「ふぁ……ねむ」

のて……のて……。
しっかり教材が入っているのか大分怪しい、
膨らみの薄い鞄を肩にかけながら歩く一年男子。

昨日の検問には引っ掛からなかった。
なぜなら体調不良で休んだので。
当然検問があったことも知らない。

「なんかうるさいな」

ビタイチ興味を示さず、近くを通りすぎようとして。

「…………いや。人違い……　
　」

また誰かに【見間違え】られたらしい。
要望がどうだの意見がどうだの、
そもそもお前がやりすぎだだの……
ありとあらゆるブーイングを受けている。

「な……、なに、あば、あばば」

解除しようにも詰め寄られていて手が動かせない。
誰か助けて。

>>G84　若井


かけられた名前も声をかけてきた当人にも見覚えがない。
多分……一年じゃない……と思う。多分？　てことは上級生か？

いいさ、大丈夫。彼の目の前で手を左右に振れば──


「……ぼ……　ぼくは……　あの……
　違……　神谷って……　言い……」

ぼそぼそ喋るが、聞き取れるかどうかは不明。
しかもこの見間違いの異能、声も見間違えている当人のものと錯覚してしまう最悪っぷり。
喋った言葉そのものは変化しないので、そこに若井が違和感を感じればなんとか見抜いて貰えるかもしれない。

>>G86　シオン

あっ。たぶんあの人はちゃんと見えてる。
ねえ助けてください。
大声とか出して意識が逸れれば案外ぱっと
途切れるんですよこれ。

……という念を送った。

>>G87　若井

「ちが……　カミヤ……　ごっ……　ええ……
　それ……　ぼくじゃ、……お、かね…………」

誤解は解けない。
財布を出してこの場を凌ごうにも、その余裕がない。

……いや、待てよ。
財布を出すからまわりの連中を退かしてくれ、って言えば腕を動かす空間ができるのでは？
そうすれば異能を解ける。よし……！

>>G90　シオン

あいつ許さないからな
顔覚えたからな
夜道には気を付けろよ

みたいなことを考えた。
当然念は届かないし、夜道に襲ったりもしない。

>>G92　若井



ここまでが心の中の声。




こちらが実際の声。いじめられっ子かな？
なお周囲の見間違い被害者も、今の大声で全て解けたようだ。口々に疑問を呟きながら徐々に人がはけていく。

>>G95　若井



「いえ…………　別に…………　平気…………
　いつもの…………　ことで…………」

ぼそぼそ呟きながら鞄を肩にかけ直す。
内心は口には出はない。顔には出ていたかも知れないが。