やっと戻ってこれたな……。
ここを、こうすれば……！

［男はダンジョン最深部で、宝玉にかけられた魔法を解いた］

　
　　あー、やーっと出られたぁ〜。
　　ダルいことしてくれんじゃん、人間め。


［オレは機構管理人。
　この機構を創ったヤツに、管理役の淫魔として創り出された。
　そう、そこにいるヤツだ］


　　帰ってくんの遅いよぉ〜。
　　ヒマでヒマでしょーがなかったじゃん。


［創造主に文句を言いながら室内を見渡す。
　封印を解かれたオレの目の前には魔鏡があった。魔力でダンジョン全域を見通せるスグレモノだ。

　今回は素質のあるヤツはどのくらいいるだろう？
　彼らの堕落度を見定めようと、オレは侵入者たちの様子を一人ひとり見つめていく］

　
　　おぉ？
　　あのコもこのコもなかなかいいね。


［堕落度の高い人間が数人いる。ほんのちょっと遊んだだけで堕ちてくれそうな“高い素質のある人間”。
　淫魔の素質が、ね。

　淫魔に堕とすのは楽なほうがいい。
　簡単に堕ちる人間なら、その分、手強い人間たちを堕とすのにも一役買ってくれるだろうから］

　
　　今回は仲間がたくさんできるといいな〜。


［前回は封印されてしまったから、ろくな成果がなかったのは言わずもがな。
　その前はそこそこだった気がする。そのときできた仲間たちは今もこの機構にいるはずだ。
　オレと同じように目覚めて、手近な人間たちで“腹ごしらえ”でもしているだろう──性的な意味で］

［淫魔は子種を持たない。
　命を孕むこともできない。
　そういう人造生命だから、同族を増やすにはゼロから創り出すか、他種族を淫魔に堕とすしかないのだ。

　ゼロから創れる者なんか多くない。
　だからここは人間を淫魔に堕とすために作られた。

　なんでこんな場所を作ったのかって？
　知ーらない。
　創造主はそこにいるけど、興味が湧かなくて聞いたことがない。

　まぁ、きっと好きなんだろう。
　快楽に喘いだり喘がされたりしてる人たちを見るのが］**

――冒険者ギルド・倉庫――

[徐々に深まる口づけ、水音の狭間
女を抱きすくめる男の背後の扉が僅かに揺れる。

この時間にギルドの倉庫に来るのは、彼に片想い
しているあの子位だろう――回復職(ヒーラー)の。
イクリールは、翻弄された素振りの吐息のなかに
ほんの少し笑みを漏らした]

　もう、…おしまい？

[胸を押しつけ上目に見つめれば、それで済む。

男が、走り去っていく影に気づくことはなく
返答は蛇が絡み合うような口づけの裡に紛れていった]

[イクリールは奔放な女だが、本人なりの線引きとして
パートナー持ちに手を出すことはない。
ただ。老若男女問わず誰かの思い人の存在に気づこうものなら
即ちょっかいをかける悪癖は、そこそこ知られているかもしれない。

ほんの1、2回……＋(5)^1d6回くらいの事なのだけど。

｢さっさと結ばれるようにつついてあげたのに｣
と嘯いて酒場で場外乱闘になりかけた時は危うく
出禁になるところだったものだから。

派手で軽薄な騒ぎに紛れて、イクリールが何故か特別
回復職に辛辣な事は、ほとんど表沙汰になっていないけれど]

[淫魔なんてものは、背徳と釈明の産物だ。
浮気や婚前交渉の、ていのいい言い訳。

『淫魔』のせいで純潔と仕える神の加護を失った
……という事になっている母から生まれた女は、そう言って憚らない。
14で故郷を飛び出して冒険者として落ち着くまでの
年月は、幼気な子供を擦れさせるに充分だった。

理不尽に淫魔の子と嘲られていた頃より、今はずっと自由。
イクリールは、今日も浮き世の刹那で舞っている]

　
　はぁ、どうしようかなぁ。

[暗転。軽く遊んで、身を清め。
いつものように冒険者ギルドで駄弁る女の姿があった]

　ダンジョンの酒場へのお詫び、
　人寄せの余興にひとさし舞ってみようかしら？

[思案しながら、手遊びに短剣をくるくる回す。
真剣みのないイクリールに、受付は呆れ顔だ]

　えー、だめ？
　一応、良い干し肉も用意しておいたんだけど。
　瑞々しい土産の方が喜ばれると思わない？

[今日の依頼をチェックしながら、女は花のように笑った*]