[>>245冬梨が契約満了を以て前事務所を退所し、
大守プロダクションに移る前夜、
久々に夜にふたりの時間が取れた。

既に契約書は交わしていて、日付の変更と共に有効となる。]


　発表は8時半だっけ？学校の始業時間じゃん。


[ソファでくつろぐ時は十分なスペースがあるのに
必ずくっついている。]

　じゃあ今日はさしずめ「夏休み最終日」か。
　な、冬梨、「宿題」は終わったか？


[板の上でお前と過ごしたい。
天刻の想いはより強く、そして「同じ板」という強欲な
条件まで付加された。
冬梨の方は、答えが見つかっただろうか。

どんな答えであっても聞けたなら――]

──ライブやろう──


［待ちに待ったライブ当日。

　俺は歌もダンスも芝居もバラエティも好きで、
　特にそこに、甲乙つける必要もないと思ってる。
　ただライブの日の俺は常時上機嫌で、出番を待つ舞台袖でも
　鼻歌歌ったり、勝手に足元が音を刻んだりしている。
　
　ある日いきなり、隕石が墜落してきたら。

　最期の日も、こんなでかいハコじゃなくていいから、
　ストリートでもアカペラでもライブ演ってたいな。
　最期だから何かに夢中になって我を忘れてたいって人、
　結構いるだろうし。ファンの子にも気兼ねなく会えるし。
　メンバーも、しょうがねぇなぁって何だかんだ集まりそう。
　こいつら、俺と一緒で仕事バカだから。

　オープニング用の、細部は各々デザインの違う揃いの衣装を
　身につけたメンバー。
　３人ひとりひとりの集中した顔を盗み見て、ひそりと笑う。

　そんでその動画、家族と友達、先輩後輩に送りつけよ。


　最後までユーリやりきって、それからは──］

［スタンバイの合図に、すっと思考を切り替える。

　４人それぞれが離れた所定のせりに立ってその時を待つ。
　始まりの前のこの一時が、呼吸を逸らせ、
　鼓動を昂ぶらせる。

　ゆっくりと足元が浮上していく。
　暗闇では目視できなかった自分の爪先から頭頂まで
　眩しく浮かび上がらせる、ピンクゴールドの
　スポットライト。

　湧き上がる歓声から、僅かに早く抜きん出た
　女性の高い絶叫と>>186
　朗々とよく通る「ユーリィィィィ！」が届く。

　このやたら良い声の持ち主は。>>195
　思わずアリーナ後方中央、招待席が設けられるはずの
　辺りに目を向ける。
　まさか、あの圭吾さんがユーリコールを………！？

　反射的にじわっと涙が込み上げたけど、
　音がかかるまで暫く静止してる演出だったもんだから、
　モニタに大写しに抜かれてるの分かってても、拭えなくて。

　後日、セトリと演出受けたかな？と珍しくエゴサしたら、
　“ユーリ初っ端泣いてなかった？”
　“相変わらずライブ好き過ぎ”
　“あの回東堂アニキが現場入りしてたからだと思う。
　　席近かったから超絶美声が聞こえた。”などなど
　見てしまって、そっとスマホを遠ざけた。］

［オープニングから立て続けにかかるのは、
　アップテンポの激しいナンバー。
　歌って踊って、ペンライトの極彩色の光の波を泳いで
　花道を駆ける。
　観客に向かって『一緒に声出してくよー？』と
　呼びかけるメンバー。
　「ほら、二階席もっと出せんだろ？」と追い打ちをかけて煽る。
　わぁっと渦を巻いて応える歓声に、
　「できんじゃん、いい子」とマイク越しに機嫌好く笑って］



　　─── アリーナもっと来いよ！



［何度も視線とキスを投げかけた、アリーナの招待席に
　居てくれるだろう紫苑さん、圭吾さん。
　声は拾えなかったけど、澄夜くんも。>>187
　応援してくれる大勢の大切な人達から、
　身に余る程の歓声を貰いながらも、もっと寄越せとばかりに
　貪欲に煽っていく。
　ここに立って居るのが“当然”だと、
　勝ち気な笑みを浮かべて］

［アクロバットが見所の曲に、メンバーの１曲めのソロ。　
　メンバーの休憩を兼ねたMCが終われば、
　終盤の曲はバラードがかかる予定だ。
　トークの真っ最中で皆が大人しく聞いてくれてる
　タイミングで、前方の良席から動く客がいた。

　このタイミングで？とそれとなく視界に入れれば、
　少数派の男性ファンだった。
　というか、あの長身とあの格好。］


　　───……、


［え、惺？寧ろ涼くん？
　なんでいんの。あのへんファンクラ会員じゃないと
　とれない気がするけど。
　流石にそれは入ってないだろう。
　マイク片手に緩く腕組みしたポーズのまま、疑問が巡る。

　その後のバラードソロ曲はファンに捧げる神聖なものなので、
　恋人への想いを乗せたりは、性格上俺は一切しなかったけど。
　いつのまにか後方の壁ど真ん中にもたれてたあいつを、
　アンコールの時に指差しくらいはしておいた。

　気づかれて会場抜けらんなくなったかも知れないけど、
　多分俺のせいではありません。
　目立つんだよ、逆にその場所。*］

──ライブ──


[ｷｬｰこっちみたーとか、色んな所から聴こえてくる。

ファンサがすごいやつはいる。

けど、誤解も多々ある話。

誰を観たかって。

俺も、多分、その誤解してる一人。

悠凛がこっちを見てるような気がしたんだよ。



“貴方が救える人がいるんですよ。ここに。”

その言い換え台詞が頭に浮かんだ途端。

俺は御行涼から七川惺にスイッチする。*]

──　移籍前夜　──

［"α"として過ごす最期の夜。
　通い慣れた彼の自宅でカウントダウンをするように
　時計を眺めながら時間を過ごしていた。

　2年の時を経て、変わったのはこの場所にも
　自身のモノや衣服が増えたこと。］


　　あははっ、宿題、まだ覚えてたんだ。


［二人が近づく切っ掛けをくれた夜。
　ドラマのように空にハレーションが起きたという。
　ソファの上で彼の手に手を重ねて微笑む。］


　　いいよ、たくさん待たせたご褒美あげる。
　　けれど、その前に──、


［味見をするように、そっと身を寄せて
　ちゅ、とリップノイズを響かせて甘いキスを一つ。
　そして、答え合わせを口にする。］

[俺はリンライを外して。

ポケットに入っていたもう一つのリングを。

左手の薬指に嵌め直す。


その指を、高く掲げて。

この指とまれか。子供か俺。


違う。

煌めく俺の宝石星よ。

今は見えなくてもいい。
今じゃなくてもいい。


　**]

── ──

[月嶺の家に二人で生きていくことを宣言したあの日。

帰宅してからのプロポーズは、諸々のバランスが悪くて吹き出させてしまったりと、ある意味では“らしかった“のかもしれないが。

ちゃんとやろうとは思っていたから。
式の前には改めてさせて貰った。

指輪を選ぶのは二人で行こうとあらかじめ言ったのは、これでも何でも己の中での確定事項のように進めるのよりも、この先二人で歩んでいくにはその方が良いのだと気づけたからだ。

これから先は、きっと二人で何かを選ぶことも増えていくのだろう。]

──オンエア──

［珍しく大人しく惺の腕に収まって、
　後ろから抱かれたまま、『世界が終わるまでは』の
　放映を録画で見た。

　今日で全編見終わったからか、
　最期の一日をどう過ごすかの話になった>>201
　迷いもなく選ぶだろう一日の過ごし方>>254を
　そのフィナーレを、俺が選ぶなら］


　　最後までユーリやりきったら、
　　最後の最後におまえんとこ来てやるよ。

　　で、たっぷり可愛がってもらう。
　　翌日の仕事もないから、抱き潰しても、
　　何されても怒んないよ？


［首筋にかかる吐息が、くすぐったい。
　未だまっさらなそこ。
　その時にだって噛ませるかは、俺なので未知数だ。］