【人】 九朗[「今の生活だって案外悪くはない」>>38 その言葉は正しく本心なのだろう。 九朗の微笑はただ、眠いのに眠くないと服の裾を握りしめる子供を見つめる親のような。 人の手ではどうにもできないことを、仕方ないのだと諦めて、飲み込むことを覚えてしまった大人のような。 そんな言いようのない温かさと寂しさを含んでいて。 九朗の顔を見ている一二三も、重たいものでも飲み込むように太い喉をぐぅと鳴らした。 わかっているのだ。 お互いに。 お互いにいい大人なのだから。 これ以上この話題に踏み込めば、傷を負うのは自分だけではない。 時間とともに曖昧にして、誤魔化したものを浮き彫りにしてしまうと。 互いに大人になったが故に、言葉にせずとも肌で感じて悟っている。] (56) 2022/04/10(Sun) 23:34:33 |
【人】 九朗[友人として過ごした時間がある。 時間の上に成り立つ信頼がある。 だからこそ 沈黙の間に見え隠れするそれを、言葉にして浮き彫りにするのが恐ろしい。] (57) 2022/04/10(Sun) 23:35:05 |
【人】 九朗[そうすれば長年の友人という関係も、そこにあった信頼も、春風に散らされた花弁のように空中へ投げ出されることになるだろう。 その花弁が着地するのは地面の上か、それとも嚙み合わなくなった歯車の隙間か。 どこへ飛ばされ、どこへ落ちるのか。 大人になったからこそ、曖昧にして誤魔化せるものもある。 何を思って一二三が言葉を飲み込んだのか。 それは九朗にはわからない。 九朗が後生大事に抱えている罪悪感や後悔を一二三が知らないのと同じだ。 死ぬまでにいつかは向き合わなくてはならない時が来るかもしれない。 だが九朗はそれを、曖昧に微笑んで先延ばしにしている。 何度も、何度も。 苦い薬を飲むように、言葉を飲み込んでくれる一二三の優しさにあまえている。] (58) 2022/04/10(Sun) 23:36:05 |
【人】 九朗そういえば、明日の祭りですけどね。 [作業台の一二三から目をそらし、他にほつれたところや、傷んだところがないか、手の中の縫いぐるみを検分しながら別の話題を振る。 わざとらしい話題の転換。 横顔に突き刺さる一二三の視線の鋭さを肌で感じながら、九朗は中身のない白兎に向かって話しかける。] 姪が神楽の奉納をやるんです。 姫櫻の神楽、覚えているでしょう? [この時期となれば、砂漠の海を渡って旅の芸人たちが稼ぎ時だと賑やかしにやってくる。>>28 人の目を楽しませる狐の神楽もそのひとつ。 九朗が言っているのはそれとは別の、薄墨神社の神楽殿で御神木に向かって捧げられる神楽のうちひとつで。 数え年で七つを迎えた少女四人が魔除けの鈴を髪に挿し、桜の枝を手に舞うのだ。] (59) 2022/04/10(Sun) 23:37:02 |
【人】 九朗[九朗の姪と聞いて、一二三が記憶を手繰るように宙を見る。 そうか、あのお転婆の娘がもうそんな歳か。 そう言って口元を綻ばせる一二三はなかなかどうして子供好きだった。 九朗の妹なら俺の妹も同然だとばかりに、実兄の九朗よりも手厚く世話を焼いていたのではないだろうか。 そんな兄の友人のお節介を、当の妹本人がどう思っていたかはさておき。 閑話休題。 兎角九朗が十歳の折、妹は神楽の舞姫に選ばれた。 それはそれは喜んで神社に通い、送り迎えをする九朗や一二三も巻き込んで練習していた。 だが幼いなりに熱心にやりすぎたのだろう。 当日になって熱を出した妹の代わりに、妹そっくりな娘がほかの少女たちに混ざって神楽を舞った。 自分ではない誰かが自分の代わりに神楽を舞うのを、一二三の背に負われて見た妹の胸中は荒れに荒れた。 神楽が終わるや否や、一二三の背でぐずり。 帰りの道で「飴でも買うか?」と機嫌をとろうとする一二三の背で散々手足を伸ばして暴れた少女の熱は増々上がって、家に帰れば居なくなったことを心配した家族に一二三共々散々怒られた。 それが余計に妹のジレンマに火をつけたのだろう。 一軒先の隣にまで響くほど、大きな声で泣き始めた。 そんなところに戻ってきた九朗は、どうして妹が南天よりも赤い顔をして、喉が裂けそうなほどの大声で泣いているのか分からず目を丸くした。] (60) 2022/04/10(Sun) 23:38:17 |
【人】 九朗どうしたの? 熱がつらいの? [こっそり妹を連れてくるよう一二三に頼んだが、着るものが足りずに熱が上がったのだろうか? 小さくなる一二三の前を一瞥して通り過ぎ、妹をなだめようと手を伸ばしたが…。 ―――― パチンッ バシッ! 容赦なく伸ばした手を叩き落され、返す手が九朗の頬を打った。 それもグーで。 これには両親に叱られていた一二三も、九朗の家族も、声を忘れるほど驚いた。 だが妹が泣いていることよりも、その妹にグーで頬を殴られた痛みよりも。 九朗の呼吸を止めるような衝撃は、黒曜石のような瞳からぼろぼろと涙を零す妹の一言だった。 「お兄ちゃんのバカ!嫌い! 大っ嫌い! あたしの役だったのに! 楽しみにしてたのに!! いっぱい練習したのに……!!」 聡い妹にはわかっていたのだ。 自分の代わりに巫女の装束を着て神楽を舞っているのが誰なのか。] (61) 2022/04/10(Sun) 23:40:23 |
【人】 九朗[同じ光景を思い出していたのだろう。 あの後は苦労したなと遠い目になる一二三に、九朗はあの時殴られた頬へそっと手をやる。 妹が逞しかったのか。 それとも九朗の当たり所が悪かったのか。 口の中まで盛大に切った九朗だったが、自分の怪我もそっちのけで、布団を被って籠城した妹に許しを請うので必死だった。 子供ながら、妹のために、ただ善かれと思ったのだ。 熱を出した妹の代わりに神楽を舞うことも。 一二三に無理を言って、妹を神社まで負ぶってきてもらったことも。 ただただ善かれと思って。 今日まで熱心に練習してきた妹の代わりに。 妹たちが舞う神楽を何度も見て、妹と一緒に何度も練習した僕ならできるでしょう? 今日という日を楽しみにしていた妹を悲しませないために。 顔付も背丈も似ているから、化粧をして髪を結えば、みんな妹だと思うよ だってこの姫櫻の神楽は、女の子が舞うものなんだから 必死に練習してきたものをあっさりと兄に取られた妹の気持ちを、幼い兄は目の前に突き付けられるまで考えてやれなかったのだ。] (62) 2022/04/10(Sun) 23:42:46 |
【人】 九朗結局あの件で、一番大人だったのはあの子でしたね。 [大事な神楽が終わるまでは、泣きも暴れもしなかったのだ。 数日後には一二三も九朗も許して貰えたし、翌年の祭りは両家の家族で和やかに花見を楽しむこともできた。 なにより数年後、今度は青年たちだけで舞う神楽の舞い手に一二三と九朗が選ばれたとき。 辞退しようとした九朗を「昔のことで悪いと思って遠慮してるなら、小さい頃の私に失礼だわ!」と叱り飛ばしたことだろう。 とはいえその妹の娘が、巡り巡って再び櫻姫の神楽を舞うことになるとは。 できれば今度こそ、熱を出さずに無事神楽の舞台に立ってほしいと。九朗も一二三も願わずにはいられない。**] (63) 2022/04/10(Sun) 23:43:49 |
【人】 橘 さて、っと [さして多くもない荷物を置きに自室に向かう めったに帰らないというのに住んでいたころのまま残っているのに笑いながら 一応帰るたびに多少の模様替えはしているが、それ以外に手が加わった気配もない 掃除はきちんとされていたが] いつ帰ってもいいように、かぁ…… [好き勝手やって来たのにこうして帰る場所を用意していてくれるのは 本当はそばにいてほしいという気持ちなのか、まあ聞いても絶対答えないなおふくろは それから親父のいる仏壇に手を合わせる 約束を果たしに帰ったことを告げても何も返りはしないけど] (64) 2022/04/10(Sun) 23:47:17 |
【人】 橘[そうして軽く風呂に入ってから用意されていた「簡単な食事」をとる どこが簡単なのかと聞きたくなったけど ご近所さんが様子を見に来たり、留守中の話などをしていればあっという間に一日が終わる] 明日はおふくろとご対面、かぁ [やれやれ、という気配が滲んで苦笑する 会いたくないわけじゃない、むしろ会いたいし怪我の様子も心配だ だがしかし、橘家はめっちゃ「かかあ天下」なのだ…… おふくろ曰く「父さんも創も好きな事ばっかりやってるから私がしっかりしないとでしょ!」だそうだ そしてその通りなので反論ができない…… 誤解の無いように言っておくと、家族仲はとってもよかった、というか、いい] 同居の件、納得してくれっかなぁ……しなくってもそばには居るけど [好きに生きろというなら、俺が帰って来たのも「好きにした結果」だと屁理屈をこねる] (65) 2022/04/10(Sun) 23:49:12 |
橘は、メモを貼った。 (a10) 2022/04/10(Sun) 23:52:49 |
【人】 澤邑あはは、ゆっくりでないと 追いつかないよ [ 紐がピンと張り詰めて、いく手を阻まれたこゆきが抗議の声をあげているように聞こえてつい言い訳を言ってしまう。 何度か繰り返した後、こちらを振り返るようになってきた。] ふふ [ かわいいなあと言いかけて笑うに止める。家人に聞かれていたら大変だ。十分手遅れなことに気づいていない。] ああ [ うまく歩けたのに、やっぱり土の上に転がることが何度かあって、さすがにこゆきも疲れてしまったようだ。 全力まで遊んで電池が切れたように眠るのが子猫だ。今日は十分疲れるくらいに遊べたらしい。] (67) 2022/04/11(Mon) 2:03:30 |
【人】 澤邑…… [ 縁側に腰掛けて、真っ白な柔らかな毛に絡みついた小さな葉っぱのかけらなどを取り除いた後、よく絞った湿った布で拭っていく。 その後は手足を摘んで、指の間の泥などを落としていくと、その都度不満ですよといった声を上げるのが可愛らしい。 まだ怒りとかではないようだ。 んなと声が上がるたびに、ごめんね後少しなどと言葉をかけてしまう。] もう少し練習したら花見に行くぞ [ 声をかけたところで通じやしないが、そんな言葉をかけて。>>59薄墨神社の階段を上がって参道を行けば、灰色の石畳に薄紅色の桜がすごく映えるのだ。 今年は三神さん縁の子が踊るそうだし、それとは別に>>28旅芸人も毎年訪れるからすごく楽しみだ。 こゆきはじっとしてられるだろうか、さすがに人混みは手綱を短く握って抱き抱えていよう。怯えてしまうかもしれないから、商店街を歩く練習もする。 ついにうとうとして膝の上で眠ってしまったこゆきをそうっと抱えて自室へと連れていく。 濡れた布をそのままにしていたから後で小言を言われてしまいそうだ。 まだ片付けられずにいるこたつに腰掛けてこゆきを膝の上に下ろした。まだ起きずに眠っていただろうか。 昨日読みかけにしていた本が近くにあったから眼鏡をかけてそれを読み始める。**] (68) 2022/04/11(Mon) 2:12:25 |
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