![]() | 【人】 魔獣 フォボス代替わり、か……。 [朝摘みのいちごのヘタを取りながら、獣は呟いた。 獣の耳が特別良いというのは置いておいて、 使い魔の誕生を報せる音というのは、 同時に新しい魔術師長の誕生を意味する。 そのシステムを知ったのは魔術師になって何年目だったか。 「魔術師長」は「コヒ」と決まっていて、 当代が何らかの原因で命を落とせば「次のコヒ」が 生まれるようになっているらしい。] (3) 2025/05/19(Mon) 21:47:29 |
![]() | 【人】 魔獣 フォボス[エルトレアに出逢えなかった数十年は、 転生してまた「魔術師長のいのち」を続けられるコヒを 狡いと感じて、代替わりの報せも無視したものだ。 知らない内にまた代替わりがあったらしい。 同じ姿形、魂を持って生まれる筈なのに、 短き生を終えた「前のコヒ」には何があったのだろう。 態々赴いて聞く程ヒマではないのでその疑問は解消されない。] (4) 2025/05/19(Mon) 21:47:46 |
![]() | 【人】 魔獣 フォボスエルトレア、味見するか? [煮詰める前に一粒、つやつやで張りのあるものを 最愛のおくさまに捧げようと小皿に取り分ける。 そう、自分たちは20年弱、養い親と子として過ごしてきたが 夫婦としてはまだ新婚。 今は、愛し合うのに忙しい時期である。**] (5) 2025/05/19(Mon) 21:48:03 |
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![]() | 【人】 エルトレア[ まだ眠い、というように女はあくびを噛み殺した。 完全な昼夜逆転の生活を送っているわけではないが、 ″ 夜更かし ″といえるような時間まで 起きていることが、往々にしてあるもので。 朝摘みのいちごを処理する彼は、 女のように眠たげな様子ひとつもない。 ] たべる。 一番おっきくてあまいやつ。 [ 小さいのでいい、という遠慮は一切見せない。 幼い頃からすっかり砂糖漬けで甘やかされた女は、 ねだれば──いや お願いせずとも甘露を貰えると知り尽くしている。 ] (7) 2025/05/19(Mon) 22:25:07 |
![]() | 【人】 エルトレア[ 魔術師の記憶だけを持っただけの人間には、 鴉の声も輪廻の廻りも拾うことはできない。 不用意にその世界を覗き込むつもりもなかった。 ″ 代替わり ″がなにを意味するのか、 深層に眠る海馬の海は、知っているだろうけれど。 ] フォボス、食べさせて。 [ あーん、と口を開き さながら雛鳥のように果実を待つ。 小皿に取り分けてくれているのは見えていた。 けれど敢えて無視して甘ったれるのは、 それが女なりの、 「だんなさま」に朝から触れる口実だから。 ] (8) 2025/05/19(Mon) 22:25:21 |
![]() | 【人】 エルトレア[ 親と子として過ごした時間の方がまだまだ長く、 夫婦としては咲いたばかりの花だ。 蜜月は日ごとに甘味を増していき、 熱を交えて互いの体温を分かち合った。 このおねだりも、恋のささやかなスパイスに過ぎず 女は甘やかされて育った子どもとしてではなく、 「おくさま」として彼を見つめている。** ] (9) 2025/05/19(Mon) 22:27:20 |
![]() | 【人】 魔獣 フォボス[作る途中の「味見」や「つまみ食い」は美味いものと 相場が決まっている。 そしてそうする時に独り占めしないのも、ふたりの間では いつものこと。 彼女が子どもの時から繰り返されてきたやり取り。 だけれど。] ん、ほら。 [口を開いて食べ物を待つ時のおねだり自体は 子どもの頃甘えてきたのと変わらないのに、 此方がそう意識しているからか、それとも彼女が そう見えるように意識して振舞っているからなのか、 口の開きひとつとっても「女」を感じてしまう。 朝からちょっとしたことにドキドキしていたら 身が持たない気がする。] (10) 2025/05/20(Tue) 20:05:47 |
![]() | 【人】 魔獣 フォボス美味いか? 酸っぱいようなら砂糖をもっと足すんだけど。 [市井に売りに行くジャムは、森で採れる果実をベースに したもの。 森は相変わらず人間にとっては不帰の森なので 盗人の心配もないし、天候不良の際は魔術で風雨を防ぐ 位で特に管理が大変だということもないので 必要な作業と言えば採取と調理、それから売りに出すだけ。 後はふたりきりを毎日満喫している。*] (11) 2025/05/20(Tue) 20:06:01 |
![]() | 【人】 エルトレア[ 口を開いて赤く熟れたいちごを待ち、 彼の指をうっかり噛んでしまわないようにしながら 女は甘い果実を満足そうな顔で頬張った。 美味しい、と教えるように心なしか左目が輝き、 そのままこくんと飲み下して。 ] 酸っぱくないよ、甘くておいしい。 ……次はいつ街まで行くの? [ つまみ食いのおかげで眠気も覚めたらしい。 首を傾ぎ、摘まれたいちご達を見やる。 市井に赴くのは毎日のことというわけではないが、 ジャムを作るなら近いうちに人里へ降りるのだろう。 動物自体がさほど生息しない森の生態系のおかげか、 いちごはどれも艶めいて良い出来だ。 ] (12) 2025/05/20(Tue) 20:45:09 |
![]() | 【人】 エルトレア[ 女も昔と違い、幾分か人当たりはマシになった。 魔術師だった頃は「初対面」を演じれば済んだが 唯人の今はそうもいかない。 程々に愛想を振る舞い、違和感のない程度に話をし、 人に混ざることの重要性を学んでいる。 ] いちご、フォボスは食べない? [ 自分に与えた後、彼が味見する気配がないのを見て 女はいちごを目で選別し、一粒手に取った。 独り占めしないのは、二人の暗黙の約束だ。 ジャム作りに意識でも行って忘れているのか、と 考えて、「ほら」といちごを口許へ運んでやる。 ] (13) 2025/05/20(Tue) 20:45:16 |
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![]() | 【人】 魔獣 フォボス甘いなら砂糖はこのままで良いか。 今日作るから、明日だな。 [色が変じ、普段は自分しか見ないとはいえ、たまに一緒に 街に出る身、右目は隠されたままだ。 それを暴く時はふたりが蜜事に耽る時なので、 ちらりと見えた時には逆にそれがスイッチになりそうで 平静を保つのが難しい。 左目が輝くのを見て、つられて微笑む。 可愛い、と呟きそうなのを堪えて彼女からの問いに答えた。] (15) 2025/05/20(Tue) 21:56:20 |
![]() | 【人】 魔獣 フォボス[そんな訳で内心やましいので自分も味見をすることを 忘れていたら、エルトレアの方が気づいてくれる。 ねだる時に比べて、口元にいちごを運ぶ動作には 艶めかしさがなく、やはり先程見えたのは 自分が単に意識していただけだと反省した。] 食う。ありがとう。 [身長差があるとはいえ、腕を伸ばせば身体はこんな風に くっつけなくても良いと思うのだが。 跳ねる鼓動が聞かれそうだが離れるという考えはない。 あ、と口を開けていちごを迎えに行った。] (16) 2025/05/20(Tue) 21:56:41 |
![]() | 【人】 魔獣 フォボス[エルトレアと違い、獣は上手くいちごだけを拾えなかった。 唇が指を捉え、慌てた拍子に彼女が指を離す前にいちごを 潰してしまう。] んっ?! [汁が垂れて服を汚したら大変、とばかりに慌てて 舐めとった。] はあ……ごめん。 失敗した。 [エルトレアの手首を取り、長い舌で舐める。 洗った方が衛生的なのに、思いつかないのは獣の習性か。*] (17) 2025/05/20(Tue) 21:57:00 |
![]() | 【人】 エルトレア[ あした、と彼の言葉を反芻して飲み込んだ。 それなら寝坊しないようにきちんと起きなければ。 朝に弱い──というわけではないのだけれど、 関係性に″ 夫婦 ″が新しく表出してからは 思うように起きられない日も増えたから。 右目を隠す癖は抜けない。 前髪が長い状態にすっかり慣れてしまっているし、 ″ 万が一 ″はやはり恐ろしいものだ。 それに、誰かに進んで晒す必要も無いと思っている。 澄んだ蜂蜜のような鏡写しの琥珀色は、 彼との蜜月のために在れば良いと思うから。 ────それはそれとして、 腕を伸ばせばこんな風にくっつかなくても、なんて。 彼が思うことは確かに尤もだろうけれど 単に、女がくっついていたいだけなのだ。 ] (18) 2025/05/20(Tue) 22:51:22 |
![]() | 【人】 エルトレア[ 運んだいちごは、上手く拾えなかったらしい。 言葉を発する間もないままいちごが潰されて、 赤い果汁が女の手首をつう、と伝い落ちる。 ] え、 ぁ、ううん このくらいならすぐ洗えば──… [ 大丈夫、と言いたかったのに 声は最後まで音にならず、宙に溶け消えた。 手首を取られ、そのまま彼の長い舌が なんの躊躇もなく果汁を──── 濡れた女の肌も一緒に舐めたからだ。 ] (19) 2025/05/20(Tue) 22:51:27 |
![]() | 【人】 エルトレアひぁ、っン、 [ ぞわ、と背筋が痺れるような感覚が走って 無意識に声を零した女は、 次いで、慌てたようにもう片方の手で口を塞いだ。 彼の舌が肌を撫ぜるのは──── いつもなら、そう、二人で秘密事に耽る時。 今はそんな不埒な意味合いではないというのに、 咄嗟に夜を連想してしまった自分が恥ずかしくて かあ、と頬を赤く染め、 誤魔化すようにそのまま前髪を弄る。 ] (20) 2025/05/20(Tue) 22:51:31 |
![]() | 【人】 エルトレア…………ぁ、あの、フォボス…… ………………その。ええと……。 [ 何を言っても墓穴を掘る気がした。 言葉に詰まり、視線を右往左往させ、 心情を表すように前髪をくるりと指に巻き付けたり かと思えば整えるように指先で梳いたりと、 女の所作は忙しない。 ] …………お、おいしい? いちご。 [ 聞き方がぎこちなさすぎるということくらい 女はとうに自覚していた。** ] (21) 2025/05/20(Tue) 22:54:41 |
![]() | 【人】 魔獣 フォボス[街に売りに行くのは大抵午前中だ。 その方が売り上げが伸びるからである。 魔獣は朝に強いけれど、エルトレアはそうでもない―― のは夜につい1回で終われないことがあって疲労が 取れていない朝もあるという、完全に自分の所為なので 今晩は大人しくしておこうと心に決めた。 反芻する声は、起きなければと彼女が気合を入れたように 聞こえたから。] 収穫量が少ないなら今日中に行けそうだけど、 この量じゃな。 作って冷まして瓶詰してシール貼って、で 夕方になるなら、明日にした方が良いだろ。 [一度実った果実は時期を逃すと味も落ちるし傷むので、 食べ頃に一気に採集すると日によって量がまちまちになる。 今日はかなりの作業量になりそうだ、と見ていたから、 距離を詰められた時には予測がついていなくて 鼓動が速くなるだけではなく顔も赤くなってしまった。] (22) 2025/05/20(Tue) 23:27:39 |
![]() | 【人】 魔獣 フォボス[動揺のまま食べた味見は行儀が悪いことになり、 エルトレアは洗うことを自然と考えられたのに 獣は考える前に舌が出た。 驚き、というよりは喘ぎのような声に、金色が煌めく。 獲物を見つけた時の肉食獣の瞳。] かわいい。 [今度は呟きをかみ殺すことが出来なかった。 誤魔化そうと長い前髪を弄ってしどろもどろになる姿も、 結局出た声については何も言えずに味を聞いたぎこちなさも。] (23) 2025/05/20(Tue) 23:27:58 |
![]() | 【人】 魔獣 フォボスうん、ジャムにするのはちょっと勿体ねぇな。 日持ちを考えて今までずっと煮てきたけど、 売れ残ることもない訳だし、これからはこのまま 洋菓子店とかに売っても良いかも。 [目を細めて褒めた後、聞かれた通りに味の感想を告げる。 手首を持ったまま歩き出し、流しに連れていく。 不帰の森の中の一軒家で水が使えるのは、川の水を 魔道具で引っ張ってきているからだ。 いちいち手で汲まなくても洗い物や風呂、便所に 水が使えるので、街にある金持ちの家よりも便利な 可能性がある。 水道で果汁と獣の唾液を洗い流してタオルで拭く。 彼女は不意に出てしまった声のダメージから抜けられただろうか?] (24) 2025/05/20(Tue) 23:28:47 |
![]() | 【人】 エルトレア[ ────実際のところ。 蜜事が一回では終わらない時があるから、 疲れて朝起きれないというのは確かに間違いではない。 しかし何も彼だけが求めているわけではなくて、 熱に浮かされた女が「もっと」を求めるせいでもある。 つまるところ同罪なのだが、 突かれない限り黙して秘めるつもりだ。 ] 確かにそうかも。 夕方くらいになると、皆家に帰るもんね。 [ 夕焼けは魔の時間、とも言われている。 人間は基本的に暗くなる前に家へ戻ってしまうから、 彼の言うことは一理どころか百理だ。 頷いて、いちごのように赤い彼の顔を見た。 ] (25) 2025/05/21(Wed) 20:14:08 |
![]() | 【人】 エルトレア[ 少し揶揄ってやろう、なんて悪巧みは風に流れ 次は女が顔を赤く染めることになった。 明らかに動揺していますと言わんばかりの挙動は、 どう考えても、何も隠しきれていない。 嘘を吐くのが上手だった魔術師と違って、 女は誤魔化しひとつさえ下手だった。 ] ……しってる。 [ かわいい、と呟く声が聞こえて 更に羞恥と照れを滲ませながら女は目を逸らす。 前髪を弄っている間、ちらりと見えた彼の琥珀が 獣めいた色を映していたからだ。 ──夜の匂いがする。 今はまだ朝なのに、過ごし終えたはずの夜の気配が 足音を立てずに二人の傍に忍び寄っていた。 ] (26) 2025/05/21(Wed) 20:14:12 |
![]() | 【人】 エルトレア[ しどろもどろな女とは真逆に、 彼は至って平然とした様子で答えをくれる。 なんの繕いも途切れもない、いつもの調子で。 ────今さっきの目の色は気のせいだったか、と 女が勘違いとして流せてしまう程度には。 ] ……こ、このまま売るなら、私も出来るよ。 最近は色んな人と、 上手く話が出来るようになったし…… [ 手首を引かれながら、女も笑みを浮かべて返した。 市井に降り始めた頃は専ら彼任せだったことも、 今は少しずつこなせるようになっている。 自分ひとりでも洗うことくらい出来たのに、 水で流して、タオルで拭ってくれる彼は献身的だ。 「ありがとう」と言いながら甘やかしを受け取れば、 女も少しは混乱から抜け出すことが出来ていた。 ] (27) 2025/05/21(Wed) 20:14:16 |
![]() | 【人】 魔獣 フォボス[自分と同じ位に生まれた人間はもう殆どが死んでいる。 そのくらい長きを生きても思ったより人間社会の文明は 進まずに、いまだ「魔」を忌むべきものと捉えている。 もし、このまま彼女が魔術師となることを望み、 もう少し長くふたりで生きていれば、いつかは 嘘を吐いたり騙したりしなくても人里を出歩けるように なるのだろうか。 今のような「ジャム売りの夫婦」の形は恐らく10年くらいが 限界だろうから、また新しく「はじめまして」を始める為に 他の手段も考える必要がある。 勿論、彼女がこのまま人間であることを望むとしても、 ずっと傍に居る為の方法を探していくのだが。] (28) 2025/05/21(Wed) 21:41:43 |
![]() | 【人】 魔獣 フォボスうん、手伝ってもらえると助かるよ。 [家庭教師の女に色々教わっていた頃よりも頻度は落ちている のだが、当時よりも今の方がスムーズに話せている気がする のは、目的意識の差だろうか。 人間が好きという訳でもないのに、街で出会う人に対し 愛想良く振舞えているなと最近は感じる。 ……男にはあまり良い顔をしないでほしい、という嫉妬は 隠せているつもりだ。] (29) 2025/05/21(Wed) 21:41:55 |