Sun) 20:05:29 |
【秘】 愚者 フィオレロ → 家族愛 サルヴァトーレ「もー……そんな笑わないで下さいよぉ。俺にとっては結構な大ごとだったんですね。ほら、願う事で不自由を強いる事もあるじゃないですか」 拗ねたようにややはにかみながら苦笑する。馬鹿にされた訳ではないと理解しているし、自分にとっては大げさにも思えるリアクションを採られたのが逆におかしくて、このまま言わないのもあれかと半ば投げかけるだけのつもりで口を開いた。 「例えるなら何をよく聞くかな。……"私だけを見てほしい"とかそういう類ですかね。履歴どころかメッセージのやり取りのスクショすら送らせるとか聞きますね」 俺が考えてるのとは違うんですけど、と付け加える。 例えなわけで別に履歴を遅らせなんてしないが、一般的な話として例えるならこの辺りが近いかも、くらいの提案だった。 「まあとにかく、行動に移しはしないんですけどその手の話は何を見ても正しい答えが書いていないから、考えるだけでもいいのかなぁ。とか、愛ってなんだろうなぁとか、花を見た時の素直に綺麗と思える感覚のように思えたらいいなって事ですね」 返事を求めないというよりは、どちらでもいいくらいには流せるくらいに話を切って。本題はこちらとばかりに、手伝いの件は快諾の意味を込めて頷いた。 「この辺りに住んでいた人でしたから」 「きっと俺より貴方の方が正確なものを選べるかなと」 くすんだブロンドの髪とブルーの瞳の外見の情報だけ追加して。あとは先ほどのおおよそ褒めと程遠いような特徴くらいだった。 (-99) 2022/08/28(Sun) 20:14:36 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ「…………」「サヴィ?」 「サヴィ」 ぐ、と手に人一人分の重みを感じる。 自分より身長が高いというのに少し吊られるようになった貴方の身体を、乾いた地面の上にゆっくりと降ろした。 壁に背を預けるように座らせている間、なんだか人形みたいになってしまったな、と思う。 脈は無かった。呼吸ももう無い。体温はとうに失われて、ひどく冷たくなっていく。名前を呼べど、午睡の後の陽だまりのような声で返事が返ってくる事も無い。 貴方の紡ぐ愛は、今から全て過去になる。 あるいは残された者に息づき続けるのか。 事切れた。死んだ。──── 殺した。 間違いようもなく、今目の前で笑えて来るほど安らかに眠った彼の命は自分が奪った。 「サヴィ、……ありがとなあ」 「痛かったよなあ。苦しかったよなあ」 ……酷く優しい手つきで、貴方の髪を撫でる。 自分の髪とは違う、ゆるく癖の付いた髪を整える。 それからそのまま頬を撫でてこちらを向かせる。 ──なんとなく、なぜかは分からないけれど、そこから暫く動けなくなってしまった。 殺されたってのに。こいつ、なんでこんな顔してんだ。 そう思いながらじっと、 ……じっと、屈んだまま貴方の顔を眺めていた。 ▼ (-100) 2022/08/28(Sun) 20:27:01 |
【置】 陽炎 アベラルド昔なら涙の一つでも流しただろうか。 妹が殺されたと知らされた時だって、死体すら見ちゃいないのにやるせなさと哀しみで馬鹿みたいに泣いた覚えがある。 だというのに。 幼なじみが目の前で息絶えたというのに、 頭はどこか冷たく冴えていて穏やかだった。 哀しみよりも、虚無感よりも、何よりも凪のような気持ちがあった。 『仕事』の後のような昂ぶりも無い。 恋愛ではなかった。性愛でもない。 いちばん近いのは友愛だとか親愛なのだろうか。 そのどちらも、またどこか違うような気がした。 ただこれは「愛」であることは変わりなく、貴方が死んだとしても潰える様子も無かった。 貴方が死んでくれて嬉しい。 貴方が自分のせいで死んでくれて嬉しい。 貴方の死に顔を眺めている間、 自分はきっと穏やかに笑えていた。 奪われなくてよかった。 (L12) 2022/08/28(Sun) 20:36:06 公開: 2022/08/28(Sun) 21:30:00 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド長く吐いた息はひと呼吸ごとにおさめられる。次第に平時の落ち着いたものとなっていった。 ぐらぐらと煮えたような熱を過ぎれば眼の前のある光景は至ってシンプルだった。 身を守るもののない体と、薬に溺れて熱く火照った背があるだけ。 どうして分かっていて身一つで来たんだろうな、なんてことは身勝手な男にはわからない。 会話らしい会話なんてのも、激高ののちには殆ど交わせやしなかった、なんてのもまた勝手な話だ。 言いようのない感情が目の端で汗と混じるのだって、見つめ直して考えやしない。 「……アンタがおとなしいから、工作の必要も少なさそうだ。 楽に仕事できて助かったよ、リカルド。それがお望みだったんなら何より」 いつ、何どきのうちであったなら貴方にとって納得の行く話が出来たのだろうかな。 或いは最初から対話を求めるならもっと別の人間だったらよかったのかもしれない。 託されたものを手放していれば、傷つかずに済んでいた? 細工したベルトから、片手に収まってしまうような大きさのデリンジャーを取り出す。 今の時代においては小型化が進んでいても威力は十二分にある、とはいえ。 こうした穏当なシチュエーションで手にすることを想定していなかったら、 もっと隠しようのない口径を手にしてこの場を訪れて、貴方に向けていたかもしれないのに。 そうしたら一人にすることはなかったし、そうしなかったら三人揃って肩を並べられはしなかった。 汗で湿った髪を指先で梳くように撫でる。 その感触の消えぬ内に、金属質の感触が突きつけられて。 「さようなら、リック。 案外さ、そのピアスも似合ってたよ」 軽薄な一言と入れ替わるように、軽い銃声が響いた。ステージはまだ音楽に包まれている。 フロアを揺らすミュージックは兇弾さえ知らぬふりをして、いつまでも熱狂し続ける。 すぐさま誰かが助けに来る、なんてその時の男は知らなかったし、今でさえそれを認識したかどうやら。 少なくともそれでおしまい、お別れ。その時点では確かに、互いの顔を見た最後だったのだ。 (-101) 2022/08/28(Sun) 20:40:52 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ……ふと、「残さなければ」と思った。 貴方の一部でも、自分の手元に残したくなった。 きっと貴方の身体が見つかれば、土の下で眠る事になる。 その前に、自分の傍に居てもらわなければならないと思った。 何がいいか考える。 貴方がいつも身に着けていたタイ。アクセサリ。 自分に慈愛のまなざしを向けていたアメジストのような瞳。 思考と視線を巡らせて、それから一つ思い至った。 手がいい。 自分に触れてくれていた手がいいと思った。 頬に触れる手も、頭を撫でる手も、差し伸べられる手も、どれも好きだった。だから、それがいい。 でも全ては少しずるいような気がして、指の一つだけにしておこうとした。 そっと冷えた手を取る。自分の手よりもずっと綺麗な手。 終ぞ汚れる事は無かった。 小指にしよう、と決めた。 (-102) 2022/08/28(Sun) 20:45:55 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ>> ビアンカ 「えぇ、きっと」 仕事道具を持ちだして頷く。 これまで聞いてきた愛情からの確信が半分。 そうであって欲しいとの願いが半分。 「……そうですね。 少しばかり居心地が良くても、 所詮は明日の見えない業界ですから。 今の騒ぎが終わっても、次に何があるかわかりません。 できるのなら、この籠から飛び立つべき、でしょうね」 ひな鳥も、親鳥も そう 叶うことのなかった 密やかな祈りを抱いて、微笑う。飛び方なんてとうに忘れた自分とは違うのだから。 [1/2] (-103) 2022/08/28(Sun) 21:15:21 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ「……それは盲点でした。 下手をすれば朝まで話すことになりそうです」 こんな夜が二度と訪れないと知らずに、 溜息交じりに――口元には笑みを湛えて――そんなことを言う。 「 まぁ……それも悪くないですけれど 」続く本音は調理の音に紛れさせて―― お酒とお料理。悪戯心に、愚痴や喜び。 色々なものを共有して、色々なものを分け合って。 今この時だけは、二人は同じだったのだろう。 それはきっと。 二人にとって大切なありふれた日常。 それはきっと。 二人が望んで止まなかった”普通”。 それはきっと…… ”Se”が許されるならずっとずっと続いたもの。 女が笑っていたのなら、もう一人の女も笑って。 最後まで笑ったままで、”またね”と言って別れた。 今日と同じ明日が訪れると信じて [2/2] (-104) 2022/08/28(Sun) 21:18:46 |
【見】 郵便切手 フラン【街中】 「集荷に来ました。 ……人が少なくなって来ましたね」 路地の裏で誰かが消えても、何一つ変わらなかった祭りの喧騒。 終わる日が近づいて、やっとお祭り騒ぎは収束していく。 纏められた荷物を確認して、サインを受け取る。 慣れない世間話を交わしながら人混みの奥へ目を凝らし、以前に見た屋台を探した。 どうやら変わらず営業を続けていたらしい。 いつの間にか、あのゴロツキたちは消えていた。 知らないところで、知らないうちに景色が変わる。 時には変わったことにも気づかない。 鉄錆や硝煙の臭いも車の排煙も人々の喧騒も、時間がろ過して元通り。 誰かが死んだ時に吐いた空気を、生きてる誰かが吸い込んで。 生きている誰かが吐いた空気を、死にゆく誰かが吸い込んで。 そうして全てが巡っていく。 それが日常なんだろう。 「良い一日を。」 胸ポケットに過去を仕舞って。 得意先が減って、また増えて。 配達員の日々は、これからもきっといつも通りだ。 (@1) 2022/08/28(Sun) 21:55:45 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド殆ど一縷の乱れのないその亡骸にも、 ほんの僅かな苦痛の跡は残っていて。 何度も爪で掻いたスラックスには皺。 きっとその下の肌には赤い傷がある。 それでも。 暴れも逃げもしなかったその身体は、 君が求めた。 抵抗も反抗もしなかった彼の亡骸は、 彼が与えた。 泡を吐くことも血を流すこともなく、 君が奪った。 傷を負うことも身を失うこともなく、 彼が渡した。 他殺体とは思えないほど綺麗だった。 君が護った。 眠っているよう、なんてやっぱり陳腐だ。 擦り切れて満ち足りた空間に、一つのネックレスが落ちている。 遺体のすぐ傍にあるそれは酷く汚れてみすぼらしかった。あまりにこの場に似つかわしいそれはしかし、はじめから此処に打ち捨てられていたものではない。 ▼ (-105) 2022/08/28(Sun) 22:11:41 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレ「うん? ああ────いや、そういうわけでもないんだけど」 「どうしてかな、捨てる気になれなくてね……持ってるんだ。邪魔になるものでもないし」 男はそれをいつも持ち歩いているらしかった。 金具がひしゃげ、チェーンもちぎれたそれは、もう元の装飾品として扱えそうにない。古いものなのか、ところどころ錆びたような色がこびりついてもいた。大切なものなのかと問われれば首を振り、実際大切にしているわけでもないらしく、誰かが興味を持てば簡単に貸して寄こした。 けれどもやっぱり、最後には手を出して返すように促した。それからまた、スラックスのポケットに仕舞ったのだった。 (L13) 2022/08/28(Sun) 22:20:13 公開: 2022/08/28(Sun) 22:20:00 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド細いチェーンは銀色。 ペンダントトップはデフォルメされた白い花のモチーフ。 その中心には小ぶりのダイヤモンドがはめ込まれている。 それだけの、酷くシンプルなネックレスだった。 ────君が気にする必要はない。 (-106) 2022/08/28(Sun) 22:23:00 |
【秘】 風は吹く マウロ → 天使の子供 ソニー一瞬、性器に触れていた腕を上げて 唾液に汚れた口元を袖で拭う。 そうしたところで、再開されればそれは意味を成さないのだが。 甘えるのが上手な男だ、と顔を摺り寄せる君を見て思う。 何となく、後頭部を支えていた手で襟足の辺りを撫でつけた。 「……チ…1度だけだ。終わったら、忘れろ……」 素直に頷くには、羞恥心とプライドが許さなくて。 口からはそんな言葉が出るけれど、君の触りやすいように少し足を動かしてやる。 何処に触れたいのか、どういった体勢でいれば楽になるのかくらいはわかる。 羞恥は酔いに任せることで紛らわせて、君が用意周到すぎるくらいである様子に 元々それ目当てで誘ったのかと思うくらいだ。 はあ、と熱くなった息を吐きだして。君のしたように、2つのそれを握って気分をたかめていく。 前に気を向けて、後ろに力が入りすぎないように。 時折貪るように自分からも君の唇を奪って、男は行為を止めろと言うことはない。 どうせこの昂りを治めるのは容易でない。であるならば、もう好きにしろと君に体を許している。 だから今は 互いに、満足するまで。 (-107) 2022/08/28(Sun) 22:33:21 |
【秘】 金毛の仔猫 ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ「そういうところ。 もっと自分のこと気にしろっていうのはさ」 などと言う少年は、やはりあまり表情を変えないから、平気そうに見えるだろう。 ひと口、ふた口と食べ進めるごと、口内が熱くなるのを感じてはいるのだけれど。食べられないほどではなかったから。 撫でられても、瞬くだけで。 けれどそう、嫌ではないのだ。いつも。 言葉を交わしつつ人波の中を歩き、スープの屋台に立ち寄って。 あたたかな液体を啜り、ウインナーも食べきって。 のんびりと食べ歩くふたりは、最初の目的地だったジェラートの屋台へとたどり着く。 そこでもあれやこれやと並んだフレーバーに、少年は悩む姿を見せるのだ。 (-108) 2022/08/28(Sun) 22:46:47 |
【秘】 風は吹く マウロ → ”再び灯された昼行灯” テンゴ「よう」 仏頂面の青年が、いつもあなたが見ていた時よりも重ための足取りで近付いて。 ベッド傍の椅子に腰かける。 一度は来たことのある場所だ。勝手知ったりといったところ。 「あんたもリックもおれも、散々な有様だな」 「でも、生きてる」 「変な話だよな」 あなたが聞いていても居なくても、青年は話しかけていただろう。 (-109) 2022/08/28(Sun) 22:51:52 |
【秘】 ”再び灯された昼行灯” テンゴ → 風は吹く マウロ「…全くだな。」 面に阻まれて見える事が無かった目が貴方を追い、そっと閉じられてはため息を吐く。 「あれだけのことがあって、これだけの傷を負ってなお生き延びたことは、奇跡であり、不思議な心地だよ。」 「変な話といえば、お前さんが俺の見舞いに来るのもまた変な話ではあるとは思うが。何か用でもあったか?」 なんて軽口を叩く。元気ではあるようだ。 (-110) 2022/08/28(Sun) 22:59:14 |
【置】 金毛の仔猫 ヴェルデ>>-17 >>-18 >>-19 うたがきこえる。 おまえなんか生まなければよかった ――Ninna nanna,mio figliuolo! 幸せそうにはにかむ美しいかんばせ。 私を見ないで、その目がいちばん嫌い ――Ninna nanna,occhi ridenti… 石畳の上を踊るステップ。 私を呼ばないで、その声も嫌い ――Canta,canta,rusignolo… 繋いだ手が揺れる。 おまえも同じ苦しみを知るべきよ ――…che il mio bimbo s'addormenti! (L14) 2022/08/28(Sun) 23:08:22 公開: 2022/08/28(Sun) 23:10:00 |
【置】 金毛の仔猫 ヴェルデ>>-17 >>-18 >>-19 あなたはいい育て親ではなかったのかもしれない。 ――それでも、その細腕は確かに、ゴミ捨て場の命をすくい上げた。 あなたは母親ではなかったのだろう。 ――それでも、その不器用な愛が、人間を育てた。 天使は自らを生み落とした女を見殺しにした。 だれも、それがわるいことだと教えなかったから。 けれど翠眼の少年は、 の手を握ったままでいたかった。 自ら考え、選び、そういう未来がほしかった。 おやすみ、■さん。 死んでしまってごめんなさい。 少年はあなたのことを愛していたし。 ――――死にたくなんて、なかった。 ただそれだけの、ことだった。 (L15) 2022/08/28(Sun) 23:09:11 公開: 2022/08/28(Sun) 23:15:00 |
【秘】 風は吹く マウロ → ”再び灯された昼行灯” テンゴ「別に」 それは同じファミリーのよしみ、でもあっただろうし。 死ぬ前に話をしたから、顔を見せたかったのかもしれない。 最後の会議では、どうも落ち着いて互いの顔も見られなかっただろうから。 「あんたの死にぞこなって落ち込んでる様子でも見ようと思ってたんだけどな」 元気そうだし、無駄足だったか?なんて笑って。 犠牲の多い戦いであったから、こうして生きているだけでもほっとする。 ただでさえ、上の者を多く失った。 指導者が減らなかったことは、不幸中の幸いだろうか。 (-111) 2022/08/28(Sun) 23:09:44 |
【置】 翠眼の少年 ヴェルデ>>-17 >>-18 >>-19 確証はないけれど、託したものは何となく、届く気がしている。 裸の紙幣をそのまま渡したのは、残るものは少ない方がいいと思ったからだ。 ただでさえ、部屋に荷物を置いたまま。 そう多くないと言えど、処分するにはやはり、手間もかかるだろう。 思い出してしまうかもしれない。悔いてしまうかもしれない。旅行の約束は守れなかった。 それでもヴェルデは幸せだった。 意識を手放すそのときに思い出した、この歌が。 よく眠れるようにと祈ってくれたから。 願わくば、あなたもよく眠れますように。 (L16) 2022/08/28(Sun) 23:09:52 公開: 2022/08/28(Sun) 23:20:00 |
【人】 銀の弾丸 リカルド【港の防波堤】 ――慌ただしかった1日からいくらか経ったある日。 日参して治療を受けている地下病院から出て、一人、防波堤から海を眺めていた。 今日も忙しく仕事をして、治療後はテンゴに報告ごとを耳に入れたりしていたけれど、この時ばかりは紫煙を昇らせ、静かに波の音に耳を澄ませていた。 居なくなってしまった人たちの、いろんな声が聞こえる気がした。 ラウラの控えめな声や、上司が俺を呼ぶ声。 それから、この海に攫われてしまった少女のこと。 行き場を失っていたその少女を引き取って、育てる、つもりだった。 約束通り独りにしないと、約束して。 まるで、あの男に言ってやりたかったセリフみたいだな、なんて思ったりしながらも、差し出した手が届いたのが嬉しかったのに。 亡くなった者の後を追いたい気持ちがわからないわけではない。 自分とて、地獄の果まで上司のお供ができるなら、今すぐにでもあの人のもとに行きたい。 だけど、出来ない。 命など、大事な物のために捨てる事はいつだって出来るし、惜しいわけではない。 自分の大事なものは、たった一人だけではなかった、から。 幼い頃から苦楽を共にした幼馴染を置いては何処にもいけない。 マウロが死んだと思わされた時の、ツィオの顔。 手を伸ばしても決して触れられないと思った、あの時。 気づくのが遅くても、あんな顔をさせるなら駄目だと思った。 俺は、上司を、幼馴染を傷つける者を許さないが、 俺が傷つくことで、あいつらにあんな顔をさせてしまうなら、 俺は それ を絶対に許してはならない。 (42) 2022/08/28(Sun) 23:10:53 |
【秘】 天使の子供 ソニー → グッドラック マキアートそろそろと息を吐いて、もたれかかる体を急かして起こすようにあちこちにキスをする。 痕がつかないくらいの戯れだけど、後戯を欠かしたくないくらいの感慨はあるらしい。 やたらに派手にではないにしろとくとくと騒ぐ心臓が落ち着いた頃に相手も離れ、 そして叱りつけるような目線と交差したなら、逃れるみたいにぎゅっと目を瞑った。 「ごめんってば。仕事邪魔した分はなんか払う、なんか奢る。 駅前んとこにあるパン屋でさあ新しいしょっぱい系のデニッシュ出たからそれで許して……」 相手も了承済みの戯れであるとはいえちょっとやりすぎたのは否めない。 ふにゃふにゃと言い訳じみたことを宣いながら、だらけたみたいに腕をだらりと垂らした。 相手が退いてくれれば最低限服を着て片付けはする、ただすぐにそうとは言わないだけ。 気の済むくらいまでもうちょっとくっついていたいことを、わざわざ口にはしないだけ。 「……ここシャワ〜ってどう通ってけるんだっけ……」 余韻もそこそこに口をついて出たのは、色気もなんにもありゃしない質問だった。 相手が全く考えもなしに、対象的に考えなしの話にノッてくれるわけはないので、 多分手頃なところに都合よく身支度を整えられる場所はあった、はず。 萎えた男根が自然と抜けて解放されたなら、ゴムも縛って撤収準備だ。 建物の外、街を囲む喧騒とは一切無縁の、お互いにとってはわりかしありふれたやりとりだ。 何を見るわけでもなくちらりと扉の向こうを見てから、額へのお返しにと肩口にキスをする。 「なんか。なんも変わんなきゃいいのにな」 本当はそう言う口の呑気さとは裏腹に、どこかに無力感を抱え続けていて。 けれどこの時間のうちだけは忘れられていた。貴重な時間だったのだと思う。 足首にボトムと下着の引っかかった間の抜けた格好をして、椅子にだらりと体を預けて。 そんないつかの、まだ何も起こっていなかったうちの日々の話だ。 (-112) 2022/08/28(Sun) 23:21:49 |
【秘】 ”再び灯された昼行灯” テンゴ → 風は吹く マウロ「ふん、ほざけよ。」 そんな言い草にそう吐き捨てる。 「部下の前で泣きっ面を見せて溜まるものかよ。晒すのはこの無様だけで十分だ。そういうお前さんこそ、多少はマシな顔になったじゃないか、ええ。」 片目だけで貴方を見ては、笑みを浮かべた。 何かを思いついたような顔だ。 「整理がついたとは言い難いが、区切りはつけてきた、といったところか。」 (-113) 2022/08/28(Sun) 23:26:47 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー掃除屋というものは、依頼者を取り巻く諸般の事情に対して 如何なる理由があったとて、何を言うのも褒められた事ではない。 常ならば当たり障りのない相槌を返して、それで終わる事。 けれど今そうしなかったのは、どうしてだっただろう。 何を仕出かすかわからない、という後ろ向きな信用は続いている。 随分な言い方をしている自覚も。そうなる事も予想はしていた。 さりとて予想していて何になるでもなく。一度、鈍い音の後。 口の中で呟くように、遅れて広がる鈍痛に小さくぼやきを零した。 「……気は済みました? 他人に知ったような顔をされたくなかったのなら、 あんたはそれをもっと大事にしまい込んでおくべきだったよ」 「それともあんた、俺に何か期待してたんですか?」 その後にもう一度耳障りな言葉を吐いて、今はそれだけ。 何も死者の眠るすぐ傍で口論をしようってわけじゃない。 それは直接的な暴力も同じ事で、報復に手を出す事もなかった。 わかっている。それがもはや内に抱え切れず分水嶺を越え、 心の内から零れ落ちてしまった苦悩の表出でしかない事を。 摩耗しきった精神や思考に正論は何ら正の影響を及ぼさない。 そこに何を求めていたかなんて、あなたにさえ不明瞭な事だろう。 求めるものも、今よりもう少しましな道も、きっとわかりやしないこと。 それをわかっていて、態とその事を考えさせるような事を言う。 もはや正しさでは救われも納得もできやしないのだとしたら。 そんな思考の袋小路に行き着いた時、あなたは何を選ぶのだろう。 やがては自分と同じような考えに至るのだろうか。或いは、それとも。 (-114) 2022/08/28(Sun) 23:58:47 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー今は取り留めの無い思考に考えを巡らせる猶予も無く。 それから程なくして、配達車は目的地へと辿り着いてしまう。 助手席から降りて、男が腕の中に抱え上げたものを見遣る。 既に幾らかその中身を失ってしまった、華奢な女の上半身。 仮に今ここにあるのが全身であれば、話は違っただろうけれど。 けれど半分だけのそれは、解体するまでもないと判断した。 先に倉庫内に停められていた方の商用バン。 特別用向きもなしに連れて歩くには持て余す道具の最たるもの。 火葬車のバックドアを開け、炉内から火葬台を引き出し、 先に炉に火を入れて、男の抱えた遺体を火葬台に寝かせた。 そうして遺体を横たえた台は炉内へと収められ、 それきり火葬炉の扉は重く閉ざされて。 それが彼女の姿を見た最後の光景になる。 火葬に掛かる時間は焼かれるものの体格や体重に左右される。 女性の、それも上半身だけであれば、そう長い時間は掛からない。 たとえ既にその遺体が朽ち始めていたとしても、 火葬炉というのは、焼かれる臭いは殆どしないようにできている。 やがて、きっとまだ夜が深まり切らない内に扉は再び開かれる。 炉と焼け残った灰から幾らか熱が去った頃。 (-115) 2022/08/28(Sun) 23:59:26 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー灰と、幾らか残った骨は台の上から容れ物に移される。 骨壷なんて上等なものは無いから、何とも無骨な保存缶の中。 ただ淡々と納められて、あなたの方へ差し出された。 「どうぞ。連れて帰るくらいはするでしょう」 受け取らないなら、掃除屋の方で"処分"されるだけ。 少なくとも、それはあなたの望む事ではないだろう。 未だ目に見えて、あなたの手の内に戻るものだから。 「それで。先に用があった方は済んだわけですが。 あんたはどうしたいんでしたっけ?」 受け取るにしても、受け取らないにしても。 仕事は済んだとばかりにもう一つの用は切り出される。 あなたは最初に、自分より先に用事がある、と そう言って彼女の事をこの掃除屋に任せたものだった。 であれば結局、それだけが用向きの全てではないのだろうと。 (-116) 2022/08/29(Mon) 0:00:08 |
【秘】 風は吹く マウロ → ”再び灯された昼行灯” テンゴ「まあな」 自分一人ではどうにもならなかっただろう。 同じファミリーの、同じ志を持った仲間がいたから。 喪ったものがあっても、前を向けている。 親代わりの事も、部下の事も。 大事だったものを忘れないで、でも重荷にはしないで。 「アルバとノッテが統合することになるんだってよ」 「在り方も変わっていくのかもな、色々と」 (-117) 2022/08/29(Mon) 0:38:35 |
【秘】 ”再び灯された昼行灯” テンゴ → 風は吹く マウロ「ほう。よく上の連中が首を縦に振ったものだな。いや、互いに此処まで疲弊すれば致し方ないか。」 些かの驚きを含みながらも納得した様子で貴方の報告を聞く。 どうあれ考えられた結末だっただけに、現実味が薄い。 「変わらない訳がないだろう。アルバのやり方とノッテのやり方、双方の折り合いをつけねばならないのだから。俺はこの様だからな、暫くは動けそうもない。」 「故に、お前さんたちに先は任せたい。 お前さん自身に任せたい事もあるが。 」 (-118) 2022/08/29(Mon) 0:51:55 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ狭い路地の、他人の視線が通わないうち。 遠くに聴こえる花火の音が大気を震わすたびに息を詰まらせる。 担いだ足を揺すって体を合わせるたびに上がった息が混じり合う。 身動きの取れないなりに押し付け合うように擦り合わせて、抱き合った体がぶつかり合う。 時々かつかつと当たる鼻っ柱に浮いた血の気であったり、腹筋を掠る熱の感触だったり。 混ざり合う熱を確かめるたびに荒く息を吐く。夏の夜気に、浮かされたみたいだった。 息を詰まらせ、吐き出して。互いに上り詰めて、その後だ。 余韻の残る内に胴をぴったりと寄せて、名残惜しむみたいに服越しの肌を重ね合う。 視界を奪うためであるなんてのは、今までの様子からしたら想像し辛いかもしれない。 身じろぎして、視界の外で腕を動かす姿もここまでのことがあったら、他にも想像の選択肢があった。 あちこち動く手は貴方の着衣を正す様子もあったし、納得させるに足る理由があってしまった。 少しまだ鼻の天井の方から甘ったれた声で鳴きながら、ぽつぽつと口を開く。 「……オレはさ、昔友達がいたんだ。四年くらい前かな。 この街で殺された。本当は、行方がわからなくなったって聞いてたけど。 そんなわけないだろうって調べてる内にさ、誰だかにやられたってわかって。 しんどかったな。何も知らずに過ごした時間があるのが余計にしんどかった。 アイツが苦しんだことを無視して生きていたような気がしてさ」 ほんの僅か、眉をひそめて囁くような声で語るのは己のことだ。 この路地を訪れた時にほんの少しだけ話したことの続きなのだろう。 同情に足る話ではあるんだろうが、けれどもどうして今口にしないといけないのだろう。 片足は担いで、壁を背中に押し付けたまま。貴方よりも背の低い男は言う。 → (-119) 2022/08/29(Mon) 1:11:51 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ「数日前、アイツの仇が死んだ」 ありふれた自動拳銃が胸に突きつけられる。貴方の組織が取り扱っているものだ。 一番値段と性能のバランスがよく、下っ端にも持たせるような手頃なタイプ。 言い切る前に銃口が宛てがわれ、言い終わる頃にトリガーが引かれた。 サイレンサーを通した音はやけに滑稽に聴こえた。 「身勝手な話だと思わないか? あの男はジャンニを消したことを清算していないのに。 アウグストが居なくなったなら誰がそのツケを払ってくれるんだ?」 担いだ膝を相手に押し付けるようにして距離を離す。半ばパワーボムみたいに相手を突き飛ばした。 代わりに反動で路地の向こう側へと後ずさって、相手の様子を確認する。 これだけ見たらそう、一見通りすがりに単純に襲われたように見えるだろう? 酒の匂いも火照った体も、急速に現実感の内へと引き戻される。 少しの時間、手応えを確認したなら手にした銃は元持っていたようにしまい込まれる。 「……ああ。案外気分は晴れないもんだな。……やっぱ本人じゃないとダメだ」 独り言のように呟いた男は、身支度を整えながら路地を出ていく。 今までの親しげな様子が全部別人によるものだったみたいに、淡々とだ。 通りでファイヤーワークスの打ち上がる音が聴こえる。 砂利を踏む足は音も無く、白けた夜闇に消えていく。 (-120) 2022/08/29(Mon) 1:13:42 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ貴方は、男が何を失ったと感じていて何が残されていると感じているかなんて、 別段わかりゃしないんだろう。当たり前だ。表層上の情報以外知り及ぶ手段はない。 誰と、どんな関わり合いをしていたかなんてのを探るなんてのは警察の役目だ。 けれどそう、幹部候補であった男やその幼馴染らの事情までは探り当てることは出来なくても、 この数日間のうちに貴方の顔見知りはどれだけ失われたか。 その中にはやけに慣れたような手口で殺された人間がいくらか居たかもしれなかっただろう? はだかの体は、着せられた男物のジャケットごと火葬車の中へと消えていく。 これ以上誰にも辱められることのないように、世界の目を覆うように彼女の体が消えていく。 もしも、引き渡すに値する誰かが生きていたならば彼に渡すことも出来たろうに。 順番を違えたから、もしくは共に逝くことの出来なかったから、こうするしかなかった。 男は中も見えやしない車をじっと、無防備に思えるくらい只々に見つめていた。 何もかもが灰になってしまうまでは、傍に在ろうとするみたいだった。 やがて、夜にさえなってくれない内にあらわれた残響が容れ物へと移されるのを見たならば。 男は首を横に振った。とはいえ、これから起こることを考えたのなら結局は己で持ち去るのだろうけど。 今は、受け取らない。今は、手を塞いだりはしない。 「……今は、いい。そう、用事が、あるから」 歯切れが悪い。今までだったらもう少し滑らかに言葉を交わし、弄していくらでも誤魔化せたろうに。 火葬車から一歩離れ、倉庫を見渡す。誰もいないのを確認したのか、或いは言葉を探していたのか。 一歩。適切な間合いを取るように横にずれた足は、やはり少しの足音も立てやしなかった。 「ずっと追っていた男が、死んだ。 仲間も、友達も。おそらくきっと、父さんと母さんも。 ……ほかの何にも渡したくないくらい、好きだった人も、多分。 人は前向きに生きろって言うんだろうな。生きていく先に何かを見つけて、ってさ」 → (-121) 2022/08/29(Mon) 1:58:06 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォやっと語った言葉は結局、己の話だった。けれども説明と言うには端的に過ぎて。 指折り数えて階段を昇るような調子だ。身の回りから、多くが居なくなる。それをカウントする。 薄っすらと思い出されるのは、昨日言葉を交わした人間のこと。けれど、されど。 「どうする? アンタなら。 オレは、こうすることにした。 けれどもどんどん取り落としていくだけだった。 どうする? 何一つ変わるわけじゃなかったなら」 質問は、少なくとも形だけの投げかけではなかった、どうしたらいい、とジェイドの目が訴えていた。 されど答えを貴方から得るよりも前に、男はベルトに手を掛けた。 ジャケットを脱いだ下に纏った服装と装備は、割りかしわかりやすいものだった。 貴方の仕事着が重たいのとおんなじ理由が、そこにはあった。 答えを知りたいのに、なぜ待たないのか。理由は簡単なものだ。もう止まり方さえわからないからだ。 「いつかは気が晴れると思っていた。もうそいつは居ないってのは頭じゃわかってるしさ。 やりきれない思いが解消されるまでのつもりだった。けど、いつまでも消えないんだよ」 銃口が向けられる。掌に収まるくらいの素朴なデリンジャー。 真正面に向けられたなら避けるのは容易くも思えるし、狙いを定めた威圧感もありはするだろう。 此処で男が貴方を殺さなければならない理由なんてのは無い。無いんだ。けれど。 理由と理屈があれば止められるのだったら、きっともっと早くに誰かの言葉を聞けていた。 → (-122) 2022/08/29(Mon) 1:58:39 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ「怖いんだ、誰かが死なないと止められないんだ。 もうそれが誰で、何であったなら満足するかも自分じゃわからないのに。 誰も教えてくれないんだ。 助けてよ、 パスカル―― 」目の前の男は掃除屋の烏だとわかっているのに、男は教えられた仮の名前を呼んだ。 最初に出会った男の名を、互いを知らないうちに巡り合った人間の名を。 多少の探り合いはあったとしたって、未だ気軽に仲良くなるつもりだった時の貴方を。 助けを求める相手は、仕事人としての人間ではなかったから。 意思を聞きたいのは、答えを求める相手は敵としての貴方ではない、つもりだったから。 誰でもいいのに、誰かでなければいけない。 そんな矛盾を口にしたところで誰も真面には受け取らない。 己の中では確かなのに、己の中でさえ確からしいものはない。 貴方が答えを口にするにしろ、しないにしろ。動くにしろそうしないにしろ。 男は違えなく、迷いなく。烏に向かって、引き金を引いた。 (-123) 2022/08/29(Mon) 1:59:03 |
【置】 プレイスユアベット ヴィオレッタ【アルバアジト】 ―― まだ静けさに包まれた暁闇の中 扉を開く音が響く こつ……こつ…………こつ ゆっくりとした足取りが、部屋をめぐる ……罰せられ、ませんでした 引き金を引いた、と思っていたのですが見当違いのようです 黒幕の情報もとうにノッテ…… 今はもう我々、でしょうか……が掴んでいて ……ふふっ、ただの道化、ですね 私は 溜息がひとつ、薄闇に零れた (L17) 2022/08/29(Mon) 4:13:36 公開: 2022/08/29(Mon) 4:45:00 |
【置】 プレイスユアベット ヴィオレッタこつ……こつ…… 足音が止まる 薄闇の中、壁に掛けられた額縁に触れる これは確か家族を題材にした絵、だっただろうか ”家族”を愛し、家族に愛されたひと 私も彼が嫌いでは……いえ、いいえ 好き、でした 最初はそれに面食らって、曖昧な笑顔しか返せなかった私にすら 愛を向けて、与え続けてくれたひと 「……トト―」 虚空に声が 溶けた ――彼の椅子を 見る (L18) 2022/08/29(Mon) 4:16:37 公開: 2022/08/29(Mon) 4:50:00 |
【置】 プレイスユアベット ヴィオレッタこつ……こつ…… 足音が止まる 薄闇の中、花瓶の花が目に入る 色とりどりの花は夜の帳の中でも華やかに 遺された華達を守ろうと誰よりも苦悩したひと 事態に真剣に立ち向かい 絶望の中でも冷静であり続けようと、苦しんでいました これからは少しでも助けになれるでしょうか 「……ソニーさん」 虚空に声が 溶けた ――彼の椅子を 見る (L19) 2022/08/29(Mon) 4:18:17 公開: 2022/08/29(Mon) 4:55:00 |
【置】 プレイスユアベット ヴィオレッタこつ……こつ…… 足音が止まる 薄闇の中、感じたのは甘い香り それはほのかに残ったショコラータの甘くて苦い 互いのためと尽くしあった親子 隠すことのない愛情を拾い子に向けたひと その愛を受け止めて、それ故に尽くそうとしたあの子 誰がなんと言おうと素敵な親子でした 「……アベラルドさん、ルチアさん」 虚空に声が 溶けた ――彼の椅子とその後ろを 見る (L20) 2022/08/29(Mon) 4:21:27 公開: 2022/08/29(Mon) 5:00:00 |
【置】 プレイスユアベット ヴィオレッタこつ……こつ…… 足音が止まる 薄闇の中、聞こえたのは鳥のさえずり まだ暗い空に自由な歌声が響く 不器用な、でも想いあっていたふたり 誰よりも案じているのに表向きは隠し続けたひと きっとそれに気が付いて、それ故に去れなかった子 あなたたちに自由をあげられたら、よかったのに 「……ビアンカ、ヴェルデさん」 虚空に声が 溶けた ――未だ暗い空を 見る (L21) 2022/08/29(Mon) 4:23:02 公開: 2022/08/29(Mon) 5:05:00 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 愚者 フィオレロ紡がれる言葉をあまさず受け取って聞いている。じい、と目線を外さず、表情はあくまで明るく。きっとそれは人の話を聞くにあたって、この上なく正しい態度。 饒舌の語りはすれ、相手の言葉をかき消すことはしない男だった。会話はキャッチボール。それをよく知って、体現する男だった。 「なるほど」 君の言葉を消化するように頷く。少しの間を置いて、また口を開く。 「教科書じゃないからね。僕だって全ての答えを持ってるわけじゃない。……僕には、そういう願望はないし」 「でも、そうだな。もし僕のせいで、相手が不自由になるようなことがあったら」 その時の言葉は、珍しく。 君に語ると言うよりは、自分自身で何かを確かめているように噛み締められながら。 「不自由だと思わないくらい、全部をあげるんじゃないかな」 先程までの練り上げられた答ではなく、大雑把で曖昧な、答えとも言いづらいような答え。 きっとこれ以上に掘り下げられることもないのだろう。だからこそただの一意見として、男は無責任にそんなことを口に出す。 それから君の話をやっぱり機嫌よく聞いて、時にはその容赦のない形容に笑いを漏らしたのだろう。 「正確ね」 「それだけ彼女に詳しいなら、君の方が余程正確に選べそうだけど。……そうだな」 それでも、この光栄な役割を投げ出すような男ではない。 店先に並ぶ花々をじっと見る。それから君の顔をじっと見る。もう一度花々の方を向いて、紅色の一輪を手に取った。 「これなんか、どうだろう」 「ケイトウだよ。僕は好きだし、華やかで情熱的だ」 「なにより、アッシュブロンドによく映える」 (-124) 2022/08/29(Mon) 4:23:49 |
【置】 プレイスユアベット ヴィオレッタこつ……こつ…… 足音が止まる 薄闇の中、伝う雫の塩辛さが舌を痺れさせる あの夜にすべて零したと思っていたのに、今も……まだ 誰にでも優しくて、誰よりも眩いひと 遺された手帳には色々なことが書いてありました 努力の跡、誰にも見せなかった悩み……私のことも 私はどれほどのものをあなたに返せたでしょうか 「……先輩。…………せんっ……ぱい」 虚空に声が 溶けた ――彼の椅子を 見る (L22) 2022/08/29(Mon) 4:24:53 公開: 2022/08/29(Mon) 5:10:00 |
【置】 プレイスユアベット ヴィオレッタこつ……こつ…… 扉の前で足音が止まる 窓の外 空が白み始めた 間もなく夜は、暗く長い夜は、明けるだろう 悪夢は終わって、新たな始まりが訪れる けれど、夜に溶けた者たちが戻ることはない 「Arrivederci. 皆さま、どうぞ良い夜をお過ごしください」 虚空に声が残る ――部屋を 見回す そして、扉の閉まる音 もう誰もいない (L23) 2022/08/29(Mon) 4:27:20 公開: 2022/08/29(Mon) 5:20:00 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 翠眼の少年 ヴェルデ一つを選びかねるなら、「二つにするかい」。 それでもまだ悩むなら、「三つでもいいよ」。 ……なんて、段階を踏みやしないのだ、この男は。 伝える言葉はいつだって、こう。 「どれがいい? ヴェルデ。好きなのを選ぶといい」 「それで足りるの? ほら、これだっておいしそうじゃないか」 うんうんと悩む君の後ろから、男は毎度そんな声をかけた。 それから君が選び終えれば自分の分はさっさと決めてしまって、君の手を制止して二人分の代金を払うのだろう。きっと今だって。 いつだって男は、君に何か与えようとしていて。 いつだって男は、君が何か選ぶのを待っていて。 君が選んだものを否定することは、絶対になかった。 (-125) 2022/08/29(Mon) 4:33:20 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー相手の全てなど、語られざる事など、他者に判るはずもなく。 失ったものを数えても、それが掌の中に戻る事は無い。 そしておそらく、今はもう、それらを知った所で手遅れだった。 つまるところ、全てはきっと、何ら意味の無い事で。 けれどこうして何かを選ぶことに、 僅かばかりであったとしても、意味らしきものがあったなら。 そんな届かぬ祈りじみた考えがあったのかも、最早定かではなく。 今はただ、何も言わず、あなたに干渉もしない事だけが確かな事。 軈て亡骸が形を失っても、やはり烏にはあなたに問う罪なんて一つも無かった。 結局の所は、何もかも全ては自己満足であって。 あなたを罪に問うた所で、烏は到底自分が納得できるとは思えなかった。 ああ、そう。 そうして首を振った後の返答に、ただそれだけを返して。 開いたままのバックドアの内側、火葬炉の手前。 その僅かなスペースに遺灰の納められた容れ物を一度置いて。 がつ、ごつ、重たい足音は対照的に。 あなたが訥々と言葉を語る間にも、何歩か火葬車から離れて行く。 掃除屋の仕事着が重たい理由は、数多の死を吸ったから。 そんなフィクションのような理由でなんか、あるわけもなく。 (-126) 2022/08/29(Mon) 4:46:02 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニーその間にも、つたない問いがただ流れていく。 それを聞いていないわけじゃない。確かに聞いているからこそ。 結句気休めでしかなくとも、仕事の場からは離れる必要があった。 両親、仲間、友達、奪われたものを奪い返すべき相手。 その内の幾許かは、或いは、あなたの手によって。 名もなき烏はおおよそあなたと同じようなものを失って来た。 けれどそれが等価であるとは思わない。 その重みは人によって異なるような、似ているだけで違うもの。 何れにしても、手の届く限りの殆どのものを失ってしまった時。 後に残された者のやりきれなさというものは、 いったい何をどうすれば納得が、満足がいくものだろう。 「本当はもう、答えは出てるんだろう。 何も変わらない。あんたの空虚は、永遠に満たされる事は無い」 少なくとも、それを埋めてやれる人間は居なくなってしまった。 「あんたは、あんたが死ぬまでそのままだ」 生きている限り、この耐え難い苦しみは和らぐ事無く続く。 その言葉を否定できる人間も、今この場には居ない。 続いた先に、たった一握りさえも希望を信じられなかった人間が 生きていれば、いつかは、ひょっとしたら、なんて。 そんな何処までも無責任な希望を他者に語れるはずもない。 (-127) 2022/08/29(Mon) 4:47:26 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニーだからただの一人の死にたがりからあなたに差し出すものは、 終わった先の安息の示唆と、それに行き着く手段だけ。 喪服の懐から音も無く拳銃が抜き出され、銃口をあなたへ向けて、 「楽になりたいなら、あんたは早く死ぬべきだったのさ」 「──Addio. ソニー・アモリーノ」 同じく自らに向けられたそれに構わず、引き金を引く。簡単な事。 殺すつもりはあったけれど、生きるつもりがあるでもなかった。 名もなき烏にも、或いはそれ以外の誰かにも ここであなたを殺さなければならない理由は無かった。 死にたい人間は、死ぬしかない人間は、死ぬべきだ。 そうでないなら、せいぜい生きていればいい。 このような行動に出た理由なんてのは、そんな思想だけで。 乾いた銃声が鳴り響いたなら、それは幾つだっただろう。 がらんどうの倉庫が誰かの棺となったなら、それは誰だっただろう。 誰に何処までの言葉が届いたかも定かではない。一つ確かな事と言えば、 夜が明ける頃には何れの姿もそこには無いという事。 願わくばどうか、殺すなら上手に殺してくれ。 もしもあんたがしくじった時は、俺もそうする事にしよう。 そんな思いがあったかは、やはり誰も知らぬこと。 何せそれを語る者は、結局は何処にも居やしないのだから。 (-128) 2022/08/29(Mon) 4:50:38 |
【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 天使の子供 ソニー「なっ、お前」 花を与えることなんてしなければ。そんなこと、渡してやった花束をいちいち見せに来るその姿ですべてお釣りが帰ってきた。 お前ってやつはと頭を抱えてこずいたこの気持ちは 思惑通りとうとう永遠に知られないままになる。 親にもなれない、友にもなれない、恋人にもなれない、こんな中途半端な男の気持ちなんて伝わない方が幸せだと思い込んでいた。結ばれもしない、共に過ごすこともできない仲なんてすぐにその傷は癒えてしまうと信じつつも、苦い甘さを残し続けた。 「いいか、ソニー」 俺はお前の親でも何でもないし、 教鞭を振るう教師でもない。 それでもお前のことを心配している、ただの 「…… 似合ってる。 だからもう見せるな。 大人は頭が固いんだ」落ち着かない、甘い香りがいつのまにかひとつの印象しか与えなくなる頃には、脳が誰かを訴えることをやめない。 とっくにこれ以上上回ることのないお前への心が、態度が。 「歳を食っても変われない俺なんて気にせず。 バレないように、黙って好きなことしていろ」 怒気と呆れを含んだような声色は出せていたか。 視線をそらして見つめた先には白い花が置かれていて。 逃げ道がすくないその空間で人差し指を口許に当てて考え込む仕草をする。噛み跡がついておらずとも、そこにはすでにあなたを感じていた。 可愛げもない、素直でもない態度で吸い込むのはアーモンドの香り。そうして甘味で満たされた腹をどうしてやろうかとため息をついた。 (-129) 2022/08/29(Mon) 4:50:50 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ呆れを頭に受けていっときは唇を尖らせて不満を訴え、すぐに得意げな顔でしてやったりと笑う。 ほんのわずか、小さく鼓膜をくすぐる声を耳聡く聞き入れはするくせに、深くは考えない。 誉められたように捉えられなくもない叱咤だけを都合よく受け取ったなら、目を輝かせた。 深く透き通ったジェイドの色は幼い頃から翳りもせずに変わらない色をしている。 何も変わらずにあったなら幸せな終わりがあったか、なんて。想像こそすれど不確定なものでしかない。 「はぁ〜い、へへ…… 食べよ、もう厳しいこと言いっこなし! 先生のタルトタタンが一番美味しいんだよなあ」 食事を作るのは環境だ。いつだって貴方が傍に居たからにこそ、舌の上の甘味は幸福になった。 食い気が勝って人並みよりも若干食べ汚かった振る舞いは、いつしか完璧なものになってしまって。 貴方と貴方が仕掛けたものの思惑通りに、振る舞いと作用は完璧な刃へと育っていった。 貴方はそれを、喜ばしく思ってくれる? 2月、花祭りの名残のある日和。窓の外には白い小花があちらこちらに散って見える。 いつかの日。遠く過ぎ去った春の日。 ソファの隣に寄せた体温は触れ合わずとも暖かく、降り注ぐ視線はわざと突き放すものもなかった。 輝かしい未来を暗示するものでなくたって、青年は幸福だった。指に触れる温度が変わるまで。 8月の夜気が責め立てるような熱を肌身に迫らせる。 明かり取りの窓から差し込む月の光が、左手の薬指に嵌ったジェイドとアーモンドと<kanaとをきらきらと輝かせた。 あの安置室で共に、なんて身勝手な真似をしなかったのは、貴方が最後に見る己の顔が綺麗なままであるように。 己が最後に見る貴方の姿を己の血で汚してしまうことのないように。 誓われない指輪を揃いに嵌めていくくせに、慾するほどに共に傍に在ろうとするわけでもない。 奪うほどに己に正直だったなら、最後の瞬間くらいは一緒にいられたのかもしれない。 一滴、半滴でさえも、貴方の存在は天使の子供を救っただろう。 告げられることのなかった秘蹟は、遠く希望を繋ぐように口の中だけで唱えられた。 (-130) 2022/08/29(Mon) 10:06:26 |
ソニーは、ヴェネリオを、 愛している。 (a5) 2022/08/29(Mon) 10:07:10 |
【秘】 愚者 フィオレロ → 家族愛 サルヴァトーレ「答えを持っていそうな風格はありますけどね。いえ、単純に貴方の答えを聞いてみたいと思っただけなので、気楽に……、……」 彼の言葉の紡ぎ方がほんの僅かに違ったから、一瞬これはさすがに不躾な質問すぎたかと過ぎり、解答を聞いてすぐに思い直す。その答えの精細さが違う事にむしろ安堵したような気がして、笑い交じりに言葉を返す。 「全部って滅茶苦茶な無茶を言いますね。いや、」 「……それくらい、必要だったのかな」 それを望むのならそのくらいの覚悟と責務が、なんて思いはしたけれど、貴方の思惑通りこれは独り言のようで貴方に更に詳しく問いかける事はない。ただ、この答えがこの男が考えていた何かを呼び起こさせた事は事実だった。 「──確かに」 「俺じゃ思い浮かばないくらい情熱的だ」 改めて、随分と面倒見のいい人だなと感じる。それは聞く態度や姿勢、言葉の受け取り方も勿論入るし、投げている自分が言うのもなんだがこの手の話題を突然振られても引いた様子一つ見せる事がないところもだ。 実際にどう思っているかはさておき、見た目に出ないのではなく出さないようにしている在り方は見習いたいと話題の隅で強く思う。それこそ、向いてそうだと思ったのは秘密だ。実際は向いているどころか遥かに上の立場の人だったのだが……それを知る日もついぞこなかった。 それから、唐突に「付き合わせてしまったお礼にお礼でもと思ったんですが、……折角の花ですから引き留めるのもよくない。だからまた、機会があればその時はお礼をさせて下さい」 なんて一方的に告げて、唐突に声を掛けた時と同じように貴方に答えて貰った花を機嫌よさげに買って帰ったのだろう。その"機会"も結局は来なかったのだが──とある無人の空き家に、燃える鮮やかな赤の花が贈られる事になる。 (-131) 2022/08/29(Mon) 13:38:26 |
【秘】 翠眼の少年 ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ二つと聞けば、「そんなに食べられない」と。 三つと聞けば、「なんで増やすんだ」なんて。 そんなことを言って、少年はかすかに笑う。 早く決めてしまおうと目についたものにしようとすれば、他のものを示されたりして。 それはきっと、慌てなくていいことの裏返し。 あなたは少年が選ぶまで待っていてくれるし、きちんと選べば何も言わない。 「……ん。じゃあ、これ」 そうしてたっぷり迷って選ぶのは、紫色のぶどう味。 結局また支払いはさせてもらえないから、困ったような、呆れたような顔で。 なんでもない普通の親子のような、或いは兄弟のような気安い距離で。 ひんやりと甘いジェラートを食べ、祭りの喧騒を楽しんだ。 迷子の仔猫みたいに所在なく立ち尽くしていた少年は、確かに。 あなたに誘われて、この騒がしさを楽しむことができたのだ。 (-132) 2022/08/29(Mon) 13:54:19 |
【秘】 風は吹く マウロ → ”再び灯された昼行灯” テンゴ「せざるを得ないってところだろうよ、シマを荒らしにきた馬鹿どもに報復するにも数が減りすぎた」 このまま一つずつ潰される可能性もある。故に止むを得ずといったところだろう。いずれ、離反者が出る可能性は捨てきれないが。 「おう。……幸い、俺たち3人が残ってる。 どうにだってしてみせるさ。こんなとこで躓くようなら、どこにも行けやしねえだろ」 得意げに笑ってみせる。しょぼくれた顔は姿を消し、希望を取り戻したような。 前に進もうとするものの顔だ。 「あん?なんか言ったか?」 (-133) 2022/08/29(Mon) 15:27:43 |
【秘】 ”再び灯された昼行灯” テンゴ → 風は吹く マウロ「少し見ない間に随分と頼もしくなったものだな。」 つい最近までは子猫のようだったのに、と零しつつ。 内心はその成長に舌を巻いているのだ。 「全く持ってその通りだ。まあ体は動かせんが、まだ俺も現役だ。折れそうになったならば、その時は手を貸してやろう。」 その為にきっと自分は生かされた。 未来を見届ける為に。 「ふ、いや何、ひと段落したら、お前さんにわが親友が大事にしていた孤児院でも譲ろうかと思っているんだ。」 勿論受け取ってくれるよな、という言い方をする。 しかし、それを受け取るかは貴方次第だ。 (-134) 2022/08/29(Mon) 15:50:13 |
【秘】 愚者 フィオレロ → デッド・ベッド ヴェネリオ「そうですね。でも、それ以外の大切なものも沢山貰いましたから。確かに喜ばせる事が下手ですけど、救うのは上手でしたよ。 俺が、そうでしたから」 こうは言っても、半分も伝わりやしないのだろう。 どうしてあの花を贈ったのか。 貴方に何の幸福を見出していたのか。 それを直接語ったことは、ついぞないまま。 貴方は、あの花を見ただけで理解したのかもしれませんが。 救われたと、こうして言葉にできたのだから、もうそれで構わない。 「……地図でも書いてもらった気分ですね。 大丈夫です。そこだけは最後まで守り抜きましたから。 そうしてお墨付きをもらえたなら、もう迷いはしません」 例え記憶が失われて、別の家族を知っても。 その人格が別になるほどに、この男の"家族"はノッテだけだった。 「さようなら、カランコエを贈った 貴方。 もう、この鐘の音も──」 ずっと聞こえていた。 死後、この不安定な空間でずっと聞こえていた過去の象徴の音が。 生前、貴方がその印象を変えてくれたように、死後でもそれは変わらない。 だから、もう少しだけ待ちたい人を待てる気がする。 この後、終ぞ役に立てなかったと思っていたことすらも、 言葉を交わした少女によって教えられた男は、二度と迷子にならないまま。 どんな結果であれ、その日を待ち続ける事となった。 (-135) 2022/08/29(Mon) 18:29:54 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ――――― AM03:22 ――――― 「――………ヴェル、 デ?」 自らの瞼の隙間に浮かぶ、涙の重さで目が覚めた。 ノイズまみれのように暈ける視界、肘や腰に残る鈍い痛み。 低く呻きながら体をよじろうとして、両手が頭の上で何かに引っかかったように動かないことにようやく、気付く。 ――気が付いてしまえば、あとは一瞬だ。 ノイズが補正されるように、周囲の様子が視界へと入ってくる。 「………は。 最悪」 恐らくは、ワンボックスカーの車内。窓は完全に目張りされていて外の様子は分からない。 自分は両手をダクトテープで拘束されている。 周囲には5人──いや、運転席含め6人の男性。 白人。武装はそれぞれが銃、あるいはナイフ。 顔は隠していない。 「………」 その状況を確認した時、 ああ、私は死ぬんだな、 と思った。 顔を隠す必要がないのだ、こいつらは。 (-136) 2022/08/29(Mon) 18:46:14 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-136 「起きたな」 男のうちひとりが、声をかけてくる。 それすらもおっくうに感じながら顔をあげつつも、 ばらばらになった記憶のピースをめくらのままにはめ込んでいく。 伝手をいくつかたどり、次の情報屋のところで向かおうと外出。 その途中、海岸公園の近くでタイヤが路面を擦る音。 咄嗟に振り向くと、無灯火の車が突っ込んできて、 衝撃、 …… そこまで。 多分、私は車ではね飛ばされて、朦朧としている間に拉致されたのだ。 そう現状を仮に理解しながら、なるべく声にベッドの中のような平静さを装って答える。 「はい、起きました。あの、服、自分で脱ぎましょうか…?」 お気に入りのフリルワンピースは、路面に擦れて裾の一部が破れている。 そんなこと気にしている場合では、もちろんない。 両足を僅かに組み替えて、スカートを自分で捲る。 太腿を見せつけるように、なるべく淫猥に、けれど下品で滑稽になりすぎないよう腰を上げて。 (-137) 2022/08/29(Mon) 18:47:03 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-136 >>-137 「……ッ」 「いた、…ちょ、…」 左右に控えていた男たちが何にも答えず、肩を掴み押し倒してきた。 金属の音。 ざぐざぐと。 ワンピースが乱暴に切り裂かれ、ガキに与えたクリスマスの梱包みたいにはぎとられていく。 「ゃ、脱ぎます、自分でやりま、すから…っいっ」 肌のあちこちをナイフの刃先が霞めて、喉がきゅうとしまって声が漏れる。 ――そんなことで怯えている場合ではないのに。 「抵抗なんてしません、しませんから」 「殴らないでください」 「立場はわかってます」 「口でも、解いてもらえば手でも」 「もちろん下も、ただ、準備してからのほうがもっと…具合がいいと思うので……」 震える唇をあえて噛み殺さず、ただ声だけはしっかりと届くように懇願する。 レイプされるなら、まだいい。 この場で即座に殺される可能性だってあるし、 なんなら殺してからの方が使いやすいと思っている可能性もある。 抗争下で、ファミリーはいつもよりあちこちに目を光らせている。 時間を稼げば、もしかしたら助かるかもしれない。 ないだろうけどさ。 意地を張って反感を買う必要なんて何もない。 (-138) 2022/08/29(Mon) 18:48:02 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-136 >>-137 >>-138 どんなふうにされたって、死ぬよりはずっといい。 くわえたナニを噛み千切るなんて、そうそうできるはずもない。 ただ、私は生きる。 生き延びることだけが、今できる抗いだ。 男たちの態度を見る限り、やっぱり私をばらして捨てるのが目的だったのだろう。 ただ、痛めつけたり、辱めたりすることも求められていたようだ。 一発適当に犯して、あとは殺しておしまい。――そんな判断をされては困る。 私は美人だ。少なくとも顔の作りはいいほうだし、外出するときはメイクを怠らないし、 魅力的に、蠱惑的に自分を見せる仕草くらいは心得ている。 「なあ」 「早めにな」 それでも、リーダー格らしい男に何人かの視線が向いて。 そいつが銃を下ろしたのを見て、安堵の溜息をつかずにはいられなかった。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ (-139) 2022/08/29(Mon) 18:49:07 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-136 >>-137 >>-138 >>-139 「んぶ、……っ、ぁぅ、…はぁ、……っ」 5人目の男が、覆いかぶさるようにして乱暴に腰を振っている。 顔が近かったので自分から唇を押し付けて、舌を絡めた。 そうしたら更に乱暴になる。体の中が押しつぶされそうになって思わず声が漏れて、けれど喘ぐようにその息を整える。 「ぁ、はぁぁ、…ああー………」 ときたま声を跳ねさせて、腕をばたばたと振って車体を叩いた。 男たちを警戒させない程度に、何度も何度も嬌声と物音を立てる。 多少は疑われているかもしれない、が。大体の男は、腰を振るたび上がる声にプライドを煽り立てられる。 「ふあ、…あ、あー……っ、……」 …こいつは他のやつより大きくて、かさがごりごりと中をこする。 粘膜のかさなりを何度も何度も引きずられて、奥底までを埋められて。 戦いで流した血のように溢れた蜜が、それすらも奪い去るようかきだされていく。 乳房を掴む手は不潔で、痛みだけがときたまはしって、 それでもそれら全てが性感にみえるよう演技する。 いつものことだ。 いつものこと。 お前たちが命を懸け札に食い扶持を稼いできたのなら。 私は、女と体を切り売りして生きてきた。 (-140) 2022/08/29(Mon) 18:49:54 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-140 周囲には四人目までが、腰を下ろして、持ち込んだ酒瓶を開けている。 散らばった私のワンピースの端切れで精液と体液を拭う姿を見て、タオルくらい持ってきやがれと心の中で悪態をつく。 どろどろと汚れていくお気に入りの服は、それでもまだ赤く染まっていない。 私は生きている。 私は生きてやる。 強く熱く犯されるたび、下腹部に力を込めてきちり、と男を締め上げる。 高揚も喜びも、幸福も何もない。 ただ、頭の芯がひんやりと冷えていて、脳の表面はアドレナリンで燃えていて。 「ゃあ、……あぁぁ、…っ」 一分でも長く、一秒でも長く。 ――そうしていれば、男のうめき声とともに、また中で吐き出される。 ずるりと引き出される感覚のあと、どっと疲労が全身を襲う。 それでも次。次、を待ち望むように顔をあげようとしたら、 「いっ、…」 ずきりとこめかみが痛む。思わず声と涙が漏れた。 髪を掴まれ、座ったままのリーダー格の男のところに引きずられる。 そいつはこちらに視線すら向けずに、端末でどこかに通話を始めた。 (-141) 2022/08/29(Mon) 18:50:29 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-141 「そっちはどうだ。……ああ、おう」 世界共通語ではなく、イタリア語。 僅かに北部の方の訛り、がある気がする。 男は電話先の――多分男――に横柄な口調で指示をしながら、 どこかどうでもよさそうにズボンをずらして、汚らしいナニを眼前に押し付けてきた。 大してやりたくもねえけど、他のやつらの手前やっておくか、みたいな態度。 「………」 それでもにこりと、あからさまに媚びる。 男の腿のうえに投げ出されるような恰好で、顔を寄せて、男性器を舐め上げる。 ちらちらと顔をうかがいながら、含んで、咥えて、犬のように奉仕して。 「ああ、ひとりでいい。連れ出してさらえ」 ――電話口から微かに聞こえる声に、目を見開いた。 微かに聞こえてきたのは、ジュリアの声。眠たげな口調だけど、ちゃんと私の教育通りにお客様を通そうとしてる。 こいつの電話口の先、多分手下がいるのは、 「Pollo Nero」。 私の店だ。 (-142) 2022/08/29(Mon) 18:51:46 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-142 ――――― AM06:29 ――――― 男はたんたんと、私の店の娼婦をひとりさらう命令を下していた。 そんな男のものを、私はまるで恋人のそれであるかのように口で慰めている。 「……もうすぐもうひとりくる。 そうしたら、逃がしてやるよ」 リーダー格の男が電話をきるなり、私を見下ろして口をゆがめた。 もうひとり来たら、そのまま殺されるのだろう。 目許だけにあいまいな笑顔を浮かべて返しながら、ぐちゅ、と唾液の音を響かせる。 「もうそろそろ朝じゃねえか。 まあ、俺も一発――」 男の中で、私はもう死体に見えているのだろう。 殺すことが決まって、注意をはらうこともなくどう扱ってもいい道具だ。 奉仕を続ける私の肩を掴んで引きはがし、硬くて痛い車内に転がして覆いかぶさってきて。 (-143) 2022/08/29(Mon) 18:52:33 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-143 「兄貴、今……」 「あ?」 運転席の男が、端末を手に声をかけてくる。 「ダニオのやつ、店の前で捕まったって…」 「……」 ぷは 、と。思わず、笑いが漏れた。不覚だけど、もうどうでもいい。 あいつら、うまくやったのだ。 じゃあもう、私は無理だ。 「おい」 「っぁぐ」 噴き出した私のこめかみを、男の靴が踏みつける。 苛立っただろう、そうだろう。 けど、もういいのだ。 あの子たちがうまくやったのだから、私は腹いせに殺される。 あーあ、もう無理だ。そう思うと、さっきまで、 「あんたのちんこを舐めてたの、ばからしくなってき」 がん 、と。顔面に叩き込まれた爪先に、言葉と息が飛ぶ。 火花がばぢばぢと目の奥底で飛び散って、叩きつけられた背中がとにかく痛い。 (-144) 2022/08/29(Mon) 18:53:51 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-144 「……っ、ぐ、……ぇほ……」 「死にてえのか」 「……」 どうせ殺すつもりじゃん。 「………どうせ、銃隠して店に入ったんでしょ? しかもあんたの手下、はじめましてでしょ…? あのね、一応、あんな場所で営業してんの。 ファミリーの関係者の顔くらい抑えてんの……」 そう、ジュリアは良くやった。 今日のカウンターは誰だっけ? ロメオだっけ? あいつも気が利くようになったなあ。 ただやられるだけじゃ、だめだよ。 教えたでしょ。うまくできたじゃん。 もう、私いなくてもいいよね。 ごめんね。 男が途中から、私の言葉なんて聞かず、車内に転がっていた鉄パイプを掴むのを見て。 ――私が残すひとたちに、喉の奥で謝りながら。 私は今度こそ、死ぬんだなあ、と思った。 (-145) 2022/08/29(Mon) 18:54:28 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-145 「――…………ざま、……み、ろ」 命乞いと嘆願の末。 その口許は、自らの身内が最後に残した勝利に、笑顔のように歪んでいた。 ――――― AM06:35 ――――― 「ぁが」 がづん 、と。肉を叩くとは思えないほどの硬い音が、また響く。 頭をかばうようにかかげた腕にぶちあたった鉄パイプが、骨を叩いてびりびりと震えている。 がづん。 「ぎぁ」 狭い車内では、振りかぶるにも限度がある。 それでも喧嘩に慣れている者には、いかに人を壊せるようにぶん殴ればいいかの知識がある。 がづん。 「げぁ、…っっは」 がづん。 「……っ」 がづん。 (-146) 2022/08/29(Mon) 18:55:36 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-146 がづん。 「ぎゃ、…ぁぁ、……ぁぁう…」 鳥が絞められるような、気持ち悪い声。 それが自分の喉から出ているとはいまだに信じられない。 既に視界はぼんやりと暈けていて、右のほうなんて精いっぱいひらいても半分くらいが真っ暗だ。 がづん。 「……、……っ」 どろり、と何かが零れたような気がした。 鉄パイプの先端が頭をかすめて、出血した――んだと思う。 脳みそくらい零れているかもしれないけど、だとしたらこうして考えている今はなんなのだろう。 ちがうのかな。ちがうんだろう。 なにが? ちが がづん。 「ぇげ、…ひ、……っひ、……は、…」 いびつなかたちにまとまりかけた思考が、衝撃でまた霧散する。 血反吐と歯の欠片を吐き出しながら転がって、もう痛みすら鈍り始めて、それでもただ苦しくてたまらない。 (-147) 2022/08/29(Mon) 18:56:33 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-147 「たす、……たすけ、……」 がづん。 「……」 ソニー。 用意してもらったのにね。ごめんね。 私が逃げればよかった。わかってる。 わかってるよぉ。ごめんね。あなたをもういちど、抱いてあげたかった。 トトー。 こんなになっても私のこと、綺麗っていってくれるかなあ。 ねえ、助けてよ。ねえ。何死んでんの? バカ。 きてよ。助けてよ。 がづん。 「たす、……や、…めぇ、てぇ…」 ルチア。お店行けなくてごめんね。 ジェラートおいしくて、…あなたのところでは私、なんだか素直になれて。 ああ、いきたい。いきたいよ。今度はモカ。エスプレッソ。 がづん。 「ごめ、なさ」 (-148) 2022/08/29(Mon) 18:59:00 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-148 ヴィー。ごめんね。あなたのお店にもういけなくて。 ヴィー、寂しかった。寂しかったの。あなただけが私のともだち。 あなたは助かって、あなただけは助かって。今どうしてる? ねえ、 がづん。 「ぇぇ、…ぅ、……ぅぇえ、……」 ヴェルデ。 愛してるよ。 愛してたよ。 私、あなたのためになれたかな。 私、あなたの、 がづん 。ごめ がづん 。 (-149) 2022/08/29(Mon) 19:00:43 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-149 ――――― AM06:50 ――――― ――男たちが何か話している。 ずきずきとした痛みはもう痛みなのかどうかもよくわからず、 ただ不可思議な電気信号として私の全身を焼いていた。 「もう死んだか?」 「生きてる。ほっときゃ死ぬだろ?」 「まあやっとくか」 おいおい。私の命だぞ。 そんな簡単に決めないで。 もう半分くらいになってしまった視界を動かす。 男たちが何かを手に、私の足を掴んで開かせていた。 まだやんのかな、と思う。 サービスはできないよ。勝手にやるなら、いいけど。 「おい、普通に」 「いや、これやったらどうなんのかって」 「どうなんだろうな」 捕まえた虫の羽をどうちぎるかみたいな会話。 まあ、今の自分の状況をもしみたら、きっととてもみっともない、潰れた蝶々みたいな有様なんだろうけど。 もういいよ、どうせ死ぬんだから。 さっさと―― (-150) 2022/08/29(Mon) 19:01:20 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ折り畳み式のナイフなら、万一の際に備えていつも持ち歩いて居た。これで人を殺そうとするにはあまりにも心許なく、そういった用途で使われたことは一度も無いが、よく砥がれた刃は人の肉を裂く事なんか容易だ。 「…………ん、」 それをポケットから取り出す傍ら、ふと視界の端にネックレスが映った。最初は何かわからなかったが、すぐに貴方の持っていた物だと思い至る。どういった経緯で持ち歩いているのかは知らなかったが、手放すつもりはないらしいことは知っていた。 ……今ここで持ち去っていくのはこいつに悪いと思い、触れずにおく事にする。 だから、それはそのままだ。 地面に手を広げ、関節部分にナイフを当てがう。 刃を通せば薄い肉を断つ感触がした。流石に骨までは斬る事は出来ない。だから、体重をかける必要があって。 心の中で詫びながら柄に両手を添え、思い切り体重を乗せた。 ぱきゃ、と嫌に軽い音がした。 少し勿体ないと思った。仕方のない事だ。 ▼ (-152) 2022/08/29(Mon) 19:01:26 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-150 ずぐ、と。 そんなことを考えていたら、さんざんに痛めつけられた下腹部に、また別の痛みが走った。 「……っ、ぁ…」 「お、動いた」 「結構入るな」 最悪。最悪。最悪最悪。 多分こいつら、悪ふざけでものを突っ込んできた。 人の身体をおもちゃにする連中は、たいてい穴に何か突っ込みたがる。 ごつごつとして硬い何か。粘膜をがりがりと傷つけながら、ええと、これは、まあ、なんでもいいけどさ── 「ばん」 「ぇ」 Si Vis Pacem, Para Bellum。 がち、と撃鉄が落ちる音がして。 どうやら私の体内で、9x19mmパラベラム弾がはじけ飛んだ。 (-151) 2022/08/29(Mon) 19:01:58 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-151 ビアンカ・ロッカの体内で発砲された弾丸は腰骨を貫通し、脊髄を砕きながら体内を跳ねまわる。 骨に激突したことで弾頭が三つに砕け、それらが下腹部を中心に内蔵を著しく損傷させた。 「ぁ、あぁぁ、あぁ、ぁっぁあ、あ、あぁ、ぁぁあ、ぁ」 ビアンカはびくびくと痙攣するように、喉の奥から声のようなものをあげていた。 彼女の意識がその時あったかどうかは定かではない。 ただ体内で荒れ狂う銃弾が、その生命をずたずたに引き裂き、致命傷を与えたことは間違いが無かった。 「あ、……ぐぇ、ぇぼ、ぇお、……っっ」 「うわ」 「やべえ」 下腹部からの出血よりも早く。 びちゃびちゃと、その口からポンプのように鮮血が零れ落ちた。 ごとんと音がして頭部が傾いて、拘束されたままの腕と足がばたばたと跳ねて。 「……………ヴぇる、……でぇ………」 彼女の意識があったかどうかは、わからない。 多分、その場にいた誰も、意味のわからない名前をひとつ呼んで。 「……死んだな」 「すごかったな、カエルみてぇだった」 「じゃあ、書くか。書いたらバラして──…」 ビアンカ・ロッカは、死んだ。あとは、皆様の知るとおり。 (-153) 2022/08/29(Mon) 19:03:05 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ手を離せば小指はすっかり手から離れている。 心臓の止まった今、流れる血の勢いも鈍いのだろうか。 アベラルドはほう、と息を吐いてそれをつまんで持ち上げて、目の高さで眺めて見せた。 ……ああ、自分のやる事は終わったな、と心中独り言ちて。 清潔な藍のハンカチでそれを包んで──そういえばこれも貴方がくれたものだったか────上着のポケットに、そっと入れた。 命は貰い受けた。後は去るだけだ。 貴方のその整ったかんばせを見るのも、これで最後になるのだろう。 「……サヴィ。 またな 」「Sei nel mio cuore」 もう一度貴方の頭をゆったりと撫でて。 すっかり冷え切った唇に、もう一度キスをして。 「A presto」 それからは、何も言わずにこの路地を去る。 一人分の固い靴音が遠ざかっていく。 そしてここに残るのは安らかな骸と傍らのネックレスだけ。 貴方が誰かに見つかるまでの時間は、穏やかな眠りたり得るだろうか。 もはや、それは誰にもわからないのだろう。 (-154) 2022/08/29(Mon) 19:05:12 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ互いに失ったものを比較するほど愚かしいこともない。されど二つは似通っていた。 決定的にそれ以外は何もかも違えていても、尚取りこぼしたものの多さは近しかった。 失い続けた結果、更に失い続けることは無いだなんて空論を誰が信じることができる? 希望が重たかった。期待が重たかった。一笑して否定されたことでようやく足元が見えた気がした。 失った時点で死ぬべきだったのかもしれない。他を失わせるくらいなら、確かにそうだろう。 影法師のような男の姿をサイト越しに見据えて、微かに溜息を溢す。 「……ああ、そう。 よくわかってくれるじゃんか。オレはもう、一歩も動けやしないよ」 ひどく熱のない声は、何もかもが腑に落ちてしまったからだった。 惑う脚も誰にも伝わらない恐慌も、全てがどこに向かわせればいいものなのかを理解してしまった。 貴方の言う通り最初から答えは己の中にあって、それを肯定することが今、出来てしまったから。 銃口は相手の眉間に向けられた。己が推理したアウグストの死因と同じく、頭骨を効率よく貫いて。 交わされた相手の銃弾は腕が跳ねたせいで致命の一撃を外してしまった。肩の骨が砕け鉛が減り込む。 利き腕の神経を元に戻すにはどれだけの賭けをせねばならないだろうか。その時点で暗殺者は死んだ。 それ以外の生き方もできないのに、ヒットマンでさえあれないならその価値と意義は一切を失われたのだ。 相手の姿がぐらつくのを見て照準を下げる。もう一発は胸元へと。心臓が傷付けば血が溢れる。 確実に殺すための二発。省みる必要が無いが故の二発。己の姿を隠す必要はもう無いのだから。 血の流れる腕は相手の体が痙攣を止めるまで向けられていて、呼吸の音が途絶えてやっと下された。 銃を握ったままの影法師を、銃を握ったままに見下ろしている。 「──Addio. コルヴォ・ロッソ」 (-155) 2022/08/29(Mon) 19:52:32 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォそれから先は、どうしたっけな。 死体から服を剥ぐのも億劫なくらい片腕が重くて、そのままフルタングナイフの刃を入れた。 関節に刃を差し込み、ナイフのハンドルを足で抑えて軟骨を寸断してようやく死体を小さくしてやった。 それを、先程まで動いていた火葬車の中に寝かせた。入れ替わり、立ち代わり。 ここへ連れてきた彼女の灰を退かして、見様見真似に 異端者の地獄 へと押し込んだ。誰が来るのかもわからないのに、扉の向こうで燃える様子を眺めている。 いくらかに分けて、ひどく手間と時間を掛けて。ひとつ、ふたつ。全て灰になるまで。 途方もない時間は、宵の口の空をすっかりと昏れきった星色に変えてしまった。 そんなことをする義理なんてなかったし、望んでいるかどうかもわからないのに、 勝手にこんなことをしたところで文句を言う人間だって居やしないのだ。 自己満足、或いは酷く曲がりくねった感謝のつもりだったのかもしれない。 貴方の言葉と弾丸は、男をもう行き先の決まりきった道に押し込んだのだから。 最後のひとかけを押し込んで火を入れてから、腕の痺れが酷くなった頃に漸く離れた。 きっと用意周到な彼のことだから、あとのことを自分で何とかする手筈なんてのは済んでるんだろう。 遠くの街は祭りの最中とは言えすっかり静まっていて、そこから聴こえる音なんてのもなかった。 夏の気配だけが、なんでもなかった一週間を見下ろしてそこに或る。 血の滴る腕はそのままに、配達車へと戻っていく。片手には、娼婦の片割れであった灰。 焼け付いた死の匂いだけが、男の背中を押している。 エンジン音を最後に、廃倉庫からは誰一人いなくなってしまった。 もう、だれも。 (-156) 2022/08/29(Mon) 19:54:56 |
【秘】 永遠の夢見人 ロッシ → 愚者 フィオレロそれじゃあ。 少しの間を持って、 彼は文字を綴り始めることになる。 昔のことだとか、ほんの少し前までのことだとか、 あなたの人生の軌跡を辿っていくようなことを聞いたのだろう。 彼が聞いて、あなたが話してくれる分だけ。 聞かれたことと同じ問いを彼に返せば、 半分は答えてくれなかったが、 逆に言えば半分は答えてくれていた。 彼にしては随分なサービスしてくれたものだと言えよう。 話を続けて、意識はどこまであっただろうか。終わりはどうしてか曖昧だ。 すぐに終わった気もするし、長く続いたような気もする。 ──夢、夢、夢。 これはいつかどこかであなたが見た夢。 彼も見ていた、確かに在った終わりの夢。 (-157) 2022/08/29(Mon) 20:03:15 |
【秘】 風は吹く マウロ → ”再び灯された昼行灯” テンゴ「アンタの発破も効いてんだよ」 死にかける前のことだって忘れちゃあいない。 いつまでも塞いでちゃあ、おっさんに見せる顔もないってものだ。 「おう。ま、あんたの復帰した時にゃ俺たちの色に染まりきってるかも知れねえけどな」 なんて鼻で笑うのだけど。要は、心配すんな。ということを言いたいのだ。 「…リカルドといい、あんたらでけえもん託しすぎなんだよ」 「子供の扱いに自信はねえけど、折角だ。受け取っておく」 かつての自分達と同じ境遇のこどもたち。 気持ちを少しはわかってやれるはずだ。 「書類とかなんかは良くわかんねえから、リカルドに頼むわ。 かいつまんだ話はあいつから聞くよ」 よ、と立ち上がり。 本当に顔を見にきただけの男は「じゃ、そろそろ行くわ」と背を向ける。 その背中にはまだ言葉をかけられるだろう。 何か言い忘れたことがあるなら、今のうちだ。 (-158) 2022/08/29(Mon) 20:09:17 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレこれはいくらか昔の話。 そのマフィアにはある女がいた。 大口を開けて笑う豪快な女だった。縮れた赤毛に咥え煙草がトレードマークで、話す言葉には異国の訛りがあった。 彼女は組織の人間とよく付き合った。酒を酌み交わし、よく人と話した。その陽気な様子は、この国のマフィアに相応しかった。 ────カタギに惚れられちゃってさ……。 初めはそんな言葉。 彼女には、休日に図書館に行くという日課があった。幼少期を異国で暮らしたために、この国の絵本なんかが珍しいのだという。そこでよく会う学生に声をかけられたのだと。 ────ガキのくせにね……。 侮るような口調はしかしあたたかい。眉根を寄せながらも口元はにんまりと笑んでいて、つまりはまんざらでもない様子が伺えた。 程なくしてそのガキは彼女の傍に現れるようになる。図書館の外でも彼女に話しかけるようになる。────つまりは、そういうことだ。 社会の厳しさも汚さも微塵も知らないような少年はその無知ゆえに彼女に付きまとった。贈り物と共に甘い言葉を携え、行く先々で慕うように後に続いた。君を守りたいと言った額を女が小突く。少年はいつだって、薔薇色の頬をして女に笑顔を向けていた。 いつしか少年は青年へと成長する。 家族が増えるのだと女はその腹を撫でた。 (L24) 2022/08/29(Mon) 20:10:08 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレ笑い声が聞こえる。 笑い声が聞こえる。 誰かの声が聞こえる。 銃声が聞こえる。 罵声が聞こえる。 慟哭が聞こえる。 幸福は脆く崩れ去る。 路地裏に倒れる。 何人かが死んだ。 うち一人は女だった。 男はそれを見ていた。 見ていただけだった。 脳漿が滴って落ちる。 (L25) 2022/08/29(Mon) 20:10:36 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレ ────目を覚ました男がどう振る舞うかはファミリーの中でも注目の話題だったという。 血の掟、その7。妻を尊重しなければならない。 血の掟、その9。ファミリーの仲間、およびその家族の金を横取りしてはならない。 マフィアとて妻の命は大事にする。仲間の家族の命も大事にする。とりわけその男が女を深く愛していたのは誰もが知っていた。最愛を奪われた家族が狂うのは、蛮行に走るのは、復讐に傾倒するのは、何も珍しいことじゃない。 家族を処分するのは当然気分が悪い。 誰もが狂ってくれるなと願っていた。 果たして。 男は、狂いはしなかった。 彼は蛮行に走ることも、復讐に傾倒することもなかった。 恨み言のひとつも吐かず、怒りを見せることもなかった。 ただ笑っていた。 ただ明るかった。 不自然な程に。 彼はいくらかの肉と頭蓋骨の欠片、 それから脳みそ数グラムと一緒に、 記憶の一部も路地裏に落っことしてきたらしかった。 男の記憶にあの女はいない。 ちぎれた鎖は戻らない。 落とした螺は戻らない。 (L26) 2022/08/29(Mon) 20:11:20 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレ細いチェーンは銀色。 ペンダントトップはデフォルメされた白い花のモチーフ。 その中心には小ぶりのダイヤモンドがはめ込まれている。 それだけの、酷くシンプルなネックレス。 ────それは10年と少し前に流行ったものだ。 それを首に輝かせた女がいたことを、もう誰も覚えていない。 亡くした人は還らない。 幸福な終わりじゃないから、おとぎ話にはなれない。 語る口などどこにもないから、物語にすらならない。 (L27) 2022/08/29(Mon) 20:13:05 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
【秘】 永遠の夢見人 ロッシ → プレイスユアベット ヴィオレッタそれはきっと二輪とも、黄色の花だった。 おまかせのカクテル、 片隅の花瓶に生けられた花、 他にも気を向けていればちらほらと。 何の好みを聞かれても曖昧に返す彼だったけれど、 何色でもいいところには気持ち程度に、 実はその色が多かったものだから。 あくまで“気持ち程度に”とつくあたりは、 彼の彼らしいところであるのだけれども。 (-159) 2022/08/29(Mon) 20:16:37 |
ロッシは、黄金の色が好きだった。 (a6) 2022/08/29(Mon) 20:16:55 |
【独】 天使の子供 ソニー対向車線にさえ誰も通るもののいない僻地から伸びる道を、白いバンが駆けていく。 片手でハンドルを回し、助手席には女の焼けた灰を乗せて。 ハイビームが照らす道は、星明かりのために思いの外明るく感じられた。 「……なあ、ビアンカ。オレさ、お前のことお前んとこの子らに渡せる自信ないよ。 ヴェルデが持ってかれたところ聞いてたら、撒いてでもやれたのにな。 でももう誰にも会うつもり無いんだ。だから、書き置きだけで済ましちまうけど、ごめんな」 配達車は、花屋の倉庫へと押し込まれた。ドアの継ぎ目からは、溜まった血が滴っていた。 だから朝になれば店主が見に来て、中にあるものには気づく筈だ。誰に渡すべきかの意志も。 この花屋は唯の表稼業ばかりじゃなくて、みかじめ料の受付だったり資金洗浄の窓口だ。 ファミリーの息の掛かったきちんと託すに値する人々であり、野放図に投げ出したわけではない。 灰になった上半身がゆくべき先なんて、神の元へゆけないのだから他のどこともわからないのに。 誰か、何か。遺される人々の元へと渡るようにだけはきちんとしておこう。 (-160) 2022/08/29(Mon) 20:17:58 |
サルヴァトーレは、家族を愛している。 (a7) 2022/08/29(Mon) 20:18:33 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレサルヴァトーレは、傷の入ったレコードだった。 サルヴァトーレは、四小節のオルゴールだった。 穴の空いた記憶を無理矢理埋めて。 解れた矛盾の糸を無理矢理繋いで。 足りない部分をただ愛で満たして。 不純物がない宝石は硬く透き通る。 男の中には家族への愛だけがある。 最期までただ愛だけが残っていた。 (L28) 2022/08/29(Mon) 20:18:47 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
サルヴァトーレは、家族を愛している。 (a8) 2022/08/29(Mon) 20:18:57 |
【秘】 紅烏 コルヴォ → 天使の子供 ソニー返る言葉を聞いて、最後の一瞬。 ただ息を吐くような、音のない笑いが、銃声に呑まれて消えた。 何もかも、諦めのついたような笑みだった。 斯くして血染めの烏は地に落ちた。 或いはあなたの影法師であって、 或いはいつかあなたの行き着く姿であったかもしれないもの。 それと向き合って、それを認めてしまったから。 それがすっかり姿を消したって、もうきっとあなたの道は変わらない。 ──曰く、ドッペルゲンガーを見る事は、死の前兆なのだと言う。 (-161) 2022/08/29(Mon) 20:33:12 |
【墓】 紅烏 コルヴォ返す返すも、運の無い人生だった。 望んだ事は叶わない事ばかり。だからいつしか望む事さえ諦めた。 諦めた、つもりになっていただけだった。 奪われたものは、奪い返すべき相手からは得られなかった。 未来があって欲しいと願った人々は、やはりその大半を見送る事になって。 受けるべきであった、誰かを殺めた報いを受ける事も無く。 もしも果たされる時が来るなら、ずっと先の事であればいい。 そう思って口にした、他愛無い口約束を果たす事も無かった。 見届けるべき死の全ても、その目で見届けるに能わず。 それらの不誠実を、無力を、差し伸べられた手を取れなかった事を。 誰に謝る権利が自分にあっただろうか。 わかっていて、友人の全てを徒労にし続けた自分に。 (+0) 2022/08/29(Mon) 20:33:45 |
【墓】 紅烏 コルヴォけれど、いつかの昔に奪われた終わりは取り戻された。 誰かの道は途絶えても、確かにその先を歩いて行く誰かが居る。 全ては叶いはしなかったけれど、全てが叶わなかったわけでもなく。 良くも、悪くも、結局自分は何もしなかったのだから。 そんなものか、とも思う。 望む事も、望まない事も選べなかった、半端者には相応しい結末だ。 だから、見届けて来た全ての死だけを連れて。 家族も、帰る場所も、行き着く先も求めない。 名もなき烏は、何処へ行く事も選ばない。 (+1) 2022/08/29(Mon) 20:34:03 |
コルヴォは、もう誰の元にも戻らない。きっと子守歌を聞く事も無い。 (a9) 2022/08/29(Mon) 20:34:09 |
【独】 天使の子供 ソニーそして、彼の運び込まれた病院へと足を運んで。 残された先の20年を、託されたのだろう未来をふいにして。 代わりに貴方の薬指へと、ささやかな愛を贈る。プラチナに比べればチープで子供らしいものだ。 ジェイドとアーモンドは、けれども言葉通りの贈り物のつもりでさえないのだろう。 ロマンチックな誰かの決めた意味でない。どちらも、己自身。 神様の元へ貴方が行った時に、見下ろした風景の中に己の瞳と同じ色があったなら、 少しでも思い出してくれるかな、なんて。子供っぽくていじましい、自信のない誓いなのだ。 そこに、その位置に輝く煌めきに意味を見出すのだなんて、自分のほうだけだと思っていたから。 涙を拭った左手に、いくらか星の色がきらきらと反射した。 お別れだから、なんてはっきりとした意識のために涙が出たわけでもなかった。 ただ、貴方がもう名前を呼んでくれないこと、頭を撫でてくれないことがわかってしまったから。 もう随分と大人らしくごつごつとして、貴方の手でも包み込めやしない手も。 人を効率的に害する為だけを目的として鍛えた、随分と堅くなってしまった体も。 言葉ほどには厳しくない指先が触れてくれることはない。 貴方がいなければ幸せになれない、なんてことはない。それほどの己惚れは持ち合わせていない。 ただ貴方が願った自身の未来だとか、楽しく笑っていられるような世界だとか、 そういうものを託されて目指すには交わした言葉は少なすぎて、まだ話したいことがたくさんあって。 あとほんのちょっとだけ指を伸ばして、声を聞いて、ほんの些細な望みが叶えばよかったのに、 それさえ出来ないままに背を向けてしまった己を許すことが出来ないだけの話だった。 ねえ、オレはあんまり頭もよくないからさ。 ちゃんと教えてくれないと、わかんないよ。 教えてほしいことが、たくさんあったんだ。 家の鍵をかけ、廊下と隔てる鍵をかけ。バスルームに鍵をかけて、窓を閉める。 思い出の中のメロディは、時々貴方が歌ってくれたものだ。覚えているかな。 「……♪……♪……」 (-162) 2022/08/29(Mon) 20:34:09 |
コルヴォは、もう誰の死を葬る事もない。その必要がない。 (a10) 2022/08/29(Mon) 20:34:19 |
【置】 紅烏 コルヴォそれでも、うっかりいつか、何処かで再び逢う事があったなら。 誰にも許しを請いはしないから、許さなくていいから。 その時は、ただ怒ってはくれないか。 家族の望み一つ拾い上げられなかった、このちっぽけな男の事を。 (L29) 2022/08/29(Mon) 20:34:43 公開: 2022/08/29(Mon) 20:50:00 |
【置】 銀の弾丸 リカルド――ある、晴れた日。 男は、花束を3つ抱えて墓地に訪れた。 ひとつは、数日間しか共に居てあげられなかった少女の小さなお墓に。 ひとつは、心を知らなかった無垢な女の墓に。 ひとつは、心から敬い愛した上司の立派な墓に。 立場の違いがあるから大きさや場所までは揃えられなかったが、それでも同じ墓地の中にそれぞれ準備することが出来た。 勿論それは、俺一人の力ではなく、ツィオやマウロも共に尽力してくれたからに他ならない。 「一緒に来る事が出来たら良かったんだが、まぁ……、 二人共後で来るだろう―――と、」 墓標にLaura・Liberatoreと記された墓の前に来ると、そこには違う花束がふたつ置かれている。 「――なんだ、二人共先に来ていたんだな」 ふ、と可笑しそうに笑って。 墓の前に腰を下ろし、同じように花束を捧げて、両手を胸の前で組んで目を閉じた。 それぞれ話したいことがあったんだろう。 それを他の二人に聞かれたいとも思わないのは、自分も同じだ。 男というものは得てしてそういうものだが、果たしてここに居るはずの女は理解しているだろうか。 (L30) 2022/08/29(Mon) 20:37:42 公開: 2022/08/29(Mon) 20:55:00 |
【置】 銀の弾丸 リカルド「聞いたとは思うが……アルバファミリーと合併を視野に入れた同盟を組むことになった。 一人でも多くの人間を迎え入れたいと思って尽力しているんだが、……なかなかうまくいかない」 互いに多くの命を散らしてしまった。 組むくらいなら抜けるという人間もいれば、大事なものを追って死んでしまったものも居る。 その気持はわからないでもないが、俺はとても同じ道を歩もうとは思えない。 「なぁ、俺は。 お前の答えが聞けなかったなぁ……、まぁ、おおよそわかった気はしてるんだが。 今は聞けなくて良かったとも思ってるんだ」 「結局の所、俺もお前も、二人共が大事なのは変わらないからな」 自分にとっては、どちらが上も下もないから。 上司だけはまた違った位置にはいるけれど、それでも3人共何より大事な存在であったのは変わりない。 あの人のことだから、きっと、ラウラを一人にはしていまいと、 そんな事を思いながら目を開き、真っ直ぐに墓標をみつめた。 (L31) 2022/08/29(Mon) 20:38:35 公開: 2022/08/29(Mon) 20:55:00 |
【置】 銀の弾丸 リカルド「ラウラ。 お前に一つだけ報告がある」 「俺は今日から、名前を変えたんだ」 「だから……今日から俺の名は、 リカルド・ フィルマーニ だと、覚えておいてくれ」――――姿の見えないあなたの声が聞こえた気がする。 大事なものを二度と喪わないよう、 その名をしっかりと、自分に刻んで誓う。 いつの日か絶対に、3人であの景色全てを手にする為に。 (L32) 2022/08/29(Mon) 20:39:51 公開: 2022/08/29(Mon) 20:55:00 |
【秘】 ”再び灯された昼行灯” テンゴ → 風は吹く マウロ「そうか、そりゃあ何より。」 「染まってるならそれはそれでいいさ。いつまでも古い色ばかりじゃあ組織も廃る。お前さんたちの色に染めてやれ。」 それをきっと、親友も望んでいた筈だから。 「それくらい期待しているという事だ。胸を張っておけ。ああ、細かい事は奴に伝えておこう。」 「精々気張れよ、若人。お前さんは他の二人と違って、俺に近い生き方をするかもしれないからな。」 老兵は此処から先、去るのみとなる。 しかし、変わらず貴方たちの味方だ。 昔も、今も、これからも。 特に貴方は、純粋な血筋を持たない。 自分と同じく、余所者扱いをされる事だろう。 まだ離れるわけにはいかない。 彼らが確固たる地位を得るまでは。 だからそう貴方に声を掛けて、此方は見送る。 一刻も早く傷を癒さねばならない…まだ未来は始まったばかりなのだから。 (-163) 2022/08/29(Mon) 20:43:11 |
【置】 天使の子供 ソニー本名:ソニー・アモリーノ(Sonny Amorino) 死因:頭蓋部の損傷 発見場所:自宅バスルーム 遺体の様子: 頭部に二発、肩に一発銃撃の痕あり。頭部と肩からはそれぞれ別の口径の弾が摘出された。 一発目は喉から視床下部の下を通り後頭部へ抜け、貫通して後ろの壁に突き刺さっていた。 再度引き金を引いて、二発目は頭頂葉へ食い込み頭の中に弾丸が残っていた。 発見場所までの道は完全に施錠され、また荒らされた形跡もなかったことから、 拳銃は本人の所持物であり、自殺であると認定した。 器官のいくらかは壁にへばりつき、眼球からはすっかりと水分が抜けていた。 死亡から発見までは数日が経過しており、発見時には既に腐敗が進んでいた。 (L33) 2022/08/29(Mon) 20:44:09 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
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