まあ、俺の恋愛対象はオトコなんだけどな。
要兄がどうこう以前に、ほら、良心が人脈オバケで？
マイノリティーの方々とも接触が多かった幼少時代。
そんなんだから、普通に受け入れてきたけど、やっぱね〜、世間一般的には違うんだよな。
そんな中で要兄が本気の相手ができて。
恋人がオトコって聞くと、あっ、羨ましいな？なんて思う訳で。
でもやっぱりどんなにマイノリティーを普通に受け入れてきていても。
それが世間一般的には普通じゃない、そう言われがちなのも知っててさ。
　

　
なんて思いながら布団を叩く。
天気が良い休みの日。こんな日にする料理は、時間のかかるやつに限る。
ベランダの布団をそのまま台所へ。
今日はきっちりスパイスからカレー作ろ〜、この辺り一帯の夕飯をカレー気分にさせてしまうのだ。

両親の知り合いのインド人が教えてくれた本格的なやつ！**
　

[ちなみに俺は現在進行形で恋人いない歴＝年齢。

似たような連中ばかりが集まるのか
学生時代は地味な男友達とばかりつるんでいて
陽キャグループを対岸の向こう側で眺めていた。

まあ、リア爆とか冗談では口にするし
モテる男に妬みめいたものがないわけじゃないけど
言うほど切実に彼女欲しいと思ったこともないな。

妹見てたら女にそこまで夢も持てない。
機嫌とったりするの正直めんどくせえなって思うし、
性欲を満たすだけのオカズならインターネットに氾濫してる。
なんせ未婚20代男性の4割は恋愛未経験と言われる時代。
童貞くらい今どき珍しくもないだろ。

まあ、そのうち生活に余裕が出てきたら
結婚して子供くらいほしいなとは思うけど
新入社員の今はまだまだ仕事覚えるので忙しいし
いつか出来れば、くらいの感じだった。]

[窓を開けて部屋の籠った空気を入れ替える。

上下スウェットのままゴミ袋を脇に避け
溜まりに溜まった洗濯物を洗濯機にかけて、
インスタントコーヒーでも飲むかと
ケトルで湯を沸かしていると
どこからかスパイシーな匂いが漂ってくる。

朝は食わない派なんだけど
カレーの匂いと言うのは何故こうも食欲をそそるのか。
ぐう、と腹が鳴った気がした。]

あー、……飯買いに行かねーと……


[棚を確かめてみたらやっぱり備蓄食料が尽きていた。

普段の飯は大抵コンビニ弁当かカップ麺。
もしくはチェーン店の牛丼。
自炊？そんな暇も気力も調理器具もない。

あーあ。ラブコメ漫画の導入みたいに
美人の女子大生がある日隣に越してきて
俺に一目ぼれして三食飯つくってくれねえかな。

なんて。
…それこそ都合のいい夢物語だよな。**]

…そう。俺は、ハグと結ばれるつもりは無かったんだ。
　
　
男同士って。そりゃ、世の中にはBLとかが流行ってるのもあり、昔から男色とかの文化はあったけど。
それでも、どうしたって生物の基本は男女ペア。
同性同士のカップルはマイノリティーになってしまう。
俺はそう言うのが身近だったし、受け入れてきたけど。
そうじゃない奴の方が多数派で。
ましてやそれが自分の身に降り掛かったら拒絶感を示されても仕方がないかもしれない。
だから、言えなかった。
軽い雰囲気で、さらっと流せるようにしか最初は言えなくて。
そもそも、それだって言うつもりは無かったんだ。
　

　
ハグは、配信でいろんなやつに顔を知られてて。
ハグに対する恋愛相談に、自分も覚えがあるなんて、片想いしていますって感じで答えててさ。
ましてや誰だかわからない相手に胸を貸す、なんて言えてしまうんだ。
それはきっと、自分がマジョリティだって思ってるからだろうと、俺はそう感じてた。
　
　
少数派ではないからこその自信。
多数派であるからこそ自分を魅せることが出来て。
ハグと一緒にいるのはとても楽しくてさ。
あ、可愛い。そう思って、いやいや、あいつノンケだろ？って、見ないようにしてきた気持ち。
でもさ。
あいつがどんなやつに片想いしてるのか。
そんなことを思って、なんとなくモヤモヤしたりして。
　

…いつだったかな。
俺がさ、女子に告白されて。
本気の相手になれないから。その時にはもうハグの事が好きだったから。
その気持ちを無視できないくらいになってたから。
ごめんなって断って。
その後、それを見られてたらしくて。
可愛い子だったのにって言われて、苦笑いになるよな。
俺なんて恋人ほしくてもできないのにって言われて。思わず。
　

　
　

　
　

　
　
そう言った時も、俺はきっと。
　
　
「あ、マジになった？」
　
　
なんてにんまり笑って、冗談にさせてしまうけど。
　
　
その裏っ側の本気の気持ちを知った時。
ハグが、遠ざかるのだけが嫌で。怖くて。
　
　
それよりクーポンあんだけどさ、なんてメシに誘って誤魔化すくらいしかできなかったかな。**
　

[…そう。俺は、弥勒と結ばれるなんて思ってなかった。

最初は良い友人でさ。
バイで来るもの拒まずのセフレ持ちって知った時も
節操のなさにまあ多少呆れはしたし
知らねー世界だなあって思ったけど
それでもそこを除けば気の良い奴だし。
一緒に遊んでて楽しいし。

俺のこと守備範囲つっても
悪乗りはしてもマジで手出してくるわけでもないし
別に性嗜好がどうでも友達として付き合う分には関係ないじゃんって
あの頃はマジでそう思ってたんだよなあ。]

[いつから。多分、無自覚には結構前から。
明確な自覚はあのホラー実況配信の時で。
セフレの子たちとは、本気になったらお互い切るって聞いて。

自分でも理由がわからないままもやもやした。

じゃあさ、もしお前のこと本気で
好きになる子がいたらどうすんのよ。
いつもみたいにへらへら笑って流して距離とるのかよ。
その子がどれだけ傷つくかなんて知らずに。
そう思うとなんだか腹が立って、悲しくて、―――胸が痛くて。

……ああ、そっか。って認めざるを得なかった。
俺はあいつの友人じゃ満足できないのか。
セフレでも、親友でもなくて。

俺は弥勒の唯一こいびとになりたいんだな。]

[…でもさあ！
そんなん言えるわけなくね！？

笑って流されるならまだいいよ。
まじで気まずそうな顔で振られて距離置かれたりしたらさ、
もうほんとに耐えられない気がした。

あいつはさ、相変わらず誰彼構わず愛想振りまいてて
本命は作らなくてもそういう相手は途切れなくてさ。
それにもやもやしたりもしたけど、
でも、気持ちを秘めたままでいる限りは
仲の良い友人として傍にいられる。

恋はいつか終わるかもしれないけど、
友情に終わりはない……そうだよな？
だからいっそそれでいいって思ってたんだけどね。

配信であんなん言っちゃったのは
それでもやっぱり積もったものがあったんだろうなあ。
まさか本人に聞かれてたとは思わんかったけど。]

[いつかの日。
校舎裏で弥勒が知らん子に告白されてるのを見てしまった。
結構可愛い子。

断ってるのにほっとするのが半分。
自分と重ねて胸が痛むのが半分。

…ああ、そうだよなって。
苦い気持ちを悟られないよう
わざと何気ない風を装って
いつもみたいに明るく声をかけた。

もったいねーよな。
俺なんてほしくてもできねーのに。
そんなことを言ったと思う。]

[「じゃあ、俺と付き合う？」>>32]



　

………、っ


[その時の俺はどんな顔をしてたかな。
一瞬固まって、顔が赤くなるのはごまかせてなかったかもしれない。

けど、あいつはなんでもない顔で笑ってて。>>33

あーあ。わかってるんだ。冗談だってことくらい。
それでももし、本気だったら良かったのになって。
ほんの僅かでも期待をせずにいられない。]

ばあーか。この節操なし。

[こつ、と弥勒の頭を軽く小突いて、
飯食いに行こうぜって誘いに乗っかる。]

……ばか。



[小さく小さく付け足した言葉は、
きっと聞こえてなかったんだろうけど。**]

[告白と言えば、俺にもいい感じになったこともあったんだ。

バイト先に新しく入ってきた子が
結構初期から熱心にチャンネル追ってくれてる
リスナーだったことが判明してさ。
それつながりでちょこちょこ話すようになったわけよ。

仕事は一生懸命で、感じよくて
目を引く美人ってわけじゃないけど
でもよくよく見ると結構可愛い子。

なんとなーく一緒に帰ったりして
友人として付き合ってるうちに
端々から好意のようなものも感じて。

あーこれイケんじゃね？？って
ちょっと前の俺だったら浮かれてたんだろうなー。]

[自分でも、チャラ男に茨の恋するなんて止めて
こういう子とフツーに付き合うのが
良いんじゃねーかなって過らんでもなかったよ？
でもこればっかりは、理屈でどうなるもんでもないわけで。

いつだったかなー、
テレビで紹介されてた話題の店。
行きたいから一緒にって話の流れでなって。
まあフツーに飯食って他愛ない話してさ、楽しかったけど。]



[って聞かれたときに頭に過る顔に、
どうしようもなく自覚してしまうんだ。
俺が隣にいたいのも、触りたいのも、この子じゃなくて。]

んー……？彼女はいないけど、……


[好きな人はいる、なんて。
口にするのも胸が疼いて曖昧に笑った。

]

　
ある日のこと。
その日はたまたま俺は一人でさ。
暇だな〜、なんか無いかな〜、そういや今度のバイトは…なんて色々考えながら歩いてたわけ。
>>43そんな時だよ、育夢が女子と歩いてるのを見たのは。
実は、それが初めてじゃ無いんだよな。
その時見たのは(5)²ⁿ⁵回目くらい。
初めてだったら、そんな事もあるかな、だったけど。
どうして分かったって？
なんとなくさ、いつも視線で探してるから。
暇な時は、あいつは何してんだろうなって、もう重症。
視線で探して、探してるのを自覚して乾いた笑いが出て。だからより、誰かと一緒にいたくなって、その頃はセフレが今までの中でもかなり多くなってた時期。
だって、叶わない思いを抱えるのは辛いじゃん。
それを吐き出すのは、よりそれを自覚しそうで怖くて。
だから同じような寂しがりでお互いごまかしあってた、んだけど。
　

　
「へ〜…？」
　
　
遠目に見て。ちょっと、かなり、つまらない。
育夢とその子を何となく追って。
育夢と別れて暫くしてから軽くナンパしてみた。
可愛いね、今暇？　俺暇なんだけど、一緒にお茶でもどう？
こんな軽いナンパにひっかかるくらいなら。
俺の方があいつのこと、なんて。叶いもしないと思いながらも彼女を試す。
まあでも、…俺に本気になられても困るから。
それで俺の方に来たら、俺の友人の誰かを紹介してさ。
俺の方に来ないなら、また育夢と二人の時に間に入ってやろう。
　

　
だってまだ。うん、まださ。



　

.........え？弥勒？？

[もう何度めだったか、
その子と一緒のバイトの帰り道。
弥勒に声をかけられて、
思わず間抜けな声をあげてしまった。>>45

別にただのバイト先の仲間だし
俺が気まずく思う必要もないんだけど、
なんとなく居心地悪くてさ。
それを余所に彼女と弥勒は顔見知りらしくて、
ああ......！この前の......とか言ってる。]

[曰くこの間ナンパしてきたらしくて、
でも急いでるからって断ったんだそうだ。>>45

彼女は俺と弥勒が友達っぽいことに意外そうな顔してたけど、
俺はそれよりも弥勒の節操のなさに憮然としていた。

ふーん。そう。そうなんだ。
てかお前最近とみにセフレ遊び激しいくせに、
この上更にまだコナかけようとしてんの。なに？発情期？？
]

■■ちゃん。
こいつだけは絶対やめといたほうがいーよー。
めーっちゃ遊んでるもん。好きになったら苦労するよ。
俺が言うんだから間違いない。

[一ミリも嘘は言ってないつもりだけど、
取り繕った笑顔のなかに不機嫌が
隠しきれなかったのはただの嫉妬。

だって、これ以上恋敵(になるかもしれないやつ)増やしたくないし、何より。
弥勒が他の子口説いてるとこなんて、
たとえ本気じゃなくてもモヤついてしまって。**]

　
「え〜、まあ俺は遊んでる方だけどさ。
　その分いろんな奴紹介もできるよ？」
　
　
>>49ニコニコしながら、ハグの俺評を聞いて。
ほんの少しそれに傷ついてる自分がいる。
そうそう、俺なんか好きになってもさ。
苦労するよ。俺が本気の相手でもきっと。
でも本気で好きな奴には尽くすんだけどな。
でも。
そんな事、ばらせない。
そんなん重いわ〜、って。男同士ってだけ以外でも嫌われたらキツい。
つきんと痛む胸を笑顔で無視して。
…うん。この子のこと気に入ってんのかな？　ハグがなんか不機嫌だ。
　

　
「まあ、暇な時は呼んでよ。これ俺の連絡先。
　
　で、ハグ。今度フリーホラーゲームが
　製品版でリメイクされるらしいんだけど一緒にやらね？
　結構エンディングが鬱って評判だし
　驚かし要素満載らしいぜ〜。」
　
　
でもハグの前だと。
その子を軽く誘っておきながらも本気では口説くに至らずに。
それでも誘いを忘れないのは、離れろよって気持ちもあって。
その癖、結局誘うのはいつも通りの友人の顔をしてハグだったりする。
　
　
…だってさ。流石に目の前だと。
引き剥がしておいてポイするイヤなやつとは流石に、なあ…。**
　

[にこにこしている裏で
俺の言葉に内心弥勒が
傷ついてたなんて思いもしない。>>50

俺は俺で、あんまり弥勒と彼女を近づけたくなくて
じりじりしていたもので。

ただ、まあ、軽い感じで連絡先渡す様子は
ほんとにただのナンパって感じで
ちょっと安心はしたけど。]

あ？いーけど。お前いつ暇よ。

[いつも通りの調子でゲームの話する弥勒に
そんなやり取りして、その日は別れたんだったかな。
彼女と弥勒がその後実際にやり取りしたかどうかは、
俺の知るところではなかったけど。]

[後日、一緒にそのホラーゲームやってる時に
なにげない風を装って聞いたんだよな。]

弥勒さあ。あの、こないだ会った子。
あーゆー子がタイプだったりするん？

ほら、お前って言い寄られて
来るもの拒まずで付き合うけど
自分から言い寄ること意外と少ないじゃん？

あの子、遊んでそうな感じでもなかったしさ。
お前が声かけるのちょっと意外ってゆーか…

[なにげない風…を装ってるつもりだったけど、
なんかそわそわして、普段より早口になってしまったんだよな。変に勘繰られてないといーけど、って内心ドキドキだったりする。**]