【人】 世良健人俺は、卒業するまでに 彼女に全てを打ち明けようと思う。 あの日、天文台で交した誓いを 忘れたことなんてないけど 俺はきっと彼女と一緒に前を歩むために 悠長にしてちゃいけないから。 (8) 2025/01/20(Mon) 0:00:39 |
【人】 世良健人とはいえどうすればいい? 話すことは変わらなくても伝え方は重要だ。 俺の母親はクソ女だと口にしても 人の善意を馬鹿みたいに信じてきた そんな音色ちゃんに陰りを落とすだけになる。 だからって擁護したくもないし、出来ない。 三年生になってからというもの 相変わらず授業を聞き流しながら 必死に考え事をする機会が増えていた。 (9) 2025/01/20(Mon) 0:01:05 |
【人】 世良健人クラスメイトと一緒に食堂で 昼飯を食べる時でさえ考え事をして つい愚痴ってしまった。 三年生になるまでクラスは別だったが こいつとは結構話せる間柄だ。 世良も大変だねと 端的に労うこいつもこいつで 結構苦労してそうなもんだけど。 いつだったか暫く学校休んでたし。 「ほんとな。俺はお前みたいに器用じゃねーの。」 クラスメイトにも彼女がいて 相変わらず関係は良好らしい。 そいつは隠している秘密なんかないし 全部打ち明けて一緒に背負うって決めたから 今は気楽なんだときた。全く、羨ましい。 (11) 2025/01/20(Mon) 0:03:49 |
【人】 世良健人「でも、結局俺が考えることだもんな。」 葱たっぷりのかけうどんを食べながら クラスメイトの労いを受け止め 自分なりに彼女に伝えるべき文章を組み立てていく。 「朝日と惜別さんみたいになるには まだ俺の力が足りないんだわ。 だからって、いつまでも音色ちゃんを 待たせるわけにいかないからな…。」 いままでコミュニケーションを何年も放棄した そのツケを払わされているわけ。 今の俺は正に前途多難だ。 (12) 2025/01/20(Mon) 0:04:24 |
【人】 世良健人「悪いな、こんな話付き合わせて」 本当に、昔なら考えられないくらい 交友ができるようになったと実感する。 このクラスメイト兼友達の朝日にも 俺を変えてくれた音色ちゃんにも 悩みを抱えているのは昔と変わらずとも 独りではないおかげで上手くやれそうで 皆には、本当に感謝しかない。** (13) 2025/01/20(Mon) 0:08:50 |
【人】 世良健人そして三年生になった春の放課後、 ちょうど金曜日で、明日は土曜日の日 俺は音色ちゃんと一緒に帰りながら 思い切って、言ったんだ。 「あのさ、音色ちゃん。 俺ん家、今日から三日間だけ 父親が家にいないんだ。 よかったら、来ない?」 微かに声が震えたのは この誘いが、秘密を打ち明けるためのものだからだ。* (14) 2025/01/20(Mon) 0:09:42 |
【人】 藤吉音色三年生になって、 ハツナちゃんとはクラスがいっしょになった。 健人くんは朝日くんと仲いいし、 一緒になれてよかったね、って クラス分け見たときは嬉しかったな。 ハツナちゃんは二年生の三学期から 生徒会長に推薦されて、結構忙しそうにしてるけど こうしてたまに一緒にお弁当食べたりするんだ。 春の屋上は陽があたって気持ちいい。 しばらくは他愛ない話をしながら コッペパンをかじってたんだけど……。 (15) 2025/01/20(Mon) 2:40:59 |
【人】 藤吉音色 「ハツナちゃんって…… 朝日くんに秘密、とかある…………?」 意を決して聞いたのは秘密の話。 ハツナちゃんは私が秘密にしてること、 知ってるし、それを聞いてすぐピンと来たみたい。 (16) 2025/01/20(Mon) 2:41:27 |
【人】 惜別ハツナもうないよ、前はあったけど。 嘘ついたら、嘘だってバレちゃった。 二人でいいことも悪いことも全部背負って 一緒に居たいって、今はそう思ってるから 秘密にしてることは特にないかな。 [ ふと空を見上げて、太陽に手をのばす。 あれから、色々あったけど 最近は結構穏やかに過ごせてると思う。 千羽鶴をくれた子達にはたっぷり お礼 したし。 音色ちゃんは知らないことだけど 世良くんには知られてるかもしれないね。 お礼した後はとやかく何か言われることはなく。 ] (17) 2025/01/20(Mon) 2:44:25 |
【人】 藤吉音色「ハツナちゃん、さすがだね。 なんていうか………大人だな。 私、あの日の事まだ言えてなくて………。」 多分、最初に秘密の話をした時点で 察してるんだろうなって思いつつ打ち明けたら、 そっかー、って相づちを打って ハツナちゃんは暫くメロンパンを頬張ってたけど。 手元のココアを一口飲んで (18) 2025/01/20(Mon) 2:47:26 |
【人】 惜別ハツナんー、音色ちゃん、嘘つけないし 映画にもし誘われたりしたら 自然と打ち明けることになりそうだけど…………。 秘密にしてるの、後ろめたい気持ちがあるなら 何処かで話したほうがすっきりするよね。 これは世良くんに限った話じゃないけど 好きな人のことって なんだって知りたいものだから 秘密にされちゃう方が悲しい、かもね。 (19) 2025/01/20(Mon) 2:48:28 |
【人】 藤吉音色なんて微笑むハツナちゃんはやっぱり大人っぽい。 ついつい、困ったことがあったら相談しちゃう。 秘密にされちゃうの、確かに私だったら 言ってほしいのにって思うなぁって ハツナちゃんの言ったことに納得しながら。 「ごめんね、こんな話しちゃって。 今度、話してみようと思う!」 微笑むと、楽しい話題に切り替えたんだ。 たとえばそう……、決まってなければ 遠足の班、一緒にどうかな、とかね。** (21) 2025/01/20(Mon) 2:49:54 |
【人】 藤吉音色そして三年生になってしばらく経った、春の日。 いつもみたいにいっしょに帰りながら 切り出された誘いに、思わず足を止める。 「健人くんの家………?」 ふ、と顔を隠すように少し俯いちゃったのは 怯えが伝わってしまうのが嫌だったから。 でも、嘘がつけないし、つきたくもないし。 いつか言おうって決めてたことなんだから、って おそるおそる顔をあげると (22) 2025/01/20(Mon) 2:50:35 |
【人】 藤吉音色 「お父さんはいなくて……… お母さんは………、いる?」 私、どんな顔してるように見えたんだろう。 顔に全部出ちゃうから、 きっと不安そうに見えたかな。 (23) 2025/01/20(Mon) 2:51:28 |
【人】 藤吉音色 「健人くんのお母さんに 直接、聞きたいことがある。」 微かに怒りを含む声で。 いない方が平和だけど、どうだろうね。 健人くんの返事がどっちだとしても 誘いにはもちろん行く、って伝えるんだ。* (25) 2025/01/20(Mon) 2:52:15 |
【人】 世良健人「あいつの予定はわかんないな。 考えたくもないからね。」 曖昧な答えを返したものの 実際、あの女の行動なんて把握しきれない。 音色ちゃんは僅かに、でも確かに怒っている。 やっぱり俺がいない間に何かあったのだろうか。 「なんか音色ちゃんの目が怖いな。 何聞こうとしてるんだろう。」 あの女に同情なんかしてやる気もないが 音色ちゃんにそこまで言わせてしまったことが 心の綺麗な彼女に陰を落としたみたいで心苦しい。 それでも来てくれるというのなら もしもの時は俺が責任をもって彼女を守ろう。 (27) 2025/01/22(Wed) 7:59:31 |
【人】 世良健人そうして迎えた週末、 わざわざ音色ちゃんの家まで迎えに行って 一緒に家に向かいながら、 「藤吉家とは正反対の家だから 音色ちゃんを驚かせちゃうかもね。」 なんて一抹の不安を口にする。 だってそうだろ?扉を通ったら その先は無駄に小綺麗なくせして まるで廃墟みたいに人の暖かみがない そんな世界が広がっているんだから。* (28) 2025/01/22(Wed) 8:00:12 |
【人】 藤吉音色 二人きりで恋人の家に行くのは緊張するとか そういう話だったら、よかったのにね。 健人くんの言葉の端々に見える家族への感情、 そしてあの時の涙を知っているから 私の知る家とは違うのはよくわかる。 分からなくて、知るのも怖い。 だからって怖いから知りたくないわけじゃなくて……。 お父さんとはお話出来たって言ってたし もしかしたら怖がること、ないのかも。 そんな風に前向きに思う気持ちもあるんだよ。 ……健人くんがお母さんのことよく思ってないのは 聞いていればわかる。 でも、お母さんがいるか聞いたのは 私がよく思っていないから、で。 あの日、数分の出来事だけで こんな気持ちになるのよくないんじゃないかって ずっと、罪悪感を抱えてる。 (29) 2025/01/23(Thu) 0:58:45 |
【人】 藤吉音色「……そっか。 ごめんね。考えたくないこと、聞いちゃって。」 健人くんがそう言うのなら隠してるとかじゃなくて 本当に分からないんだと思う。 ……普段、家にはいないのかな。 あの時はいた、けど。 「 そ、そう……? 怖いつもり、ないんだけどな……。 私ね、どうしても聴きたいことがあるんだ。」 健人くんに怒ってるわけじゃないから 困ったような顔しちゃった。 (30) 2025/01/23(Thu) 0:59:35 |
【人】 藤吉音色「私ね、健人くんが夢の中に行った日。 学校からいなくなったあの時、 必死でいろんな場所、探したんだ。 たぶん、健人くんにも言ったよね。 街中さがした、って。 あなたの家も、探したよ。 でも、あなたはいなかった。 あの時、健人くんのお母さんが家に居て。 まだ帰ってきてない、って教えてくれたんだ。」 (31) 2025/01/23(Thu) 1:00:04 |
【人】 藤吉音色W健人なら大丈夫だからW 特別記憶力がいいわけでもない私が 今でもずっと、忘れずに覚えてる言葉。 言われた瞬間は健人くんを探す方が先だって思って もやもやしたのは一瞬だった。 でも、そうだ。 あの時だって、余裕ないあの時でさえ思ったんだ。 どうして大丈夫って言えるの? どうして、心配するそぶりを見せないの? 冷静に考えられる今になっても……今だからこそ。 あの時の対応がずっと引っかかってる。 ただ、あの一瞬だけで判断したくない。 この世に根っからの悪人なんていない。 私は、今でもそう、思ってるから。 (32) 2025/01/23(Thu) 1:01:06 |
【人】 藤吉音色「 ……納得、いってないんだ。 あの時のお母さんの態度が。 だから、確かめたいって、それだけだよ?」 だから、気に病んだりしないで欲しい。 これは、私が私のためにすることなんだから。 (33) 2025/01/23(Thu) 1:01:33 |
【人】 藤吉音色そうして迎えた週末。 実は身支度はぎりぎりになっちゃった。 白いブラウスにチェックの茶色いフレアスカート、 ベージュのカーディガンを羽織って。 ぎりぎりになっちゃったのはケーキ屋さんで 健人くんの家に持って行くお菓子を買ってたから。 友達の家に行くときはいつも手土産を持って行くって 藤吉家では決まってたから今日も同じように。 いつもなら、大体家族で食べられるように、って 少し多めにケーキとか買ったりするけど…… 迷っちゃった私は日持ちするクッキーに変えたんだ。 ケーキ屋さんのロゴが入った紙袋を持って 健人くんと一緒に家に向かう。 もし、紙袋について聞かれたら 手土産にクッキー買って来たんだ、って言うんだ。 よかったら一緒に食べよう、って付け加えて。 (34) 2025/01/23(Thu) 1:02:23 |
【人】 藤吉音色「正反対……なの?」 想像がつかなくて、首をかしげる。 藤吉家は結構物がいっぱいというか…… 良くも悪くも生活感にあふれてると思う。 私が学校で作って持って帰ってきた美術の作品とか お姉ちゃんがどこかでもらった賞状とか 色々飾ってあったりするし 玄関先には私たち姉妹が小さい時の写真が 未だにあったりとか。 自分の家を思い浮かべて 正反対、ってことは……?ってちょっとだけ考えて (35) 2025/01/23(Thu) 1:02:50 |
【人】 藤吉音色「想像はつかないけど……、大丈夫だよ? だってどんなおうちでも あなたがあなたであることに変わりないんだもん。 それに、その…… 健人くんのお部屋とか見てみたいし……。」 好きな物とか、置いてるのかな。 正直に言うとね、健人くんのお部屋って あんまり想像つかなくて気になってたんだ。 (36) 2025/01/23(Thu) 1:03:21 |
【人】 藤吉音色 大丈夫だ、なんて言ったけれど 扉を開けたその先の空間を見てしまえば 私の家とは違ったから一瞬、足を止めちゃった。 ……例えるならそう、お引越しした直後みたいな。 健人くんが言ってたことは多分的確なんだと思う。 藤吉家か生活感にあふれてる、なら 世良家は生活感があんまり感じられない。 なんだか、寂しい気持ちになっちゃう。 上手く言葉にはならなくて、 ぎゅっと健人くんの手を握ったんだ。 案内してもらえるなら、ついていくつもりで。* (37) 2025/01/23(Thu) 1:03:41 |