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【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-146 がづん。 「ぎゃ、…ぁぁ、……ぁぁう…」 鳥が絞められるような、気持ち悪い声。 それが自分の喉から出ているとはいまだに信じられない。 既に視界はぼんやりと暈けていて、右のほうなんて精いっぱいひらいても半分くらいが真っ暗だ。 がづん。 「……、……っ」 どろり、と何かが零れたような気がした。 鉄パイプの先端が頭をかすめて、出血した――んだと思う。 脳みそくらい零れているかもしれないけど、だとしたらこうして考えている今はなんなのだろう。 ちがうのかな。ちがうんだろう。 なにが? ちが がづん。 「ぇげ、…ひ、……っひ、……は、…」 いびつなかたちにまとまりかけた思考が、衝撃でまた霧散する。 血反吐と歯の欠片を吐き出しながら転がって、もう痛みすら鈍り始めて、それでもただ苦しくてたまらない。 (-147) 2022/08/29(Mon) 18:56:33 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-147 「たす、……たすけ、……」 がづん。 「……」 ソニー。 用意してもらったのにね。ごめんね。 私が逃げればよかった。わかってる。 わかってるよぉ。ごめんね。あなたをもういちど、抱いてあげたかった。 トトー。 こんなになっても私のこと、綺麗っていってくれるかなあ。 ねえ、助けてよ。ねえ。何死んでんの? バカ。 きてよ。助けてよ。 がづん。 「たす、……や、…めぇ、てぇ…」 ルチア。お店行けなくてごめんね。 ジェラートおいしくて、…あなたのところでは私、なんだか素直になれて。 ああ、いきたい。いきたいよ。今度はモカ。エスプレッソ。 がづん。 「ごめ、なさ」 (-148) 2022/08/29(Mon) 18:59:00 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-148 ヴィー。ごめんね。あなたのお店にもういけなくて。 ヴィー、寂しかった。寂しかったの。あなただけが私のともだち。 あなたは助かって、あなただけは助かって。今どうしてる? ねえ、 がづん。 「ぇぇ、…ぅ、……ぅぇえ、……」 ヴェルデ。 愛してるよ。 愛してたよ。 私、あなたのためになれたかな。 私、あなたの、 がづん 。ごめ がづん 。 (-149) 2022/08/29(Mon) 19:00:43 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-149 ――――― AM06:50 ――――― ――男たちが何か話している。 ずきずきとした痛みはもう痛みなのかどうかもよくわからず、 ただ不可思議な電気信号として私の全身を焼いていた。 「もう死んだか?」 「生きてる。ほっときゃ死ぬだろ?」 「まあやっとくか」 おいおい。私の命だぞ。 そんな簡単に決めないで。 もう半分くらいになってしまった視界を動かす。 男たちが何かを手に、私の足を掴んで開かせていた。 まだやんのかな、と思う。 サービスはできないよ。勝手にやるなら、いいけど。 「おい、普通に」 「いや、これやったらどうなんのかって」 「どうなんだろうな」 捕まえた虫の羽をどうちぎるかみたいな会話。 まあ、今の自分の状況をもしみたら、きっととてもみっともない、潰れた蝶々みたいな有様なんだろうけど。 もういいよ、どうせ死ぬんだから。 さっさと―― (-150) 2022/08/29(Mon) 19:01:20 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ折り畳み式のナイフなら、万一の際に備えていつも持ち歩いて居た。これで人を殺そうとするにはあまりにも心許なく、そういった用途で使われたことは一度も無いが、よく砥がれた刃は人の肉を裂く事なんか容易だ。 「…………ん、」 それをポケットから取り出す傍ら、ふと視界の端にネックレスが映った。最初は何かわからなかったが、すぐに貴方の持っていた物だと思い至る。どういった経緯で持ち歩いているのかは知らなかったが、手放すつもりはないらしいことは知っていた。 ……今ここで持ち去っていくのはこいつに悪いと思い、触れずにおく事にする。 だから、それはそのままだ。 地面に手を広げ、関節部分にナイフを当てがう。 刃を通せば薄い肉を断つ感触がした。流石に骨までは斬る事は出来ない。だから、体重をかける必要があって。 心の中で詫びながら柄に両手を添え、思い切り体重を乗せた。 ぱきゃ、と嫌に軽い音がした。 少し勿体ないと思った。仕方のない事だ。 ▼ (-152) 2022/08/29(Mon) 19:01:26 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-150 ずぐ、と。 そんなことを考えていたら、さんざんに痛めつけられた下腹部に、また別の痛みが走った。 「……っ、ぁ…」 「お、動いた」 「結構入るな」 最悪。最悪。最悪最悪。 多分こいつら、悪ふざけでものを突っ込んできた。 人の身体をおもちゃにする連中は、たいてい穴に何か突っ込みたがる。 ごつごつとして硬い何か。粘膜をがりがりと傷つけながら、ええと、これは、まあ、なんでもいいけどさ── 「ばん」 「ぇ」 Si Vis Pacem, Para Bellum。 がち、と撃鉄が落ちる音がして。 どうやら私の体内で、9x19mmパラベラム弾がはじけ飛んだ。 (-151) 2022/08/29(Mon) 19:01:58 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-151 ビアンカ・ロッカの体内で発砲された弾丸は腰骨を貫通し、脊髄を砕きながら体内を跳ねまわる。 骨に激突したことで弾頭が三つに砕け、それらが下腹部を中心に内蔵を著しく損傷させた。 「ぁ、あぁぁ、あぁ、ぁっぁあ、あ、あぁ、ぁぁあ、ぁ」 ビアンカはびくびくと痙攣するように、喉の奥から声のようなものをあげていた。 彼女の意識がその時あったかどうかは定かではない。 ただ体内で荒れ狂う銃弾が、その生命をずたずたに引き裂き、致命傷を与えたことは間違いが無かった。 「あ、……ぐぇ、ぇぼ、ぇお、……っっ」 「うわ」 「やべえ」 下腹部からの出血よりも早く。 びちゃびちゃと、その口からポンプのように鮮血が零れ落ちた。 ごとんと音がして頭部が傾いて、拘束されたままの腕と足がばたばたと跳ねて。 「……………ヴぇる、……でぇ………」 彼女の意識があったかどうかは、わからない。 多分、その場にいた誰も、意味のわからない名前をひとつ呼んで。 「……死んだな」 「すごかったな、カエルみてぇだった」 「じゃあ、書くか。書いたらバラして──…」 ビアンカ・ロッカは、死んだ。あとは、皆様の知るとおり。 (-153) 2022/08/29(Mon) 19:03:05 |
【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ手を離せば小指はすっかり手から離れている。 心臓の止まった今、流れる血の勢いも鈍いのだろうか。 アベラルドはほう、と息を吐いてそれをつまんで持ち上げて、目の高さで眺めて見せた。 ……ああ、自分のやる事は終わったな、と心中独り言ちて。 清潔な藍のハンカチでそれを包んで──そういえばこれも貴方がくれたものだったか────上着のポケットに、そっと入れた。 命は貰い受けた。後は去るだけだ。 貴方のその整ったかんばせを見るのも、これで最後になるのだろう。 「……サヴィ。 またな 」「Sei nel mio cuore」 もう一度貴方の頭をゆったりと撫でて。 すっかり冷え切った唇に、もう一度キスをして。 「A presto」 それからは、何も言わずにこの路地を去る。 一人分の固い靴音が遠ざかっていく。 そしてここに残るのは安らかな骸と傍らのネックレスだけ。 貴方が誰かに見つかるまでの時間は、穏やかな眠りたり得るだろうか。 もはや、それは誰にもわからないのだろう。 (-154) 2022/08/29(Mon) 19:05:12 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ互いに失ったものを比較するほど愚かしいこともない。されど二つは似通っていた。 決定的にそれ以外は何もかも違えていても、尚取りこぼしたものの多さは近しかった。 失い続けた結果、更に失い続けることは無いだなんて空論を誰が信じることができる? 希望が重たかった。期待が重たかった。一笑して否定されたことでようやく足元が見えた気がした。 失った時点で死ぬべきだったのかもしれない。他を失わせるくらいなら、確かにそうだろう。 影法師のような男の姿をサイト越しに見据えて、微かに溜息を溢す。 「……ああ、そう。 よくわかってくれるじゃんか。オレはもう、一歩も動けやしないよ」 ひどく熱のない声は、何もかもが腑に落ちてしまったからだった。 惑う脚も誰にも伝わらない恐慌も、全てがどこに向かわせればいいものなのかを理解してしまった。 貴方の言う通り最初から答えは己の中にあって、それを肯定することが今、出来てしまったから。 銃口は相手の眉間に向けられた。己が推理したアウグストの死因と同じく、頭骨を効率よく貫いて。 交わされた相手の銃弾は腕が跳ねたせいで致命の一撃を外してしまった。肩の骨が砕け鉛が減り込む。 利き腕の神経を元に戻すにはどれだけの賭けをせねばならないだろうか。その時点で暗殺者は死んだ。 それ以外の生き方もできないのに、ヒットマンでさえあれないならその価値と意義は一切を失われたのだ。 相手の姿がぐらつくのを見て照準を下げる。もう一発は胸元へと。心臓が傷付けば血が溢れる。 確実に殺すための二発。省みる必要が無いが故の二発。己の姿を隠す必要はもう無いのだから。 血の流れる腕は相手の体が痙攣を止めるまで向けられていて、呼吸の音が途絶えてやっと下された。 銃を握ったままの影法師を、銃を握ったままに見下ろしている。 「──Addio. コルヴォ・ロッソ」 (-155) 2022/08/29(Mon) 19:52:32 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォそれから先は、どうしたっけな。 死体から服を剥ぐのも億劫なくらい片腕が重くて、そのままフルタングナイフの刃を入れた。 関節に刃を差し込み、ナイフのハンドルを足で抑えて軟骨を寸断してようやく死体を小さくしてやった。 それを、先程まで動いていた火葬車の中に寝かせた。入れ替わり、立ち代わり。 ここへ連れてきた彼女の灰を退かして、見様見真似に 異端者の地獄 へと押し込んだ。誰が来るのかもわからないのに、扉の向こうで燃える様子を眺めている。 いくらかに分けて、ひどく手間と時間を掛けて。ひとつ、ふたつ。全て灰になるまで。 途方もない時間は、宵の口の空をすっかりと昏れきった星色に変えてしまった。 そんなことをする義理なんてなかったし、望んでいるかどうかもわからないのに、 勝手にこんなことをしたところで文句を言う人間だって居やしないのだ。 自己満足、或いは酷く曲がりくねった感謝のつもりだったのかもしれない。 貴方の言葉と弾丸は、男をもう行き先の決まりきった道に押し込んだのだから。 最後のひとかけを押し込んで火を入れてから、腕の痺れが酷くなった頃に漸く離れた。 きっと用意周到な彼のことだから、あとのことを自分で何とかする手筈なんてのは済んでるんだろう。 遠くの街は祭りの最中とは言えすっかり静まっていて、そこから聴こえる音なんてのもなかった。 夏の気配だけが、なんでもなかった一週間を見下ろしてそこに或る。 血の滴る腕はそのままに、配達車へと戻っていく。片手には、娼婦の片割れであった灰。 焼け付いた死の匂いだけが、男の背中を押している。 エンジン音を最後に、廃倉庫からは誰一人いなくなってしまった。 もう、だれも。 (-156) 2022/08/29(Mon) 19:54:56 |
【秘】 永遠の夢見人 ロッシ → 愚者 フィオレロそれじゃあ。 少しの間を持って、 彼は文字を綴り始めることになる。 昔のことだとか、ほんの少し前までのことだとか、 あなたの人生の軌跡を辿っていくようなことを聞いたのだろう。 彼が聞いて、あなたが話してくれる分だけ。 聞かれたことと同じ問いを彼に返せば、 半分は答えてくれなかったが、 逆に言えば半分は答えてくれていた。 彼にしては随分なサービスしてくれたものだと言えよう。 話を続けて、意識はどこまであっただろうか。終わりはどうしてか曖昧だ。 すぐに終わった気もするし、長く続いたような気もする。 ──夢、夢、夢。 これはいつかどこかであなたが見た夢。 彼も見ていた、確かに在った終わりの夢。 (-157) 2022/08/29(Mon) 20:03:15 |
【秘】 風は吹く マウロ → ”再び灯された昼行灯” テンゴ「アンタの発破も効いてんだよ」 死にかける前のことだって忘れちゃあいない。 いつまでも塞いでちゃあ、おっさんに見せる顔もないってものだ。 「おう。ま、あんたの復帰した時にゃ俺たちの色に染まりきってるかも知れねえけどな」 なんて鼻で笑うのだけど。要は、心配すんな。ということを言いたいのだ。 「…リカルドといい、あんたらでけえもん託しすぎなんだよ」 「子供の扱いに自信はねえけど、折角だ。受け取っておく」 かつての自分達と同じ境遇のこどもたち。 気持ちを少しはわかってやれるはずだ。 「書類とかなんかは良くわかんねえから、リカルドに頼むわ。 かいつまんだ話はあいつから聞くよ」 よ、と立ち上がり。 本当に顔を見にきただけの男は「じゃ、そろそろ行くわ」と背を向ける。 その背中にはまだ言葉をかけられるだろう。 何か言い忘れたことがあるなら、今のうちだ。 (-158) 2022/08/29(Mon) 20:09:17 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレこれはいくらか昔の話。 そのマフィアにはある女がいた。 大口を開けて笑う豪快な女だった。縮れた赤毛に咥え煙草がトレードマークで、話す言葉には異国の訛りがあった。 彼女は組織の人間とよく付き合った。酒を酌み交わし、よく人と話した。その陽気な様子は、この国のマフィアに相応しかった。 ────カタギに惚れられちゃってさ……。 初めはそんな言葉。 彼女には、休日に図書館に行くという日課があった。幼少期を異国で暮らしたために、この国の絵本なんかが珍しいのだという。そこでよく会う学生に声をかけられたのだと。 ────ガキのくせにね……。 侮るような口調はしかしあたたかい。眉根を寄せながらも口元はにんまりと笑んでいて、つまりはまんざらでもない様子が伺えた。 程なくしてそのガキは彼女の傍に現れるようになる。図書館の外でも彼女に話しかけるようになる。────つまりは、そういうことだ。 社会の厳しさも汚さも微塵も知らないような少年はその無知ゆえに彼女に付きまとった。贈り物と共に甘い言葉を携え、行く先々で慕うように後に続いた。君を守りたいと言った額を女が小突く。少年はいつだって、薔薇色の頬をして女に笑顔を向けていた。 いつしか少年は青年へと成長する。 家族が増えるのだと女はその腹を撫でた。 (L24) 2022/08/29(Mon) 20:10:08 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレ笑い声が聞こえる。 笑い声が聞こえる。 誰かの声が聞こえる。 銃声が聞こえる。 罵声が聞こえる。 慟哭が聞こえる。 幸福は脆く崩れ去る。 路地裏に倒れる。 何人かが死んだ。 うち一人は女だった。 男はそれを見ていた。 見ていただけだった。 脳漿が滴って落ちる。 (L25) 2022/08/29(Mon) 20:10:36 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレ ────目を覚ました男がどう振る舞うかはファミリーの中でも注目の話題だったという。 血の掟、その7。妻を尊重しなければならない。 血の掟、その9。ファミリーの仲間、およびその家族の金を横取りしてはならない。 マフィアとて妻の命は大事にする。仲間の家族の命も大事にする。とりわけその男が女を深く愛していたのは誰もが知っていた。最愛を奪われた家族が狂うのは、蛮行に走るのは、復讐に傾倒するのは、何も珍しいことじゃない。 家族を処分するのは当然気分が悪い。 誰もが狂ってくれるなと願っていた。 果たして。 男は、狂いはしなかった。 彼は蛮行に走ることも、復讐に傾倒することもなかった。 恨み言のひとつも吐かず、怒りを見せることもなかった。 ただ笑っていた。 ただ明るかった。 不自然な程に。 彼はいくらかの肉と頭蓋骨の欠片、 それから脳みそ数グラムと一緒に、 記憶の一部も路地裏に落っことしてきたらしかった。 男の記憶にあの女はいない。 ちぎれた鎖は戻らない。 落とした螺は戻らない。 (L26) 2022/08/29(Mon) 20:11:20 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレ細いチェーンは銀色。 ペンダントトップはデフォルメされた白い花のモチーフ。 その中心には小ぶりのダイヤモンドがはめ込まれている。 それだけの、酷くシンプルなネックレス。 ────それは10年と少し前に流行ったものだ。 それを首に輝かせた女がいたことを、もう誰も覚えていない。 亡くした人は還らない。 幸福な終わりじゃないから、おとぎ話にはなれない。 語る口などどこにもないから、物語にすらならない。 (L27) 2022/08/29(Mon) 20:13:05 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
【秘】 永遠の夢見人 ロッシ → プレイスユアベット ヴィオレッタそれはきっと二輪とも、黄色の花だった。 おまかせのカクテル、 片隅の花瓶に生けられた花、 他にも気を向けていればちらほらと。 何の好みを聞かれても曖昧に返す彼だったけれど、 何色でもいいところには気持ち程度に、 実はその色が多かったものだから。 あくまで“気持ち程度に”とつくあたりは、 彼の彼らしいところであるのだけれども。 (-159) 2022/08/29(Mon) 20:16:37 |
ロッシは、黄金の色が好きだった。 (a6) 2022/08/29(Mon) 20:16:55 |
【独】 天使の子供 ソニー対向車線にさえ誰も通るもののいない僻地から伸びる道を、白いバンが駆けていく。 片手でハンドルを回し、助手席には女の焼けた灰を乗せて。 ハイビームが照らす道は、星明かりのために思いの外明るく感じられた。 「……なあ、ビアンカ。オレさ、お前のことお前んとこの子らに渡せる自信ないよ。 ヴェルデが持ってかれたところ聞いてたら、撒いてでもやれたのにな。 でももう誰にも会うつもり無いんだ。だから、書き置きだけで済ましちまうけど、ごめんな」 配達車は、花屋の倉庫へと押し込まれた。ドアの継ぎ目からは、溜まった血が滴っていた。 だから朝になれば店主が見に来て、中にあるものには気づく筈だ。誰に渡すべきかの意志も。 この花屋は唯の表稼業ばかりじゃなくて、みかじめ料の受付だったり資金洗浄の窓口だ。 ファミリーの息の掛かったきちんと託すに値する人々であり、野放図に投げ出したわけではない。 灰になった上半身がゆくべき先なんて、神の元へゆけないのだから他のどこともわからないのに。 誰か、何か。遺される人々の元へと渡るようにだけはきちんとしておこう。 (-160) 2022/08/29(Mon) 20:17:58 |
サルヴァトーレは、家族を愛している。 (a7) 2022/08/29(Mon) 20:18:33 |
【置】 家族愛 サルヴァトーレサルヴァトーレは、傷の入ったレコードだった。 サルヴァトーレは、四小節のオルゴールだった。 穴の空いた記憶を無理矢理埋めて。 解れた矛盾の糸を無理矢理繋いで。 足りない部分をただ愛で満たして。 不純物がない宝石は硬く透き通る。 男の中には家族への愛だけがある。 最期までただ愛だけが残っていた。 (L28) 2022/08/29(Mon) 20:18:47 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
サルヴァトーレは、家族を愛している。 (a8) 2022/08/29(Mon) 20:18:57 |
【秘】 紅烏 コルヴォ → 天使の子供 ソニー返る言葉を聞いて、最後の一瞬。 ただ息を吐くような、音のない笑いが、銃声に呑まれて消えた。 何もかも、諦めのついたような笑みだった。 斯くして血染めの烏は地に落ちた。 或いはあなたの影法師であって、 或いはいつかあなたの行き着く姿であったかもしれないもの。 それと向き合って、それを認めてしまったから。 それがすっかり姿を消したって、もうきっとあなたの道は変わらない。 ──曰く、ドッペルゲンガーを見る事は、死の前兆なのだと言う。 (-161) 2022/08/29(Mon) 20:33:12 |
【墓】 紅烏 コルヴォ返す返すも、運の無い人生だった。 望んだ事は叶わない事ばかり。だからいつしか望む事さえ諦めた。 諦めた、つもりになっていただけだった。 奪われたものは、奪い返すべき相手からは得られなかった。 未来があって欲しいと願った人々は、やはりその大半を見送る事になって。 受けるべきであった、誰かを殺めた報いを受ける事も無く。 もしも果たされる時が来るなら、ずっと先の事であればいい。 そう思って口にした、他愛無い口約束を果たす事も無かった。 見届けるべき死の全ても、その目で見届けるに能わず。 それらの不誠実を、無力を、差し伸べられた手を取れなかった事を。 誰に謝る権利が自分にあっただろうか。 わかっていて、友人の全てを徒労にし続けた自分に。 (+0) 2022/08/29(Mon) 20:33:45 |
【墓】 紅烏 コルヴォけれど、いつかの昔に奪われた終わりは取り戻された。 誰かの道は途絶えても、確かにその先を歩いて行く誰かが居る。 全ては叶いはしなかったけれど、全てが叶わなかったわけでもなく。 良くも、悪くも、結局自分は何もしなかったのだから。 そんなものか、とも思う。 望む事も、望まない事も選べなかった、半端者には相応しい結末だ。 だから、見届けて来た全ての死だけを連れて。 家族も、帰る場所も、行き着く先も求めない。 名もなき烏は、何処へ行く事も選ばない。 (+1) 2022/08/29(Mon) 20:34:03 |
コルヴォは、もう誰の元にも戻らない。きっと子守歌を聞く事も無い。 (a9) 2022/08/29(Mon) 20:34:09 |
【独】 天使の子供 ソニーそして、彼の運び込まれた病院へと足を運んで。 残された先の20年を、託されたのだろう未来をふいにして。 代わりに貴方の薬指へと、ささやかな愛を贈る。プラチナに比べればチープで子供らしいものだ。 ジェイドとアーモンドは、けれども言葉通りの贈り物のつもりでさえないのだろう。 ロマンチックな誰かの決めた意味でない。どちらも、己自身。 神様の元へ貴方が行った時に、見下ろした風景の中に己の瞳と同じ色があったなら、 少しでも思い出してくれるかな、なんて。子供っぽくていじましい、自信のない誓いなのだ。 そこに、その位置に輝く煌めきに意味を見出すのだなんて、自分のほうだけだと思っていたから。 涙を拭った左手に、いくらか星の色がきらきらと反射した。 お別れだから、なんてはっきりとした意識のために涙が出たわけでもなかった。 ただ、貴方がもう名前を呼んでくれないこと、頭を撫でてくれないことがわかってしまったから。 もう随分と大人らしくごつごつとして、貴方の手でも包み込めやしない手も。 人を効率的に害する為だけを目的として鍛えた、随分と堅くなってしまった体も。 言葉ほどには厳しくない指先が触れてくれることはない。 貴方がいなければ幸せになれない、なんてことはない。それほどの己惚れは持ち合わせていない。 ただ貴方が願った自身の未来だとか、楽しく笑っていられるような世界だとか、 そういうものを託されて目指すには交わした言葉は少なすぎて、まだ話したいことがたくさんあって。 あとほんのちょっとだけ指を伸ばして、声を聞いて、ほんの些細な望みが叶えばよかったのに、 それさえ出来ないままに背を向けてしまった己を許すことが出来ないだけの話だった。 ねえ、オレはあんまり頭もよくないからさ。 ちゃんと教えてくれないと、わかんないよ。 教えてほしいことが、たくさんあったんだ。 家の鍵をかけ、廊下と隔てる鍵をかけ。バスルームに鍵をかけて、窓を閉める。 思い出の中のメロディは、時々貴方が歌ってくれたものだ。覚えているかな。 「……♪……♪……」 (-162) 2022/08/29(Mon) 20:34:09 |
コルヴォは、もう誰の死を葬る事もない。その必要がない。 (a10) 2022/08/29(Mon) 20:34:19 |
【置】 紅烏 コルヴォそれでも、うっかりいつか、何処かで再び逢う事があったなら。 誰にも許しを請いはしないから、許さなくていいから。 その時は、ただ怒ってはくれないか。 家族の望み一つ拾い上げられなかった、このちっぽけな男の事を。 (L29) 2022/08/29(Mon) 20:34:43 公開: 2022/08/29(Mon) 20:50:00 |
【置】 銀の弾丸 リカルド――ある、晴れた日。 男は、花束を3つ抱えて墓地に訪れた。 ひとつは、数日間しか共に居てあげられなかった少女の小さなお墓に。 ひとつは、心を知らなかった無垢な女の墓に。 ひとつは、心から敬い愛した上司の立派な墓に。 立場の違いがあるから大きさや場所までは揃えられなかったが、それでも同じ墓地の中にそれぞれ準備することが出来た。 勿論それは、俺一人の力ではなく、ツィオやマウロも共に尽力してくれたからに他ならない。 「一緒に来る事が出来たら良かったんだが、まぁ……、 二人共後で来るだろう―――と、」 墓標にLaura・Liberatoreと記された墓の前に来ると、そこには違う花束がふたつ置かれている。 「――なんだ、二人共先に来ていたんだな」 ふ、と可笑しそうに笑って。 墓の前に腰を下ろし、同じように花束を捧げて、両手を胸の前で組んで目を閉じた。 それぞれ話したいことがあったんだろう。 それを他の二人に聞かれたいとも思わないのは、自分も同じだ。 男というものは得てしてそういうものだが、果たしてここに居るはずの女は理解しているだろうか。 (L30) 2022/08/29(Mon) 20:37:42 公開: 2022/08/29(Mon) 20:55:00 |
【置】 銀の弾丸 リカルド「聞いたとは思うが……アルバファミリーと合併を視野に入れた同盟を組むことになった。 一人でも多くの人間を迎え入れたいと思って尽力しているんだが、……なかなかうまくいかない」 互いに多くの命を散らしてしまった。 組むくらいなら抜けるという人間もいれば、大事なものを追って死んでしまったものも居る。 その気持はわからないでもないが、俺はとても同じ道を歩もうとは思えない。 「なぁ、俺は。 お前の答えが聞けなかったなぁ……、まぁ、おおよそわかった気はしてるんだが。 今は聞けなくて良かったとも思ってるんだ」 「結局の所、俺もお前も、二人共が大事なのは変わらないからな」 自分にとっては、どちらが上も下もないから。 上司だけはまた違った位置にはいるけれど、それでも3人共何より大事な存在であったのは変わりない。 あの人のことだから、きっと、ラウラを一人にはしていまいと、 そんな事を思いながら目を開き、真っ直ぐに墓標をみつめた。 (L31) 2022/08/29(Mon) 20:38:35 公開: 2022/08/29(Mon) 20:55:00 |
【置】 銀の弾丸 リカルド「ラウラ。 お前に一つだけ報告がある」 「俺は今日から、名前を変えたんだ」 「だから……今日から俺の名は、 リカルド・ フィルマーニ だと、覚えておいてくれ」――――姿の見えないあなたの声が聞こえた気がする。 大事なものを二度と喪わないよう、 その名をしっかりと、自分に刻んで誓う。 いつの日か絶対に、3人であの景色全てを手にする為に。 (L32) 2022/08/29(Mon) 20:39:51 公開: 2022/08/29(Mon) 20:55:00 |
【秘】 ”再び灯された昼行灯” テンゴ → 風は吹く マウロ「そうか、そりゃあ何より。」 「染まってるならそれはそれでいいさ。いつまでも古い色ばかりじゃあ組織も廃る。お前さんたちの色に染めてやれ。」 それをきっと、親友も望んでいた筈だから。 「それくらい期待しているという事だ。胸を張っておけ。ああ、細かい事は奴に伝えておこう。」 「精々気張れよ、若人。お前さんは他の二人と違って、俺に近い生き方をするかもしれないからな。」 老兵は此処から先、去るのみとなる。 しかし、変わらず貴方たちの味方だ。 昔も、今も、これからも。 特に貴方は、純粋な血筋を持たない。 自分と同じく、余所者扱いをされる事だろう。 まだ離れるわけにはいかない。 彼らが確固たる地位を得るまでは。 だからそう貴方に声を掛けて、此方は見送る。 一刻も早く傷を癒さねばならない…まだ未来は始まったばかりなのだから。 (-163) 2022/08/29(Mon) 20:43:11 |
【置】 天使の子供 ソニー本名:ソニー・アモリーノ(Sonny Amorino) 死因:頭蓋部の損傷 発見場所:自宅バスルーム 遺体の様子: 頭部に二発、肩に一発銃撃の痕あり。頭部と肩からはそれぞれ別の口径の弾が摘出された。 一発目は喉から視床下部の下を通り後頭部へ抜け、貫通して後ろの壁に突き刺さっていた。 再度引き金を引いて、二発目は頭頂葉へ食い込み頭の中に弾丸が残っていた。 発見場所までの道は完全に施錠され、また荒らされた形跡もなかったことから、 拳銃は本人の所持物であり、自殺であると認定した。 器官のいくらかは壁にへばりつき、眼球からはすっかりと水分が抜けていた。 死亡から発見までは数日が経過しており、発見時には既に腐敗が進んでいた。 (L33) 2022/08/29(Mon) 20:44:09 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
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