『ねえせんせい、今日パパおそいねぇ』

『おはな、まだかな……。』

本名:エミリオ・フェランテ（Emilio Ferrante）
死因:薬物の過剰摂取による低酸素脳症で死亡

発見場所・遺体の様子:
アルバ傘下某所、シャワールームにて座り込むように倒れている所を発見された。
検出された薬物は死亡推定時刻直前の拷問に使用していたものとは異なるようで、何者かによる殺人が疑われている。

本名:ドナート・ロンターニ（Donato Rontani）
死因:銃殺。胸部及び頸部を撃たれた事による失血死。
発見場所・遺体の様子:
路地裏にて発見。揉み合った様な抵抗の痕跡あり。
周囲には人気が無く、発見当時も人影は見られなかった。

本名：アンジェロ・ヴィットーリ（Angelo Vittori）
死因：片目を撃ち抜かれたことによる脳挫傷、及び失血死

発見場所・遺体の様子：
路地裏にて発見される。外傷は眼窩の銃創のみ。
そばには同様の傷を負った死体がもうひとつ、転がっていた。
そちらはアルバ・ファミリーの構成員のようだ。

生まれたとき、そのこどもは確かに天使アンジェロだった。

その女は良家の子女だった。
金目当ての男に騙され、惚れ込み、家から勘当された愚かな女だ。
当然の帰結として、女自身を愛してなどいない男は去った。
それでも女は恋に縋り、愛しい男の残したものを、胎の子を生んだ。
生んでしまった。
そうやって過ちに過ちを塗り重ねた末に、天使はこの世に堕したのだ。

しかしながら、世間知らずの女ひとりで子を育てるには、世界はどうにも易くない。
やがて、女は身売りを余儀なくされた。
媚び、へつらい、自らの女を売りに出す。
どうしてこんなことをしているのだろう。
一体何のために、こんなに苦しい思いをしているのだろう。

金色の髪。翠の瞳。鼻筋。輪郭。手。足。
育つ毎、自らを捨てた男父親に似てくる面差しを見たくないからと、いつも、クローゼットへ押し込められていた。
いつからかは覚えていない。
物心のつく頃には、既にそうだった。

おまえなど生まなければよかった。
おまえのせいでこんなにも苦しい。
だからおまえも、同じ苦しみを味わうべき、と。
泣き喚く女はいつも怒っていた。
けれど、生まれなかったことにはできないし。
こどもの身ではその苦しみを軽くもできないし。
だからせめて、同じ苦しみを知ろうとして、言われた通りにしていたのに。

何日も食事を与えられないことも。
煙草の先を押し付けられることも。
大人に蹂躙されることも。
ずっと、当たり前にそうだったから、ちっとも苦しいとは思えなかった。

そんな生活の続く、ある日のこと。
寝煙草の不始末から、狭い部屋はすっかりと煙に包まれた。
意識の眩む中、どうにかこうにかクローゼットから外に出た。
“仕事”のとき以外は出てはいけないという言い付けを破ったのは、その一回きりだ。
少年はそのまま、部屋さえも後にした。

————女母親を置き去りにして。

だって、生きている限り彼女は苦しみ続けるのだと思ったから。
自分はまだ、楽になってはいけないと思ったから。

本名:サルヴァトーレ

死因:頚部圧迫による窒息死
発見場所・死体の状況:
路地裏にて発見。扼痕が見受けられるため、何者かに扼殺されたと見られる。抵抗の跡はなかった。

現場近くでちぎれたネックレスが発見されているが、関連性は確認できていない。

笑い声が聞こえる。

笑い声が聞こえる。

誰かの声が聞こえる。

「君を■■よ」
「■は■■■めに生ま■■きたんだ」

誰の言葉だったのだろう。

「██て█よ」
「███​────」

誰の言葉だったのだろう。

誰の言葉だったのだろう。

誰の言葉だったのだろう。