［フレームが
　ぶつかってしまわないよう
　気をつけながら、頬を辿っていると

　あなたの漏らした声が
　鼓膜をくすぐった。>>5:?21

　それがまた
　どうにも…堪らなくて、

　目元で終いに出来ずに
　もう一度、唇に重ねてしまう。］
　

　
［まだ、全然足りない。

　その気持ちを体現するように
　くっついたままで居たがる薄い皮膚が
　気持ちよくて

　何度でも、口付けたくなるのを
　あまり引き止めすぎるのも良くないな、と
　どうにか切り上げた。

　のに、


　　　（あぁ…　駄目だ…、）


　照れた笑顔とその台詞に>>5:?24
　骨抜きのてろんてろんにされたのは私の方で、

　口を開けばまた
　引き止めてしまいそうだったから
　下ろしたばかりの両手をきゅっと握って我慢して、
　席を立つあなたを見送った。］
　

　
［揺らめく暖炉の炎に
　彩られた横顔。
　しゃがんだ格好すら様になっている。

　片方の袖の中身がないことなんか
　忘れてしまいそうなほど
　器用に食材を炙り、温め直してくださる様子を>>5:?25

　私が義手の制作に集中していた間も
　こんな風に作ってくださっていたのかな、と
　思いつつ、見惚れた。

　隣に戻ってきてくださるのを
　パンの上のチーズと同じくらいに
　とろけた笑顔で迎えて］



　　　ありがとうございます、

　　　あぁ、やっぱり美味しそうだ…！



［あなたに夢中で忘れていた食欲を
　思い出して、喉を鳴らす。］
　

　
［どうぞ、と
　勧めてくださるのを待って>>5:?25

　出来たてに戻ったばかりの
　温かなパンをちぎれば、
　待ってとばかりにチーズが伸びて追いかける。

　私達も、こんな風に
　これからはどこまでも一緒だ。

　そんな幸せなごと噛みしめれば
　頬が落ちてしまいそうなほど、美味しくて
　あなたにたくさん頷いた。］
　

　
［感動しながら、
　今度は肉の串に齧り取って
　目尻を下げた頃、あなたが口を開く。>>5:?25

　聞きたいと言っていた私の願いを
　こんなにすぐに
　叶えてくださるらしい。］



　　　はい、お願いします



［食事の手を止め、
　目と耳と心の全てをあなたに向ける。

　手を胸に当て、目を瞑る。
　その数秒であなたの周りの空気が
　変わったような気がした。］
　

　
［始まりの話。>>5:?26

　それは、とてもとても美しく
　不思議な話だった。

　まるで神話の世界から
　そのまま抜け出て来てしまったかのような…

　あなたの居る
　あなたの見ている
　あなたを作り上げた

　最初の、世界の記憶────…］
　

　
［星が煌めいていても
　夜で、暗くて、それも独りぼっちで、
　普通の子どもならば

　怖い…とか
　淋しい…とか

　そんな不安を抱く場面な気がするけれど
　あなたはそうではなくて、］
　

　


　　　ツァカリ様は…
　　　最初から、ツァカリ様だったんですね


　　　静謐で
　　　厳かで
　　　美しい
　　　世界に包まれて、生まれて

　　　そんな幼い時分から
　　　使命を背負って生きてきた、なんて…

　　　どう言ったらいいのか分からないですけれど、
　　　ツァカリ様が、ツァカリ様である所以を
　　　垣間見られた気が、します。


　　　それで…、そのあと
　　　里の皆さんと出会われたのですか？


　

　
［大自然の中で、独り歩く
　小さきあなたを思い浮かべる。

　今、ここにいらっしゃるのだから
　無事にたどり着かれたのだろうと分かっているけれど
　それでも、固唾を飲むような気持ちで
　訊ねてしまう。

　今更、その時のあなたに
　手を差し伸べることもできないのだけれど
　つい、手を伸ばして握ろうと、してしまった。］＊
　

　
［星と会話したという話を
　彼は疑ってもいないようだった。>>?7

　手がこちらに向けて動かされるのが見えれば
　自ら迎えに行き重ねて握った。>>?8
　──差し伸べるのはいつでも自分からだと言うように。

　それをしてから、里の皆と出逢ったのかと
　訊ねられていたことについて反応する。］


　　そうだな


［と、軽く肯定して終えるのは容易であるが、
　己の生きてきた日々には価値があると
　彼は言ってくれていた。>>4:?13
　もう少しだけ詳しく教えることにして、言葉を続ける。］
　

　

　　先ず幾許かの時を独りで過ごした
　　石を割り、枝を削り、槍や弓を作った
　　それで獣を獲り血と肉を貰い身体を強くした

　　その内に幾人かの孤児を拾い生き方を教えた
　　先日、ここへ来た時に
　　部屋を覗きにきた男が居ただろう
　　あれもその一人だ
　　親を病で亡くし妹と彷徨っていたのを助けた

　

　

　　それから暫く子だけで過ごしていたが
　　羊を連れたアルマス族と出逢った

　　アルマス族というのは一つではない
　　千年前に生き戦の終焉に死んだ
　　最後の王から取った名で
　　その遺志を遺さんと
　　自ら名乗るようになった群は幾つかある
　　その内のひとつと出逢った

　

　
［遊牧民ノマド最後の王アロゥマは
　魔術師が大多数を占める現代の世が
　伝える歴史の中で
　魔術の民を大量虐殺した末に敗北した
　狂王として語られている。

　歴史とは、勝者がつくるものだ。

　英国が中心となって綴る史上で
　悪役ヒールを務める王は
　遊牧民の間では千秋を過ぎて尚英雄のまま。］
　

　

　　それから遊牧の生活を楽しんでいるが
　　狩猟も偶にするのは
　　俺が根からの遊牧民ではないからだな

　　……そうだ、鹿を獲れるようになったら
　　貴殿にも是非喰って貰いたい
　　星屑の谷へも、予てより
　　連れて行きたいと思っていたのだ

　　とても綺麗なところだ　貴殿には劣るが


［手をぎゅっと握り、にこりと笑いかけた。
　自身について語りつつ
　伴侶を口説くのも抜かりはない。*］