［────今日は本当にツイてない。*］
　

　

　　はい。プレゼンは成功でした。
　　当然ですよ。
　　契約書のサインも勿論その場で頂きました。
　　……はい？　……ありがとうございます。
　　それでは失礼します。


［本社への報告を終えて、営業用の携帯電話を折り畳む。
　間違っても聴こえてしまわないよう、小さく溜息を吐いた。
　無事契約は取れたものの、気分は晴れない。
　自分の失敗と、その後のことを引き摺っているからだ。］
　

　
［パワポは完璧に作り込んであったし、
　ヘンテコな自社製品の紹介だって淀みなく行えた。
　だが、顧客から思わぬ質問を受けて、
　頭が真っ白になった。
　あんなに入念に準備をしたのに、
　自分には何が足りていなかったんだろう。
　仕事への情熱？

　あのとき同行者からの助けがなかったら
　一体どうなっていたことか……。］
　

　
［……気まずさが勝って、
　感謝を伝えられない己は可愛げがない部下だ。
　プレゼンの時かるく会釈はしたけど。

　静かに深呼吸をして、振り返った。］


　　本部長に報告しました。
　　契約取れたからビジホ経費で泊まっていいそうです。
　　ってかそんなの当たり前ですよねぇ？
　　ここ田舎過ぎてバスも電車も次の便は朝ですよ。


［契約が取れなかったとしても経費でしょ？
　え、出ないの？　もしそうなら労基に訴えてやる……。］
　

　

　　会社が取ってくれた宿はあっちの方角ですね。
　　行きましょう。

　　
［努めて明るく振舞い、移動を促す。
　凹んでること絶対気付かれたくない。
　部屋に着いたら一人で飲もうかな、なんて
　このときは考えていたんだけれど。**］
　

[結果的には上々の出来だったと思う]

[本社に連絡を入れる様子を聞きながら、今日の出来事を思い返す
そもそも、今日のプレゼンを及川に任せると言ったのは自分だし
万が一、なんてことがあれば責任は負うつもりでいたのだけれど
多少危ういところはあったが無事にこなし契約を取り付けた
十分に合格というところだろう

とはいえ、かなり引きずってはいるようだが>>3]

　ん、お疲れさん
　流石にすぐ帰って来いとは言わなかったか

[帰ってこい、と言われても無理な話だ
都会ならともかく、地方都市ですらない郊外の外れ
パッと見ればそれなりに開けてはいるから不便そうには見えない
そこがこの町の落とし穴で、いわゆる企業のための町で住民はほぼ先ほど訪ねた会社の関係者だ
社宅と単身者向けの寮を兼ねたマンション、それらの不自由がないように建てられたコンビニやスーパー
それらの来店を見込んだショッピングモール
町から出なくてもほとんど揃うし、移動はマイカーだ

交通機関があればもっと便利かもしれないが、最寄り駅までのバスさえラッシュ時以外は無いに等しい

だからだろう、いわゆるビジネスホテルの類は充実していた]

　契約取れたから経費、ね
　取れなくても経費で落としますよ、私は
　そもそも、決めるのは本部長じゃなく経理ですし

[出張の費用は領収書その他揃えれば経費で落ちるものだ
会社のために使ったお金だ、当然のこと
裏で何かやってんじゃないだろうなあの本部……まあ、それはおいとこう]

　何か買っていきましょうか
　持ち込んだ方が安いですし

[何か思うところがあるのなら話を聞くのも上司の役目だ
もちろん、話を聞いて励まして落ち着いたら自室に戻るつもりだ
**]

　
［完璧がよかった。
　そうでなきゃいけなかった。

　営業部に配属されて三ヶ月。
　それまでは先輩に着いてまわるばかりで
　やっと任せて貰えたのが今日。
　それも、指名してくれたのは
　他でもない灰野さんだった。

　その期待に応えたいと思ったからこそ
　入念に準備をして臨んだのにあの様だ。
　彼のように素晴らしく立ち回る姿を見せたかった。
　その後悔が、頭の中で尽きない。］
　

　

　　ですよね〜
　　パワハラぎりぎりですよ
　　気の弱い新人が鵜呑みにしたら
　　一体どうするんですかね！


［尤もそんなタイプではないからこその
　冗談だったのだろう。本部長のは。
　引きずっていることを悟られているとも知らず
　へらへら笑って見せていた。
　そんな自分の姿は痛々しいものがあったかも知れない。］
　

　
［飲みに行こうと誘われなくてほっとした。>>9
　普段のお調子者なら「そんなこと言わずに
　部下の成功の祝いにどこか連れて行って下さいよ〜」とか
　言っていたかもしれないけれど、そんな気分じゃない。
　一刻も早く一人反省大会を開催したいのだ。

　もしも自分が望めば、きっと彼は話を聞いてくれるし
　良いアドバイスだって貰えるのだろうが。
　前提のハードルが高過ぎる。
　尊敬しているからこそ自力で差を縮めたい、なんて。］


　　ですね。コンビニ寄って行きましょう


［二つ返事で了承して、寄り道をする。
　ちょうど道すがらセボンイレボンがあった。
　自動ドアじゃないコンビニなんて
　片手で数えるくらいしか見たことがない。
　ドアを引いて、どうぞと上司を先に入れ自分も続く。］
　

　
［セボンで食べるものは大体決まっていた。
　トマトクリームパスタのフタの上に
　紙パックのミルクティーをのせて片手で抱える。
　パスタは店員さんに温めて貰おう。

　酒は何となく、買っている姿を見られるのが憚られて
　ここでは買わないことにした。
　ホテルの自動販売機にあるかも知れないし、
　どうしても飲まないとやってられない訳でもない。

　レジの前に「ちゅうかわ」の一番くじがあって
　二度見したのは余談である。
　なんかちゅうちゅう鳴く丸耳のかわいいやつ。
　嘘だろ……、都会だとすぐ売り切れてしまうのに。
　はー欲しい。A賞も残ってる。マジかよ。僻地最高か？

　それを買っている姿……、酒どころの騒ぎではない。
　チェックイン後こっそり戻ってきて買う、そう固く誓って］
　

　

　　自分は決まりましたよ
　　灰野さんは何食べるんですか？


［夜のコンビニに店員さんひとり。
　会計を先に譲るつもりで声をかけた。
　部下が先立って済まさない、ビジネスマナーである。*］
　

[一つ間違えばパワハラまがいのそれ>>11
いろいろ言いながらも本気で怒ってはいないようで、一応、冗句を言う相手は選んでいるんだろう]

　一応、あれでちゃんと相手は見てますからね、あの人
　そう言ってちゃんと「自分の意見を返せるか」
　特に営業は、相手に言い負かされて推し負けたら、ね？
　多分、期待されてますよ、及川君

　第一、今回は私も一緒ですし
　言い合いじゃ本部長には負けません

[そも、本部長のあれに負けるようでは長続きはしないだろう]

[話しながら彼の様子をうかがう
部下の体調やメンタルに気を付けるのも上司の仕事だ
特に、研修やなんやらを終えての初仕事だ、気合も入っていたんだろう>>10
上手くいったというのに、まだどこか緊張が抜けていないようだ
真面目な彼のことだから、早く早くと上を見て……息切れしないかが心配ではある
彼に期待しているのは私もなのだから

適度な力の抜き方もいつか教えておこう]

　まあ、こういう時は商談がまとまった祝いに、と行きたいところですが
　そこまでは経費で落とせないでしょうしね

[それに、この町は商談相手の手の内にある、うっかり商談の話をすれば、壁に耳あり障子にメリージェーン
ならば宿でしっぽ……ゆっくりの方がいい

幸い、コンビニはすぐ見つかった
開いててよかったのあれだ、本当にどこにでもある
開けられたドアに礼を言って店内へ>>12
建物は少し古いが品揃えは良いようで、なるほど夜勤向けかと思いながら選んでいく]

[適当にかごに放り込んでいれば声がかかる>>14
その手元には控えめな量の買い物
少食なのか遠慮してるのか、それについては言わないけれど]

　あぁ、少し量があるから先に会計していいですよ

[そう返して冷蔵ケースから缶チューハイを取り出し放り込むとレジへ向かう
かごの中身を見て彼はどう思ったか
ミニカップのお惣菜がいくつかと炙り明太子のパック
普通に酒のつまみである
ついでにグレフルの缶チューハイと発泡酒がいくつか
そして、申し訳程度のおにぎり二つ]

　ホテルの自販機って割高じゃないですか
　欲しいものがないときもありますし

[保険ですよ、と言いながら会計を済ませる]

　それ、最近よく見ますよね

[レジ前にあるかわいいキャラクターは、こんなおじさんでも見覚えがあるもの
SNSでも流れてくるとつい見てしまう、かなり人気者だ]

　こういうの、タッチの差で欲しいの取られたりするんですよねぇ……

[少し遠い目をしながらしみじみと呟く
,後悔は先に立たない、とは言わないけれど**]